280 / 356
第108話 炎上! 狂乱の遊戯盤に駒の少女は進む (Bパート)
しおりを挟む
けたたましい警報音が鳴り響く。
「な、なに!?」
「これは火災報知器だな」
慌てふためくかなみに対して、カリウスは冷静に言う。
「火災報知器? それって火事のこと?」
「いいや、ヒバシラがやってきたのだろう。彼は歩く火災のようなものだからね」
「め、迷惑……」
全身が常に燃えているのだから、火災報知器がなってもおかしくない。
「でも、なんで今頃鳴るの? ホテルに入ってから鳴っててもおかしくないんじゃないの?」
かなみは疑問を口にする。
「火災報知器はさっき作動させたばかりだからね、ずっと鳴りっぱなしだと迷惑だろ」
「それはそうだけど……」
怪人のカリウスが迷惑と口にするのがなんだかおかしく思う。
「あとこのホテルの火災報知器は特殊でね、同じ階に火災が起きた時にしか作動しない」
「それのどこが特殊なんだ?」
ヨロズがカリウスに訊く。
「普通の火災報知器は他の階の火災でも鳴るものだよ」
「そういうものか」
「って、ちょっと待って! その火災報知器が鳴ったってことは!?」
「ヒバシラがこの階に来た、ということか!」
メンコ姫は般若の面をつけて臨戦態勢に入る。
「支部長がこの階に……!」
かなみは身体中が強張る。
ヒバシラとまともに戦っても勝ち目は無い。
できればすぐにでも逃げ出してホテルを出たい。
「そこにいるかぁぁぁぁぁ、カリウスゥゥゥゥッ!!」
ヒバシラの怒声がドア越しからでも響き渡る。
「相変わらずの火勢だ」
カリウスは感心したように言う。
「感心している場合じゃないでしょ、あんたを突き出してやりたい気分よ」
「そんなことされたら私は消し炭だろうな、君達もろとも」
「……それは困るわね」
嫌味も含まれているけど、本当にそうなりそうで困る。
「四国支部長ヒバシラか、戦ってみたい相手だった」
ヨロズが前に出る。
「ここはあんたに任せたいわね」
「うむ」
かなみが言うなり、ヨロズは首肯する。
「そこかぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ヒバシラの怒声とともに扉が焼け落ちて、火球が部屋までやってくる。
「フン!」
ヨロズはその火球を腕で殴り飛ばす。
「魔力が漏れ出てるぜ! 焼いてくださいと言わんばかりじゃねえか! ヨロズ! 魔法少女!」
焼け落ちた扉から無遠慮に部屋に侵入してくる。
「ふむ、私には気づいていないか。ならばこの戦いを見物させてもらおうか」
カリウスはヒバシラがやってくる直前に姿を消す。
(なんて無責任な!)
かなみは心の中で悪態をついた。
「やっぱりそこにいやがったかぁッ!」
ヒバシラはヨロズとかなみを視界にとらえると、嬉々として指差す。
「おまけに東北のやつもいたか!」
「東北支部長メンコ姫だ」
「なんだっていい! まともに燃やしてやるよ!」
ヒバシラが裂帛すると、部屋は一気に燃え上がる。
「マジカルワーク!」
かなみはコインを放り投げて、黄色の魔法少女に即座に変身する。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上! って、あつぅ!?」
口上を言い終えるやいなや、衣装に文字通り飛び火した。
「この程度が熱いか! 軟弱な人間らしいぜ!」
「そうよ! 人間なんだから加減しなさいよ!」
「加減、火加減か! だったら、これでどうだぁぁぁぁぁッ!!」
ヒバシラはさらに燃え上がって、火の手がカナミ達の眼前にまで迫る。
「このくらいの火だったら、どうにでもなる」
メンコ姫は棍棒を一振りして、旋風を巻き起こす。
旋風によって火はかき消された。
「味な真似をするじゃねえか!」
「おめえの火で焼いた料理はさぞ不味かろうな」
「言うじゃねえか! だったら、まずはお前から先に燃やしてやる!」
ヒバシラはメンコ姫に向けて火球を飛ばす。
カァン! カァン! カァン! カァン!
メンコ姫は棍棒を振り回して火球を全て打ち返す。
「器用なものだな! 見た目と違ってパワフルじゃねえか!!」
「オラの力はこんなもんじゃねえ!!」
メンコ姫は飛びかかる。
カァァァァァァァァァァン!!
炎で生成した棍棒で応戦する。
メンコ姫とヒバシラの棍棒が激突し、火花が撒き散らされる。
「やるじゃねえか! だが、パワフルっていたのは取り消すぜ!」
「――!」
ヒバシラは火の勢いが増して、メンコ姫を吹き飛ばす。
「く!」
「大丈夫、メンコちゃん!?」
カナミは駆け寄る。
「案ずるな、このくらいなんともない」
「それだったら、次はお前が来いよ、魔法少女!!」
ヒバシラがカナミを指名する。
「いや、俺が行く!」
ヨロズが獣の眼をギラつかせて、前へ出る。
「お前か、ちょうどいい! 獣肉が食いたかったところだ!」
「今の俺は人間だ」
「人間だって獣だ!!」
ヒバシラは火を放つ。
ヨロズは腕でそれを受け止めて、直進する。
「ダァァァァァァッ!」
その剛腕でヒバシラを殴り飛ばした。
殴り飛ばされたヒバシラは壁を突き抜けて吹っ飛んでいく。
「ハァハァ……」
ヨロズの腕はジュゥゥゥと焼け焦げている。
「ヨロズ、腕は大丈夫なの?」
カナミは心配になって訊く。
「心配いらん、この程度は……」
ヨロズの腕がみるみるうちに元に戻っていく。
「負傷のうちに入らん。無論、奴の方も」
「やってくれたなぁぁぁぁぁぁッ!!」
ヒバシラが怒声を上げる。
「私はこれで失敬させてもらおうか」
カリウスはそう言って、部屋を出る。
「え、ちょっと!?」
カナミが止める暇もなくあっという間だった。
「いけ」
ヨロズがカリウスが部屋を出た方向を指し示す。
「いけって?」
「ホテルから出たいのだろう。あいつの相手は俺がする」
「相手をするって、相手は支部長でしょ!」
「――俺も支部長だ」
カナミはヨロズの気迫に一瞬気圧された。
「わかったわ! こんなホテル、すぐ出てやるわよ! 必ず追ってきなさいよ!」
「無論だ!」
カナミは走り去っていく。
「良くも殴りやがったな! 関東支部長!!」
「ヨロズだ、俺の名前くらい覚えておけ」
ホテルの廊下でヨロズとヒバシラが対峙する。
「そっかそいつは悪かったな! どうせすぐ代替わりするだろうから覚える必要はないと思ってたんだ!!」
「なるほど、お前は読みが甘いようだな」
「なにぃぃぃッ!!」
ヒバシラは燃え上がる。
「あ~熱くなると頭が冴えてくるぜぇッ! やっぱお前の名前、覚える必要ねえわ! この場で名前も残らないよう焼き尽くしてやるからなぁぁッ!!」
爆音が鳴り響く二十四階全体が震えている。
ヒバシラとヨロズの激しい戦いが繰り広げられている。カナミは一刻も早くこのホテルから脱出したいのに、エレベーターは停止していた。
「ヒバシラが壊したのだろう。一気に一階まで降りられないようにするために」
カリウスは冷静に言う。
「それゲーム失格じゃないの!? さっきからホテルを火事にする勢いだけど!!」
カナミはツッコミを入れる。
「失格はフロア全体を壊すような破壊行為だからな。このくらいはホテルの支配人の許容範囲なのだろう」
「すごい許容ね……」
ここまで破壊されて黙ってる支配人。
よほど肝が座っているのか、それとも支部長が怖いのか。
「何にせよ、我々は階段で順を追って降りていくしかあるまい」
カリウスは非常階段の方を指し示す。
「ここ二十四階だから、一階までどのくらいかかるのよ……?」
二十四階から一階へ階段で降りる。気が遠くなりそうな話に感じた。
「そうするしかないだろう。急ぎたまえ」
カリウスはそう言って、階段を降り始める。
「まったく誰のせいでこんなことになってると思ってるのよ!?」
無事にホテルを出られたら、神殺砲の一発でも撃ち込んでやろうかと思った。
とはいえ、一階のロビーまで階段で降りるしか無いので、カリウスの言う通り、階段を降りていった。
二十三、二十二、二十一……
階段を順調に降りていって、二十の表示が見えた瞬間だった。
「エレベーターが止まった今、必ずここを通ると思ったぞ!」
ウィィィィンと金切り音をつまびかせて、四国支部長チューソーが二十階で待ち構えていた。
「四国支部長チューソーか。待ち伏せとは君らしくない作戦だ」
カリウスが言う。
「ヒバシラが暴れまわっているからな、鉢合わせが嫌だったのだ。なに、あんなわかりやすい手段でやられるようなお前ではあるまい」
「確かに」
ヒバシラがこの場にいたら即座にこの場が火の海になりそうな会話だとカナミは思った。
「私はゲームに関係ないんだからそこを通してよ」
カナミはチューソーへ申し出る。
「確かに。お前は今回のゲームのターゲットではない、が、ここを通して後ろから撃たれない保証はない」
「そんな卑怯なことはしないわよ!」
「ゆえに、この場で一緒に斬った方が得策だな」
「話を聞きなさいって!!」
しかし、チューソーは聞く耳を持たず、腕を振り下ろす。
すると、斬撃が迸り、階段を駆け上がって、カナミ達へ襲いかかる。
ズザザザザザザン!!
カナミ達は斬撃から逃れるために二十一階へ駆け上がる。
「なんて話のわからない連中なの!?」
「悪の秘密結社の支部長だからな」
「あんたが言うと説得力があるわね!?」
何しろ元支部長で、話を聞かない怪人の筆頭のような男だ。
「褒め言葉と受け取っておこう」
「褒めてないわよ!」
カナミが言い返すとカリウスは足を止める。
「――犬も歩けば棒に当たるというが、屋内を歩いてみるのも面白いものだ」
二十一階から極星がやってくる。
「参ったな、ここを通してくれと言っても聞かないだろう?」
「無論。千載一遇の好機を逃すほど昼行灯でもない」
極星は光り輝く。
「というわけだ。よろしく頼むよ」
「そこでなんで私!?」
カナミはツッコミを入れる。
「狙われてるのあんたでしょ! 私は無関係よ!!」
「うむ、確かにそうだ」
「そこで私の後ろに隠れるなぁッ!!」
抗議したところで、カナミへビームが撃ち込まれる。
パァン!
カナミはとっさにステッキでそれを弾き飛ばす。
「なんで私を撃ってくるのよ!?」
カナミは撃ってきた極星へ文句を飛ばす。
「カリウスを撃ったはずだが、射線上に君がいた」
極星は悪びれもせずそう答える。
会議中は少しでもまともな人だと思った過去の自分へ「こいつもやはり悪の怪人だった」と言ってやりたい気分だ。
「こいつが私の後ろに隠れたからでしょ!」
「怪我したくなければどいてもらおう」
「言われなくても!」
カナミは横っ跳びで道を開けようとする。
極星は指先からビームを撃つ。
パァン!
向けられたのはカナミだった。
カナミはまたもステッキでそれを弾き飛ばす。
「なんで、また私を狙うの!?」
「後ろを見たまえ」
極星にそう言われて、カナミは後ろを向く。真後ろにカリウスが立っていた。
「なんであんたがそっちに逃げるのよ!?」
「君が右に跳んだら、私もたまたま右に跳んだだけさ」
「そんなたまたまあるかぁッ!?」
右に跳んだら、文句なしに確信犯であった。
「次はちゃんと狙う」
極星は指先をカナミ、そして後ろのカリウスへ向ける。
「ええ、ちゃんと狙いなさいよ!」
カナミは左へ跳んだ。
パァン!
しかし、ビームはやはりカナミに向かって放たれた。
カナミはまたまたステッキでそれを弾き飛ばす。
「……二度あることは三度ある」
カナミはため息交じりにこういう状況になった時の常套句を口にする。
「三度あることは四度ある」
極星は追い打ちをかけるように言う。
「ないわよ! 何よ、あんた達連携して私を追い詰める気なの!?」
「まさか、私達は悪の秘密結社だよ。連携といった芸当ができる人種ではないよ」
カナミの問いかけにカリウスはまったくいつもの調子で答える。人を小馬鹿にした調子だ。
「だったら、なんで私ばっかり狙うのよ!?」
「だから言ってるじゃないか、君が左に跳んだら、たまたま私が左に跳んだだけだ、と」
「だからそんなたまたまは無いって!」
「偶然にせよ、何にせよ」
極星が言う。
かなみやカリウスの言い分など聞く耳持たずといった勢いで、二人を指差して。
「――君がカリウスの盾になるというのなら撃ち抜くまでだ。背後のカリウスもろとも」
「いつの間にか私、あんたの盾にされてるんだけど!」
「それもよいことではないのかね?」
「よくない!」
勝手すぎる言い分だと、カナミは思った。
バァァァン!
極星の指先からビームが放たれる。
それはこれまでの三発とは比べ物にならないほど大きさで、とてもステッキで弾き飛ばされるものじゃなかった。
バァァァン!
そんなわけでこちらも同じ大きさの魔法弾を撃ち、相殺させる。
「仕方ないわね、そこをどいてもらうわよ!」
「どかせられるものならな」
極星の表情は全身光り輝いていて顔の表情さえわからないものの、ニヤリと笑ったような気がした。
「――俺を忘れないでもらおうか!」
そのとき、背後からチューソーの声がする。
二十階から駆け上がってきたチューソーが腕の刃を振りかざして斬り込んでくる。
それはカリウスを狙ったものだけど、カナミも巻き込むには十分なほどの魔力がこもっていた。
パキィィィン!!
しかし、その刃はカナミどころかカリウスに届くことすらなかった。
「邪魔を!」
チューソーは忌々しく刃を阻んだ存在へ言う。
「後ろから攻撃するのは見過ごすことはできぬ」
メンコ姫だった。
彼女が棍棒でチューソーの刃を受け止めた。
「ましてや友達を傷つけようとするものであればなおさら看過できぬ!」
パキィィィン!!
メンコ姫は棍棒を振るい、腕のチェーンソーごとチューソーを弾き飛ばす。
「友達? カリウスがか?」
チューソーは疑問を口にする。
「魔法少女カナミだ!」
「そうか。カリウスと友達と言われるよりかは納得がいく」
チューソーがそれで納得したようだ。怪人と魔法少女がそんな関係になることを。
「あんた、やっぱり友達いないんじゃない」
「否定はしない」
「否定しなさいよ!」
カナミは嫌味のつもりで言ったつもりだけど、カリウスはまっとうに返してきた。
「まあ、そのことはこの場を切り抜けてから検討するよ」
「嘘ばっかり……っていうか、どうやって切り抜けるつもりよ」
「ひとまず、君と君の友達が頑張ってくれ」
「他力本願じゃない!?」
バァァァン!
そんな会話をしているうちに、極星がビームを撃ってくる。
「く!」
カナミはこれに対して魔法弾で応戦する。
キィン! キィン! キィン!
一方、その階下では、メンコ姫とチューソーの打ち合いが始まった。
棍棒とチェーンソーがぶつかり合う度に衝撃波が迸り、その震動で建物が揺れる。
「神殺砲!」
カナミはステッキを砲台を変化させる。
「ボーナスキャノン!!」
即座に砲弾を発射させる。
「ぬう!?」
バァァァァァァァァァン!!
極星はビームで応戦するも、砲弾に飲み込まれた上で、本人に直撃する。
砲弾は階段をふっとばして壁を撃ち抜いた。
「お見事」
カリウスが称賛する。
「まだよ、あのくらいで倒せてたら支部長なんてやってないでしょ?」
カナミは警戒を解かない。
「うむ、そうだな。――特に極星はな」
カリウスの返事に、かなみは反射的に顔を強張らせる。
バァァァァァァァァァン!!
極星が吹っ飛んだ方向から大量のビームが飛んでくる。
一方、二十五階ではヨロズとヒバシラが戦っていた。
「くッ!」
ヒバシラの火に押し負けて、ヨロズの拳が身体ごと弾き飛ばされる。
「おいおい、どうしたぁッ!? これでも加減してるんだぞぉッ!!」
ヒバシラは火球を放ちながら、ヨロズを煽ってくる。
しかし、事実だとヨロズは感じる。
カリウスを巡る十二席の椅子取りゲーム。
そのルールの一つに、「ホテルがフロアごと倒壊するような損害を与えた場合、失格」とする。
そのルールのために、ヒバシラはその気になればフロア全体を火の海にして焼き払うこともできるはずなのに、火球を撃ち込んでいるだけに留めている。
にも関わらずヨロズは圧されていた。
(圧倒的戦力差はルールによってほぼ埋まっている。だが、それでも圧されているということは……わからない、なんだこの感覚は……!?)
ヨロズはヒバシラとの戦いで違和感があった。
その違和感が圧されている原因にも関わらず、その正体がわからない。
ドゴォォォォン!!
飛んできた火球を剛腕で殴り飛ばして、ヒバシラへと踏み込む。
炎で燃え盛る火柱の身体へ剛腕を繰り出す。
「――!」
しかし、また違和感がヨロズを襲った。
腕が萎縮し、拳がヒバシラへ届くまでに一瞬遅れてしまう。
ヒバシラはその一瞬を見逃さなかった。
「火達磨になりやがれぇぇッ!!」
四方の炎がヨロズへと一斉に襲いかかる。
「ガアアアアアアアッ!!」
ヨロズは叫びを上げて、廊下を激しく転がっていく。
転がったおかげで火が消える。
しかし、身体を燃やされたことによるダメージは大きい。
「わかったぜ、おめえ! ビビってやがるなぁッ!?」
「ビビっている、だと……?」
ヒバシラが言っていることがヨロズは理解できなかった。
「踏み込みに思い切りの良さが足りねえぇッ! そいつは恐怖で身体が硬直してるんだよぉッ!」
「恐怖……硬直、か……」
ヨロズは噛みしめるようにその言葉を口にする。
「獣の身体の本能だろうな! 俺の火を恐れるのはぁッ!!」
「俺の本能……火を恐れるのは、俺の本能か……」
「ああ、そうだぁぁッ! だから、もう一度を食らうんだよぉぉぉぉぉッ!!」
ヨロズの四方から炎が襲いかかってくる。
ピクッ!
ヨロズの身体が震える。
「ああ、そうか……」
ヨロズは理解する。
「――これが、恐怖か!」
それと同時にある姿が重なる。
「――これが魔法少女カナミが抱えていたものか!」
今の自分と、自分と戦っていた時の魔法少女カナミの姿が重なる。
思い出す。
カナミは自分と戦った時もこんな感情を抱えていたのか。
火を見ると身体が震える。
火が差し迫ってくる。全身は震える。
ここから逃げ出したい衝動に駆られる。
(恐怖! 怖い! 逃げろ! 逃げ出せ! 逃げてしまえ!)
この感情とわかった途端に声がする。
これは自分の内側から響いてくる自分の声だ。
この身体はあらゆる獣の身体を寄せ集めて出来上がった怪人の身体だ。
獣の身体が本能から発している声だ。
「俺は――」
それだったら、今発している声は何だ。
魔法少女カナミはこんな時、どうしたか。
そんなの決まっている。
「逃げない!」
魔法少女カナミは常に立ち向かってきた。
ならば、自分も立ち向かう。
彼女はそうやって勝ち続けてきたじゃないか。
ヨロズは一歩も動くこと無く、火を一身に受ける。
「ガアアアアアアアアアッ!!」
裂帛する。
身体は燃え上がる。
だが、身体は震えない。
拳を握り、足を踏みしめ、歯を食いしばる。
「俺はぁぁぁ、逃げなぁぁぁぁぁいッ!」
ヨロズはそこからヒバシラへ踏み込む。
魔法少女カナミはそうやって戦ってきたじゃないか。
それではカナミは何をもって戦ってきたのか。
『人間の最大の武器はなんだと思う?』
それは意識の奥底に眠っていた誰かからの問いかけ。
『あなたはあの魔法少女の何に負けたと思う?』
これはまだ生まれたばかりの頃、言葉を口にすることがまだままならなかった頃に聞いた声だ。
『それは獣であるあなたが持ち得なかったモノよ』
意識がはっきりしてくる。
声の主の輪郭がはっきりしてくる。
いろかだ。
思い出した。
彼女がこの次に何を言ったのか。
あの魔法少女――魔法少女カナミが持っていた最大の武器。
『それは――勇気という魔法よ』
「金剛腕!!」
ヨロズが放つ渾身の剛腕がヒバシラを捉える。
ズガァァァァァァァァァン!!
ヒバシラは勢いよく殴り飛ばされ、いくつもの壁を突き破っていく。
「なるほど、これが勇気か」
一つ試しに魔法少女カナミにあやかって必殺技というものを撃ち込んでみたものの、思いの外、威力が出た。
「恐怖を制して、どんな敵にも立ち向かう力をくれる人間最大の武器か」
まだ火をみるだけでも身体が震える。
だが、この震えを抑えて一歩踏みしめる度に、自分が強くなっていく感覚がする。
「これが魔法少女カナミが持っている強さか」
「――だが、そいつは身を焼き滅ぼす強さだぜぇッ!」
ヒバシラが立ち上がる。
「恐怖を克服したかぁッ! 結構なことだぜぇッ! 臆病者に勝ったところで何の自慢にもならねえぇッ!!」
「では、今の俺を倒せば何の自慢になる?」
ヨロズは問いかける。
ヒバシラはニヤリと笑って答える。
「さあな!」
「な、なに!?」
「これは火災報知器だな」
慌てふためくかなみに対して、カリウスは冷静に言う。
「火災報知器? それって火事のこと?」
「いいや、ヒバシラがやってきたのだろう。彼は歩く火災のようなものだからね」
「め、迷惑……」
全身が常に燃えているのだから、火災報知器がなってもおかしくない。
「でも、なんで今頃鳴るの? ホテルに入ってから鳴っててもおかしくないんじゃないの?」
かなみは疑問を口にする。
「火災報知器はさっき作動させたばかりだからね、ずっと鳴りっぱなしだと迷惑だろ」
「それはそうだけど……」
怪人のカリウスが迷惑と口にするのがなんだかおかしく思う。
「あとこのホテルの火災報知器は特殊でね、同じ階に火災が起きた時にしか作動しない」
「それのどこが特殊なんだ?」
ヨロズがカリウスに訊く。
「普通の火災報知器は他の階の火災でも鳴るものだよ」
「そういうものか」
「って、ちょっと待って! その火災報知器が鳴ったってことは!?」
「ヒバシラがこの階に来た、ということか!」
メンコ姫は般若の面をつけて臨戦態勢に入る。
「支部長がこの階に……!」
かなみは身体中が強張る。
ヒバシラとまともに戦っても勝ち目は無い。
できればすぐにでも逃げ出してホテルを出たい。
「そこにいるかぁぁぁぁぁ、カリウスゥゥゥゥッ!!」
ヒバシラの怒声がドア越しからでも響き渡る。
「相変わらずの火勢だ」
カリウスは感心したように言う。
「感心している場合じゃないでしょ、あんたを突き出してやりたい気分よ」
「そんなことされたら私は消し炭だろうな、君達もろとも」
「……それは困るわね」
嫌味も含まれているけど、本当にそうなりそうで困る。
「四国支部長ヒバシラか、戦ってみたい相手だった」
ヨロズが前に出る。
「ここはあんたに任せたいわね」
「うむ」
かなみが言うなり、ヨロズは首肯する。
「そこかぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ヒバシラの怒声とともに扉が焼け落ちて、火球が部屋までやってくる。
「フン!」
ヨロズはその火球を腕で殴り飛ばす。
「魔力が漏れ出てるぜ! 焼いてくださいと言わんばかりじゃねえか! ヨロズ! 魔法少女!」
焼け落ちた扉から無遠慮に部屋に侵入してくる。
「ふむ、私には気づいていないか。ならばこの戦いを見物させてもらおうか」
カリウスはヒバシラがやってくる直前に姿を消す。
(なんて無責任な!)
かなみは心の中で悪態をついた。
「やっぱりそこにいやがったかぁッ!」
ヒバシラはヨロズとかなみを視界にとらえると、嬉々として指差す。
「おまけに東北のやつもいたか!」
「東北支部長メンコ姫だ」
「なんだっていい! まともに燃やしてやるよ!」
ヒバシラが裂帛すると、部屋は一気に燃え上がる。
「マジカルワーク!」
かなみはコインを放り投げて、黄色の魔法少女に即座に変身する。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上! って、あつぅ!?」
口上を言い終えるやいなや、衣装に文字通り飛び火した。
「この程度が熱いか! 軟弱な人間らしいぜ!」
「そうよ! 人間なんだから加減しなさいよ!」
「加減、火加減か! だったら、これでどうだぁぁぁぁぁッ!!」
ヒバシラはさらに燃え上がって、火の手がカナミ達の眼前にまで迫る。
「このくらいの火だったら、どうにでもなる」
メンコ姫は棍棒を一振りして、旋風を巻き起こす。
旋風によって火はかき消された。
「味な真似をするじゃねえか!」
「おめえの火で焼いた料理はさぞ不味かろうな」
「言うじゃねえか! だったら、まずはお前から先に燃やしてやる!」
ヒバシラはメンコ姫に向けて火球を飛ばす。
カァン! カァン! カァン! カァン!
メンコ姫は棍棒を振り回して火球を全て打ち返す。
「器用なものだな! 見た目と違ってパワフルじゃねえか!!」
「オラの力はこんなもんじゃねえ!!」
メンコ姫は飛びかかる。
カァァァァァァァァァァン!!
炎で生成した棍棒で応戦する。
メンコ姫とヒバシラの棍棒が激突し、火花が撒き散らされる。
「やるじゃねえか! だが、パワフルっていたのは取り消すぜ!」
「――!」
ヒバシラは火の勢いが増して、メンコ姫を吹き飛ばす。
「く!」
「大丈夫、メンコちゃん!?」
カナミは駆け寄る。
「案ずるな、このくらいなんともない」
「それだったら、次はお前が来いよ、魔法少女!!」
ヒバシラがカナミを指名する。
「いや、俺が行く!」
ヨロズが獣の眼をギラつかせて、前へ出る。
「お前か、ちょうどいい! 獣肉が食いたかったところだ!」
「今の俺は人間だ」
「人間だって獣だ!!」
ヒバシラは火を放つ。
ヨロズは腕でそれを受け止めて、直進する。
「ダァァァァァァッ!」
その剛腕でヒバシラを殴り飛ばした。
殴り飛ばされたヒバシラは壁を突き抜けて吹っ飛んでいく。
「ハァハァ……」
ヨロズの腕はジュゥゥゥと焼け焦げている。
「ヨロズ、腕は大丈夫なの?」
カナミは心配になって訊く。
「心配いらん、この程度は……」
ヨロズの腕がみるみるうちに元に戻っていく。
「負傷のうちに入らん。無論、奴の方も」
「やってくれたなぁぁぁぁぁぁッ!!」
ヒバシラが怒声を上げる。
「私はこれで失敬させてもらおうか」
カリウスはそう言って、部屋を出る。
「え、ちょっと!?」
カナミが止める暇もなくあっという間だった。
「いけ」
ヨロズがカリウスが部屋を出た方向を指し示す。
「いけって?」
「ホテルから出たいのだろう。あいつの相手は俺がする」
「相手をするって、相手は支部長でしょ!」
「――俺も支部長だ」
カナミはヨロズの気迫に一瞬気圧された。
「わかったわ! こんなホテル、すぐ出てやるわよ! 必ず追ってきなさいよ!」
「無論だ!」
カナミは走り去っていく。
「良くも殴りやがったな! 関東支部長!!」
「ヨロズだ、俺の名前くらい覚えておけ」
ホテルの廊下でヨロズとヒバシラが対峙する。
「そっかそいつは悪かったな! どうせすぐ代替わりするだろうから覚える必要はないと思ってたんだ!!」
「なるほど、お前は読みが甘いようだな」
「なにぃぃぃッ!!」
ヒバシラは燃え上がる。
「あ~熱くなると頭が冴えてくるぜぇッ! やっぱお前の名前、覚える必要ねえわ! この場で名前も残らないよう焼き尽くしてやるからなぁぁッ!!」
爆音が鳴り響く二十四階全体が震えている。
ヒバシラとヨロズの激しい戦いが繰り広げられている。カナミは一刻も早くこのホテルから脱出したいのに、エレベーターは停止していた。
「ヒバシラが壊したのだろう。一気に一階まで降りられないようにするために」
カリウスは冷静に言う。
「それゲーム失格じゃないの!? さっきからホテルを火事にする勢いだけど!!」
カナミはツッコミを入れる。
「失格はフロア全体を壊すような破壊行為だからな。このくらいはホテルの支配人の許容範囲なのだろう」
「すごい許容ね……」
ここまで破壊されて黙ってる支配人。
よほど肝が座っているのか、それとも支部長が怖いのか。
「何にせよ、我々は階段で順を追って降りていくしかあるまい」
カリウスは非常階段の方を指し示す。
「ここ二十四階だから、一階までどのくらいかかるのよ……?」
二十四階から一階へ階段で降りる。気が遠くなりそうな話に感じた。
「そうするしかないだろう。急ぎたまえ」
カリウスはそう言って、階段を降り始める。
「まったく誰のせいでこんなことになってると思ってるのよ!?」
無事にホテルを出られたら、神殺砲の一発でも撃ち込んでやろうかと思った。
とはいえ、一階のロビーまで階段で降りるしか無いので、カリウスの言う通り、階段を降りていった。
二十三、二十二、二十一……
階段を順調に降りていって、二十の表示が見えた瞬間だった。
「エレベーターが止まった今、必ずここを通ると思ったぞ!」
ウィィィィンと金切り音をつまびかせて、四国支部長チューソーが二十階で待ち構えていた。
「四国支部長チューソーか。待ち伏せとは君らしくない作戦だ」
カリウスが言う。
「ヒバシラが暴れまわっているからな、鉢合わせが嫌だったのだ。なに、あんなわかりやすい手段でやられるようなお前ではあるまい」
「確かに」
ヒバシラがこの場にいたら即座にこの場が火の海になりそうな会話だとカナミは思った。
「私はゲームに関係ないんだからそこを通してよ」
カナミはチューソーへ申し出る。
「確かに。お前は今回のゲームのターゲットではない、が、ここを通して後ろから撃たれない保証はない」
「そんな卑怯なことはしないわよ!」
「ゆえに、この場で一緒に斬った方が得策だな」
「話を聞きなさいって!!」
しかし、チューソーは聞く耳を持たず、腕を振り下ろす。
すると、斬撃が迸り、階段を駆け上がって、カナミ達へ襲いかかる。
ズザザザザザザン!!
カナミ達は斬撃から逃れるために二十一階へ駆け上がる。
「なんて話のわからない連中なの!?」
「悪の秘密結社の支部長だからな」
「あんたが言うと説得力があるわね!?」
何しろ元支部長で、話を聞かない怪人の筆頭のような男だ。
「褒め言葉と受け取っておこう」
「褒めてないわよ!」
カナミが言い返すとカリウスは足を止める。
「――犬も歩けば棒に当たるというが、屋内を歩いてみるのも面白いものだ」
二十一階から極星がやってくる。
「参ったな、ここを通してくれと言っても聞かないだろう?」
「無論。千載一遇の好機を逃すほど昼行灯でもない」
極星は光り輝く。
「というわけだ。よろしく頼むよ」
「そこでなんで私!?」
カナミはツッコミを入れる。
「狙われてるのあんたでしょ! 私は無関係よ!!」
「うむ、確かにそうだ」
「そこで私の後ろに隠れるなぁッ!!」
抗議したところで、カナミへビームが撃ち込まれる。
パァン!
カナミはとっさにステッキでそれを弾き飛ばす。
「なんで私を撃ってくるのよ!?」
カナミは撃ってきた極星へ文句を飛ばす。
「カリウスを撃ったはずだが、射線上に君がいた」
極星は悪びれもせずそう答える。
会議中は少しでもまともな人だと思った過去の自分へ「こいつもやはり悪の怪人だった」と言ってやりたい気分だ。
「こいつが私の後ろに隠れたからでしょ!」
「怪我したくなければどいてもらおう」
「言われなくても!」
カナミは横っ跳びで道を開けようとする。
極星は指先からビームを撃つ。
パァン!
向けられたのはカナミだった。
カナミはまたもステッキでそれを弾き飛ばす。
「なんで、また私を狙うの!?」
「後ろを見たまえ」
極星にそう言われて、カナミは後ろを向く。真後ろにカリウスが立っていた。
「なんであんたがそっちに逃げるのよ!?」
「君が右に跳んだら、私もたまたま右に跳んだだけさ」
「そんなたまたまあるかぁッ!?」
右に跳んだら、文句なしに確信犯であった。
「次はちゃんと狙う」
極星は指先をカナミ、そして後ろのカリウスへ向ける。
「ええ、ちゃんと狙いなさいよ!」
カナミは左へ跳んだ。
パァン!
しかし、ビームはやはりカナミに向かって放たれた。
カナミはまたまたステッキでそれを弾き飛ばす。
「……二度あることは三度ある」
カナミはため息交じりにこういう状況になった時の常套句を口にする。
「三度あることは四度ある」
極星は追い打ちをかけるように言う。
「ないわよ! 何よ、あんた達連携して私を追い詰める気なの!?」
「まさか、私達は悪の秘密結社だよ。連携といった芸当ができる人種ではないよ」
カナミの問いかけにカリウスはまったくいつもの調子で答える。人を小馬鹿にした調子だ。
「だったら、なんで私ばっかり狙うのよ!?」
「だから言ってるじゃないか、君が左に跳んだら、たまたま私が左に跳んだだけだ、と」
「だからそんなたまたまは無いって!」
「偶然にせよ、何にせよ」
極星が言う。
かなみやカリウスの言い分など聞く耳持たずといった勢いで、二人を指差して。
「――君がカリウスの盾になるというのなら撃ち抜くまでだ。背後のカリウスもろとも」
「いつの間にか私、あんたの盾にされてるんだけど!」
「それもよいことではないのかね?」
「よくない!」
勝手すぎる言い分だと、カナミは思った。
バァァァン!
極星の指先からビームが放たれる。
それはこれまでの三発とは比べ物にならないほど大きさで、とてもステッキで弾き飛ばされるものじゃなかった。
バァァァン!
そんなわけでこちらも同じ大きさの魔法弾を撃ち、相殺させる。
「仕方ないわね、そこをどいてもらうわよ!」
「どかせられるものならな」
極星の表情は全身光り輝いていて顔の表情さえわからないものの、ニヤリと笑ったような気がした。
「――俺を忘れないでもらおうか!」
そのとき、背後からチューソーの声がする。
二十階から駆け上がってきたチューソーが腕の刃を振りかざして斬り込んでくる。
それはカリウスを狙ったものだけど、カナミも巻き込むには十分なほどの魔力がこもっていた。
パキィィィン!!
しかし、その刃はカナミどころかカリウスに届くことすらなかった。
「邪魔を!」
チューソーは忌々しく刃を阻んだ存在へ言う。
「後ろから攻撃するのは見過ごすことはできぬ」
メンコ姫だった。
彼女が棍棒でチューソーの刃を受け止めた。
「ましてや友達を傷つけようとするものであればなおさら看過できぬ!」
パキィィィン!!
メンコ姫は棍棒を振るい、腕のチェーンソーごとチューソーを弾き飛ばす。
「友達? カリウスがか?」
チューソーは疑問を口にする。
「魔法少女カナミだ!」
「そうか。カリウスと友達と言われるよりかは納得がいく」
チューソーがそれで納得したようだ。怪人と魔法少女がそんな関係になることを。
「あんた、やっぱり友達いないんじゃない」
「否定はしない」
「否定しなさいよ!」
カナミは嫌味のつもりで言ったつもりだけど、カリウスはまっとうに返してきた。
「まあ、そのことはこの場を切り抜けてから検討するよ」
「嘘ばっかり……っていうか、どうやって切り抜けるつもりよ」
「ひとまず、君と君の友達が頑張ってくれ」
「他力本願じゃない!?」
バァァァン!
そんな会話をしているうちに、極星がビームを撃ってくる。
「く!」
カナミはこれに対して魔法弾で応戦する。
キィン! キィン! キィン!
一方、その階下では、メンコ姫とチューソーの打ち合いが始まった。
棍棒とチェーンソーがぶつかり合う度に衝撃波が迸り、その震動で建物が揺れる。
「神殺砲!」
カナミはステッキを砲台を変化させる。
「ボーナスキャノン!!」
即座に砲弾を発射させる。
「ぬう!?」
バァァァァァァァァァン!!
極星はビームで応戦するも、砲弾に飲み込まれた上で、本人に直撃する。
砲弾は階段をふっとばして壁を撃ち抜いた。
「お見事」
カリウスが称賛する。
「まだよ、あのくらいで倒せてたら支部長なんてやってないでしょ?」
カナミは警戒を解かない。
「うむ、そうだな。――特に極星はな」
カリウスの返事に、かなみは反射的に顔を強張らせる。
バァァァァァァァァァン!!
極星が吹っ飛んだ方向から大量のビームが飛んでくる。
一方、二十五階ではヨロズとヒバシラが戦っていた。
「くッ!」
ヒバシラの火に押し負けて、ヨロズの拳が身体ごと弾き飛ばされる。
「おいおい、どうしたぁッ!? これでも加減してるんだぞぉッ!!」
ヒバシラは火球を放ちながら、ヨロズを煽ってくる。
しかし、事実だとヨロズは感じる。
カリウスを巡る十二席の椅子取りゲーム。
そのルールの一つに、「ホテルがフロアごと倒壊するような損害を与えた場合、失格」とする。
そのルールのために、ヒバシラはその気になればフロア全体を火の海にして焼き払うこともできるはずなのに、火球を撃ち込んでいるだけに留めている。
にも関わらずヨロズは圧されていた。
(圧倒的戦力差はルールによってほぼ埋まっている。だが、それでも圧されているということは……わからない、なんだこの感覚は……!?)
ヨロズはヒバシラとの戦いで違和感があった。
その違和感が圧されている原因にも関わらず、その正体がわからない。
ドゴォォォォン!!
飛んできた火球を剛腕で殴り飛ばして、ヒバシラへと踏み込む。
炎で燃え盛る火柱の身体へ剛腕を繰り出す。
「――!」
しかし、また違和感がヨロズを襲った。
腕が萎縮し、拳がヒバシラへ届くまでに一瞬遅れてしまう。
ヒバシラはその一瞬を見逃さなかった。
「火達磨になりやがれぇぇッ!!」
四方の炎がヨロズへと一斉に襲いかかる。
「ガアアアアアアアッ!!」
ヨロズは叫びを上げて、廊下を激しく転がっていく。
転がったおかげで火が消える。
しかし、身体を燃やされたことによるダメージは大きい。
「わかったぜ、おめえ! ビビってやがるなぁッ!?」
「ビビっている、だと……?」
ヒバシラが言っていることがヨロズは理解できなかった。
「踏み込みに思い切りの良さが足りねえぇッ! そいつは恐怖で身体が硬直してるんだよぉッ!」
「恐怖……硬直、か……」
ヨロズは噛みしめるようにその言葉を口にする。
「獣の身体の本能だろうな! 俺の火を恐れるのはぁッ!!」
「俺の本能……火を恐れるのは、俺の本能か……」
「ああ、そうだぁぁッ! だから、もう一度を食らうんだよぉぉぉぉぉッ!!」
ヨロズの四方から炎が襲いかかってくる。
ピクッ!
ヨロズの身体が震える。
「ああ、そうか……」
ヨロズは理解する。
「――これが、恐怖か!」
それと同時にある姿が重なる。
「――これが魔法少女カナミが抱えていたものか!」
今の自分と、自分と戦っていた時の魔法少女カナミの姿が重なる。
思い出す。
カナミは自分と戦った時もこんな感情を抱えていたのか。
火を見ると身体が震える。
火が差し迫ってくる。全身は震える。
ここから逃げ出したい衝動に駆られる。
(恐怖! 怖い! 逃げろ! 逃げ出せ! 逃げてしまえ!)
この感情とわかった途端に声がする。
これは自分の内側から響いてくる自分の声だ。
この身体はあらゆる獣の身体を寄せ集めて出来上がった怪人の身体だ。
獣の身体が本能から発している声だ。
「俺は――」
それだったら、今発している声は何だ。
魔法少女カナミはこんな時、どうしたか。
そんなの決まっている。
「逃げない!」
魔法少女カナミは常に立ち向かってきた。
ならば、自分も立ち向かう。
彼女はそうやって勝ち続けてきたじゃないか。
ヨロズは一歩も動くこと無く、火を一身に受ける。
「ガアアアアアアアアアッ!!」
裂帛する。
身体は燃え上がる。
だが、身体は震えない。
拳を握り、足を踏みしめ、歯を食いしばる。
「俺はぁぁぁ、逃げなぁぁぁぁぁいッ!」
ヨロズはそこからヒバシラへ踏み込む。
魔法少女カナミはそうやって戦ってきたじゃないか。
それではカナミは何をもって戦ってきたのか。
『人間の最大の武器はなんだと思う?』
それは意識の奥底に眠っていた誰かからの問いかけ。
『あなたはあの魔法少女の何に負けたと思う?』
これはまだ生まれたばかりの頃、言葉を口にすることがまだままならなかった頃に聞いた声だ。
『それは獣であるあなたが持ち得なかったモノよ』
意識がはっきりしてくる。
声の主の輪郭がはっきりしてくる。
いろかだ。
思い出した。
彼女がこの次に何を言ったのか。
あの魔法少女――魔法少女カナミが持っていた最大の武器。
『それは――勇気という魔法よ』
「金剛腕!!」
ヨロズが放つ渾身の剛腕がヒバシラを捉える。
ズガァァァァァァァァァン!!
ヒバシラは勢いよく殴り飛ばされ、いくつもの壁を突き破っていく。
「なるほど、これが勇気か」
一つ試しに魔法少女カナミにあやかって必殺技というものを撃ち込んでみたものの、思いの外、威力が出た。
「恐怖を制して、どんな敵にも立ち向かう力をくれる人間最大の武器か」
まだ火をみるだけでも身体が震える。
だが、この震えを抑えて一歩踏みしめる度に、自分が強くなっていく感覚がする。
「これが魔法少女カナミが持っている強さか」
「――だが、そいつは身を焼き滅ぼす強さだぜぇッ!」
ヒバシラが立ち上がる。
「恐怖を克服したかぁッ! 結構なことだぜぇッ! 臆病者に勝ったところで何の自慢にもならねえぇッ!!」
「では、今の俺を倒せば何の自慢になる?」
ヨロズは問いかける。
ヒバシラはニヤリと笑って答える。
「さあな!」
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スーパー忍者・タカシの大冒険
Selfish
ファンタジー
時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる