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第110話 帯同! 少女と怪人の奇妙な一座 (Bパート)
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かなみ達は東京駅の新幹線のホームへやってくる。
「あれに乗るのか?」
ヨロズがかなみへ訊く。
「うん、そうだけど。……何号車でしたっけ翠華さん?」
かなみに訊かれて、翠華は新幹線の切符を確認する。
「三号車よ」
「オラはここに来る時もこれに乗ってきた」
メンコ姫が言う。
「東北新幹線ね。そっちは行ったこと無いのよ」
「いつか来るといい」
「そうね、そっちも行ってみたいわ」
かなみとメンコ姫がやり取りをしていると、翠華は顔をしかめる。
「二人が仲良くしてるのって、気に入らない?」
かなみの姿をしたドッペルが面白そうに翠華へ訊く。
「別に……そういうわけじゃないわよ」
「そういうわけじゃありそうだけど」
「いいから。私に構わないで」
翠華はドッペルからそっぽ向く。
これ以上、かなみの声で語りかけられて、かなみの顔で近づかれると平静を保てる自信がない。
「翠華さん、どうかしましたか?」
ドッペルはこれみよがしに、かなみが言いそうな口調で語りかけてくる。
「なんでもないわ!」
翠華はそんなドッペルを振り払うように前へ進む。
「おかしな人ね?」
ドッペルはヨロズへ語りかける。
「さあ、俺にはよくわからないな」
ヨロズはそっけなく答える。
「あんたはおかしな怪人かもしれないけど」
「それはニンゲンの基準だ。ニンゲンでいえばおかしくない怪人の方が少ない」
「フフ、そうね。私もおかしな怪人って自覚あるし」
「しかし、お前は楽しそうだな」
「そりゃ思いっきり外を出回れるんだから楽しそうに決まってるでしょ」
「監視付きだがな」
「あんな監視なんかすぐに振り払ってやるわよ」
「そう簡単に出来るとは思えんが」
ヨロズがそう言うと、ドッペルは顔をしかめる。
「そう、あんたもそう思うのね」
そんなかなみ達五人は新幹線に乗る。
あるみからもらった新幹線のチケットは五枚。
新幹線の座席は一列の席が左に二席、右に三席に別れている。
メンコ姫は即座に三席の方の窓際に座る。
「かなみ、こっちに座らないか?」
「ええ、そうね」
かなみはメンコに誘われて、真ん中の席に座る。
(そ、それじゃ、私は、か、かなみさんの隣に……!)
翠華がそう決意した時、すでに先に行動していた奴がいた。
「じゃ、私はここ!」
「……あ!」
ドッペルがかなみの左席に座る。
「………………」
翠華は歯噛みしながら、かなみとかなみのドッペルの二人を見つめる。
「なんで、あんたが座るのよ」
「いいじゃない。そういう気分なのよ」
二人が言い争いをしている。
奇妙な光景なのだけど、二人ともかなみの顔をしているので、いい絵になる、と、翠華は不覚にも思った。
翠華はいつまでも立っているわけにもいかず、翠華は右の二席に座ろうとすると奥の窓際の席はもうヨロズが座っていた。そのため、ヨロズの隣の通路側の席に翠華は座った。
「あなたはなんでその席に?」
「空いていたから」
ヨロズはあっさり答える。
翠華とヨロズ
会話どころか目を合わせたことすらあまりないものの、翠華からみたらヨロズはかなみにこだわっている印象があるから当然のように隣に座ろうとしていてもおかしくないのに、遠い方の席に座っているのは意外に思えた。
(みんな、かなみさん絡みなのよね……)
改めて、席に座って人達(?)を確認してみる。
まず、かなみ本人。本人には自覚はないけど、この一行の中心は間違いなく彼女。
かなみの友達と言い張るメンコ姫。
かなみの姿形を盗み取って、本人に成り代わろうとしているドッペルゲンガー。
かなみにライバル視して、倒そうとしているヨロズ。
そして、翠華自身。
(奇妙なメンバーよね)
翠華はつくづくそう思ってしまう。
かなみは妙な人を引き寄せる性質がある。誰かがそう言っていた気がする。まさしくそうだと思ってしまう。
特に、翠華がいなかったら怪人ばかりで、妙な人どころじゃない。
(だからこそ、私が守らなくちゃ……!)
翠華はグッと決意を固める。
『あの!』
オフィスの時に、翠華は挙手した。
『私もついていっていいですか!?』
同行を申し出た。
中部支部長に戦いを挑む。それがとてつもなく危険な戦いになることもそうだし、そうでなくとも怪人三人と一緒に中部へ遠出するのも危険だ。だから、せめて自分がついていかなければ、と思い立った。
『そう言うと思って新幹線の切符をとっておいたわ』
あるみは意外にもあっさりと許可された。
断られると思って、食い下がるつもりだったのに、翠華は拍子抜けした。
「翠華さん……」
かなみが感激しているのがこそばゆく、そんな風にリアクションしてくれるだけで申し出た甲斐があったと思ってしまう。
「メンコちゃんやヨロズもそれでいい?」
あるみは二人の怪人に確認をとる。
「オラはいいが、……かなみ以外にもメンコちゃんと呼ぶか」
メンコ姫は別のことを気にしていたようだ。
「俺も構わない」
ヨロズはあっさりと承諾する。
(そういうことで私も守らなくちゃならないから……)
翠華はじっくりとかなみを見守る。
「なんで、あんたが隣にいるのよ?」
「隣に座りたい気分だったのよ。それとも、翠華さんの方が良かったの?」
かなみとドッペルの会話を聞いていて、翠華は密かにドキリとする。
ドッペルもそれがわかっていて、そんな話し方を持ちかけているような気がする。
「それはそうだけど……」
かなみもかなみで、ドッペルの問いかけに否定せず、むしろ翠華を頼るような視線を投げかけてくる。
(……かなみさん、そんな風に頼られても、今の私にはどうすることもできない……)
翠華は新幹線の席取りで負けた悔しさで歯噛みする。
「そんなに、かなみのことが気になるのか?」
「え!?」
思いもよらない方向からの問いかけに、翠華は驚き飛び上がりかける。
「そんなに、かなみのことが気になるのか?」
「いえいえ、二回もきかなくてもいいから」
「俺は気になる」
「え!?」
「今かなみと戦ったらどうなるのか、それが気になる」
「ああ、あなたはそうなのよね」
「お前は気にならないのか?」
「私はそういうことは気にならないわ。だって、かなみさんと戦うことなんてないんだから」
「そうか……」
「あなたは、どうしてもかなみさんと戦いたいの?」
「当然だ」
ヨロズのその返答に、翠華は緊張する。
「かなみに勝つことが俺が生きる目標だからな」
「……生きる目標って」
大げさなように聞こえるけど、ヨロズがそう言うと大げさに言っているように感じない。
「俺は生まれたばかりのときに、カナミと戦って負けた。それ以来、戦って勝ってみたいと思うようになった。ずっとだ」
「ずっと……」
「そう、ずっとだ」
ヨロズにそう言われて、翠華も対抗意識が湧いてくる。
「ずっとだって言うんなら、私だって」
「お前も?」
「ずっとかなみさんを守りたいと思ってきた。あなたが勝って倒したいというなら、私は絶対にかなみさんを守る」
「……そうか」
ヨロズは翠華の目を見据えて、納得したように言う。
「お前を倒さなければ、かなみと戦えないというならそれも望むところだ」
「………………」
翠華の身体は震える。
ヨロズから発せられる威圧感は隣の席に座ったことで、より強く感じられる。
(怖い……! かなみさんはこんなに怖い人と戦ってきたの……)
改めて、かなみの凄さを思い知らされる。
それと同時に、だからこそ私が守らないと、想いが湧き上がってくる。
「……私も望むところよ」
精一杯の想いを叩き返すように言ってやる。
「ふむ」
ヨロズは満足げにそれだけ答える。
「一つ訊いていい?」
「なんだ?」
「どうして今、かなみさんに協力するの?」
「言ったはずだ。新中部支部長はいけすかない、と。それに、不意打ちでかなみの影を奪い取ったのは感化できない」
「感化できない? それって……」
「腹が立つ、ということなのだろう」
「あ、そういうことね」
翠華は納得する。
「どういうことだ?」
「私もその新中部支部長には腹が立っているの。かなみさんを傷つけたから。それに不意打ちってきいたらなおさらね」
「なるほど、気持ちは同じということか」
「……それもおかしな話だけど……一応、ね、同じみたいね……」
「歯切れは悪い気がするが、まあ、そういうことだな」
「……なんだか、あなたのこと、ちょっとわかってきた気がするわ」
それとともに、翠華はため息をつく。
「何故、ため息をつく?」
「なんとなくね。同じってことはちょっと面倒かもしれないと思って」
「面倒とは……?」
「それは……こっちの問題だから気にしないで」
「……そうか」
ヨロズはそれで納得したようだった。反対に、翠華はかなみに視線を移す。
「奇妙だな」
メンコ姫が、かなみとドッペルを見て言う。
「奇妙って?」
「同じ顔してるニンゲンが二人並んでるのが、ってことでしょ」
「そりゃ、あんたが私の真似をするからでしょ」
「それが私の性質なんだから仕方ないでしょ」
「仕方ないでしょ、で、すまされないでしょ。私の真似をするの、やめられないの?」
「あんたの真似をやめたら、別の誰かの姿をいただくだけよ。私はそうせずにいられない、そういう怪人なんだから」
「うぅ……」
ドッペルゲンガーの図々しいものの、筋の通っているような物言いに、かなみは言葉を失う。
「なるほど、おめぇは奇妙な怪人なんだな。実に怪人らしい」
「東北支部長にそう言われると照れくさいわね」
「支部長は肩書きでしかない。本当の実力を伴っていない」
「それは変わってるわね。支部長なんて、俺様は支部長だ! なんて大威張りでふんぞり返ってるかと思ってたのに」
「他の支部長がどうだか知らないからな。そういう支部長もいるかもしれない」
「あの、ヒバシラならやってそうだけど」
「ヒバシラか」
メンコ姫と一緒になって、頭の上でそんなヒバシラを想像してみる。
『俺様は支部長だあああッ!!!』
燃え盛る炎の身体を大げさなほどに綺羅びやかに飾り立てられた玉座で、いかにも偉そうにふんぞり返っている絵面。それは、ヒバシラの豪快さと相まってあまりにも似合いすぎている気がした。
「「……ぷ!」」
思わず、二人揃って吹き出してしまった。
「確かに似合っているな」
「ええ、想像したら思ったより!」
かなみとメンコ姫。二人で笑い合う。
ヒバシラ本人が聞いていたら、激怒して飛び火してきそうだけど。
「何よ、あんた達も奇妙なものじゃない」
ドッペルは二人の様子を見て言う。
(楽しそう……)
そんな様子を翠華は見て、心から思う。
(それにしても、悪の怪人とあんな風に仲良くなれるなんて、かなみさんって凄いのか、わけがわからないのか……)
そうしているうちに名古屋駅に着いた。
着いた時、日が落ち始めていた。今夜は一旦ホテルで一泊してから明日中部支部に乗り込む算段になっている。
「社長の話がホテルの部屋は二部屋とってあるよ」
マニィが言う。
「二部屋、ってことは、二人と三人?」
かなみは新幹線の席取りを思い出す。
「……あんたとの相部屋はイヤね。とか、思ってるでしょ?」
ドッペルがニヤリと笑って言う。
「そうだけど、そう言われると腹がたつわね」
「腹が立つように言ってるから当然でしょ」
かなみとドッペルが睨み合う。
「まあまあ、揉めないで」
翠華が仲裁に入る。
「しかし、部屋割りはどうする?」
メンコ姫は問う。
「二人部屋で二人、三人部屋で三人か。俺はどちらでも構わないが、かなみ、あの時と同じように同じ部屋にするか?」
(あの時と同じ!?)
翠華はヨロズの物言いに飛び上がるような勢いで驚く。
「支部長会議の時ね」
対して、かなみは落ち着いていた。というより、翠華の反応に気づいていなかった。
「あれは、一室しか無かったから仕方なく相部屋になったんでしょ。おまけに、カリウスやメンコちゃんが入ってきて、すぐ出ちゃったじゃない」
「だが、あのとき、かなみは寝るくらいくつろいでたはずだが」
(寝る!?)
「あれは疲れてたのとソファーが気持ち良かったから」
(ソファーで寝てた!?)
「今日のホテルでもソファーで寝ればいいだろう」
「今日はベッドで寝るわよ!」
(ベッドで!?)
「でも、あんたと同じ部屋というわけにはいかないわね」
「何故だ? 俺は寝込みを襲うような真似をしない」
(寝込みを襲う!?)
「そういう問題じゃないでしょ!」
「私は襲っちゃうかも!」
ドッペルは楽しげに言う。
(襲っちゃうかも!?)
「もっと危険よ。あんたと相部屋なんて絶対にイヤよ!」
「えぇ、寝てるときなんて無茶苦茶無防備だから本物に成り代わるチャンスなのに!」
「だからでしょ、翠華さん。一緒の部屋にしましょう!」
「え、えぇ!? い、いい、一緒の部屋!?」
かなみの進言に、翠華は大いに困惑してきた。
思わぬ情報の数々に、頭が追いついていない。
「か、か、かな、かなみさんと一緒の部屋なんて!?」
「い、イヤでしたか?」
「い、いいやや、イヤなんてそんなことは絶対にないんですけど!?」
「ああ、そうですね。ドッペルやヨロズが抜け出したりしないか、見張りが必要ですよね。そうなると、私と翠華さんは別々の部屋に」
「えぇ!? 別々の部屋に!?」
それは一安心というか、残念というか。
「でも、それだと、寝ずの番になってきついですね。私はともかく翠華さんが……」
「わ、私だったら、大丈夫だから! なんだったら、私がかなみさんの代わりに全部見張りするから!」
「さすが翠華さんです! 頼もしいです!!」
かなみは尊敬の眼差しを向ける。
ただ翠華の方はその眼差しがまぶしすぎて、直視できない。
そんな会話をしているうちに駅の近くのビジネスホテルに着く。
「それじゃ、チェックインは私に任せて」
そういうことは、翠華に任せるようにしている。
中学生、いやそれよりも小さく見えてしまうかなみがホテルのチェックインに来たら怪しまれるかもしれない。かといって、怪人のヨロズやメンコ姫に任せるわけにもいかない。
(翠華さんについてきてくれてよかったわ)
かなみは翠華を楽しげに見つめつつ、そう思う。
(かなみさんから頼られている!?)
そんな視線を翠華は確かに感じつつ、そうとはかなみに気取られないように平静に振る舞おうとしている。
ホテルのチェックインなんて翠華もそうそう経験がないもので、緊張はする。
かなみからのプレッシャーに比べたら、月とスッポンでしかないが。
(もちろん、かなみさんは月で……って、そんなこと考えてる場合じゃない!)
翠華は気を引き締め直して、ホテルのカウンターに向かう。
「魔法少女名義で予約した青木です」
そう名乗って、翠華はカウンターに話をつける。
そうして、出された書類にサインを入れて、二つの鍵を受け取る。
(私、高校生なんだけど怪しまないのかしら……それとも、――私、そんなに大人に見えるのかしら?)
そんなことを考えながら、かなみのもとに戻る。
「翠華さん、大人みたいで頼もしいですね」
「そ、そう」
「前来た時は、あるみ社長と一緒だったんですけど、それと同じくらい頼もしいです」
「社長と一緒ね。それは光栄なことだけど……」
どうしても、腑に落ちないことがあった。
(社長と一緒……社長は三十歳だから、小学生(かなみさん)くらいの子供がいてもまあおかしくないかもしれない……あッ!)
そこまで考えて、翠華はある考えに至る。
(もしかして私、子連れだと誤解されてる!?)
思わずカウンターを振り向く。
ホテル員はその翠華の仕草を気にした素振りもなく、かえってそれが翠華の疑念を深ませる。
「翠華さん、どうかしました?」
かなみが訊く。
詳しくはわからないけど、そわそわしている翠華が心配になったのだろう。
「ううん、なんでもないわ」
「そうよね。なんでもないわよね」
ドッペルが言う。
「さ、早く部屋に行きましょう、ママ」
「――!?」
翠華は驚きのあまり、硬直する。
(ドッペルゲンガー、私の心を読んだの?)
改めて、ドッペルゲンガーの脅威を感じた。
「それで、部屋割りはどうする?」
メンコ姫は首を傾げる。
メンコ姫とヨロズは、ホテルのチェックインのやりとりではおいていきぼりだった。
「あれに乗るのか?」
ヨロズがかなみへ訊く。
「うん、そうだけど。……何号車でしたっけ翠華さん?」
かなみに訊かれて、翠華は新幹線の切符を確認する。
「三号車よ」
「オラはここに来る時もこれに乗ってきた」
メンコ姫が言う。
「東北新幹線ね。そっちは行ったこと無いのよ」
「いつか来るといい」
「そうね、そっちも行ってみたいわ」
かなみとメンコ姫がやり取りをしていると、翠華は顔をしかめる。
「二人が仲良くしてるのって、気に入らない?」
かなみの姿をしたドッペルが面白そうに翠華へ訊く。
「別に……そういうわけじゃないわよ」
「そういうわけじゃありそうだけど」
「いいから。私に構わないで」
翠華はドッペルからそっぽ向く。
これ以上、かなみの声で語りかけられて、かなみの顔で近づかれると平静を保てる自信がない。
「翠華さん、どうかしましたか?」
ドッペルはこれみよがしに、かなみが言いそうな口調で語りかけてくる。
「なんでもないわ!」
翠華はそんなドッペルを振り払うように前へ進む。
「おかしな人ね?」
ドッペルはヨロズへ語りかける。
「さあ、俺にはよくわからないな」
ヨロズはそっけなく答える。
「あんたはおかしな怪人かもしれないけど」
「それはニンゲンの基準だ。ニンゲンでいえばおかしくない怪人の方が少ない」
「フフ、そうね。私もおかしな怪人って自覚あるし」
「しかし、お前は楽しそうだな」
「そりゃ思いっきり外を出回れるんだから楽しそうに決まってるでしょ」
「監視付きだがな」
「あんな監視なんかすぐに振り払ってやるわよ」
「そう簡単に出来るとは思えんが」
ヨロズがそう言うと、ドッペルは顔をしかめる。
「そう、あんたもそう思うのね」
そんなかなみ達五人は新幹線に乗る。
あるみからもらった新幹線のチケットは五枚。
新幹線の座席は一列の席が左に二席、右に三席に別れている。
メンコ姫は即座に三席の方の窓際に座る。
「かなみ、こっちに座らないか?」
「ええ、そうね」
かなみはメンコに誘われて、真ん中の席に座る。
(そ、それじゃ、私は、か、かなみさんの隣に……!)
翠華がそう決意した時、すでに先に行動していた奴がいた。
「じゃ、私はここ!」
「……あ!」
ドッペルがかなみの左席に座る。
「………………」
翠華は歯噛みしながら、かなみとかなみのドッペルの二人を見つめる。
「なんで、あんたが座るのよ」
「いいじゃない。そういう気分なのよ」
二人が言い争いをしている。
奇妙な光景なのだけど、二人ともかなみの顔をしているので、いい絵になる、と、翠華は不覚にも思った。
翠華はいつまでも立っているわけにもいかず、翠華は右の二席に座ろうとすると奥の窓際の席はもうヨロズが座っていた。そのため、ヨロズの隣の通路側の席に翠華は座った。
「あなたはなんでその席に?」
「空いていたから」
ヨロズはあっさり答える。
翠華とヨロズ
会話どころか目を合わせたことすらあまりないものの、翠華からみたらヨロズはかなみにこだわっている印象があるから当然のように隣に座ろうとしていてもおかしくないのに、遠い方の席に座っているのは意外に思えた。
(みんな、かなみさん絡みなのよね……)
改めて、席に座って人達(?)を確認してみる。
まず、かなみ本人。本人には自覚はないけど、この一行の中心は間違いなく彼女。
かなみの友達と言い張るメンコ姫。
かなみの姿形を盗み取って、本人に成り代わろうとしているドッペルゲンガー。
かなみにライバル視して、倒そうとしているヨロズ。
そして、翠華自身。
(奇妙なメンバーよね)
翠華はつくづくそう思ってしまう。
かなみは妙な人を引き寄せる性質がある。誰かがそう言っていた気がする。まさしくそうだと思ってしまう。
特に、翠華がいなかったら怪人ばかりで、妙な人どころじゃない。
(だからこそ、私が守らなくちゃ……!)
翠華はグッと決意を固める。
『あの!』
オフィスの時に、翠華は挙手した。
『私もついていっていいですか!?』
同行を申し出た。
中部支部長に戦いを挑む。それがとてつもなく危険な戦いになることもそうだし、そうでなくとも怪人三人と一緒に中部へ遠出するのも危険だ。だから、せめて自分がついていかなければ、と思い立った。
『そう言うと思って新幹線の切符をとっておいたわ』
あるみは意外にもあっさりと許可された。
断られると思って、食い下がるつもりだったのに、翠華は拍子抜けした。
「翠華さん……」
かなみが感激しているのがこそばゆく、そんな風にリアクションしてくれるだけで申し出た甲斐があったと思ってしまう。
「メンコちゃんやヨロズもそれでいい?」
あるみは二人の怪人に確認をとる。
「オラはいいが、……かなみ以外にもメンコちゃんと呼ぶか」
メンコ姫は別のことを気にしていたようだ。
「俺も構わない」
ヨロズはあっさりと承諾する。
(そういうことで私も守らなくちゃならないから……)
翠華はじっくりとかなみを見守る。
「なんで、あんたが隣にいるのよ?」
「隣に座りたい気分だったのよ。それとも、翠華さんの方が良かったの?」
かなみとドッペルの会話を聞いていて、翠華は密かにドキリとする。
ドッペルもそれがわかっていて、そんな話し方を持ちかけているような気がする。
「それはそうだけど……」
かなみもかなみで、ドッペルの問いかけに否定せず、むしろ翠華を頼るような視線を投げかけてくる。
(……かなみさん、そんな風に頼られても、今の私にはどうすることもできない……)
翠華は新幹線の席取りで負けた悔しさで歯噛みする。
「そんなに、かなみのことが気になるのか?」
「え!?」
思いもよらない方向からの問いかけに、翠華は驚き飛び上がりかける。
「そんなに、かなみのことが気になるのか?」
「いえいえ、二回もきかなくてもいいから」
「俺は気になる」
「え!?」
「今かなみと戦ったらどうなるのか、それが気になる」
「ああ、あなたはそうなのよね」
「お前は気にならないのか?」
「私はそういうことは気にならないわ。だって、かなみさんと戦うことなんてないんだから」
「そうか……」
「あなたは、どうしてもかなみさんと戦いたいの?」
「当然だ」
ヨロズのその返答に、翠華は緊張する。
「かなみに勝つことが俺が生きる目標だからな」
「……生きる目標って」
大げさなように聞こえるけど、ヨロズがそう言うと大げさに言っているように感じない。
「俺は生まれたばかりのときに、カナミと戦って負けた。それ以来、戦って勝ってみたいと思うようになった。ずっとだ」
「ずっと……」
「そう、ずっとだ」
ヨロズにそう言われて、翠華も対抗意識が湧いてくる。
「ずっとだって言うんなら、私だって」
「お前も?」
「ずっとかなみさんを守りたいと思ってきた。あなたが勝って倒したいというなら、私は絶対にかなみさんを守る」
「……そうか」
ヨロズは翠華の目を見据えて、納得したように言う。
「お前を倒さなければ、かなみと戦えないというならそれも望むところだ」
「………………」
翠華の身体は震える。
ヨロズから発せられる威圧感は隣の席に座ったことで、より強く感じられる。
(怖い……! かなみさんはこんなに怖い人と戦ってきたの……)
改めて、かなみの凄さを思い知らされる。
それと同時に、だからこそ私が守らないと、想いが湧き上がってくる。
「……私も望むところよ」
精一杯の想いを叩き返すように言ってやる。
「ふむ」
ヨロズは満足げにそれだけ答える。
「一つ訊いていい?」
「なんだ?」
「どうして今、かなみさんに協力するの?」
「言ったはずだ。新中部支部長はいけすかない、と。それに、不意打ちでかなみの影を奪い取ったのは感化できない」
「感化できない? それって……」
「腹が立つ、ということなのだろう」
「あ、そういうことね」
翠華は納得する。
「どういうことだ?」
「私もその新中部支部長には腹が立っているの。かなみさんを傷つけたから。それに不意打ちってきいたらなおさらね」
「なるほど、気持ちは同じということか」
「……それもおかしな話だけど……一応、ね、同じみたいね……」
「歯切れは悪い気がするが、まあ、そういうことだな」
「……なんだか、あなたのこと、ちょっとわかってきた気がするわ」
それとともに、翠華はため息をつく。
「何故、ため息をつく?」
「なんとなくね。同じってことはちょっと面倒かもしれないと思って」
「面倒とは……?」
「それは……こっちの問題だから気にしないで」
「……そうか」
ヨロズはそれで納得したようだった。反対に、翠華はかなみに視線を移す。
「奇妙だな」
メンコ姫が、かなみとドッペルを見て言う。
「奇妙って?」
「同じ顔してるニンゲンが二人並んでるのが、ってことでしょ」
「そりゃ、あんたが私の真似をするからでしょ」
「それが私の性質なんだから仕方ないでしょ」
「仕方ないでしょ、で、すまされないでしょ。私の真似をするの、やめられないの?」
「あんたの真似をやめたら、別の誰かの姿をいただくだけよ。私はそうせずにいられない、そういう怪人なんだから」
「うぅ……」
ドッペルゲンガーの図々しいものの、筋の通っているような物言いに、かなみは言葉を失う。
「なるほど、おめぇは奇妙な怪人なんだな。実に怪人らしい」
「東北支部長にそう言われると照れくさいわね」
「支部長は肩書きでしかない。本当の実力を伴っていない」
「それは変わってるわね。支部長なんて、俺様は支部長だ! なんて大威張りでふんぞり返ってるかと思ってたのに」
「他の支部長がどうだか知らないからな。そういう支部長もいるかもしれない」
「あの、ヒバシラならやってそうだけど」
「ヒバシラか」
メンコ姫と一緒になって、頭の上でそんなヒバシラを想像してみる。
『俺様は支部長だあああッ!!!』
燃え盛る炎の身体を大げさなほどに綺羅びやかに飾り立てられた玉座で、いかにも偉そうにふんぞり返っている絵面。それは、ヒバシラの豪快さと相まってあまりにも似合いすぎている気がした。
「「……ぷ!」」
思わず、二人揃って吹き出してしまった。
「確かに似合っているな」
「ええ、想像したら思ったより!」
かなみとメンコ姫。二人で笑い合う。
ヒバシラ本人が聞いていたら、激怒して飛び火してきそうだけど。
「何よ、あんた達も奇妙なものじゃない」
ドッペルは二人の様子を見て言う。
(楽しそう……)
そんな様子を翠華は見て、心から思う。
(それにしても、悪の怪人とあんな風に仲良くなれるなんて、かなみさんって凄いのか、わけがわからないのか……)
そうしているうちに名古屋駅に着いた。
着いた時、日が落ち始めていた。今夜は一旦ホテルで一泊してから明日中部支部に乗り込む算段になっている。
「社長の話がホテルの部屋は二部屋とってあるよ」
マニィが言う。
「二部屋、ってことは、二人と三人?」
かなみは新幹線の席取りを思い出す。
「……あんたとの相部屋はイヤね。とか、思ってるでしょ?」
ドッペルがニヤリと笑って言う。
「そうだけど、そう言われると腹がたつわね」
「腹が立つように言ってるから当然でしょ」
かなみとドッペルが睨み合う。
「まあまあ、揉めないで」
翠華が仲裁に入る。
「しかし、部屋割りはどうする?」
メンコ姫は問う。
「二人部屋で二人、三人部屋で三人か。俺はどちらでも構わないが、かなみ、あの時と同じように同じ部屋にするか?」
(あの時と同じ!?)
翠華はヨロズの物言いに飛び上がるような勢いで驚く。
「支部長会議の時ね」
対して、かなみは落ち着いていた。というより、翠華の反応に気づいていなかった。
「あれは、一室しか無かったから仕方なく相部屋になったんでしょ。おまけに、カリウスやメンコちゃんが入ってきて、すぐ出ちゃったじゃない」
「だが、あのとき、かなみは寝るくらいくつろいでたはずだが」
(寝る!?)
「あれは疲れてたのとソファーが気持ち良かったから」
(ソファーで寝てた!?)
「今日のホテルでもソファーで寝ればいいだろう」
「今日はベッドで寝るわよ!」
(ベッドで!?)
「でも、あんたと同じ部屋というわけにはいかないわね」
「何故だ? 俺は寝込みを襲うような真似をしない」
(寝込みを襲う!?)
「そういう問題じゃないでしょ!」
「私は襲っちゃうかも!」
ドッペルは楽しげに言う。
(襲っちゃうかも!?)
「もっと危険よ。あんたと相部屋なんて絶対にイヤよ!」
「えぇ、寝てるときなんて無茶苦茶無防備だから本物に成り代わるチャンスなのに!」
「だからでしょ、翠華さん。一緒の部屋にしましょう!」
「え、えぇ!? い、いい、一緒の部屋!?」
かなみの進言に、翠華は大いに困惑してきた。
思わぬ情報の数々に、頭が追いついていない。
「か、か、かな、かなみさんと一緒の部屋なんて!?」
「い、イヤでしたか?」
「い、いいやや、イヤなんてそんなことは絶対にないんですけど!?」
「ああ、そうですね。ドッペルやヨロズが抜け出したりしないか、見張りが必要ですよね。そうなると、私と翠華さんは別々の部屋に」
「えぇ!? 別々の部屋に!?」
それは一安心というか、残念というか。
「でも、それだと、寝ずの番になってきついですね。私はともかく翠華さんが……」
「わ、私だったら、大丈夫だから! なんだったら、私がかなみさんの代わりに全部見張りするから!」
「さすが翠華さんです! 頼もしいです!!」
かなみは尊敬の眼差しを向ける。
ただ翠華の方はその眼差しがまぶしすぎて、直視できない。
そんな会話をしているうちに駅の近くのビジネスホテルに着く。
「それじゃ、チェックインは私に任せて」
そういうことは、翠華に任せるようにしている。
中学生、いやそれよりも小さく見えてしまうかなみがホテルのチェックインに来たら怪しまれるかもしれない。かといって、怪人のヨロズやメンコ姫に任せるわけにもいかない。
(翠華さんについてきてくれてよかったわ)
かなみは翠華を楽しげに見つめつつ、そう思う。
(かなみさんから頼られている!?)
そんな視線を翠華は確かに感じつつ、そうとはかなみに気取られないように平静に振る舞おうとしている。
ホテルのチェックインなんて翠華もそうそう経験がないもので、緊張はする。
かなみからのプレッシャーに比べたら、月とスッポンでしかないが。
(もちろん、かなみさんは月で……って、そんなこと考えてる場合じゃない!)
翠華は気を引き締め直して、ホテルのカウンターに向かう。
「魔法少女名義で予約した青木です」
そう名乗って、翠華はカウンターに話をつける。
そうして、出された書類にサインを入れて、二つの鍵を受け取る。
(私、高校生なんだけど怪しまないのかしら……それとも、――私、そんなに大人に見えるのかしら?)
そんなことを考えながら、かなみのもとに戻る。
「翠華さん、大人みたいで頼もしいですね」
「そ、そう」
「前来た時は、あるみ社長と一緒だったんですけど、それと同じくらい頼もしいです」
「社長と一緒ね。それは光栄なことだけど……」
どうしても、腑に落ちないことがあった。
(社長と一緒……社長は三十歳だから、小学生(かなみさん)くらいの子供がいてもまあおかしくないかもしれない……あッ!)
そこまで考えて、翠華はある考えに至る。
(もしかして私、子連れだと誤解されてる!?)
思わずカウンターを振り向く。
ホテル員はその翠華の仕草を気にした素振りもなく、かえってそれが翠華の疑念を深ませる。
「翠華さん、どうかしました?」
かなみが訊く。
詳しくはわからないけど、そわそわしている翠華が心配になったのだろう。
「ううん、なんでもないわ」
「そうよね。なんでもないわよね」
ドッペルが言う。
「さ、早く部屋に行きましょう、ママ」
「――!?」
翠華は驚きのあまり、硬直する。
(ドッペルゲンガー、私の心を読んだの?)
改めて、ドッペルゲンガーの脅威を感じた。
「それで、部屋割りはどうする?」
メンコ姫は首を傾げる。
メンコ姫とヨロズは、ホテルのチェックインのやりとりではおいていきぼりだった。
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