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第112話 泡影!少女と影の交差は消失点? (Aパート)
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オラは自分の影にいつも怯えていた。
影に乗っ取られたことでそれを確信した。
生まれた時、人間の子供達がいた。
声をかけたい。
一緒に遊びたい。
仲良くしたい。
そうしたいと心から思った。
その想いに従って、子供達と遊ぶようになった。
変わった怪人だと出会った他の怪人達から言われた。それもまた怪人らしい、とも。
しかし、時折現れてくる自分の影が声をかけてくる。
「暴れたい」
「壊したい」
「――おめえの本当の顔はそれだろう」
はじめは戯言かと思った。
自分の気の迷いでしか無いと思っていた。
しかし、長い月日のうちに、何度も何度もそう言われた。
――一度くらいは、その声を聞いた方がいいのではないか。
そうして、影の声に従った結果、浮かぶのは子供達の怯えた顔だった。
あれは友達を見る眼差しではなかった。
人間ではなく、自分達とは違う異形を見る恐怖の感情。それは正しい人間の在り方にも思えた。
「みんな、オラを怖がる」
それこそが自分のあるべき、正しい怪人の姿だとも思った。
――けれども一方で。
人間達と友達になりたい。
それは正しくない怪人の姿だとわかっていても、そうしたいと思っている自分はいた。
人間の友達と一緒にいるのは楽しくて、心が満たされていた。
それをもう一度味わいたくて、人間の子供とまた友達になった。
そうしているうちに、影はまた語りかけてきた。
聞かない、聞こえないフリをしても影は幾度も語りかけてくる。
「本当のおめえの顔はそうじゃないだろう」
「おめえの本当の顔は――人間じゃない、鬼だ」
「人間とは仲良くなれない」
そうしてとうとう影の声に耳を傾けてしまった。
それからは同じことの繰り返しだった。
結局は忍び寄る影の声に耳を傾けてしまう。
人間とは友達になれない。
それを否定しようとしても、最後にはその事実を思い知らされる。
「人間は恐怖に弱くて、怪人は恐怖をもたらす。ゆえに人と怪人は相容れない。それが摂理だから」
影は数えるのも忘れるくらいにそう言われた。
人間とは友達になれない。
それが正しいと長く思うようになってきた。
――彼女を知るまでは。
彼女――魔法少女カナミは影に囚われて鬼夜叉になった自分に怖がりつつも立ち向かってきた。
「また暴れ出したら、私がまた止めるから!」
カナミはそう言ってくれた。
だから、もう一度信じてみようかと思った。いや、信じたくなった。
ズゴォォォォォン!!
轟音とともに床が割れて、衝撃が迸る。
影に乗っ取られたメンコ姫が床を力任せに蹴り砕いたのだ。
「メンコちゃん、影に乗っ取られてしまったの!?」
スイカはメンコ姫の様子を伺う。
「そうみたいです」
ヨロズに抱きかかえられたカナミは言う。
「それにあの力は……鬼夜叉(おにやしゃ)みたいです」
「鬼夜叉?」
「メンコちゃんの中にある凄い力です。それに……」
カナミがそう言うと、メンコ姫の顔が上がり、鬼のような恐ろしい形相が浮かんでいた。
「鬼!?」
スイカはその顔を見て驚愕する。
「あの顔はその力の現れといったところか。できればもう一度、戦ってみたかったが、こんな形でそうなるとは思っていなかった」
ヨロズは落ち着いた口調で言う。
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ。あれはメンコちゃんが嫌がってる力なんだから!」
「何故忌避するのか、理解できませんね。あれだけの力があって利用しないなんて」
影鉄が言う。
「私もあんたが利用しようとするなんて気持ちが理解できないわ」
「気が合いますね。それではその力で押し潰されてください」
影鉄がそう言うと、メンコ姫は動き出す
「くッ!」
ヨロズは飛び乗ってかわす。
「カナミを抱えたままじゃ戦えないな」
「え!?」
ヨロズはそう言って、カナミを投げ捨てる。
「ちょ!?」
「なにやってんの!?」
スイカは慌ててカナミをキャッチする。
「う……!」
カナミはキャッチして、着地するとスイカはうめき声を上げる。
カナミが軽いとはいえ、女の子一人。ダメージを受けた身体に激痛が走る。
「あ、ありがとうございます、スイカさん……」
「だ、大丈夫だった?」
スイカは歯を食いしばった笑顔でカナミに問う。
「は、はい、スイカさんのおかげで……」
それはよかった、スイカは心から思った。
ドゴォン! ゴォン! ドゴォン!
その一方でヨロズとメンコ姫の拳がぶつかり合う。
「ぐッ!?」
ヨロズは一歩引く。
傍目からみても力負けしているのはわかる。
影鉄の影、影鉄と連戦してきて力を使い果たしかけているせいだ。
それに対して、メンコ姫は思う存分力を振るってきている。
メンコ姫にしても相当力を消耗しているはずなのに。
影に身体を乗っ取られている影響なのか。それとも鬼夜叉の力はこれほど凄まじいものなのか。
「オプス、行くぞ」
ヨロズもこのままでは形勢が不利だと感じたのか、オプスを語りかける。
『おう! 力使うぞ!』
オプスは威勢よく応える。
そうすると、オプスは黒い光に変わって、ヨロズの背中に黒い翼へと変化する。
オプスの妖精の力がヨロズへと注がれる。
ヨロズの身体は見た目こそ人間の少女にしか見えないが、様々な動物の身体を寄せ集めて作り上げられた強靭な身体。注がれた強大な力に身体は耐えられる。
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
ヨロズは雄叫びとともに、突進する。
ドゴォォォォォォォォン!!
ヨロズとメンコ姫の拳が激突する。
「おお、これはまずいですね!」
影鉄は感嘆の声を上げる。
パリパリパリパリ
空間にガラスが割れたようなヒビが入っていく。
ヨロズとメンコ姫の拳がぶつかりあう度に、そのヒビが大きくなっていく。
「一体何が起きてるの!?」
スイカは戸惑う。
「良くないことだけは確かなんだけど……」
カナミは何か知っていそうな影鉄へ目を向ける。
「この空間は次元空間に安置している。それが揺らぐほどの衝撃が起こっているんですよ」
影鉄は言葉こそ丁寧なままだけど、口調に焦燥感が滲み出ている。
「うーん、なんとなくだけどわかる。なんていうか、リュミィの力を借りてる時にこんなまずい感じになってる気がするのよ」
「それじゃ、私達どうなってしまうのカナミさん!?」
スイカがカナミに訊く。
「わかりません!?」
カナミははっきりと答える。
「わからないからまずいんですよ」
影鉄は代わって答える。
「下手をすると我々は次元の裂け目から放り出されて永遠に次元空間を彷徨うことになりますよ」
「「ええッ!?」」
ドスン! ドスン! ドスン!
ヨロズとメンコ姫はそんな会話が繰り広げられていることをつゆ知らず、拳をぶつけ合っている。
オプスが取り込んだ妖精の力。メンコ姫の鬼夜叉の力。
その二つがぶつかりうことで空間そのものが震動を発生させている。
「全力拳打!!!」
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
二人の雄叫びとともに拳どころから身体ごと強大なエネルギーの塊となってぶつかる。
パリーン!!!
それが決定打になったのか。ひび割れた空間のヒビは景色とともに崩れ去った。
視界は無数の色に埋め尽くされた。
この空間には下も上もなく、落ちているかと思ったら上がっていき、上がっていると思ったら落ちている。
まるで巨大な塩の渦に巻き込まれて、抗いようのないうねりの中にいるようだ。
「カナミさん! あなただけでも!!」
スイカはそんな中でも懸命にカナミを離さずに掴み続けている。
この次元の波で放してしまったら二度と会うことは出来ない。そんなことは絶対に嫌だ。
「スイカさん!」
その気持ちはカナミにも自分を掴む腕から伝わってくる。
(私はどうなってもいいから、スイカさんだけでも!! リュミィ!!)
カナミは消耗と次元の激しい波に揉まれて口を開くことできないから、その分だけ精一杯念じた。
リュミィの妖精の力ならなんとかしてくれるはず。
『カナミィィィィッ!!』
念じた想いが通じたのか、リュミィの声が聞こえる。
(リュミィ、お願い! スイカさんを!!)
『わたしだけじゃムリ! カナミがなんとかするの!!』
(私が!? ムリよ!! もう力が入らない!?)
『力ならわたしがあげるから、カナミなんとかして!!』
(なんとかって……もうしかたないわね! なんとかするから、お願いリュミィ!!)
『ええ!』
カナミの光が背中に集まって、妖精の羽を形成する。
「スイカさん!!」
「は、はい!?」
カナミはスイカを抱えて飛び上がる。
(キャー、私カナミさんに抱かれてる!? って、そんなこと考えてる場合じゃないわ!? カナミさんだけでもなんとか助け出さないと……!!)
「スイカさん! 私が必ずなんとかしますから!!」
(カナミさん、頼もしい! でも、それどころじゃ!?)
「やあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
カナミは必死に背中へ力を込めて羽を羽ばたかせる。
どこへ向かって飛べばいいかわからない。
『前へ! 前へ!』
ただリュミィが叫んでくれる方向に向かって飛ぶ。
それしか助かる道はない。
「くッ!」
意識が遠のいて、目がかすんでくる。
それでも助かるために、必死に飛び上がる。
――こっちじゃ!
声がする。
それは、カナミにとって希望の道標に感じられた。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
カナミは精一杯叫び声を上げて飛び上がる。
次の瞬間、ピカーン、と光って、気づくと視界の色は真っ白に染まっていた。
「ハァハァ……!」
流れが止まって、ここはもう安全かと思った。
そう思うと急に力が抜けて、スイカごと倒れ込む。
「か、カナミさん、ありがとう……だ、大丈夫?」
「はい、スイカさん……無事でよかった……」
カナミは顔だけ動かして、スイカを見上げて言う。
「カナミさんのおかげよ。カナミさん、あとは私が運ぶから……って、ここは?」
スイカは辺りを見回す。
「声……声がした……」
カナミにとって効き馴染みのある声だった。
そして、こんな状況でなんとかしてくれる人物に心当たりもあった。
「コウちゃん?」
カナミはその名を呼びかける。
「ホホホ、御名答じゃ」
「私もいるわよ」
仙人の煌黄と千歳が姿を現す。
「コウちゃん、それに千歳さんも」
「お主らだけでは心配でな。助っ人に来たわけじゃ」
「私も修行を切り上げてきたわ。カナミちゃん達に役に立ちたかったから」
千歳は笑顔で言ってくれる。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
スイカは一礼する。
「お礼など不要じゃ。儂らが助けたくて来たんじゃ。しかし、間一髪じゃったな。儂が次元空間の一部分を固定してカナミが飛び込んでこなかったら永遠に次元空間を彷徨うことになってたかもしれん」
煌黄にそう言われて、スイカは身震いする。
「カナミさんのおかげよ。その身体でよく飛んでくれたわ。早く手当てしましょう」
「うむ、そうじゃな。元の世界の空間に戻ろうか」
「待って、メンコちゃんやヨロズは?」
カナミは煌黄を制止する。
「メンコ姫とヨロズか……あの二人なら未だ次元空間を彷徨っておる」
「それだったら、助けないと!」
カナミは身を乗り出そうとするけど、身体は言うことがきかない。
「その身体では無茶じゃ。それに、あの二人を助け出すのは危険じゃ。あの中部支部長候補が目を光らせておるからのう」
「影鉄……!」
カナミは歯を食いしばる。
その脳裏にボロボロになりながらも、声を荒げる影鉄がよぎって寒気が走る。
「それでも、それでも……なんとかしたい……!」
「あやつらは敵じゃぞ」
「――!」
煌黄の言葉が矢のように突き刺さって、カナミは口をつぐむ。
「今回はやむを得ず協力関係になったが、人間と怪人は本来敵対関係にある。その妖精(リュミィ)のように仲良くなれない。それにお主はもう自分の影を取り戻しておる?」
「……え?」
カナミは自分の足元を確認してみる。
本当に足元に自分の影は普通に写っている。元の黒く、濃い、自分の影で、本当に元通りになっている。
「おそらく影鉄とやらへ相当なダメージを与えたことで取り戻せたんじゃろ」
「気づかなかった……」
「今回はそれでお主の目的は果たしておる。ここで撤退しても十分すぎる成果なのではないか?」
「うぅ……でも、私の目的は、私達の目的は……私の影を取り戻すことだけじゃないわ」
カナミの脳裏にはメンコの顔と影がよぎる。
影を奪われているのは、自分だけではなくメンコ姫もそうだ。
だからこそ一緒に取り戻そう、と、ここへ乗り込んできた。
それで自分だけが影を取り戻して、それで終わりでいいのだろうか。
「――メンコちゃんの影も取り戻したいわ!」
「「「………………」」」
カナミの返答に、煌黄、チトセ、スイカは息を呑む。
やがて、煌黄が代表して問いかける。
「それは敵である怪人のために戦うということか。もう一度言うぞ、彼女は敵なんじゃぞ
――それでもなんとかしたいと思うかカナミ?」
「……――それは、当たり前よ!」
カナミは答える。
「怪人とはたくさん戦ってきた。怪人は戦わなくちゃならない敵だってことはよくわかってる……でも、でも、メンコちゃんは友達だし、ヨロズは私を助けてくれた……人間とか怪人とかそんなの関係ない、私は二人を助けたいと思った。――だから、助けたい!」
「「「………………」」」
カナミの返答に、スイカ、煌黄、千歳は黙って訊く。
「ホホホ!」
やがて、煌黄の笑い声とともに破顔する。
「カナミならそう答えると思ったぞ」
「……え?」
「意地悪な問いかけをしてすまなんだ。確認だけはしておきたかった。そう答えてくれるカナミじゃからこそ儂は味方したいんじゃ」
「ええ、そうね。私もそんなカナミちゃんが大好きだから、カナミちゃんの味方よ」
「わ、私も、カナミさんの味方よ!」
「コウちゃん、千歳さん、スイカさん……」
カナミは胸は熱くなる。
味方がこれだけいるとなんでもできるような気がしてくる。
「しかし、カナミよ。お主は身体を酷使しすぎておる。消耗した魔力の方はリュミィがなんとかするとして、身体がついていかんじゃろ?」
「そ、そうね……さっきもリュミィの羽のお陰でなんとか飛べたけど、自分で立つのはもう無理……」
「そうじゃろ。そこで提案がある」
「提案?」
煌黄の手から金色に光る木の葉が出現する。
「これは儂の仙術を込めた葉じゃ。頭につければ立ちどころに痛みが無くなる」
「え、本当? それはありがたいわ!」
「ただし!」
喜ぶカナミへ煌黄は釘を刺すように言う。
「そうそう都合の良い仙術はないものじゃ。これはダメージが消えて無くなるわけじゃない。いわゆる痛み止めというやつじゃな。術の効果がきれたとき、地獄の苦しみを味わうことになるぞ」
「じ、地獄の苦しみ……」
カナミは冷や汗を流す。
「それでも、つけてみるか?」
「………………」
カナミはしばしためらう。
「えい!」
しかし、カナミは手を伸ばして金色に光る木の葉を取る。
「なんとも良(よ)い勢いじゃな。それでこそカナミじゃ」
煌黄は微笑ましく言う。
カナミは木の葉を頭につける。
「ちょっとした髪飾りみたい」
「カナミに合うようにそういうデザインにしてみたんじゃ」
「に、似合いますか、スイカさん?」
「え、私!?」
急にスイカに振られて、慌てふためく。
カナミの頭につけた木の葉はピョンと跳ねている毛のようで、魔法少女の容姿と相まってチャームポイントに見える。
「………………」
スイカは思わずじっくり見惚れてしまう。
「すごい! 本当に痛みが無くなった!!」
カナミは飛び跳ねる勢いで立ち上がって喜ぶ。
(カナミさん、可愛い! コウちゃん、いいセンスしてるわ!! ああいうアクセサリーとか似合うのかしらね、今度選んでみようかな!?)
そんなことをスイカは考えて軽くトリップしかけていた。
「さて、これで準備は整ったわね」
千歳が気を引き締めるために言う。
「それでは二人の元へゆくか」
「ゆくってどうやって?」
カナミが煌黄に訊く。
「これでじゃ」
煌黄が杖をコンと叩く。
すると、杖の先端を中心に光が集まって板のように伸びていく。
「それじゃ、私もいくわね!」
千歳は緑色の光に包まれて魔法少女へと変身する。
「鋼の絆の紡ぎ手、魔法少女チトセ参戦!」
チトセは変身してすぐさま腕を振るって魔法の糸は帆を形成する。
「即席の次元帆船(はんせん)じゃ!」
「よーそろー!」
チトセの号令により、帆ははためき、カナミ達を乗せて飛び上がる。
「すごい! これも仙術なの!?」
「おお、そうじゃ! カナミも修行して身につけてみんか?」
「え、そ、それは……」
カナミは思わず遠慮してしまう。
またいきなり谷に突き落とされるのは勘弁して欲しい。
「つれないのう……まあ、その気になったらいつでも歓迎するぞ」
「そ、その気になったらねえ……」
カナミは目をそらして答える。
「――いたわよ!」
チトセが指を差した方を見る。
そこにヨロズがいた。背中に黒い羽があった。
「ヨロズ!」
カナミは思わず手を伸ばす。
「カナミか」
ヨロズはその手をとって、引っ張り上げられる。
『オプス!』
『リュミィ!』
背中の羽になった妖精達がお互いの無事を喜び合う声が聞こえる。
「どっちへ行けばよかったのか、わからなかったところだ」
「何? そんな顔して迷子だったの?」
「まいごか……確かにそうだったな」
ヨロズはあっさりと認める。
「意外に素直ね」
スイカはヨロズに対して感心する。
「それで、迷子ではないカナミはどっちへ向かうのだ?」
「え、それは……コウちゃん、どっちに向かってるの?」
カナミは煌黄へ振る。
「風の赴くまま、次元の流れのままじゃ」
煌黄は楽しそうに言う。
「次元の流れってなんですか?」
スイカは訊く。
「普通に考えて風と同じようなものね。時に凪のように静かに、時に嵐のように凄まじい流れでこの空間に流れてるわ。ただ目には見えないし、音もない。感じるしか無いわね」
「しかし、カナミもこの次元の流れを飛んだのじゃぞ」
煌黄は何故か誇らしげにカナミへ言う。
「あれは無我夢中だったから」
「その感覚が大事なんじゃ。コツさえ掴めば自由に次元を飛んで行けるようになるぞ」
「え~それはちょっと……」
カナミはあまり気乗りしなかった。
何も好き好んで嵐の海に飛び込むつもりはない。
「ヨロズ、メンコちゃんはどうしたの?」
メンコ姫とヨロズが激しくぶつかり合って、カナミ達はこの次元空間に放り込まれた。
だから、二人はすぐ近くにいると思った。
「さあ」
「さあ、って、あんた達戦ってたじゃないの?」
「戦っていたが、メンコ姫はどこかに流されていった。俺はオプスがいたから流されずにすんだ」
『えへん!』
背中のオプスから鼻高々にしている声が聞こえてくる。
「それじゃ、メンコちゃんは?」
「わからない……」
「これは困ったわね」
「なあに、あれだけ強い魔力の持ち主なんじゃ。感知するのは容易い」
煌黄が頼もしい。
「――!」
カナミは違和感を感じ取って、その違和感を辿って見上げる。
「気づいたか」
「あれは何?」
カナミが見上げた先に真っ白な光が差し込んでいる。
まさに、そこから陽の光が差し込んでいるような感覚だ。
「あそこがこの空間の出口じゃろうな。そしてあの者の魔力もあそこから漏れ出ておる」
「あの者って、メンコちゃん?」
「そうじゃ、飛び込むぞ!」
「それ!」
チトセが指を振って、帆をなびかせる。
影に乗っ取られたことでそれを確信した。
生まれた時、人間の子供達がいた。
声をかけたい。
一緒に遊びたい。
仲良くしたい。
そうしたいと心から思った。
その想いに従って、子供達と遊ぶようになった。
変わった怪人だと出会った他の怪人達から言われた。それもまた怪人らしい、とも。
しかし、時折現れてくる自分の影が声をかけてくる。
「暴れたい」
「壊したい」
「――おめえの本当の顔はそれだろう」
はじめは戯言かと思った。
自分の気の迷いでしか無いと思っていた。
しかし、長い月日のうちに、何度も何度もそう言われた。
――一度くらいは、その声を聞いた方がいいのではないか。
そうして、影の声に従った結果、浮かぶのは子供達の怯えた顔だった。
あれは友達を見る眼差しではなかった。
人間ではなく、自分達とは違う異形を見る恐怖の感情。それは正しい人間の在り方にも思えた。
「みんな、オラを怖がる」
それこそが自分のあるべき、正しい怪人の姿だとも思った。
――けれども一方で。
人間達と友達になりたい。
それは正しくない怪人の姿だとわかっていても、そうしたいと思っている自分はいた。
人間の友達と一緒にいるのは楽しくて、心が満たされていた。
それをもう一度味わいたくて、人間の子供とまた友達になった。
そうしているうちに、影はまた語りかけてきた。
聞かない、聞こえないフリをしても影は幾度も語りかけてくる。
「本当のおめえの顔はそうじゃないだろう」
「おめえの本当の顔は――人間じゃない、鬼だ」
「人間とは仲良くなれない」
そうしてとうとう影の声に耳を傾けてしまった。
それからは同じことの繰り返しだった。
結局は忍び寄る影の声に耳を傾けてしまう。
人間とは友達になれない。
それを否定しようとしても、最後にはその事実を思い知らされる。
「人間は恐怖に弱くて、怪人は恐怖をもたらす。ゆえに人と怪人は相容れない。それが摂理だから」
影は数えるのも忘れるくらいにそう言われた。
人間とは友達になれない。
それが正しいと長く思うようになってきた。
――彼女を知るまでは。
彼女――魔法少女カナミは影に囚われて鬼夜叉になった自分に怖がりつつも立ち向かってきた。
「また暴れ出したら、私がまた止めるから!」
カナミはそう言ってくれた。
だから、もう一度信じてみようかと思った。いや、信じたくなった。
ズゴォォォォォン!!
轟音とともに床が割れて、衝撃が迸る。
影に乗っ取られたメンコ姫が床を力任せに蹴り砕いたのだ。
「メンコちゃん、影に乗っ取られてしまったの!?」
スイカはメンコ姫の様子を伺う。
「そうみたいです」
ヨロズに抱きかかえられたカナミは言う。
「それにあの力は……鬼夜叉(おにやしゃ)みたいです」
「鬼夜叉?」
「メンコちゃんの中にある凄い力です。それに……」
カナミがそう言うと、メンコ姫の顔が上がり、鬼のような恐ろしい形相が浮かんでいた。
「鬼!?」
スイカはその顔を見て驚愕する。
「あの顔はその力の現れといったところか。できればもう一度、戦ってみたかったが、こんな形でそうなるとは思っていなかった」
ヨロズは落ち着いた口調で言う。
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ。あれはメンコちゃんが嫌がってる力なんだから!」
「何故忌避するのか、理解できませんね。あれだけの力があって利用しないなんて」
影鉄が言う。
「私もあんたが利用しようとするなんて気持ちが理解できないわ」
「気が合いますね。それではその力で押し潰されてください」
影鉄がそう言うと、メンコ姫は動き出す
「くッ!」
ヨロズは飛び乗ってかわす。
「カナミを抱えたままじゃ戦えないな」
「え!?」
ヨロズはそう言って、カナミを投げ捨てる。
「ちょ!?」
「なにやってんの!?」
スイカは慌ててカナミをキャッチする。
「う……!」
カナミはキャッチして、着地するとスイカはうめき声を上げる。
カナミが軽いとはいえ、女の子一人。ダメージを受けた身体に激痛が走る。
「あ、ありがとうございます、スイカさん……」
「だ、大丈夫だった?」
スイカは歯を食いしばった笑顔でカナミに問う。
「は、はい、スイカさんのおかげで……」
それはよかった、スイカは心から思った。
ドゴォン! ゴォン! ドゴォン!
その一方でヨロズとメンコ姫の拳がぶつかり合う。
「ぐッ!?」
ヨロズは一歩引く。
傍目からみても力負けしているのはわかる。
影鉄の影、影鉄と連戦してきて力を使い果たしかけているせいだ。
それに対して、メンコ姫は思う存分力を振るってきている。
メンコ姫にしても相当力を消耗しているはずなのに。
影に身体を乗っ取られている影響なのか。それとも鬼夜叉の力はこれほど凄まじいものなのか。
「オプス、行くぞ」
ヨロズもこのままでは形勢が不利だと感じたのか、オプスを語りかける。
『おう! 力使うぞ!』
オプスは威勢よく応える。
そうすると、オプスは黒い光に変わって、ヨロズの背中に黒い翼へと変化する。
オプスの妖精の力がヨロズへと注がれる。
ヨロズの身体は見た目こそ人間の少女にしか見えないが、様々な動物の身体を寄せ集めて作り上げられた強靭な身体。注がれた強大な力に身体は耐えられる。
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
ヨロズは雄叫びとともに、突進する。
ドゴォォォォォォォォン!!
ヨロズとメンコ姫の拳が激突する。
「おお、これはまずいですね!」
影鉄は感嘆の声を上げる。
パリパリパリパリ
空間にガラスが割れたようなヒビが入っていく。
ヨロズとメンコ姫の拳がぶつかりあう度に、そのヒビが大きくなっていく。
「一体何が起きてるの!?」
スイカは戸惑う。
「良くないことだけは確かなんだけど……」
カナミは何か知っていそうな影鉄へ目を向ける。
「この空間は次元空間に安置している。それが揺らぐほどの衝撃が起こっているんですよ」
影鉄は言葉こそ丁寧なままだけど、口調に焦燥感が滲み出ている。
「うーん、なんとなくだけどわかる。なんていうか、リュミィの力を借りてる時にこんなまずい感じになってる気がするのよ」
「それじゃ、私達どうなってしまうのカナミさん!?」
スイカがカナミに訊く。
「わかりません!?」
カナミははっきりと答える。
「わからないからまずいんですよ」
影鉄は代わって答える。
「下手をすると我々は次元の裂け目から放り出されて永遠に次元空間を彷徨うことになりますよ」
「「ええッ!?」」
ドスン! ドスン! ドスン!
ヨロズとメンコ姫はそんな会話が繰り広げられていることをつゆ知らず、拳をぶつけ合っている。
オプスが取り込んだ妖精の力。メンコ姫の鬼夜叉の力。
その二つがぶつかりうことで空間そのものが震動を発生させている。
「全力拳打!!!」
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
二人の雄叫びとともに拳どころから身体ごと強大なエネルギーの塊となってぶつかる。
パリーン!!!
それが決定打になったのか。ひび割れた空間のヒビは景色とともに崩れ去った。
視界は無数の色に埋め尽くされた。
この空間には下も上もなく、落ちているかと思ったら上がっていき、上がっていると思ったら落ちている。
まるで巨大な塩の渦に巻き込まれて、抗いようのないうねりの中にいるようだ。
「カナミさん! あなただけでも!!」
スイカはそんな中でも懸命にカナミを離さずに掴み続けている。
この次元の波で放してしまったら二度と会うことは出来ない。そんなことは絶対に嫌だ。
「スイカさん!」
その気持ちはカナミにも自分を掴む腕から伝わってくる。
(私はどうなってもいいから、スイカさんだけでも!! リュミィ!!)
カナミは消耗と次元の激しい波に揉まれて口を開くことできないから、その分だけ精一杯念じた。
リュミィの妖精の力ならなんとかしてくれるはず。
『カナミィィィィッ!!』
念じた想いが通じたのか、リュミィの声が聞こえる。
(リュミィ、お願い! スイカさんを!!)
『わたしだけじゃムリ! カナミがなんとかするの!!』
(私が!? ムリよ!! もう力が入らない!?)
『力ならわたしがあげるから、カナミなんとかして!!』
(なんとかって……もうしかたないわね! なんとかするから、お願いリュミィ!!)
『ええ!』
カナミの光が背中に集まって、妖精の羽を形成する。
「スイカさん!!」
「は、はい!?」
カナミはスイカを抱えて飛び上がる。
(キャー、私カナミさんに抱かれてる!? って、そんなこと考えてる場合じゃないわ!? カナミさんだけでもなんとか助け出さないと……!!)
「スイカさん! 私が必ずなんとかしますから!!」
(カナミさん、頼もしい! でも、それどころじゃ!?)
「やあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
カナミは必死に背中へ力を込めて羽を羽ばたかせる。
どこへ向かって飛べばいいかわからない。
『前へ! 前へ!』
ただリュミィが叫んでくれる方向に向かって飛ぶ。
それしか助かる道はない。
「くッ!」
意識が遠のいて、目がかすんでくる。
それでも助かるために、必死に飛び上がる。
――こっちじゃ!
声がする。
それは、カナミにとって希望の道標に感じられた。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
カナミは精一杯叫び声を上げて飛び上がる。
次の瞬間、ピカーン、と光って、気づくと視界の色は真っ白に染まっていた。
「ハァハァ……!」
流れが止まって、ここはもう安全かと思った。
そう思うと急に力が抜けて、スイカごと倒れ込む。
「か、カナミさん、ありがとう……だ、大丈夫?」
「はい、スイカさん……無事でよかった……」
カナミは顔だけ動かして、スイカを見上げて言う。
「カナミさんのおかげよ。カナミさん、あとは私が運ぶから……って、ここは?」
スイカは辺りを見回す。
「声……声がした……」
カナミにとって効き馴染みのある声だった。
そして、こんな状況でなんとかしてくれる人物に心当たりもあった。
「コウちゃん?」
カナミはその名を呼びかける。
「ホホホ、御名答じゃ」
「私もいるわよ」
仙人の煌黄と千歳が姿を現す。
「コウちゃん、それに千歳さんも」
「お主らだけでは心配でな。助っ人に来たわけじゃ」
「私も修行を切り上げてきたわ。カナミちゃん達に役に立ちたかったから」
千歳は笑顔で言ってくれる。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
スイカは一礼する。
「お礼など不要じゃ。儂らが助けたくて来たんじゃ。しかし、間一髪じゃったな。儂が次元空間の一部分を固定してカナミが飛び込んでこなかったら永遠に次元空間を彷徨うことになってたかもしれん」
煌黄にそう言われて、スイカは身震いする。
「カナミさんのおかげよ。その身体でよく飛んでくれたわ。早く手当てしましょう」
「うむ、そうじゃな。元の世界の空間に戻ろうか」
「待って、メンコちゃんやヨロズは?」
カナミは煌黄を制止する。
「メンコ姫とヨロズか……あの二人なら未だ次元空間を彷徨っておる」
「それだったら、助けないと!」
カナミは身を乗り出そうとするけど、身体は言うことがきかない。
「その身体では無茶じゃ。それに、あの二人を助け出すのは危険じゃ。あの中部支部長候補が目を光らせておるからのう」
「影鉄……!」
カナミは歯を食いしばる。
その脳裏にボロボロになりながらも、声を荒げる影鉄がよぎって寒気が走る。
「それでも、それでも……なんとかしたい……!」
「あやつらは敵じゃぞ」
「――!」
煌黄の言葉が矢のように突き刺さって、カナミは口をつぐむ。
「今回はやむを得ず協力関係になったが、人間と怪人は本来敵対関係にある。その妖精(リュミィ)のように仲良くなれない。それにお主はもう自分の影を取り戻しておる?」
「……え?」
カナミは自分の足元を確認してみる。
本当に足元に自分の影は普通に写っている。元の黒く、濃い、自分の影で、本当に元通りになっている。
「おそらく影鉄とやらへ相当なダメージを与えたことで取り戻せたんじゃろ」
「気づかなかった……」
「今回はそれでお主の目的は果たしておる。ここで撤退しても十分すぎる成果なのではないか?」
「うぅ……でも、私の目的は、私達の目的は……私の影を取り戻すことだけじゃないわ」
カナミの脳裏にはメンコの顔と影がよぎる。
影を奪われているのは、自分だけではなくメンコ姫もそうだ。
だからこそ一緒に取り戻そう、と、ここへ乗り込んできた。
それで自分だけが影を取り戻して、それで終わりでいいのだろうか。
「――メンコちゃんの影も取り戻したいわ!」
「「「………………」」」
カナミの返答に、煌黄、チトセ、スイカは息を呑む。
やがて、煌黄が代表して問いかける。
「それは敵である怪人のために戦うということか。もう一度言うぞ、彼女は敵なんじゃぞ
――それでもなんとかしたいと思うかカナミ?」
「……――それは、当たり前よ!」
カナミは答える。
「怪人とはたくさん戦ってきた。怪人は戦わなくちゃならない敵だってことはよくわかってる……でも、でも、メンコちゃんは友達だし、ヨロズは私を助けてくれた……人間とか怪人とかそんなの関係ない、私は二人を助けたいと思った。――だから、助けたい!」
「「「………………」」」
カナミの返答に、スイカ、煌黄、千歳は黙って訊く。
「ホホホ!」
やがて、煌黄の笑い声とともに破顔する。
「カナミならそう答えると思ったぞ」
「……え?」
「意地悪な問いかけをしてすまなんだ。確認だけはしておきたかった。そう答えてくれるカナミじゃからこそ儂は味方したいんじゃ」
「ええ、そうね。私もそんなカナミちゃんが大好きだから、カナミちゃんの味方よ」
「わ、私も、カナミさんの味方よ!」
「コウちゃん、千歳さん、スイカさん……」
カナミは胸は熱くなる。
味方がこれだけいるとなんでもできるような気がしてくる。
「しかし、カナミよ。お主は身体を酷使しすぎておる。消耗した魔力の方はリュミィがなんとかするとして、身体がついていかんじゃろ?」
「そ、そうね……さっきもリュミィの羽のお陰でなんとか飛べたけど、自分で立つのはもう無理……」
「そうじゃろ。そこで提案がある」
「提案?」
煌黄の手から金色に光る木の葉が出現する。
「これは儂の仙術を込めた葉じゃ。頭につければ立ちどころに痛みが無くなる」
「え、本当? それはありがたいわ!」
「ただし!」
喜ぶカナミへ煌黄は釘を刺すように言う。
「そうそう都合の良い仙術はないものじゃ。これはダメージが消えて無くなるわけじゃない。いわゆる痛み止めというやつじゃな。術の効果がきれたとき、地獄の苦しみを味わうことになるぞ」
「じ、地獄の苦しみ……」
カナミは冷や汗を流す。
「それでも、つけてみるか?」
「………………」
カナミはしばしためらう。
「えい!」
しかし、カナミは手を伸ばして金色に光る木の葉を取る。
「なんとも良(よ)い勢いじゃな。それでこそカナミじゃ」
煌黄は微笑ましく言う。
カナミは木の葉を頭につける。
「ちょっとした髪飾りみたい」
「カナミに合うようにそういうデザインにしてみたんじゃ」
「に、似合いますか、スイカさん?」
「え、私!?」
急にスイカに振られて、慌てふためく。
カナミの頭につけた木の葉はピョンと跳ねている毛のようで、魔法少女の容姿と相まってチャームポイントに見える。
「………………」
スイカは思わずじっくり見惚れてしまう。
「すごい! 本当に痛みが無くなった!!」
カナミは飛び跳ねる勢いで立ち上がって喜ぶ。
(カナミさん、可愛い! コウちゃん、いいセンスしてるわ!! ああいうアクセサリーとか似合うのかしらね、今度選んでみようかな!?)
そんなことをスイカは考えて軽くトリップしかけていた。
「さて、これで準備は整ったわね」
千歳が気を引き締めるために言う。
「それでは二人の元へゆくか」
「ゆくってどうやって?」
カナミが煌黄に訊く。
「これでじゃ」
煌黄が杖をコンと叩く。
すると、杖の先端を中心に光が集まって板のように伸びていく。
「それじゃ、私もいくわね!」
千歳は緑色の光に包まれて魔法少女へと変身する。
「鋼の絆の紡ぎ手、魔法少女チトセ参戦!」
チトセは変身してすぐさま腕を振るって魔法の糸は帆を形成する。
「即席の次元帆船(はんせん)じゃ!」
「よーそろー!」
チトセの号令により、帆ははためき、カナミ達を乗せて飛び上がる。
「すごい! これも仙術なの!?」
「おお、そうじゃ! カナミも修行して身につけてみんか?」
「え、そ、それは……」
カナミは思わず遠慮してしまう。
またいきなり谷に突き落とされるのは勘弁して欲しい。
「つれないのう……まあ、その気になったらいつでも歓迎するぞ」
「そ、その気になったらねえ……」
カナミは目をそらして答える。
「――いたわよ!」
チトセが指を差した方を見る。
そこにヨロズがいた。背中に黒い羽があった。
「ヨロズ!」
カナミは思わず手を伸ばす。
「カナミか」
ヨロズはその手をとって、引っ張り上げられる。
『オプス!』
『リュミィ!』
背中の羽になった妖精達がお互いの無事を喜び合う声が聞こえる。
「どっちへ行けばよかったのか、わからなかったところだ」
「何? そんな顔して迷子だったの?」
「まいごか……確かにそうだったな」
ヨロズはあっさりと認める。
「意外に素直ね」
スイカはヨロズに対して感心する。
「それで、迷子ではないカナミはどっちへ向かうのだ?」
「え、それは……コウちゃん、どっちに向かってるの?」
カナミは煌黄へ振る。
「風の赴くまま、次元の流れのままじゃ」
煌黄は楽しそうに言う。
「次元の流れってなんですか?」
スイカは訊く。
「普通に考えて風と同じようなものね。時に凪のように静かに、時に嵐のように凄まじい流れでこの空間に流れてるわ。ただ目には見えないし、音もない。感じるしか無いわね」
「しかし、カナミもこの次元の流れを飛んだのじゃぞ」
煌黄は何故か誇らしげにカナミへ言う。
「あれは無我夢中だったから」
「その感覚が大事なんじゃ。コツさえ掴めば自由に次元を飛んで行けるようになるぞ」
「え~それはちょっと……」
カナミはあまり気乗りしなかった。
何も好き好んで嵐の海に飛び込むつもりはない。
「ヨロズ、メンコちゃんはどうしたの?」
メンコ姫とヨロズが激しくぶつかり合って、カナミ達はこの次元空間に放り込まれた。
だから、二人はすぐ近くにいると思った。
「さあ」
「さあ、って、あんた達戦ってたじゃないの?」
「戦っていたが、メンコ姫はどこかに流されていった。俺はオプスがいたから流されずにすんだ」
『えへん!』
背中のオプスから鼻高々にしている声が聞こえてくる。
「それじゃ、メンコちゃんは?」
「わからない……」
「これは困ったわね」
「なあに、あれだけ強い魔力の持ち主なんじゃ。感知するのは容易い」
煌黄が頼もしい。
「――!」
カナミは違和感を感じ取って、その違和感を辿って見上げる。
「気づいたか」
「あれは何?」
カナミが見上げた先に真っ白な光が差し込んでいる。
まさに、そこから陽の光が差し込んでいるような感覚だ。
「あそこがこの空間の出口じゃろうな。そしてあの者の魔力もあそこから漏れ出ておる」
「あの者って、メンコちゃん?」
「そうじゃ、飛び込むぞ!」
「それ!」
チトセが指を振って、帆をなびかせる。
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