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第113話 養生! 戦い終えた少女の何気ない一幕 (Aパート)
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「影鉄がやられてしまったみたいだな」
ここは真っ暗闇の部屋。
ネガサイド本部の一室だった。そこにいくつもの影が立っていた。
「ああ、俺はこの目で見たぞ」
そこへタイルのような肌をした巨漢・オーダンが自慢げに語る。
「これで十二席候補が一人減ったんだ。椅子取りゲームは参加者が減ってやりやすくなったな、ケケケケ」
ある者は嘲笑する。
「しかし! 魔法少女とはいえ人間にやられるとは不甲斐ない! 十二席候補の汚点である!!」
ある者は憤る。
「なんともおいたわしい。中部支部長に降格したと思ったら、魔法少女に倒されるとは。不幸は重なるモノなのですね」
ある者は憐れむ。
「しかるにそれだけその魔法少女とやらは強大な存在であるということか。我らを脅かすまでに」
ある者は分析する。
「俺達の存在を脅かすのか、それもまた面白いな」
オーダンは言う。
「そう、面白いことになった」
そこへカリウスがやってくる。
「「「「カリウス!?」」」」
一同は驚愕の声を上げる。
「何しにここに来た!?」
「最高役員十二席の一人が十二席候補の集いに参加するとは言語道断ですな」
「しかも、それがカリウスならなおのこと」
カリウスは一同から敵意の視線を一手に引き受ける。
「やれやれ、嫌われたものだね」
当のカリウスはそれを涼しい顔をして受け流す。
「それも当然というもの。本来、最高役員十二席は我々十二席候補から選抜される。それを支部長のお前は十二席候補を飛び越えて最高役員十二席の座についたのだから」
影の一人が憎々しげに言う。
「なるほど」
カリウスは納得する。
ネガサイド日本局は局長の六天王《りくてんおう》を頂点として、その下に副局長がいる。ただこの副局長は消息を絶っているため、現在は最高役員十二席の席長・判真《ばんしん》が実質その座についているといっていい。さらにその配下に他の最高役員十二席がいる。十二席候補とは、最高役員十二席の下の位《くらい》であり、自分が最高役員十二席の座につくのを今か今かと待ちわびている位置に属するのがこの場にいる連中だ。
各地方の支部長はさらにその下の地位にいる。
元関東支部長にして現最高役員十二席の一人であるカリウスは、十二席候補を差し置いて、十二席の地位についた成り上がり。いい顔などできるはずがない。
「それで何の用に来た? 十二席の座を俺に譲り渡しにきたのか!?」
「まさか。私とてせっかく手に入れたこの地位は惜しい」
殺気立った十二席候補の一人の言《げん》を、カリウスは飄々とかわす。
「用というのはだね。影鉄のことだよ」
「「「「――!!」」」」
殺気立った連中の殺気がより一層増す。
その一層引き上げられた殺気は普通の人間がこの場にいたら心臓が震え上がるあまりその勢いで飛び出してあの世行きになっただろう。
「そいつは興味あるな」
ある者は殺気で目をギラつかせる。
「支部長落ちしたとはいえ、あの影鉄を倒した魔法少女か。怖い存在だね、震えてくるよ」
ある者は恐怖で震わせる。
「そんな魔法少女と戦わなければならないのが我らの運命かな。悲しくなってくるよ」
ある者は悲しみを滲ませる。
「面白いぜ! 俺は戦ってみたいぜ!! そいつを倒せば十二席入りもあるって噂なんだろ!?」
ある者は闘争心をむき出しにして、カリウスへ問いかける。
「その通りだよ」
「「「「おお!」」」」
十二席候補の連中は感嘆の声を上げる。
最高役員十二席の座につく機会は十二席候補といえども十年、下手をすると百年はめぐってこないことがある。彼らにとってはまさに千載一遇のチャンスといっていい。
「彼女を倒せたのなら、私のこの十二席の座を譲り渡してもいい。だが、それは難しいことだよ。
まだ最高役員十二席の中の誰かの席を奪い取る方が容易だと断言できる」
「例えばお前とか!?」
「………………」
カリウスは沈黙で返答する。
『沈黙は肯定』
それがこの場にいる候補達の総意だった。
「殺気立ってきたから、もう私は退散するとしよう」
カリウスは一瞬にして姿を消す。
「相変わらず逃げ足が速い。あやつを倒すのは雲を掴むがごとくだな」
「ならば、俺は魔法少女カナミを狙う!」
発言したのは、オーダンだった。
「カリウスが言っていただろう。魔法少女カナミを倒せば十二席候補の一席を譲り渡す、と」
「それだけが目的ではあるまい。お前は影鉄を倒された場に居合わせたな、それで何か目的を得たのか?」
候補の一人が問いかけて、オーダンは好戦的な笑みを浮かべて答える。
「それ以上に面白い奴と出会った。魔法少女カナミを狙えば奴は必ず現れるからだ」
オーダンがそう答えたことで、候補達はますます魔法少女カナミへ興味を持つようになった。
『言ったはずだ。君には素質がある、と。
魔法少女としての戦闘力は及ばないものの、妖精のチカラの担い手に選ばれ、仲間に恵まれ、――そして怪人をも惹きつけるだけの存在感がある。
私が求めてやまない混沌を生み出すチカラといっていい』
十二席候補の場を去ったカリウスは、かつてかなみに言い放った自分の言を思い出していた。
そして、こう思っていた。
――君は、私の望む混沌を生み出してくれる存在だ、と。
沙鳴はアパートの部屋を出るなり、すぐ隣の部屋に入っていった。
すなわち、かなみの部屋だった。
「かなみ様、おはようございます! かなみ様は学校ですか? 一緒に行きませんか!? って、あれれ?」
沙鳴は驚く。
「おはよう、沙鳴」
「どうしたんですか、かなみ様? その、足、怪我したんですか?」
それというのも出てきたかなみは松葉杖をついてやってきたからだ。
「う、うん……ちょっと、転んじゃって……」
かなみは苦笑して答える。
「それはまた随分と派手に転んだんでしょうね。かなみ様は華奢に見えて意外と丈夫そうですからね。うーん……二階から飛び降りて着地失敗したんですか?」
「そ、そんなに派手なことしたんじゃないんだけど……」
内心、派手と言われたら派手なことをしたような気がすると思った。
あの日、影鉄との戦いで限界以上に身体を酷使した。
その痛みは煌黄の仙術でかき消してもらった。
『術の効果がきれたとき、地獄の苦しみを味わうことになるぞ』
術を受けるかどうか問いかけられた時、そう忠告された。
そして、戦いが終わった直後、その術の効果がきれた。
煌黄が忠告したように、地獄の苦しみがやってきた。
かなみは激痛のあまり、今まで出したことの無い悲鳴を上げた。それもかなりの時間を。
意識が飛んだことは何度もあったけど、その度に痛みで意識が引き戻される。
痛みで意識を失い、痛みで意識を取り戻す。
そんな最悪を繰り返しているうちに気づいたら、このアパートの部屋に戻っていた。
煌黄が次元転送で引き戻してくれたのだそうだ。
「もう平気か?」
煌黄が問う。
「え、うん、まあ、いぁいけと……」
痛みがおさまりだしたときには、喉がカラカラでかすれていた。叫びすぎたせいだろう。
「これは特製のど飴じゃ」
煌黄が手渡してくれたのど飴をなめる。
「にがあ!?」
第一声がそれだった。
「ホホホ、良薬口に苦し、じゃ」
そういうわけで、早速効いたようだった。
「いや、苦すぎるわよ!?」
「ホホホ、それだけ声が出せればもう大丈夫じゃな!」
「笑い事じゃない! あ、いたた……」
声を出すだけで全身に痛みが走る。
「痛みは、なんとかならないの……?」
「痛みはもう仙術で一度消しておるからのう。やってみるが効果は薄いぞ」
「そ、それでも……」
「うむ。それでは」
煌黄は杖をかなみへ振るう。
「ほれ、術をかけてみたぞ」
「…………いた!?」
ためしに手足を動かしてみたけど、変わらず痛かった。
「あ~やっぱり、薄かったか」
「う、薄い、というより、効果ゼロなんじゃ……あいたたたた……」
「まあ、かなみの回復力なら二、三日経てば治っておるじゃろう」
「え、二、三日ももかかるの……?」
「普通の人間じゃったら数ヶ月はベッドから離れられんくらいの重症じゃぞ」
「数ヶ月……それだけ休んたら借金がまた増えてそう……」
そう思うと治りが遅くなるような気がした。
そうして一晩経って、起き上がってみると身体の痛みは大分引いていた。
ところが起き上がろうとすると足が、特に右足に力が入らなかった。
無理に力を入れようとすると、激痛が走ってとても立つことができなかった。
煌黄にそのことを説明すると「足だけ治りが遅いようじゃ、まあちょっとした捻挫だと思って楽にしておればよい」と気楽に答えてくれた。
「それでも学校に行かなくちゃ」
「そう言うとぉ思って~」
母の涼美は笑顔で木製の松葉杖を渡してくれた。
「用意がいいわね」
「あるみちゃんが渡してくれたのよぉ。趣味で作ってたんだって~」
「社長って随分凝り性よね。ありがたく使わせてもらうわ」
かなみは松葉杖を使って立ってみせる。
「案外いけるわね」
「さっすがねぇ、似合ってるわよぉ」
「松葉杖が似合うって褒め言葉なのかしらね」
「素直が一番よぉ」
そう言われてもかなみは今ひとつ釈然としなかった。
松葉杖が似合う。それって怪我しやすくてひ弱ってことなんじゃないかってことでいいイメージが無い。
とはいえ、足が思い通りに動かないのだからどうしようもない。身体が復調するまで松葉杖のお世話になることになった。二、三日で治ればいいのだけど。
「そんなに身体が悪いならお休みになったらどうでしょうか?」
「あんまり休みたくないのよね」
「おお! 皆勤賞狙いですか!」
「そんなに大げさじゃないんだけどね」
それに、一時期学校を休まざるを得なくなったので、とっくに皆勤賞の芽は潰えている。それをあえて口にするつもりはないけど。
「その志《こころざし》は立派です! 私も仕事を休まずに続けていきたいと思います!」
「あ、うん、そうね。仕事を休まないのは大事よね」
かなみも学校が終わったら、仕事が待っている。
「とりあえず報告とその後の状況整理をする」というのが、あるみがマニィを通じて出した辞令だった。
(話をするだけで終わればいいんだけど……)
なんというかそういう時に限って、余計な出来事が舞い込んでくるような気がする。
まあ、それを今から心配しても仕方がない。
「いってらっしゃぁい~」
涼美は笑顔で手を振って見送ってくれる。
「ささ、行きましょう」
「行くって沙鳴も?」
「私はこれからお仕事なんです。途中まで一緒に行きましょう!」
「珍しい」
かなみの学校の登校時間と沙鳴の仕事の通勤時間は普段はずれている。
そのため、別々に仕事に行くのだけど、今日は特別なようだ。
「階段降りるときは肩を貸しましょうか?」
「それは助かるけど、とりあえず自分でやってみるから大丈夫よ」
かなみは部屋を出て松葉杖をついて前に出ながら答える。
ちょっと歩いてみたけど、多少おぼつかないところはあるものの、左足はなんとか動く。右足はまだ痛みがあって思い通りに動かないけど、一応松葉杖のおかげでなんとかなる。
問題は沙鳴の言う階段だった。
「いざとなったら私が受け止めますから安心して降りてください」
「う、うん……そうならないように頑張ってみる」
コンコン、と松葉杖をついて、アパートの階段を一段ごとに慎重に降りていく。
「はあ~」
階建を降りきると、カナミは大きく安堵の息をつく。
「お疲れ様です」
「まだ階段を降りただけよ。こんな調子じゃ学校は遠いわ」
「焦らないで、一歩ずつ行きましょう。疲れたときは休憩すればいいんです」
「そうね」
カナミは松葉杖をついてアパートから道に出る。
「慣れてくると案外楽しいわね」
「さすがです!」
そんな二人の様子を遠くから見守っている女性の姿があった。
『あなたも心配性ね』
携帯電話からあるみの声がする。
「そんなこと言っても心配なものは心配なのよ。かなみちゃん、今日くらいは休んでもよかったんじゃないの?」
『それもいいけど、できることならなるべく学校には通ってほしいし、かなみちゃんも行きたがってるみたいだから』
「そうね。あの様子だと大丈夫そうだし、私はもう事務所に戻るわ。ちゃんと写真におさめておいたから、松葉杖で歩くかなみちゃんの姿を」
来葉は上機嫌で言う。
『あんたも好きね』
あるみの呆れた声が電話越しに聞こえる。
沙鳴と途中で別れて、何度も心配そうに振り返ってくれた
とはいえ、松葉杖で歩いていくのも慣れてくると楽しかった。
左足は相変わらず思い通りに動かないし、右足の方も歩く度に痛い。
それでも、杖をついて一歩ずつ前を進めているのはなんだか楽しい。いつも通っている中学校がやたら遠く感じるのは難点だけど。
キンコーンカンコーン
校門をくぐる時、始業のチャイムが聞こえた。
「あ~遅刻よッ!?」
早めに出たけど、それでも間に合わなかったみたいだ。
チャイムが鳴り終わって急いで校舎に入る。上履きに履き替えるのにちょっと苦戦した。
教室の扉を開ける。
「………………」
揃って着席している同級生達から視線が集中する。
こういう時、普段だったらちょっと見るだけなのに、今日は松葉杖をついてるから余計に注目されている。
(目立ちませんように……目立ちませんように……)
その念が通じたのか、大方のクラスメイトは物珍しさで数秒見たあとに、教卓の方へ視線を戻す。
今日の朝、変わったことといえばそれくらいだった。
実のところ、同級生がある日突然松葉杖をついてやってくる。
それは物珍しい出来事ではあるもののずっと目を見張るような出来事じゃないことだったみたいだ。
キンコーンカンコーン
そして、一時間目が始まって、あっという間に終わる。
「かなみ、松葉杖《それ》、どうしたんだ?」
さすがに友達の貴子は気になって訊いてきた。
「うん、ちょっと転んじゃって」
「ころんだ?」
貴子は意外そうな顔をする。
「かなみはドジだけど、転んだくらいで怪我するなんて思わなかったな」
「……私のこと、なんだと思ってるのよ?」
かなみは仏頂面で答える。
(そういえば、沙鳴も同じようなこと言ってたわね……私って人からそんな風に思われてるの?)
かなみはちょっと気になってもう一人の友達の理英の方へ顔を向ける。
「貴子の中で、私って変な感じに思われてるみたいなんだけど」
「う、うん……貴子って大げさだから、でも意外と当たってる時もあるから……」
「え~、私だって転んだら怪我くらいするんだけど」
転んだのは嘘だけど。
「……私も、かなみならよく転ぶけど転んで怪我するイメージはないね」
「そうなの!? っていうか、私そんなに転んでないわよ!?」
「そうなんだよな、かなみってなんだかんだでドジっ子ってわけじゃないんだけどな。むしろ意外と運動神経がいい方」
貴子は言う。
「意外って……貴子からそんな風に言われるのが意外なんだけど……」
「でも、貴子が言うことって結構当たるからね」
「私って案外超能力者かな」
貴子は得意顔で言う。
「それはない」
かなみはキッパリと言う。
来葉――未来予知が視える本物の超能力者を知っているだけに、こういう返しになってしまう。
「だよな~」
貴子もそれはあっさり認める。
貴子には魔法を扱う素質が無いから魔法少女にはなれない。
以前、あるみは貴子のことをそう評したことを思い出す。
魔法を扱う素質というのは魔法の存在を認識できるかどうかなのだけど、貴子は案外そういうことを非現実的だと捉えている節がある。今の一言でもそれが感じられた。
(まあ、私もちょっと前はそうだったんだけど……)
ここは真っ暗闇の部屋。
ネガサイド本部の一室だった。そこにいくつもの影が立っていた。
「ああ、俺はこの目で見たぞ」
そこへタイルのような肌をした巨漢・オーダンが自慢げに語る。
「これで十二席候補が一人減ったんだ。椅子取りゲームは参加者が減ってやりやすくなったな、ケケケケ」
ある者は嘲笑する。
「しかし! 魔法少女とはいえ人間にやられるとは不甲斐ない! 十二席候補の汚点である!!」
ある者は憤る。
「なんともおいたわしい。中部支部長に降格したと思ったら、魔法少女に倒されるとは。不幸は重なるモノなのですね」
ある者は憐れむ。
「しかるにそれだけその魔法少女とやらは強大な存在であるということか。我らを脅かすまでに」
ある者は分析する。
「俺達の存在を脅かすのか、それもまた面白いな」
オーダンは言う。
「そう、面白いことになった」
そこへカリウスがやってくる。
「「「「カリウス!?」」」」
一同は驚愕の声を上げる。
「何しにここに来た!?」
「最高役員十二席の一人が十二席候補の集いに参加するとは言語道断ですな」
「しかも、それがカリウスならなおのこと」
カリウスは一同から敵意の視線を一手に引き受ける。
「やれやれ、嫌われたものだね」
当のカリウスはそれを涼しい顔をして受け流す。
「それも当然というもの。本来、最高役員十二席は我々十二席候補から選抜される。それを支部長のお前は十二席候補を飛び越えて最高役員十二席の座についたのだから」
影の一人が憎々しげに言う。
「なるほど」
カリウスは納得する。
ネガサイド日本局は局長の六天王《りくてんおう》を頂点として、その下に副局長がいる。ただこの副局長は消息を絶っているため、現在は最高役員十二席の席長・判真《ばんしん》が実質その座についているといっていい。さらにその配下に他の最高役員十二席がいる。十二席候補とは、最高役員十二席の下の位《くらい》であり、自分が最高役員十二席の座につくのを今か今かと待ちわびている位置に属するのがこの場にいる連中だ。
各地方の支部長はさらにその下の地位にいる。
元関東支部長にして現最高役員十二席の一人であるカリウスは、十二席候補を差し置いて、十二席の地位についた成り上がり。いい顔などできるはずがない。
「それで何の用に来た? 十二席の座を俺に譲り渡しにきたのか!?」
「まさか。私とてせっかく手に入れたこの地位は惜しい」
殺気立った十二席候補の一人の言《げん》を、カリウスは飄々とかわす。
「用というのはだね。影鉄のことだよ」
「「「「――!!」」」」
殺気立った連中の殺気がより一層増す。
その一層引き上げられた殺気は普通の人間がこの場にいたら心臓が震え上がるあまりその勢いで飛び出してあの世行きになっただろう。
「そいつは興味あるな」
ある者は殺気で目をギラつかせる。
「支部長落ちしたとはいえ、あの影鉄を倒した魔法少女か。怖い存在だね、震えてくるよ」
ある者は恐怖で震わせる。
「そんな魔法少女と戦わなければならないのが我らの運命かな。悲しくなってくるよ」
ある者は悲しみを滲ませる。
「面白いぜ! 俺は戦ってみたいぜ!! そいつを倒せば十二席入りもあるって噂なんだろ!?」
ある者は闘争心をむき出しにして、カリウスへ問いかける。
「その通りだよ」
「「「「おお!」」」」
十二席候補の連中は感嘆の声を上げる。
最高役員十二席の座につく機会は十二席候補といえども十年、下手をすると百年はめぐってこないことがある。彼らにとってはまさに千載一遇のチャンスといっていい。
「彼女を倒せたのなら、私のこの十二席の座を譲り渡してもいい。だが、それは難しいことだよ。
まだ最高役員十二席の中の誰かの席を奪い取る方が容易だと断言できる」
「例えばお前とか!?」
「………………」
カリウスは沈黙で返答する。
『沈黙は肯定』
それがこの場にいる候補達の総意だった。
「殺気立ってきたから、もう私は退散するとしよう」
カリウスは一瞬にして姿を消す。
「相変わらず逃げ足が速い。あやつを倒すのは雲を掴むがごとくだな」
「ならば、俺は魔法少女カナミを狙う!」
発言したのは、オーダンだった。
「カリウスが言っていただろう。魔法少女カナミを倒せば十二席候補の一席を譲り渡す、と」
「それだけが目的ではあるまい。お前は影鉄を倒された場に居合わせたな、それで何か目的を得たのか?」
候補の一人が問いかけて、オーダンは好戦的な笑みを浮かべて答える。
「それ以上に面白い奴と出会った。魔法少女カナミを狙えば奴は必ず現れるからだ」
オーダンがそう答えたことで、候補達はますます魔法少女カナミへ興味を持つようになった。
『言ったはずだ。君には素質がある、と。
魔法少女としての戦闘力は及ばないものの、妖精のチカラの担い手に選ばれ、仲間に恵まれ、――そして怪人をも惹きつけるだけの存在感がある。
私が求めてやまない混沌を生み出すチカラといっていい』
十二席候補の場を去ったカリウスは、かつてかなみに言い放った自分の言を思い出していた。
そして、こう思っていた。
――君は、私の望む混沌を生み出してくれる存在だ、と。
沙鳴はアパートの部屋を出るなり、すぐ隣の部屋に入っていった。
すなわち、かなみの部屋だった。
「かなみ様、おはようございます! かなみ様は学校ですか? 一緒に行きませんか!? って、あれれ?」
沙鳴は驚く。
「おはよう、沙鳴」
「どうしたんですか、かなみ様? その、足、怪我したんですか?」
それというのも出てきたかなみは松葉杖をついてやってきたからだ。
「う、うん……ちょっと、転んじゃって……」
かなみは苦笑して答える。
「それはまた随分と派手に転んだんでしょうね。かなみ様は華奢に見えて意外と丈夫そうですからね。うーん……二階から飛び降りて着地失敗したんですか?」
「そ、そんなに派手なことしたんじゃないんだけど……」
内心、派手と言われたら派手なことをしたような気がすると思った。
あの日、影鉄との戦いで限界以上に身体を酷使した。
その痛みは煌黄の仙術でかき消してもらった。
『術の効果がきれたとき、地獄の苦しみを味わうことになるぞ』
術を受けるかどうか問いかけられた時、そう忠告された。
そして、戦いが終わった直後、その術の効果がきれた。
煌黄が忠告したように、地獄の苦しみがやってきた。
かなみは激痛のあまり、今まで出したことの無い悲鳴を上げた。それもかなりの時間を。
意識が飛んだことは何度もあったけど、その度に痛みで意識が引き戻される。
痛みで意識を失い、痛みで意識を取り戻す。
そんな最悪を繰り返しているうちに気づいたら、このアパートの部屋に戻っていた。
煌黄が次元転送で引き戻してくれたのだそうだ。
「もう平気か?」
煌黄が問う。
「え、うん、まあ、いぁいけと……」
痛みがおさまりだしたときには、喉がカラカラでかすれていた。叫びすぎたせいだろう。
「これは特製のど飴じゃ」
煌黄が手渡してくれたのど飴をなめる。
「にがあ!?」
第一声がそれだった。
「ホホホ、良薬口に苦し、じゃ」
そういうわけで、早速効いたようだった。
「いや、苦すぎるわよ!?」
「ホホホ、それだけ声が出せればもう大丈夫じゃな!」
「笑い事じゃない! あ、いたた……」
声を出すだけで全身に痛みが走る。
「痛みは、なんとかならないの……?」
「痛みはもう仙術で一度消しておるからのう。やってみるが効果は薄いぞ」
「そ、それでも……」
「うむ。それでは」
煌黄は杖をかなみへ振るう。
「ほれ、術をかけてみたぞ」
「…………いた!?」
ためしに手足を動かしてみたけど、変わらず痛かった。
「あ~やっぱり、薄かったか」
「う、薄い、というより、効果ゼロなんじゃ……あいたたたた……」
「まあ、かなみの回復力なら二、三日経てば治っておるじゃろう」
「え、二、三日ももかかるの……?」
「普通の人間じゃったら数ヶ月はベッドから離れられんくらいの重症じゃぞ」
「数ヶ月……それだけ休んたら借金がまた増えてそう……」
そう思うと治りが遅くなるような気がした。
そうして一晩経って、起き上がってみると身体の痛みは大分引いていた。
ところが起き上がろうとすると足が、特に右足に力が入らなかった。
無理に力を入れようとすると、激痛が走ってとても立つことができなかった。
煌黄にそのことを説明すると「足だけ治りが遅いようじゃ、まあちょっとした捻挫だと思って楽にしておればよい」と気楽に答えてくれた。
「それでも学校に行かなくちゃ」
「そう言うとぉ思って~」
母の涼美は笑顔で木製の松葉杖を渡してくれた。
「用意がいいわね」
「あるみちゃんが渡してくれたのよぉ。趣味で作ってたんだって~」
「社長って随分凝り性よね。ありがたく使わせてもらうわ」
かなみは松葉杖を使って立ってみせる。
「案外いけるわね」
「さっすがねぇ、似合ってるわよぉ」
「松葉杖が似合うって褒め言葉なのかしらね」
「素直が一番よぉ」
そう言われてもかなみは今ひとつ釈然としなかった。
松葉杖が似合う。それって怪我しやすくてひ弱ってことなんじゃないかってことでいいイメージが無い。
とはいえ、足が思い通りに動かないのだからどうしようもない。身体が復調するまで松葉杖のお世話になることになった。二、三日で治ればいいのだけど。
「そんなに身体が悪いならお休みになったらどうでしょうか?」
「あんまり休みたくないのよね」
「おお! 皆勤賞狙いですか!」
「そんなに大げさじゃないんだけどね」
それに、一時期学校を休まざるを得なくなったので、とっくに皆勤賞の芽は潰えている。それをあえて口にするつもりはないけど。
「その志《こころざし》は立派です! 私も仕事を休まずに続けていきたいと思います!」
「あ、うん、そうね。仕事を休まないのは大事よね」
かなみも学校が終わったら、仕事が待っている。
「とりあえず報告とその後の状況整理をする」というのが、あるみがマニィを通じて出した辞令だった。
(話をするだけで終わればいいんだけど……)
なんというかそういう時に限って、余計な出来事が舞い込んでくるような気がする。
まあ、それを今から心配しても仕方がない。
「いってらっしゃぁい~」
涼美は笑顔で手を振って見送ってくれる。
「ささ、行きましょう」
「行くって沙鳴も?」
「私はこれからお仕事なんです。途中まで一緒に行きましょう!」
「珍しい」
かなみの学校の登校時間と沙鳴の仕事の通勤時間は普段はずれている。
そのため、別々に仕事に行くのだけど、今日は特別なようだ。
「階段降りるときは肩を貸しましょうか?」
「それは助かるけど、とりあえず自分でやってみるから大丈夫よ」
かなみは部屋を出て松葉杖をついて前に出ながら答える。
ちょっと歩いてみたけど、多少おぼつかないところはあるものの、左足はなんとか動く。右足はまだ痛みがあって思い通りに動かないけど、一応松葉杖のおかげでなんとかなる。
問題は沙鳴の言う階段だった。
「いざとなったら私が受け止めますから安心して降りてください」
「う、うん……そうならないように頑張ってみる」
コンコン、と松葉杖をついて、アパートの階段を一段ごとに慎重に降りていく。
「はあ~」
階建を降りきると、カナミは大きく安堵の息をつく。
「お疲れ様です」
「まだ階段を降りただけよ。こんな調子じゃ学校は遠いわ」
「焦らないで、一歩ずつ行きましょう。疲れたときは休憩すればいいんです」
「そうね」
カナミは松葉杖をついてアパートから道に出る。
「慣れてくると案外楽しいわね」
「さすがです!」
そんな二人の様子を遠くから見守っている女性の姿があった。
『あなたも心配性ね』
携帯電話からあるみの声がする。
「そんなこと言っても心配なものは心配なのよ。かなみちゃん、今日くらいは休んでもよかったんじゃないの?」
『それもいいけど、できることならなるべく学校には通ってほしいし、かなみちゃんも行きたがってるみたいだから』
「そうね。あの様子だと大丈夫そうだし、私はもう事務所に戻るわ。ちゃんと写真におさめておいたから、松葉杖で歩くかなみちゃんの姿を」
来葉は上機嫌で言う。
『あんたも好きね』
あるみの呆れた声が電話越しに聞こえる。
沙鳴と途中で別れて、何度も心配そうに振り返ってくれた
とはいえ、松葉杖で歩いていくのも慣れてくると楽しかった。
左足は相変わらず思い通りに動かないし、右足の方も歩く度に痛い。
それでも、杖をついて一歩ずつ前を進めているのはなんだか楽しい。いつも通っている中学校がやたら遠く感じるのは難点だけど。
キンコーンカンコーン
校門をくぐる時、始業のチャイムが聞こえた。
「あ~遅刻よッ!?」
早めに出たけど、それでも間に合わなかったみたいだ。
チャイムが鳴り終わって急いで校舎に入る。上履きに履き替えるのにちょっと苦戦した。
教室の扉を開ける。
「………………」
揃って着席している同級生達から視線が集中する。
こういう時、普段だったらちょっと見るだけなのに、今日は松葉杖をついてるから余計に注目されている。
(目立ちませんように……目立ちませんように……)
その念が通じたのか、大方のクラスメイトは物珍しさで数秒見たあとに、教卓の方へ視線を戻す。
今日の朝、変わったことといえばそれくらいだった。
実のところ、同級生がある日突然松葉杖をついてやってくる。
それは物珍しい出来事ではあるもののずっと目を見張るような出来事じゃないことだったみたいだ。
キンコーンカンコーン
そして、一時間目が始まって、あっという間に終わる。
「かなみ、松葉杖《それ》、どうしたんだ?」
さすがに友達の貴子は気になって訊いてきた。
「うん、ちょっと転んじゃって」
「ころんだ?」
貴子は意外そうな顔をする。
「かなみはドジだけど、転んだくらいで怪我するなんて思わなかったな」
「……私のこと、なんだと思ってるのよ?」
かなみは仏頂面で答える。
(そういえば、沙鳴も同じようなこと言ってたわね……私って人からそんな風に思われてるの?)
かなみはちょっと気になってもう一人の友達の理英の方へ顔を向ける。
「貴子の中で、私って変な感じに思われてるみたいなんだけど」
「う、うん……貴子って大げさだから、でも意外と当たってる時もあるから……」
「え~、私だって転んだら怪我くらいするんだけど」
転んだのは嘘だけど。
「……私も、かなみならよく転ぶけど転んで怪我するイメージはないね」
「そうなの!? っていうか、私そんなに転んでないわよ!?」
「そうなんだよな、かなみってなんだかんだでドジっ子ってわけじゃないんだけどな。むしろ意外と運動神経がいい方」
貴子は言う。
「意外って……貴子からそんな風に言われるのが意外なんだけど……」
「でも、貴子が言うことって結構当たるからね」
「私って案外超能力者かな」
貴子は得意顔で言う。
「それはない」
かなみはキッパリと言う。
来葉――未来予知が視える本物の超能力者を知っているだけに、こういう返しになってしまう。
「だよな~」
貴子もそれはあっさり認める。
貴子には魔法を扱う素質が無いから魔法少女にはなれない。
以前、あるみは貴子のことをそう評したことを思い出す。
魔法を扱う素質というのは魔法の存在を認識できるかどうかなのだけど、貴子は案外そういうことを非現実的だと捉えている節がある。今の一言でもそれが感じられた。
(まあ、私もちょっと前はそうだったんだけど……)
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