まほカン

jukaito

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第113話 養生! 戦い終えた少女の何気ない一幕 (Bパート)

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キンコーンカンコーン

 そして、あっという間に授業は終わる。
 特に変わったことは起きなかった。
 強いていうなら体育の授業で見学をしていた。同級生のみんなが準備体操やサッカーをしているところを眺めているだけというのもなんだか新鮮だった。
(貴子、相変わらず上手いな。あ、またシュート決めた……理英も意外と動けるのね、いいところにパスした! 治ったら一緒にやりたいな……二、三日で治るって言ってたけど……本当かしら……?)
 動かない足を見て、そんな不安にもなった。
(社長に聞いてみよう)
 今日はオフィスにいるかどうかわからない。いたらいいな。
 学校からオフィスまでそこそこ距離があった。
「さすがにちょっと疲れてきたわ……」
 息を切らして株式会社魔法少女のオフィスビルを見上げる。
 アパートや校舎でも階段は難所だった。
 オフィスは三階で、いつもは何気なく上がっているのだけど、今日ばかりは気が重たい。
「エレベーター、ないのよね……つければいいのに……」
 悪態をつきながらビルに入る。
「あれお金、かかるのよ」
「しゃ、社長!?」
 いきなり、あるみが背後から現れて、飛び上がる勢いで驚く。
「経費はあなたの借金に付け足しておこうかしら?」
「そ、それは勘弁してください……私、頑張りますから……」
「うん、いい心構えね。それに免じて――」
「え!?」
 あるみはいきなりかなみの肩を掴みあげて、自分の背中へと放り投げる。
 あるみの背中は頼もしくカナミの身体を受け止めて、おんぶする形になった。
「え、えぇ!?」
「これくらいはしてあげるわよ」
 あるみはそう言って、階段を難なく上がっていく。
「……いいんですか?」
「たまにはね、遠慮しなくていいから」
「そうですか……それじゃ、遠慮なく……」
 あるみの背中は思ったより大きくてあたたかい。
「って、寝ないで!」
「あ、気持ちよくてつい……」
「それにしても、かなみさんさあ、ちょっと軽すぎるわ」
「えぇ、そこは重いって言うところじゃないんですか?」
「もうちょっと食べた方がいいんじゃない」
「社長みたいに食べれませんよ。それにお金ないですし、ボーナスください」
「そうね、考えておくわ」
「えぇ!?」
「そこは驚くところなの?」
「てっきり断れるかと思いまして……」
「考えておくって言っただけで断らないとは言ってないんだけどね」
「そんな……」
「フフ」
 そんな会話をしているうちにあっという間にオフィスのある三階まで上がる。
「さ、もう立てるでしょ」
「もうちょっと、いいじゃないですか……」
「ダメ、甘え過ぎは身体に毒よ」
「はい……」
 あるみは、かなみをおろして、松葉杖を渡す。松葉杖は、かなみをおんぶして片手で二つとも持っていたようだ。
「あの、社長? 帰りも、お願いしてもいいですか?」
「いいわよ」
「やった!」
「そんなに喜ぶこと?」
「いやあ、社長の背中すごく気持ちよかったので。家までお願いしたいくらいです。あた!?」
 あるみからデコピンをくらう。
「調子に乗らないの」
「は、はい……」
「ま、でも、今日はそのくらいサービスしてもいいかな」
「え、本当ですか!? 今日はなんだかサービス満点ですね!? もしかして、なんだかすごい無茶振りしてくる前振りなんじゃ……」
 かなみはガクガクと震えてくる。
「そんな予定無かったけど、なんだかすごい無茶振りがお望みなのね」
「違います! 違います!! 失礼しました!!!」
 かなみはそう言うなり、オフィスへ入る。
「おはようございます!」
 オフィスに入ったら、恒例の挨拶をする。
「あ、来た来た!」
 即座にみあと紫織がやってくる。
「どうしたの、杖なんかしちゃって」
「ちょっとね、足が思うように動かなくて」
「だ、大丈夫なんですか?」
 紫澱が心配そうに訊く。
「うん、二、三日したら治るってコウちゃんが言ってた」
「二、三日ね……あんたの回復力からしたら相当な重症ね」
 みあは興味深そうに、かなみの足元を見て言う。
「そ、そう……ねんざみたいなものだって言われたけど……」
「かなみさんがねんざくらいで歩けなくなるとは思えませんけど」
「え……?」
「そうね。レントゲンでスキャンくらいした方がいいんじゃない」
「み、みあちゃん、真面目な顔して何言ってるの!?」
「仙人の見立てなんだから接骨医より正確よ」
 あるみが言う。
「接骨医みたいなことができる社長が言うと説得力ありますね」
 かなみは引き気味に言う。
「だから、心配いらないってことよ」
「あ……」
 あるみはかなみの心配を見透かしたかのように言う。

パシャパシャ!

 突然シャッター音と閃光がする。
「わ!? なんで、あんたがいるのよ!?」
 かなみがツッコミを入れた先にそれはいた。
「今日は取材の日でしたので、来ましたよ! 思いもよらない一枚が撮れました!!」
 みあよりもさらに小さな身体をして、顔はカメラで覆い隠されている。
 すっかりお馴染みになりつつあるネガサイドの怪人。
 悪の秘密結社の社内報の作成を行っている記者兼カメラマンのパシャであった。
「いえ、私が呼んだのよ」
 あるみが言う。
「はい、呼ばれたので喜んでやってきました」
「なんで喜ぶのよ?」
「魔法少女カナミが元最高役員十二席候補の一人にして現中部支部長・影鉄様を倒した、という超特大スクープを取材できるのですよ! 望外の喜びというやつです!!」
「私が、影鉄を倒した……?」
 かなみはパシャが何を言っているのか理解するのに数秒の時間を要した。
「私が倒したってデタラメよ!? 倒したのはメンコちゃんだって!!」
「メンコ? 東北支部長・メンコ姫様のことですね! もちろん、あの人にも聞きましたよ!」
「メンコちゃんにも取材したの? メンコちゃん、なんて言ってたの?」
「『カナミがいなかったら影鉄からオラは影を取り戻せなかったから、カナミが倒したといってもいい』と言っていました」
 嬉々としてメンコ姫の発言を語るパシャに、かなみは頭を抱える。
「メンコちゃん……」
 メンコ姫へどうしてそんなことを言ったのか問い詰めたい気持ちになったけど、メンコ姫は東北の支部に帰っていったらしくここにはいないからどうしようもない。
「まあ、事実だから仕方ないんじゃないの」
 あるみは言う。
「でも、とどめを刺したのはメンコちゃんですよ!?」
「そのメンコちゃんがかなみちゃんが倒したって言ってるんだから、かなみちゃんの手柄にすればいいでしょ」
「社長、そんな呑気なこと言っていいんですか!? 影鉄を倒したのが私ってことになったら、私また狙われますよ!!」
「狙われるんなら、全部返り討ちにすればいいじゃない」
 あるみの返答に、かなみは頭を抱えるどころか頭痛までしてきた。
「社長だからそんなこと言えるんですよ……」

パシャ!

「なるほど、魔法少女カナミは怪人を全部返り討ちにするということですね!」
 パシャは取材メモらしき紙になにやら書き込んでいく。
「って、何メモしてるの!? それ言ったの社長だから! 私言ってない!!」
「まあでも、あるみさんが言ったのでしたら、かなみさんが言ったようなものですよ!」
「なんでそうなるの!?」
「かなみって、そういう星の下に生まれてきたっぽいところあるから」
「……みあちゃんまで」
「かなみさん、大変ですね」
「紫織ちゃん、そう思うんだったら手伝って」
「えぇ、手伝うって……」
 紫織は困って、あるみへ視線を送る。
「かなみちゃんが一人でなんとかするしかないわね」
「しゃ、社長……」
 孤立無援になったような気分だった。
「それで、なんでこいつを呼んだのよ? まさかこうやって、かなみをからかうためじゃないでしょ?」
 みあはあるみに訊く。
「それもあるけど」
「あるの!?」
「情報交換をしたくてね。こっちの状況はみてのとおりよ」
「情報交換、ですか。何の情報が欲しいのですか?」
「もちろん、ネガサイドの内情よ。中部支部長の影鉄が倒されたことでどんな動きがあったのか教えて」
「内情ですか……そんな大層なことは知りませんが、影鉄様が倒されたことで大騒動になっています。魔法少女カナミが関東支部長ヨロズと東北支部長メンコ姫を従えて影鉄を倒した、と」
「それはデタラメよ! ヨロズとメンコちゃんは協力体制に入っただけよ! 従えてなんて!」
「真相はともかく、そういった方が盛り上がるんですよ。今、ネガサイド日本局にとってあなたはもっとも熱い話題を提供してくれますからね!」
「私はそんなもの、提供した覚えないんだけど!?」
「まあまあ、そのおかげで事態は大きく動くわ。その分、動くお金も大きいわ」
「お金……」
 あるみの発言で、かなみは落ち着く。
「それで、ネガサイドの状況ですね」
 パシャは話題を切り出す。
「まず中部支部は支部長を失ったことで、統率を失いました」
「元から統率なんてあったの?」
「怪人達は好き勝手やりますが、支部長の命令とあれば一応従うことになっています。それが統率というものです」
「それがなくなったということね。そうなるとどうなるの?」
「特にありません」
「え……?」
 かなみはキョトンとする。
「元々怪人は好き勝手暴れるのが性分ですし、支部長は基本止めませんからね」
「なるほどね……」
 そりゃそうかと、かなみは納得する。
「それじゃ、特に変わったことは無いってこと?」
「いいえ、中部支部を巡って他の地方が乗っ取りに入ったんです」
「乗っ取り!?」
「これは驚くべきことですよ。今まで他の地方の支部長達が乗っ取りに動くことなんてなかったですからね。はっきりいって混沌としていますよ」
「混沌……」
 その単語に、不穏な気配を感じずにはいられない。
「今のところ、中部支部を手に入れるのは、近畿支部長・マイデとハーン様、四国支部長・ヒバシラ様ですね。とはいえ、中部支部を手に入れれば大きな力になりますからね。他の支部長達も遅れを取り戻そうと必死です」
「必死ね……それって、ヨロズやメンコちゃんもやってるの?」
「ヨロズ様も参加してるという情報は入っていますね。とはいえ、関東支部は戦力が整っているとは言い難いようで苦戦は免れそうにありません、というのが見解です」
「ヨロズね……あいつも苦労しているみたいね」
 昨晩、ヨロズがアパートの部屋にやってきた。
 かなみの姿をしたドッペルを引き連れて。
「何しに来たの?」
 そのせいで、かなみは不機嫌だった。
「お前の無事を確認しにきた。協力体制の義理を欠くようなことをすると関東支部長の沽券に関わるとテンホーが言っていた。ひとまず無事を確認できて良かった」
「そ、そうなの……」
 そう素直に言われると無下に返そうとする気が失せる。
「私はよくなかったんだけどね」
 ドッペルは言う。
「あんたも無事だったのね」
「一応ね、そこの仙人に助けられたわ」
 ドッペルはかなみの傍らにいる煌黄を指して言う。
 かなみはどうして助けたのか、目で問う。
「ホホホ、あのまま次元を彷徨って異世界にでも流れ着いた方が面倒じゃからな」
 そう言われたら、かなみも仕方がないと思った。
 かつて、かなみも異世界に流れ着いたことがあり、異世界から面倒事を引き込んでしまったことがあるだけに納得せざるを得ない。
「それで、何しに来たの?」
「一応、あんたに報告するってことになっててね」
「報告? 何を?」
「私は今回の戦いで協力したから自由の身になったのよ」
「あ~そういう話だったわね」
 姿や能力を借りとって、偽物から本物に成り代わろうとするドッペルゲンガーを自由にする。
 それはいつ自分に襲いかかってくるかわからない敵を野放しにしてしまったことを意味する。
 今になって、そんな取引をしていたあるみを恨めしく思う。
「これでいつでもあんたを狙えるわけね」
 ドッペルはニヤリと笑う。
 自分と同じ顔、同じ姿をしていて気味の悪さが込み上げてくる。
「心配はいらない」
「ヨロズ?」
「お前が偽物ごときに敗れるはずがない」
 ヨロズにそう言われて、ドッペルはムッとする。
「お前を倒すのは俺だ」
「……私としてはそう簡単に倒されるわけにはいかないんだけどね」
「それでいい。簡単に倒せるお前など俺は目標にしたりはしない」
「ホント、ああいえばこういうわね。……あんた。私の何をみてそんなこと言ってるのやら」
 かなみはため息をついて言う。
 それからほどなくして、ヨロズとドッペルは部屋から出て行った。
 かなみはその後ろ姿を見て、ヨロズがどこか今までよりも一層大きくなったかのように感じた。
 姿は小柄で可愛げのある少女のまま。かつての大きかった獣の姿とは比べるべくもないのに。
(それでもあのヨロズが、関東支部長として戦っていて、どんどん大きくなっていくような……)
 なんだかおいていかれているような気持ちになってくる。
「それと東北支部長・メンコ姫様のことですが」
 パシャの一言で、意識が引き戻される。
「中部支部の争奪戦に参加するつもりはないそうです」
「どうして?」
「東北支部をまとめるだけで手一杯、とメンコ姫様はコメントしています」
「そう、なんだかメンコちゃんらしいわね」
 そう答えているメンコ姫の姿がありありと浮かぶ。
「でも、影鉄を倒したのはメンコちゃんなのにね」
 かなみはぼやく。
 影鉄を倒したのはメンコ姫ということが知られれば、もっと簡単にまとめられるんじゃないかとも思う。
「私が倒したってデマより、そっちの方がよっぽどいいじゃない」
「ああ、それとこれは日本局の本部内で囁かれていることなんですけど」
「な、なに嫌な予感がするんだけど……」
「――魔法少女カナミを倒せば、十二席に入れるんじゃないかと」
「………………」
 かなみは絶句する。
「まあ、私の方でもはっきりとした情報ではなく、噂の域《いき》でしかないんですけど」
「噂っていうか、でたらめでしょ!? 私なんか倒したってそんな値打ちないでしょ!?」
「借金の値はすごいのにね」
「そうそう、すごいのは借金の金額で――って、みあちゃん何言ってるの!?」
「いや、あんたのすごいところを言うところかと思って」
「そういう流れでもなかったと思うけど……っていうか、私のすごいところって借金なの?」
「そりゃ他《た》の追随を許さないくらい、でしょ」
「ほほう、それは気になりますね! そのあたりのことをくわしく!!」
 パシャが迫ってくる。
「詳しく話さない! 話せないから!!」
「それは残念です。特ダネ一つ逃してしまいました」
「特ダネになるとは思えないんだけどね……」
「話してもいいと思うんだけどね。きっとネガサイドの方でも盛り上がるだろうし」
「社長、それ以上言わないでください!!」
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