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第41話

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 次の日。
 ママさんの病室に行くと、ベッドから布団が消えていた。

 どころか、昨日までその周辺にあった何かの医療器具まで綺麗に片づけられている。
 最初部屋を間違ったのかと思って確認するも、角部屋ということもあって間違いようがなかった。それに匂いだって残っている。
 
 表札も無い――なんだか嫌な予感がした。

 私はすぐにナースセンターでママさんのことを尋ねた。

 しかし看護婦さんからは、守秘義務があるということで身内の方以外には答えられないという返事が。
 私だって身内だ! 前世でだけど......と言いたいのをぐっとこらえて、仕方なくその場をあとに。

 周りの部屋の患者さんに訊いても、誰もママさんの行方なんて知らない。
 わかっていることは昨日の夜中、部屋の中が慌ただしかったとの情報だけ。
 結局私が退院する二週間後になっても、ママさんと会うことはできなかった。

 





 家に帰ってきてからも、私は高校そっちのけでママさんの行方を追った。
 突然両親を亡くし、そしてせっかく再会できた大切な人を失いたくない。

 大丈夫! ママさんは絶対生きてる! どこか他の病院に転院したんだ!

 その一心で蘇った前世の記憶を頼りに、昔の私の自宅、浅田家へとなんとかたどり着いた。

 そこで待っていたのは......家ではなく、一面に草木が生い茂っている空き地。

 あの時住んでいた家は、当時柴犬の私からみてもかなり築年数の古そうな雰囲気。
 階段は毎回ギシギシときしむような音を立て、お風呂場なんかは家の外の小屋の中。
 ちょっと冷静になって考えてみれば、あれから十数年経過した今でもここに住んでいるわけがないなんて、わかりそうなのに。

 完全にママさんの手がかりを失って、私は全てにやる気を失ってしまった。

 高校は事故にあってから一度も顔を出していない。
 退院してすぐの頃は担任の教師から何度か連絡がきていたけど、そのうち一切連絡がこ
くなった。
 もともと校内に親しい友達など一人もいなかったので、なんの未練もない。
 
 彩名伯母あやなおばさんとの関係も悪くなった。

 仕事が忙しくなったのか、それとも婚約者と上手くいっていないのが原因かは知らないけど、以前と私に対する態度が大きく変わり。そんな状態でふとしたきっかけで大喧嘩をしてしまい、それ以来会っていない。

 ――事故にあって二ヶ月。
 私は寂しさを紛らわすように毎夜、東草条ひがしそうじょうの街を出歩いていた。
 目的もなく、ただぶらぶらする。

 たまに性目的で話しかけてくる見知らぬ大人の男性に誘われたりもした。
 
 行為に及んだら少しは寂しさが薄れるのかな? と思って、一度誘いに乗ってついていってしまったこともある。
 でもすぐに怖くなって、ラブホに着く前に全力で走って逃げ出した。

「......ハァハァ......何やってんだろう、私」

 人気のない街路地までやって来て、瞳から涙が零れる。

 自分で自分が情けなかった。

 ママさんとも未だに会えず、自暴自棄になってあんなことにまで気を許そうとして......最低だ。 

 今日はもう出歩くのはやめて帰ろう。 
 そう思った時だった。

「――大丈夫ですか?」

 誘ってきた男性に追いつかれたと勘違いして、私はとっさに一歩あとずさりした。
 おそるおそる視線を上げると、その人は先程の中年男性とは全く違う、二十代前半? っぽい無害そうなスーツ姿の男性。
 ショートレイヤーの髪型に見覚えのある優しそうな目つき。

 そして何よりママさんと近いこの匂い......

間違いない、この人はあの剣真だ!

 私の直感がそう言っている。

「あ、ごめん! 決して怪しい者じゃないから! 苦しそうだったから、どうしたんだろうって。そう思っただけで――」 

 両手を上に上げて不審者じゃないアピールをする剣真。
 その一生懸命な姿に私の頬と緊張が一気に緩む。 

「大丈夫ですよ。ちょっと走り過ぎて息があがっただけなので」
「そっか......なら良かった。ごめんね、突然話しかけて。それじゃあ」 

 そう言って剣真は私に背を向けてその場から去ろうとした。

 私の想いが神様に通じたのかもしれない。

 これは最高のチャンスだ!

 剣真のあとをついていけば、ママさんの元に絶対たどり着ける。
 悪いけど剣真、尾行させてもらうよ。
 お姉ちゃんを恨まないでね?

 私はニヤニヤしながら、気づかれないように弟のあとをそっとつけていった。
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