女子からの敗北と屈辱~プロレスラー・白川大斗の苦悩

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第三章

男のプライドを賭けて女に挑む戦い

お互いに組み合い、そのままグランドレスリングの展開へと移行した。本来のプロレスの醍醐味である、正統派的なレスリングが行われた。
大斗と直美、ともに本気で相手を伏しにかかっている。
組んでは技の応酬、離れても息の抜けない駆け引き。スリリングにポジションの取り合い。
両者ともハイレベルなレスリングテクニックで、内容は一進一退であった。
会場の観客も、見応えのある攻防が続き、息をのんでいた。

しかしこの間、大斗はかなり焦っていたのだ。
グランドレスリングは基本として、帝プロの道場では若手時代から、徹底的に仕込まれるもの。コーチや先輩レスラーから、長年痛い目に遭わされながら、叩き込まれるものである。徐々に身体で覚えこみ、耐え抜き、一流までに成長した者だけが、晴れて帝プロのリングでのデビューが許される。
その中で大斗は、グランドについては人一倍の練習を積み続けた。最近では、帝プロ内のトップクラスのテクニックを身に付けた自負さえ持っていた。なので、グランドでの戦いとあれば、絶対的に優位に進める自信があったのだ。

それなのに、今のこの攻防。ポジションを奪おうとしても、関節を取ろうとしても、それが直美には全く思うように決まらないのであった。
一般の観客からすると、大斗が優位に攻め続けていそうに見えていた。しかし直美は、どの体勢であっても、効きそうで効かない形に持って行っていたのだ。繰り出すほとんどの技は、直美に対してがっちりと決まることがなかった。

――― なんでこんなに、うまく行かないのだろう?

それどころか、直美の締め技・決め技は、複合度が高く、極めて高度に計算し尽されている。目立たなくとも確実に決まっていたのだ。直美は大斗の動きを、すべて読んでいるかのように、常に先手・先手をとっていた。そのため、じわじわと、大斗の腕・肩・首などにダメージを加えていたのであった。

――― くそっ、この女、オリンピック選手並の実力を持ってやがる…。

それらの小さなダメージが徐々に蓄積されているのか、大斗の動きが次第に鈍くなっていった。
そして徐々に、直美が上の体勢から仕掛ける時間が目立つようになった。こういう体勢が長く続くと、下の者にとっては、上からのしかかる身体の重さでもまた、体力を奪われる展開となるのだ。
制限時間も、後半に突入。グランドでの思わぬ苦戦、失われていく体力、こんな状況で大斗の集中力も欠けはじめていた。

そして試合は大きく動き出した。
気が付けばグラウンドでは、直美がほぼ完全に大斗の重心を抑え、動きを封じ込んでいた。

――― この体勢はやばいな…。

直感した矢先のこと。
「帝プロのホープも、ここまでね。これで決めるよ。」
そのまま巧みに身体を回転させ、ついに完璧に、大斗の左腕の逆関節を奪ったのだ。

大斗の左腕は、直美の両足の大腿部にがっちり挟まれ、両腕両足で伸ばされている。
左腕は伸び切り、逆方向にしなっている。
直美は全身の筋力を出し切り、強烈に腕を決めてしまっていた。
「うぐぐわぁぁ…。」
大斗は声を上げることを、止められなかった。

女子選手とは思えない筋力をもつ直美から、全力で関節を伸ばされている。これはもう、タップしても仕方がないくらいの決まり方。左腕がへし折られて粉砕でもされそうな、痛々しい状態であった。
得意であるはずのグラウンドで勝てなかった情けなさに、帝プロレスラーとしてのプライドが脆くも崩れ始めた。さらに、左肩まで響き渡る地獄の痛みと苦しさ。
一瞬、ギブアップの言葉を発することさえ、頭をよぎった。
しかしなんとか、男のプライドが勝り、必死に両足をじたばたさせ、右足首をロープに伸ばし、なんとかブレイクを得た。

やっと離してもらえたものの、もう左腕は激痛の渦。しばらくは使えなさそうだ。
あまりの痛さに息もできず、大斗はうずくまって、立てないでいる。
直美は非情なまでに、左腕を目掛けてローキックの連発。ズシリズシリと響く蹴りは、女の力とは思えない。
鋼鉄で打ちのめされているかのような蹴りを受ける度に、激痛が身体を走る。

直美は苦痛に歪む大斗を引きずり起こし、そのまま力ずくで、卍固めを決めて見せた。
大斗の痛めた左腕を天に向け、首には直美の右足を絡み付け、全身で大斗をぐいぐいと締めあげている。
「...。」
大斗は無言で耐えるのみ。
卍固めが2分近くも続いた末、やっとロープに逃げ、レフリーからのブレイク指示に助けられた。

大斗はロープ際で、ぜえぜえ言いながら仰向けの状態。ダメージの蓄積と、女子選手相手に何もできない自分の情けなさからか、ほとんどグロッキー状態であった。

――― なんで、あれだけ毎日トレーニングを積んでいるのに、俺はこんなに女に攻められっぱなしなのだろう?

悔しくて仕方がなかった。

――― このままKOされてしまっては、男としてのメンツが総崩れになってしまう。

最後のプライドを必死に奮い立たせ、なんとか立ち上がろうと、上体を起こそうとした。
そして情けないことではあるが、時間切れでの逃げ切りを考え始めた。

――― これは10分のエキシビジョン・マッチ。あと少し、耐えて我慢すれば、敗戦だけは防げるはず。

目線を上げると、白いリングシューズが、ゆっくりと自分に迫ってきている。
直美が自分に、攻撃をしようと、不気味に近づいて来ている。
大斗は、直美に恐怖を抱いている自分に、気が付いた。


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