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第二章
無観客試合/動きがすべて読まれている
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マットに響く足音が、静まり返った道場の空気を震わせていた。
互いに何も言葉を交わさない。
ただ、打ち合い、受け、組み合い、解き放つ。
その一つ一つに呼吸のリズムが刻まれていく。
沙也加の動きは、恐ろしいほどに正確だった。
力でぶつかるのではなく、力の流れを読む。
阪口が体をひねれば、その反動を利用して返す。
押せば、引く。引けば、踏み込む。
まるで、すべての攻撃を“待っていた”かのように対応してくる。
(読まれている……? 俺の癖、タイミング、全部……)
額の汗が目に染みる。
試合開始から、まだ数分しか経っていないはずだった。
だが、心臓はもう全力疾走のように早鐘を打っている。
阪口は一気に距離を詰め、バックドロップを狙う。
だが、腰を落とした瞬間、沙也加が体をねじり、肘を差し込んで体勢を崩した。
そのまま低い姿勢から足を払われ、阪口の片膝がマットに落ちる。
鈍い音が道場に響いた。
(バカな……!)
その一瞬、視界が狭まった。
“女子に膝をつかされた”という現実が、雷のように脳裏を打つ。
怒りにも似た感情が湧き上がり、反射的に立ち上がる。
大きく息を吸い、正面から突っ込んだ。
強烈なラリアット。
だが沙也加は紙一重で身をひねり、腕をすり抜けて背後へ回り込む。
腰に手をかけたかと思うと、完璧なジャーマンの体勢に。
阪口は体重を落として抵抗する。
が、沙也加の背筋が鳴る。
マットが軋み、巨体がわずかに浮いた。
ほんの数センチ。
それでも阪口は、背筋のざらつく恐怖を感じた。
(今、ほんの少しでも力を抜いたら、投げられる!)
喉の奥が焼けつくように乾く。
踏みとどまり、肘で沙也加の脇腹を突く。
それでも、彼女の腕の締めは緩まない。
まるで鉄のように硬く、しなやかだった。
(こいつ、どこまで……!)
力でねじ伏せようとするほど、絡みつくように受け流される。
巨体の優位が、逆に足枷になる。
圧をかけても、空を切るように逃げられる。
その動きに迷いがない。
阪口は初めて、相手の瞳に**明確な“勝ちの意思”**を見た。
(……こいつ、俺を封じ込めるつもりで来てるのか)
背中に流れる汗が、冷たい。
息が荒くなる。
呼吸を整えようとしても、胸の奥がざわつく。
焦り?、それが一番嫌な感情だった。
チャンピオンとして何度も修羅場を潜って来た阪口が、
今、ただ一人の女子レスラーの前で、
初めて“追われる側”になっていた。
(落ち着け……落ち着け……! こんなはずじゃねぇ)
沙也加の動きが再び近づく。
その気配を感じて反射的にガードを上げた瞬間、
腹部に重い衝撃。
鈍痛が走る。
(効く……!)
苦悶の表情を見せまいと歯を食いしばる。
しかし、心の奥底では確信していた。
(この女……本物だ。
俺は今、本気で倒されようとしている)
無観客の静けさの中、
マットの軋む音と、二人の荒い息だけが響いていた。
互いに何も言葉を交わさない。
ただ、打ち合い、受け、組み合い、解き放つ。
その一つ一つに呼吸のリズムが刻まれていく。
沙也加の動きは、恐ろしいほどに正確だった。
力でぶつかるのではなく、力の流れを読む。
阪口が体をひねれば、その反動を利用して返す。
押せば、引く。引けば、踏み込む。
まるで、すべての攻撃を“待っていた”かのように対応してくる。
(読まれている……? 俺の癖、タイミング、全部……)
額の汗が目に染みる。
試合開始から、まだ数分しか経っていないはずだった。
だが、心臓はもう全力疾走のように早鐘を打っている。
阪口は一気に距離を詰め、バックドロップを狙う。
だが、腰を落とした瞬間、沙也加が体をねじり、肘を差し込んで体勢を崩した。
そのまま低い姿勢から足を払われ、阪口の片膝がマットに落ちる。
鈍い音が道場に響いた。
(バカな……!)
その一瞬、視界が狭まった。
“女子に膝をつかされた”という現実が、雷のように脳裏を打つ。
怒りにも似た感情が湧き上がり、反射的に立ち上がる。
大きく息を吸い、正面から突っ込んだ。
強烈なラリアット。
だが沙也加は紙一重で身をひねり、腕をすり抜けて背後へ回り込む。
腰に手をかけたかと思うと、完璧なジャーマンの体勢に。
阪口は体重を落として抵抗する。
が、沙也加の背筋が鳴る。
マットが軋み、巨体がわずかに浮いた。
ほんの数センチ。
それでも阪口は、背筋のざらつく恐怖を感じた。
(今、ほんの少しでも力を抜いたら、投げられる!)
喉の奥が焼けつくように乾く。
踏みとどまり、肘で沙也加の脇腹を突く。
それでも、彼女の腕の締めは緩まない。
まるで鉄のように硬く、しなやかだった。
(こいつ、どこまで……!)
力でねじ伏せようとするほど、絡みつくように受け流される。
巨体の優位が、逆に足枷になる。
圧をかけても、空を切るように逃げられる。
その動きに迷いがない。
阪口は初めて、相手の瞳に**明確な“勝ちの意思”**を見た。
(……こいつ、俺を封じ込めるつもりで来てるのか)
背中に流れる汗が、冷たい。
息が荒くなる。
呼吸を整えようとしても、胸の奥がざわつく。
焦り?、それが一番嫌な感情だった。
チャンピオンとして何度も修羅場を潜って来た阪口が、
今、ただ一人の女子レスラーの前で、
初めて“追われる側”になっていた。
(落ち着け……落ち着け……! こんなはずじゃねぇ)
沙也加の動きが再び近づく。
その気配を感じて反射的にガードを上げた瞬間、
腹部に重い衝撃。
鈍痛が走る。
(効く……!)
苦悶の表情を見せまいと歯を食いしばる。
しかし、心の奥底では確信していた。
(この女……本物だ。
俺は今、本気で倒されようとしている)
無観客の静けさの中、
マットの軋む音と、二人の荒い息だけが響いていた。
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