プライドを賭けた無観客試合~伝説の王者・阪口剛史が恐れた最強の女子プロレスラー

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第二章

無観客試合/静寂の始まり

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深夜12時の帝プロ練習場。照明は一灯だけ。
既に試合に向けた準備を進める二人の呼吸だけが、鉄骨に響いていた。

外の世界は沈黙に包まれ、まるでこの空間だけが時間から切り離されているようだった。

阪口は腕にテーピングを巻きながら、向かいの沙也加を見た。
その身体は無駄がなく、動物のような張りつめた気配を放っている。
女子レスラーの枠で語れる存在ではないことを、阪口はとうに理解していた。

(こいつの試合や練習は何度も見た。
 スパーでも、男子相手に息ひとつ乱さねぇ。
 それでも、俺が負けるはずがない)

それは傲慢ではなかった。
帝プロのチャンピオンとして、そして男子プロレスの強さの象徴として、
“女子に敗れること”はないという確信、いや、祈りにも似た思いだった。

リングに立った阪口は、いつもの観客のざわめきがないことに違和感を覚えていた。
50歳の肉体は、まだまだ動く。だが、相手は23歳の伸び盛り。
年齢差を意識した瞬間、自分の中に生まれる小さな恐れを、
阪口は無理やり押し殺した。

(若い女子なんかに負けるわけないよ。俺は帝プロの象徴だ。
 俺がどれだけの修羅場をくぐりぬけて来たと思ってるんだ)

沙也加は静かに息を吐き、頭を下げながら大きな声で、丁寧に挨拶をした。

「お願いします」

その一言が、空気を一変させた。
まるで試合前のゴングのように、心の中に金属音が鳴り響く。
沈黙の中で、試合は始まった。

阪口は無言で構えを取る。
数歩の距離を挟んで、互いに呼吸の音だけが響く。
どちらが先に仕掛けたのか分からなかった。
気づけば、もう動いていた。

次の瞬間、阪口の腕に電流のような衝撃が走る。
沙也加が組み合いざまに体を沈め、見事なタイミングでバランスを崩されたのだ。

(速い……!)

反射的にリカバリーし、体重をかけて押し返す。
しかし、沙也加はその力を利用して逆方向に転がり、体勢を入れ替える。
足払い、膝蹴り、ジャブ、そして水平チョップ。
一つ一つの動きが、研ぎ澄まされていた。

阪口は額の汗をぬぐい、わずかに口角を上げた。

「……上等じゃねぇか」

その声には、焦りと昂揚が入り混じっていた。
試合はまだ始まったばかりだが、阪口の中の“想定”はすでに崩れ始めていた。
組んでみて改めて理解できた、沙也加の想像以上のスピードと技の切れ。

(こいつ、本気で俺を倒しにきてる。
 ……いや、それだけじゃない。
 男の壁を壊しにきている)

マットが軋む音。
呼吸と呼吸がぶつかり合う音。
その全てが、戦場の鼓動になっていった。


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