プライドを賭けた無観客試合~伝説の王者・阪口剛史が恐れた最強の女子プロレスラー

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第一章

引退と引き換えの嘆願

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数日後、帝プロの練習場にて。
いつもの通り、練習を終えた阪口。
仲間と別れて帰宅するために、駐車場に向かった。

愛車の運転席に乗り込もうとしたところで、声をかけられた。
「阪口さん」
聞き覚えのある女性の声、あの篠崎沙也加であった。

沙也加は阪口の前に立ち、話し出した。

「練習後のお疲れのところ、申し訳ありません。阪口さんに、どうしても話を聞いていただきたくて、
ご無礼ながら、やって参りました」

なにかの決意を秘めた目であることは、阪口にもすぐに理解できた。
これはさすがに、こちらも誠意をもって、受け止める必要がありそうだ。

「先日の、帝プロのリングに上がりたい、という件でしょうかね?」
「はい、それに関することです」

沙也加がまっすぐに見つめているが、かんたんに流されるわけには行かない。

「沙也加さん、先日も申したと思いますが、男子と女子では体格の差があり過ぎます。
あなたを男子のリングに上げてしまい、もしものことがあったら、とんでもないことになります。
それこそ、プロレス界自体が存続の危機にも、瀕してしまう可能性があります。
格闘家としての気持ちは理解できますが、どうか我々の配慮も、汲み取ってもらえませんでしょうか?」

阪口は沙也加の実力を恐れる本心を抑えつつ、精いっぱいの気持ちで、沙也加を納得させようとした。
沙也加は静かに、しかし確かな声で言った。

「そのことはもう、残念ですが、承知してます。
けど、ひとつ、どうしても受け入れていただきたいことが、あるのです」
「はい、それは何でしょう?」

沙也加はつづけた。

「私の引退と引き換えに、阪口さんと試合をさせてください。
 無観客で、他に誰もいない練習場で、構いません。
 これがわたしからの最後のおねがいになります」

阪口は息を呑んだ。
察するに、阪口が経営陣に対して女子と男子の試合が危険であることを進言し、沙也加の申し出を退けさせたことを悟ったのであろう。
よってこうやって、自分の引退と引き換えに、決意を秘めて、最後の試合をさせてもらおうとしているのであろう。

阪口は息を呑んだ。

(これはもう、逃げられないな。)

そして、わずかに目を閉じて答えた。

「……わかった。二人のみの無観客試合ということで、受けよう」

試合は1か月後、帝プロの練習場にて、誰も目もない深夜12時に試合開始、と決まった。
沙也加は深々と頭を下げて阪口に感謝の言葉を述べ、そのまま去って行った。

(かなりの強敵になりそうだな。けどまぁ、さすがに負けることにはならないと思うが……)

それからしばらく、篠崎沙也加に関する情報が途絶えてしまった。
ただ、沙也加はその日以降の沙也加は全試合をキャンセルし、一人で地下ジムにこもり、
謎の鍛錬を重ねてそうだ、との噂が流れたのみであった。
阪口は、沙也加の“レスラー人生最後の戦い”に向けた準備を、感じ取っていた。

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