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第二章・導かれる拳
切り拓いた道
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──その夜、練習場。
観客も記者もいないリングに、二人の影だけがあった。
軽くアップを終えた仁志の前に、戦闘スタイルの沙也加が立った。
引退後もトレーニングを欠かしていなかったその身体つきは、現役さながら、といった雰囲気であった。
「ほぉう、さすがだな。けど闘いってのは、格好だけじゃないぜ」
開始の合図とともに、仁志の蹴りが走る。
だが沙也加は軽くステップを踏み、わずかにかわす。
(...!)
現役選手、あるいはそれ以上の機敏さに、仁志は驚きの表情を隠せない。
一方の沙也加からすれば、仁志の動きは重い。
大きな身体から繰り出される打撃は、威力こそあるが、読みやすい。
仁志の技を悉く交わしている。
「っ、なめるなよ!」
仁志がロープに走り、ラリアットを放つ。
その瞬間、沙也加は沈み込み、相手の腕をとらえ、体を翻す。
仁志の巨体が宙を舞い、マットに叩きつけられた。
――ドンッ!
空気が震えた。
「まさか……」
仁志の表情が変わる。
沙也加は息を乱さず、静かに立っていた。
「男も女も関係ありません。強い者が、上に立つ。それがプロレスです」
次の瞬間、沙也加は一気に距離を詰め、腕を極め、関節を締め上げた。
仁志の巨体が暴れる。
しかし、いくらじたばたしようが、沙也加の身体は揺るがない。
「うがぁぁぁ...!!!」
沙也加の目は冷静に、そして徐々に力を込めて、締め上げつづける。
「社長、これ以上耐えたら、危険です。折れてしまいます。そろそろギブアップしませんか」
「ぐっ……くそっ……くそっ……!」
仁志の額に脂汗が滲む。
数秒後、仁志の手がマットを叩いた。
タップ音が響く。
沈黙の中で、沙也加はそっと手を離した。
仁志はしばらく呼吸を整え、うずくまっている。
沙也加は丁寧に頭を下げて、挨拶をする。
「スパーリングを受けてくださり、ありがとうございました。
約束どおり、マッチメイク権をわたしに、譲っていただけますか?」
黙ったまま、軽く首を縦に振る、仁志。
男子の現役のチャンピオンが、引退した女子選手に、相手にもならずタップをしてしまった。
ショックと情けなさからか、片膝をついたまま下を向いていた。
「安心してください。
このスパーリングのことは、決して誰にも言いません。
約束します。」
最後に再び深く礼をして、沙也加は練習場から消えて行った。
数日後、ブレバリーズ内では仁志より、
「経営機能とマッチメイク機能を一体化させることで、観客のニーズにタイムリーに応えたい」
との理由で、副社長の沙也加にマッチメイク権を委任することが告知された。
その瞬間から、ブレバリーズの歴史が変わったのだった。
観客も記者もいないリングに、二人の影だけがあった。
軽くアップを終えた仁志の前に、戦闘スタイルの沙也加が立った。
引退後もトレーニングを欠かしていなかったその身体つきは、現役さながら、といった雰囲気であった。
「ほぉう、さすがだな。けど闘いってのは、格好だけじゃないぜ」
開始の合図とともに、仁志の蹴りが走る。
だが沙也加は軽くステップを踏み、わずかにかわす。
(...!)
現役選手、あるいはそれ以上の機敏さに、仁志は驚きの表情を隠せない。
一方の沙也加からすれば、仁志の動きは重い。
大きな身体から繰り出される打撃は、威力こそあるが、読みやすい。
仁志の技を悉く交わしている。
「っ、なめるなよ!」
仁志がロープに走り、ラリアットを放つ。
その瞬間、沙也加は沈み込み、相手の腕をとらえ、体を翻す。
仁志の巨体が宙を舞い、マットに叩きつけられた。
――ドンッ!
空気が震えた。
「まさか……」
仁志の表情が変わる。
沙也加は息を乱さず、静かに立っていた。
「男も女も関係ありません。強い者が、上に立つ。それがプロレスです」
次の瞬間、沙也加は一気に距離を詰め、腕を極め、関節を締め上げた。
仁志の巨体が暴れる。
しかし、いくらじたばたしようが、沙也加の身体は揺るがない。
「うがぁぁぁ...!!!」
沙也加の目は冷静に、そして徐々に力を込めて、締め上げつづける。
「社長、これ以上耐えたら、危険です。折れてしまいます。そろそろギブアップしませんか」
「ぐっ……くそっ……くそっ……!」
仁志の額に脂汗が滲む。
数秒後、仁志の手がマットを叩いた。
タップ音が響く。
沈黙の中で、沙也加はそっと手を離した。
仁志はしばらく呼吸を整え、うずくまっている。
沙也加は丁寧に頭を下げて、挨拶をする。
「スパーリングを受けてくださり、ありがとうございました。
約束どおり、マッチメイク権をわたしに、譲っていただけますか?」
黙ったまま、軽く首を縦に振る、仁志。
男子の現役のチャンピオンが、引退した女子選手に、相手にもならずタップをしてしまった。
ショックと情けなさからか、片膝をついたまま下を向いていた。
「安心してください。
このスパーリングのことは、決して誰にも言いません。
約束します。」
最後に再び深く礼をして、沙也加は練習場から消えて行った。
数日後、ブレバリーズ内では仁志より、
「経営機能とマッチメイク機能を一体化させることで、観客のニーズにタイムリーに応えたい」
との理由で、副社長の沙也加にマッチメイク権を委任することが告知された。
その瞬間から、ブレバリーズの歴史が変わったのだった。
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