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第3章:魔の森攻略編

第85話 森の復活

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 ちょっと前まで、自由の女神のダンジョンにいた事で、実は精霊女神アルフォーニスの見た目が、自由の女神像にそっくりさんだった。それは僕の意識の反影なんだろうなと思う。

 ゆっくりと目を開けると、アリシアが心配そうに僕を見下《みおろ》していた。

「おはよう」

 それを聞いたアリシアは片眉を上げて溜息を付き、僕のほっぺを思い切り引っ張った。「僕は柴犬じゃない!」と言おうとしたんだけど、少し涙目だったので何も言えなくなってしまい、ついつい苦笑した。

「ほんと、心配かけたようですんません」

 リンゴも同じく覚醒したのだろう、僕の顔をペロペロと舐めている。

 この場所に着いた時より、ここの魔素による瘴気は薄められているように思う。それは、ミーリアが自身の魔力が続く限り、浄化の作業をずっと行ってくれていたからだろう。その為に、クタクタになったらしく、今は僕の横でへたり込んでいるようだ。ほんと、健気な娘《こ》だなって関心させられる。

「レ~ン!良かった!良かった!!」

 そして、僕の視線を感じ意識が戻った事に気づいたミーリアが、そう叫んで僕に覆いかぶさって来た。(お、重いんですけど……。)それに、この体勢はちょっとヤバイんですが。

 いつもなら、こんな場面になったら、クライドが妹を慌てて引きはがすはずが、今回は多めに見てくれているようで、彼もちょっとホッとした顔をしていた。

 そして、そんな状況に気付いた皆が、僕の方にやって来た。その中でオッサンが神妙な顔で僕に問いかける。

「どうだった?精霊女神は目覚めたのか?それで、話はしたのか?」
「はい。今、力を取り戻す為、世界中から精気を取り込んでられるようです。もう、そろそろ始まるかもですね」
「そろそろって、何がじゃ?」
「まぁ、見ててください」

 そう言っているうちに、今までは寂寞たる虚空の世界を形成していたこの場所の空気が少し変わったのだ。声を失くしていた鳥が、大きな羽根を広げる準備をし、再び歌いだすかの様な、そんな気配がするのだ。

「始まったようですね。皆、精霊樹からちょっと下がりましょう!」

 僕はそう叫んで、急いで精霊樹から離れるように指示した。

「きますよ!」僕は大声で叫ぶ!

 精霊樹が輝きだし、覆っていた邪悪なオーラを七色に輝く光のオーラが消滅させた。その光は精霊樹から、この森の四方八方に広がってゆく。光のオーラがこの森全体を覆いつくした時、世界は一転した。虚無だった世界に鮮やかな色が付いたからだ。

 今起こった出来事が信じられないようで、ここにいた全員が呆然としている。

 一番その光景を信じられない風にペタンと座り込んで蘇った精霊樹を見あげているのがアリシアだ。
 精霊樹の大きく広げた枝から蒼々とした若葉が生い茂って息づいていた。その雄大な姿は神々しく壮観だった。これこそが、アリシアが小さい時からずっと見つめていた風景なのだろう。

 彼女にとって、この精霊樹を見上げるのが悲願だった。その為にこの森に10年もの間、一人残りこの森を見守り続けたのだから。

 そして、感情が沸き上がったのだろう、いつも凛として冷静沈着な彼女が、大声で泣きだした。そんな彼女の姿を他の者達は、優しく見守っているようだった。
 しばらく泣き続けて、泣きつかれた事で落ち着いたようで、僕に向き直る。

「レン、本当にありがとう。今、何を言ったらいいのか分からないんだ。すまない…」

 色んな感情が交差しての、冷静な判断が出来ないでいるようだ。

「大丈夫です。僕だけの力じゃないんですから。ここまで一緒に来てくれた冒険者さんたち、かわいい聖女さんにもお礼を言ってほしいって女神様は言ってましたから」

 アリシアは僕に近づき、僕をぎゅっと抱きしめる。

「本当に、ありがとう……。」

 ◇◇◇

 アリシアはしばらく僕に抱き着いていたが、ふとある事に気づいたようで、急に慌てだした。アリシアって普段は冷静沈着だけど、所々でドジっ子だったりする。そんなアリシアがあたふたと周りを見る。

「アリシア、どうした?」
「精霊樹が復活したとしたら、ここに精霊源素が充満してるはずだ。人族はここでは生きれないはずなんだが……」
 あれ?と言いながら、不思議そうに周りを見つめるアリシア。
「なんで、皆、生きてる?」
「ああ。それ。僕が女神様にお願いしましたから、大丈夫ですよ」

 僕は女神様に二つのお願いをした。その一つが『ここまで来てくれた冒険者さんたちがこの森で生きれるようにしてください』って事だった。

 復活したとたんに冒険者さんたちは用済みです。な~んて酷いよね。
「だからそこはちゃんとお願いしときましたからね」

 すると、後ろからデカイ声がする。

「でかしたぞ!坊主。なかなかやりおるわい!」

 そして僕の背中をバシバシと叩いてくるオッサン。痛いですって。

「それじゃ、これから盛大にパーティーじゃな。よし!あの酒を持って来い!これから酒盛りじゃ!」

 すると周りから一斉に「うぉーーー!」と歓声があがった。

「レン!今日は何を食べさせてくれる?お前の料理は最高だー!」
「甘いお菓子もよろしく!」
「マヌエラさん、愛してますーーー!ふ、踏んでください!」
「酒だ!酒!酒を持って来いーー!」
 方々から様々な声がかかるが、まぁ、いちいち気にしない事にしよう。

「もう、やれやれですw」

 僕は収納から様々な食材やお酒をどんどんと取り出した。

 

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