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第4章:帝国編

第107話 恐ろしい娘

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 帝国の城の回路を小走りに歩む小太りの男。嫌味なほどにキンキラの服を着たバルトハイム侯爵だ。

「(マリアーネ、あいつは恐ろしい娘だ。あいつにいったい何が起こったんだ?)」

 最近、バルトハイム侯爵は殊更ことさらにそう思うのだ。

「(三日でとか出軍など出来るわけがないだろう。こんな強権的な政策を続けたとしたら、内戦になってしまう……

 万が一、辛うじて出軍が出来たとしても、反対派の貴族どもが素直に働くとは思えんのだ。そんな状態で、戦争など起こせば勝利を納められるという確証は持てない上、こちらも甚大な損害が出るであろう事はあきらかだ。

 下手をすれば、国が滅んでしまう)」

 バルトハイム侯爵は、それが分からないほど馬鹿ではなかった。

「(あいつは何故に戦争を起こそうとしているのだろうか?その意味が全く分からない)」と思う侯爵だった。

「困った、どうしたものか……なんとか引き延ばさないと……。」

 そう思うも、自分の弱みをしっかりと握られている娘に、正面切って意見するなど出来ないでいた。

「(今のあいつに反論などしたら、殺される……)」

「おい、ルキウスの件はどうなった?」

 侯爵は付き随う側近の男に対し、イライラとした様に怒鳴りつける。

「はい、今の所、なんら連絡はございません。どうもラティア辺境伯が領地を出て現地に向かったとの情報は入っておりますが、その後の報告はございません」

「遅い!遅すぎる。何をちんたらやっておる!」

 侯爵は側近の男に対して、腹立ち紛れに手に持っていた本を投げつけた。

「も、申し訳ございません」

「兵士たちには、モントヴルがやった事の証拠を残すようにとの指示は出してあるのだろうな?」

「は、はい、抜かりなく」

「アレを動かせ。大至急だ。分かったな!」

「了解いたしました」


 ◇◇◇


 フランソワの治療のお陰もあり、ハウザーの精神崩壊の危険はなくなった。だが、長期間の拘束は、極度の精神的ダメージを負っているようだ。
 それにもって、ハウザーの語りは取りとめがなく、かなり長いものになってしまった。そのことでの精神と肉体の疲労もピークであろう。

 そこで、しばらくは眠ってもらう事にしたのだ。

「しばらくは、良い夢を見れるといいですね。後でアリシアの<ヒーリング>を施してもらったら、もっと落ち着くと思いますよ」

 蓮も初めて人をあやめた時に、アリシアにかけてもらった<ヒーリング>効果は最高に癒された事を思い出した。

「それにしても、ハウザーの母親の皇太后って奴がかなりやばいようだな。何かに乗っ取られたって感じかもしれん」

「そうだな。操られてる帝国軍を相手するより、奴と対峙した方がいいかもな。ある意味、帝国軍も被害者だからな」

「そこは、公爵や辺境伯に頑張ってもらおうか。侵略行為は、侵略した側の自浄作用が働かないと話にならん。万が一戦争をおっぱじめたとして、一人でも被害者を減らす努力をしてもらわないと。互いの消耗戦での戦争なんて悲劇でしかないからな」

「それよりもだ、腹減ったんだけど。蓮、何食わせてくれるんだ?」

「キャンプ飯なんで、あんま手の凝ったものは作れないんですが、とある所(txxxxr参照)で手に入れたレシピで、ほんと最高に美味ーい煮干しで作る味噌ラーメンどうすか?

「おお!いいね。それよろしくな」

 本城はラーメンと聞いて大喜びしてるのだが、アランはと言うと。

「まさか、煮干しって?アーモンドフィッシュじゃないだろうな。あれは怖いからな」
「ほう、アメリカ人ってアーモンドフィッシュが怖いんだw」
「魚の死骸だぜ、それに頭に目。あれをそのまま食うって信じられるか?!」

「はいはい、じゃ、すぐ作るんで、ちょっと待ってくださいね。」

 アランが発狂しているのを無視して、油で煮干しを炒めだした蓮だったのでした。


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