或る『  』の手記

鳳梨

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2.ネイサンの妹・リリーとの会話記録

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『続いて、ネイサンの妹の事情聴取を行う。
 まずは名前を教えてくれ』

「私の名前はリリーです」

『リリー、君は君の兄が何をしたかわかっているかね?』

「はい、兄が何をしたかは知っています。
 事件が起こる前、私は彼と話をしたことがありました。彼は自分のやり方が正しいと信じており、家族が不当な扱いを受けていることに対する怒りや復讐心が彼を駆り立てたのだと思います。
 しかし、私たちは彼の行動を正当化するつもりはありません。私たちは彼の行動に深く失望しています」

『君たちが受けた不当な扱いとはどんなものだ?』

「私たちが受けた不当な扱いは、地元の警察が私たちを偏見や差別の対象として見ていたことです。
 私たちが少数派であること、家庭が貧しいこと、父親が前科者であることなどが理由で、私たちは警察から度々追われたり、嫌がらせを受けたりしました。兄はそれに激しく反発していたようです」

『君たちの父親が前科者だからって、その罪が君たちに影響を及ぼすべきではない。だからこれはあくまで捜査の為の質問なのだが、君たちの父親は何をしたんだ?』

「私たちの父親は、酒に酔って車を運転し、交通事故を起こして人を殺してしまいました。その後、刑務所に入ってしまいました。
 それ以来、私たちは父親の前科者として周りから差別的な扱いを受けることがありました」

『なるほどな。ではネイサンに関する質問に戻ろう。
 君はネイサンが捕まる前、ネイサンが行ったことに気付いていたかね?』

「私自身はネイサンが行ったことに気付いていませんでした。彼は常に私たちに優しかったので、彼が殺人者であるとは考えられませんでした。ただ、彼が最近落ち着かないように見えたので、何か心配事があるのかと感じていました」

『ネイサンは不当な行為を行なっていた社会的に上位の人々をターゲットとしていた。これについて君はどう思う?』

「私たちは正当な手段で社会的な変化を促すべきだと考えます。暴力や殺人は決して正当化できません。
 ただし、社会に不満を抱く人々が、自分たちの声を届けることができる手段が不十分な場合、一部の人々が自分たちの正義を追求するために非常手段に訴えることがあることも事実です。しかし、私たちはそれが正当な手段であるとは考えていません」

『君の兄は恐らく死刑になるだろう。これについてどう思う?』

「私たちは法の下で生きている社会において、犯罪行為を犯した者には適切な裁判が下されるべきだと思います。
 そして、その裁判に基づいて判決が下されることは、法の公正さと社会の秩序を保つために必要なことだと考えています。私たちの社会が、犯罪を犯してもその責任を取ることができるようになることが大切だと思います」

『わかった。ありがとう。事情聴取はここまでだ』
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