或る『 』の手記

3．被害者の妻・エリザベスとの会話記録

『私はネイサンの事件の捜査を行っている警官です。
　これから事情聴取を始めます。奥さん、まずお名前をどうぞ』

「私の名前はエリザベスよ。私に何か質問があるのかしら？」

『あなたと旦那さんが最後にした会話はどんなものでしたか？』

「私と夫の最後の会話は、通常の夕食の席だったわ。その時、彼は私に大切な話があると言って、個人的な問題を抱えていることを打ち明けたの。でも、詳細については言及しなかったわ。
　私は彼がストレスを抱えていることを感じたけれど、具体的に何が起こっていたのかはわからなかった。その後、数日間、彼は不穏な動きをしていたようで、私は彼が何か大事なことを抱えているのではないかと心配したわ。それが最後の会話よ」

『あなたは夫が誰かに恨まれていたと知っていましたか？』

「いいえ、私は夫が誰かに恨まれているとは知らなかったわ。私たちは普通の生活を送っていたように思えたもの。
　ただ、彼は政治家だから、何かしらの批判や攻撃を受けていることはあったかもしれないわ。でも、私にはそのようなことを知る術は無かったの」

『あなたは夫が不法献金を受け取っていたと知っていましたか？』

「いいえ……私がそれを知ったのは彼が死んでからよ。私もとても驚いたわ。
　私は彼にそのことについて質問したこともなかった。彼は常に政治家として成功し、だからこそ私たち家族に豊かな生活を提供してくれていたと思っていたもの」

『不法献金で得たお金を使うことをどう思っていますか？』

「私は不法献金によって得たお金を使うこと自体に反対よ。法律を守って正しく生きることが重要だものね。夫がそれをやっていたことを知った時は驚きと怒りでいっぱいだったわ。
　でも、夫が殺されたことについては、犯人に対しても同様に非難するわ。私たちは法律を守り、正しい手続きを踏んで事件を解決するべきだもの」

『殺人犯は正当に裁かれるべきでしょう。ですが不法に得た金を使ったあなたもまた裁かれるべきではないですか？』

「ええ、あなたが言うように、殺人犯は正当に裁かれるべきよ。そして、不法献金を受け取り、それを利用することは違法行為だわ。私はそのような行為をすることを許容するつもりはありません。
　でもね、私は夫の行動を知っていたわけでもないし、私自身が犯罪に加担したわけでもない。だから、私には裁かれるべき罪なんて無いわ！」

『なるほど、わかりました。
　さて、犯人であるネイサンは、あなたの夫以外にも多くの不当行為を行っていた人物を殺害しています。これについてどう思いますか？』

「私は、ネイサンを非常に憎んでいるわ。それでも、法律に従って正当に裁かれるべきだと思うの。
　また、私は彼が殺人を犯す前に、彼を止めることができた何かがあったのではないかしら」

『もしネイサンを止める方法があったとすれば、それは何だと思いますか？』

「私は正義が必要だと思うけれど、暴力を行使することは避けるべきだわ。もしネイサンを止める方法があるとすれば、警察に通報することじゃないかしら。それから、社会的な問題を根本から解決するためには、政治家や企業に対する監視と監督が必要だと思うわ」

『ネイサンにも家族がいます。彼らについてどう思いますか？』

「私は彼の家族についてはあまり考えたことがないけれど、彼が犯した罪を償うことは避けられないと思うわ。
　彼の家族が彼の犯罪に関与していない限り、彼らは自由に生きる権利があると思うけど、彼が犯した罪の重大さについても理解してほしいわね」

『もしあなたの目の前にネイサンがいて、あなたは彼に何でもしていいと言われたらどうしますか？』

「私は法に従い、彼を逮捕することを選ぶわ。私たちは法の下で行動するべきであり、私たちは私的な復讐に頼るべきではないの。私たちは社会における倫理的な行動を守ることが必要だわ」

『わかりました。ネイサンは恐らく死刑になると思います。それだけ重大な犯罪をしました』

「ええ、法律に従って裁かれるべきね。事件の被害者やその家族にとっても、公正な裁判が行われることが重要だと思うわ」

『ネイサンが死刑になる前に何か伝えたいことはありますか？』

「私は彼に伝えたいことは何も無いわ。
　私にとっては、夫を殺したネイサンはただの罪人であり、何か喋るべき存在じゃないもの」

『わかりました。事情聴取はこれで終わりです。ご協力に感謝します、エリザベス』

「どういたしまして」