敗北者

東園寺和響

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vol12「俺はついに、禁断のアルバイトをしてしまった…」

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息の詰まりそうな栗の花の匂いも和らぎ、むせ返るような暑さが寮を覆う。春のリーグ戦を終え、八月上旬から地獄の夏合宿に突入する。その前に春学期の試験があることから、全体練習ではなく、各自のトレーニングに任せられる期間となる。門限もなくなる為、普段鎖に繋がれた猛獣どもは、己の欲望を満たすために娑婆を蹂躙する。受講科目が少ない上級生は、早々と地元に帰るため、部屋は下級生だけになることが多い。いつだか、授業を受けようと大学に向かったが、休講だった為、寮に戻ってきた時があった。そっと部屋に入ると先輩が全裸になり、性器を扱いていた。俺の存在に気付くと慌ててカーテンを閉めた。或日、二年生の丸山さんから、短時間で数万円稼げるアルバイトがあると誘われた。翌日、丸山さんと新宿歌舞伎町にある居酒屋に向かった。駅の改札口から地上に上げると、生ごみと香水が混じった空気が顔面を襲う。「おー丸山君、こっち、こっち」奥の席から眼鏡の中年男が呼んでいる。騒がしい中でも良く通る声である。近づくと色白で巨漢だった。もう飲んでいるのか、頬がピンク色に染まっている。まるで桃豚のようだ。
「好きなだけ飲んで食べていいから。お姉さん。とりあえず生ビール三つね」
「武藤さん。こいつが田子作です」
「あっ田子作です」
「話は丸山君から聞いているよ。宜しく」状況を飲み込めないまま、脂と汗にまみれた手と握手させられた。
「いいもの持っているらしいね」
武藤さんは俺の反応を間接的に確かめる為、丸山さんに尋ねた。
「はい、デカイですよ」
「ほー。エティ君もいいもの持っているけど、それよりも凄いの!」
「はい、エティと同じくらいです」エティとは二年生の大塚さんで、エチオピア人に似ていることからエティと呼ばれている。ラグビーや大学の授業は二の次で合コン、女、性交が最優先の人間である。合コンに行くたびに女の子を持ち帰っている。その成功率は八〇パーセントとかなんとか自慢げに吹いていた。経験人数も百人を超え、噂によればニューハーフと絡んだという豪の者である。
「実は、このバイトでお前の部屋長、山田さんとエティは絡んだことあるよ」
「マ、マジすか~。歌舞伎町の雰囲気に飲み込まれ、こんな会話も何故か普通に思えてくる。東京に来てから感覚が麻痺してきた。三杯目のビールが運ばれてきた。武藤さんは大学ラグビー事情に詳しかった。「M大学の〇〇は練習試合で膝をやってしまった。今シーズンは無理だろう」「A大学は監督とOB会が揉めている。多分解任されるだろう」「H大学の〇〇にはレイプ疑惑がある。OB総出でもみ消しに走っている。あそこの大学出身者はマスコミや弁護士関係多いからな。かなり手を回しているみたい」こういった情報をどこで入手しているのか不思議だ。俺は武藤さんをラグビー関係者だと思ったが、関係ない人だった。なぜか少し安心した。この安心感を相手に醸成させる手法は、武藤さんのテクニックなのだろう。上京したての若者はまんまと騙される。
「ところで、丸山君。田子作君は今日やるの?」武藤さんの顔は真っ赤になっていた。あーそうか、まだ話していなかったな。丸山さんは笑いながら俺の肩を揉みだした。もう左肩の三角巾はつけていなかったが、とても痛かった。









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