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08「二人目の落第ガール」
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「ぁぁぁぁーっっ!!」
レイラとの城下町デートの次の日。
俺は枕に向かって叫んでいた。
「恥ずかしいっっ! なんだよ『なにも言わなくて良い……今日は凄く楽しかったよ。そのブローチも、レイラも凄く綺麗だ。これからも、よろしくな』だよ!! どこの優男やねん! いくら気持ちが昂っていたとはいえ、流石にキモ過ぎる! 穴が入ったら暮らしたい!」
昨日の失態を思い出しては、長年愛用している枕に愚痴を何度も溢した。この枕は実家から持ってきてた私物。俺は枕が変わると中々寝付けないタイプの人間なのだ。
まあしかし、幸いなのは、今日から別の子のお試しが始まるので、レイラと顔を合わせる時間が少し空く事だ。
正直、どんな顔をして会えば良いのか分からないので、頭を冷やす時間が出来たのは有り難い。
それにしても、レイラが去年噴水前で助けた子だったとは思わなかった。
あの時は変装していたのか、もっと地味な感じだったから分からなかったが、妖精のブローチを見た瞬間色々思い出した。
彼女の香り、感触、声、瞳。
あの時の事が鮮明にフラッシュバックしてきた。
レイラって、良い香りがするし柔らかくて声も可愛いんだよな……あれ? 俺ってもしかして……。
「いやいや! 余計な事を考えるのはやめだ! 今は落第ガール達を、無事に期末試験で合格させる事だけ考えろ!」
桃色な思考をなんとか切り替え、次の落第ガールに会うため学園長室に向かう事にした。
次の落第ガールは、アドアリア帝国の第二皇女だ。事前に聞いている情報だと、かなり厄介な人物だが……。
「第二学年ジェスです。失礼します」
学園長室をノックし中に入ると、強張った顔の学園長がこちらを睨んでいた。
「遅かったわね、ジェス君?」
「そうですか? まだ約束の時間には十分ほど余裕がありますが」
「そういう事じゃないのよ! ふん、ふんっ」
「鼻息荒いですよ。闘牛にでもなったんですか?」
鼻息を荒くし、必死にとある場所をアピールする学園長。まあ、とっくに気づいているんだけどね。
「ああ、もう来てたのか。俺は二年のジェスーー今日から君の家庭教師を務める事になっている。まあよろしく」
「……ふ」
ソファには、青い髪をした美少女が優雅に紅茶を飲んでいた。そう、彼女こそーー
「私を待たせるとは良い度胸だ。私が誰だか、分かってるのか?」
女性らしい澄んだ声からは、怒気を含んだ重圧な言葉が飛んでくる。
その迫力にちょっとビビったが、ここで怯んでは計画が台無しだ。頑張れ、俺!
「ろくに授業も受けようとしない問題児で、魔法をセンスだけで乗り切ろうとしている馬鹿。一年のナミアだよな?」
俺のふてぶてしい物言いに、学園長は顔を青くし、ナミアは顔を赤くしてこめかみがピキピキしている。
今回は、レイラの時みたいに穏やかな雰囲気で始めるつもりはない。
ナミアは大陸でも力を持つアドアリア帝国の第二皇女。しかもアドアリア帝国は、代々女帝が国を治めている珍しい国。
という事は、ナミアは第二継承権を持つ重要人物だという事。その地位は重く、あまりにも畏れ多い。だからこそ、彼女とは対等な関係から始めらければいけないのだ。
「お前、この世から消えたいみたいだな」
「そんな訳ないじゃん。てかさ、俺の方が先輩で家庭教師だし、ナミアはジェス"先輩"か"先生"って、呼ばなきゃダメだろ? 帝国では、そんな常識も教わってないのか?」
「てめぇ……」
うわ、ナミアの青筋が凄い勢いで増殖していく……。
さて、問題はここからどのパターンで来るのかだ。一対一で喧嘩になるのか、それとも権力を傘に俺を潰しに来るのか。俺としては、前者だと助かるんだがな。
「表でろ、ぶち殺してやる」
よし! 前者で来てくれれば話が早い。
「おう、ちゃんとハンカチ持ってけよ? 泣かれても困るしな」
「……殺す」
おー、怖っ。なんなん? この子ヤンキーか何かですか? まあ、事前に聞いていた通り、男勝りでやんちゃガールみたいだな。
ナミアは帝国でもかなりの問題児で手がつけられないそうだ。聞けば、かなりの武闘派らしく、帝国の聖騎士が束になっても彼女には歯が立たないとか……。
お忍びで冒険者になって、一月も経たずにトップクラスの仲間入り。他にもかなりの武勇伝があるらしいが、彼女と喧嘩をする事になった今は、あまり考えないでおこう。
「さあ、かかって来な!」
中庭に出ると、ナミアが敵意剥き出しで戦闘態勢を取る。
「その前に結界を張る。学園長もお願いします」
「ええ、それは良いけど……」
付いてきた学園長に結界をお願いすると、ナミアに聞こえないように俺の耳元でブツブツと苦言をていしてきた。
「やめといた方が良いと思うのだけど……相手は帝国の皇女様だし、なにかあったら取り返しがつかないわよ?」
「分かってますし、これも計画の内です。というか、帝国の皇女だったら、適当に進級させて卒業させても問題ないのでは?」
「それがそうもいかないのよ。理由は分からないけど、向こうの女帝様から絶対に忖度や特別扱いするなって、お達しがあるの……」
「そうですか……」
「お前ら、なにをコソコソ話しているんだ? 来ないならこっちから行くぞ!」
コソコソ話しているのが気に食わなかったのか、ナミアは青筋を立てながら突っ込んで来る。
「ひぃっ、絶対に怪我なんてさせちゃダメよ!」
そう言い残し、慌てて退避する学園長。
最初にあったナミアとの距離があっという間に詰まる。かなり早い。恐らく、何らかの魔法を駆使していると思われる。
「先ずはお前の力を試す! 一発でくたばるなよ」
握られた拳が振り上げられる。
その拳は、石のような固い物質で覆われていた。
「おっと!」
拳が向かって来る前に両手を上げ、ガードの体勢を取った。
ガキンッッ!!
金属同士がぶつかる衝撃音。ナミアから放たれた凄まじい拳の威力で、思わず後ろへ少し下がってしまった。
いやまあしかし、同じように両手を魔法で覆っていなければ骨は粉々だったな……。
「なっ、お前も使えるのか!?」
俺が両手を【ストーンウォール】の改良版である【ストーンガード】で覆った事に驚きを露わにするナミア。
「まあな。この技術を使えるのは、帝国だけじゃないって事さ」
「ちっ、小癪な」
ナミアが驚いていたのには、訳がある。
元来、魔法には二つの使い道がある。
"放出"と"練成"ーー
放出は言葉通り、火を放ったり、竜巻を作って攻撃したりする事。
そしてもう一つの練成は、練り上げた効果を自分に付与させる事を言う。簡単に言うと、身体能力を上げたり、空を飛んだり、様々な効果を得る事が出来る。
そんな便利な練成だが、現在使用出来るのは、賢者の称号を持つ魔導士のトップや、アドアリア帝国の一部皇族と聖騎士の一握り。
要は、特別な者だけが行使できる一子相伝の秘術ーーのような括りになってしまっているのだ。
まあ俺は、そんな練成を研究の末に使用可能になり、付与魔術と呼んで使っている。今は専ら、他者に対しても付与魔術を使えないか研究中だ。
「お前が何故、我が帝国の秘術を使えるか分からんが、所詮は真似事ーーその生意気な口を黙らせてやるっっ!!」
「こりゃまた……」
吠えたナミアの両手には、プラチナに光る籠手が嵌められていた。見るからに固そうだし、あれで殴られたら大変な事になる。
まあ、あくまでも"生身"でだが。
「"ナックルバースト"!!」
ナミアが右拳を俺に向けて振るうと、そこから衝撃波のようなものが飛んでくる。
「うぉっ!」
慌ててストーンガードで防いだが、纏わせていたものがパリパリと欠け落ちていくのを感じ、ゾッとした。
「ほう、これも防ぐか……ならばっっ!!」
正直驚いた。まさか帝国の練成術が、ここまで昇華されたものだとは思っていなかった。いや、もしかしたら、ナミア自身の天性で昇華させたのかもしれない。
練成によって練り上げた無属性のエネルギーを、放出によってぶつける。これがどれだけ難しい事か、言葉では言い表せない。
恐らく、練成と放出をここまで巧みに使えるのは、ナミアと賢者ぐらい。そしてーー
「これは色々聞く楽しみが出来た。さっさと勝って、お楽しみといこうかーーナミア!」
「ふっ、勝負だーージェス!」
俺はその練成と放出を、もっとも昇華させたと自負している。
レイラとの城下町デートの次の日。
俺は枕に向かって叫んでいた。
「恥ずかしいっっ! なんだよ『なにも言わなくて良い……今日は凄く楽しかったよ。そのブローチも、レイラも凄く綺麗だ。これからも、よろしくな』だよ!! どこの優男やねん! いくら気持ちが昂っていたとはいえ、流石にキモ過ぎる! 穴が入ったら暮らしたい!」
昨日の失態を思い出しては、長年愛用している枕に愚痴を何度も溢した。この枕は実家から持ってきてた私物。俺は枕が変わると中々寝付けないタイプの人間なのだ。
まあしかし、幸いなのは、今日から別の子のお試しが始まるので、レイラと顔を合わせる時間が少し空く事だ。
正直、どんな顔をして会えば良いのか分からないので、頭を冷やす時間が出来たのは有り難い。
それにしても、レイラが去年噴水前で助けた子だったとは思わなかった。
あの時は変装していたのか、もっと地味な感じだったから分からなかったが、妖精のブローチを見た瞬間色々思い出した。
彼女の香り、感触、声、瞳。
あの時の事が鮮明にフラッシュバックしてきた。
レイラって、良い香りがするし柔らかくて声も可愛いんだよな……あれ? 俺ってもしかして……。
「いやいや! 余計な事を考えるのはやめだ! 今は落第ガール達を、無事に期末試験で合格させる事だけ考えろ!」
桃色な思考をなんとか切り替え、次の落第ガールに会うため学園長室に向かう事にした。
次の落第ガールは、アドアリア帝国の第二皇女だ。事前に聞いている情報だと、かなり厄介な人物だが……。
「第二学年ジェスです。失礼します」
学園長室をノックし中に入ると、強張った顔の学園長がこちらを睨んでいた。
「遅かったわね、ジェス君?」
「そうですか? まだ約束の時間には十分ほど余裕がありますが」
「そういう事じゃないのよ! ふん、ふんっ」
「鼻息荒いですよ。闘牛にでもなったんですか?」
鼻息を荒くし、必死にとある場所をアピールする学園長。まあ、とっくに気づいているんだけどね。
「ああ、もう来てたのか。俺は二年のジェスーー今日から君の家庭教師を務める事になっている。まあよろしく」
「……ふ」
ソファには、青い髪をした美少女が優雅に紅茶を飲んでいた。そう、彼女こそーー
「私を待たせるとは良い度胸だ。私が誰だか、分かってるのか?」
女性らしい澄んだ声からは、怒気を含んだ重圧な言葉が飛んでくる。
その迫力にちょっとビビったが、ここで怯んでは計画が台無しだ。頑張れ、俺!
「ろくに授業も受けようとしない問題児で、魔法をセンスだけで乗り切ろうとしている馬鹿。一年のナミアだよな?」
俺のふてぶてしい物言いに、学園長は顔を青くし、ナミアは顔を赤くしてこめかみがピキピキしている。
今回は、レイラの時みたいに穏やかな雰囲気で始めるつもりはない。
ナミアは大陸でも力を持つアドアリア帝国の第二皇女。しかもアドアリア帝国は、代々女帝が国を治めている珍しい国。
という事は、ナミアは第二継承権を持つ重要人物だという事。その地位は重く、あまりにも畏れ多い。だからこそ、彼女とは対等な関係から始めらければいけないのだ。
「お前、この世から消えたいみたいだな」
「そんな訳ないじゃん。てかさ、俺の方が先輩で家庭教師だし、ナミアはジェス"先輩"か"先生"って、呼ばなきゃダメだろ? 帝国では、そんな常識も教わってないのか?」
「てめぇ……」
うわ、ナミアの青筋が凄い勢いで増殖していく……。
さて、問題はここからどのパターンで来るのかだ。一対一で喧嘩になるのか、それとも権力を傘に俺を潰しに来るのか。俺としては、前者だと助かるんだがな。
「表でろ、ぶち殺してやる」
よし! 前者で来てくれれば話が早い。
「おう、ちゃんとハンカチ持ってけよ? 泣かれても困るしな」
「……殺す」
おー、怖っ。なんなん? この子ヤンキーか何かですか? まあ、事前に聞いていた通り、男勝りでやんちゃガールみたいだな。
ナミアは帝国でもかなりの問題児で手がつけられないそうだ。聞けば、かなりの武闘派らしく、帝国の聖騎士が束になっても彼女には歯が立たないとか……。
お忍びで冒険者になって、一月も経たずにトップクラスの仲間入り。他にもかなりの武勇伝があるらしいが、彼女と喧嘩をする事になった今は、あまり考えないでおこう。
「さあ、かかって来な!」
中庭に出ると、ナミアが敵意剥き出しで戦闘態勢を取る。
「その前に結界を張る。学園長もお願いします」
「ええ、それは良いけど……」
付いてきた学園長に結界をお願いすると、ナミアに聞こえないように俺の耳元でブツブツと苦言をていしてきた。
「やめといた方が良いと思うのだけど……相手は帝国の皇女様だし、なにかあったら取り返しがつかないわよ?」
「分かってますし、これも計画の内です。というか、帝国の皇女だったら、適当に進級させて卒業させても問題ないのでは?」
「それがそうもいかないのよ。理由は分からないけど、向こうの女帝様から絶対に忖度や特別扱いするなって、お達しがあるの……」
「そうですか……」
「お前ら、なにをコソコソ話しているんだ? 来ないならこっちから行くぞ!」
コソコソ話しているのが気に食わなかったのか、ナミアは青筋を立てながら突っ込んで来る。
「ひぃっ、絶対に怪我なんてさせちゃダメよ!」
そう言い残し、慌てて退避する学園長。
最初にあったナミアとの距離があっという間に詰まる。かなり早い。恐らく、何らかの魔法を駆使していると思われる。
「先ずはお前の力を試す! 一発でくたばるなよ」
握られた拳が振り上げられる。
その拳は、石のような固い物質で覆われていた。
「おっと!」
拳が向かって来る前に両手を上げ、ガードの体勢を取った。
ガキンッッ!!
金属同士がぶつかる衝撃音。ナミアから放たれた凄まじい拳の威力で、思わず後ろへ少し下がってしまった。
いやまあしかし、同じように両手を魔法で覆っていなければ骨は粉々だったな……。
「なっ、お前も使えるのか!?」
俺が両手を【ストーンウォール】の改良版である【ストーンガード】で覆った事に驚きを露わにするナミア。
「まあな。この技術を使えるのは、帝国だけじゃないって事さ」
「ちっ、小癪な」
ナミアが驚いていたのには、訳がある。
元来、魔法には二つの使い道がある。
"放出"と"練成"ーー
放出は言葉通り、火を放ったり、竜巻を作って攻撃したりする事。
そしてもう一つの練成は、練り上げた効果を自分に付与させる事を言う。簡単に言うと、身体能力を上げたり、空を飛んだり、様々な効果を得る事が出来る。
そんな便利な練成だが、現在使用出来るのは、賢者の称号を持つ魔導士のトップや、アドアリア帝国の一部皇族と聖騎士の一握り。
要は、特別な者だけが行使できる一子相伝の秘術ーーのような括りになってしまっているのだ。
まあ俺は、そんな練成を研究の末に使用可能になり、付与魔術と呼んで使っている。今は専ら、他者に対しても付与魔術を使えないか研究中だ。
「お前が何故、我が帝国の秘術を使えるか分からんが、所詮は真似事ーーその生意気な口を黙らせてやるっっ!!」
「こりゃまた……」
吠えたナミアの両手には、プラチナに光る籠手が嵌められていた。見るからに固そうだし、あれで殴られたら大変な事になる。
まあ、あくまでも"生身"でだが。
「"ナックルバースト"!!」
ナミアが右拳を俺に向けて振るうと、そこから衝撃波のようなものが飛んでくる。
「うぉっ!」
慌ててストーンガードで防いだが、纏わせていたものがパリパリと欠け落ちていくのを感じ、ゾッとした。
「ほう、これも防ぐか……ならばっっ!!」
正直驚いた。まさか帝国の練成術が、ここまで昇華されたものだとは思っていなかった。いや、もしかしたら、ナミア自身の天性で昇華させたのかもしれない。
練成によって練り上げた無属性のエネルギーを、放出によってぶつける。これがどれだけ難しい事か、言葉では言い表せない。
恐らく、練成と放出をここまで巧みに使えるのは、ナミアと賢者ぐらい。そしてーー
「これは色々聞く楽しみが出来た。さっさと勝って、お楽しみといこうかーーナミア!」
「ふっ、勝負だーージェス!」
俺はその練成と放出を、もっとも昇華させたと自負している。
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