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09「勝負の行方」

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「練成武装!」

 ナミアの言葉と同時に、プラチナに輝く肘当てや膝当てが武装されていく。極め付けに足の甲まで輝いてる。あれでは正に全身凶器だ。

 全ての攻撃が一撃必殺の威力。

 それに加えて身体能力まで上げているっぽいから、これは確かに強いなと納得した。

 だが、こちらも負けてはいられない。

「随分物々しい風貌だな。ほら、かかって来いよ」
「生意気な奴め、その減らず口を黙らしてやる!」

 俺の安い挑発に乗って攻めて来るナミア。
 やっぱり、彼女は脳筋だ。
 だけど、その天性のセンスは本物。

 これでしっかり基礎を学び極めていけば、彼女には俺でも太刀打ち出来なくなるかもしれない。

 まあ、やる気になればだけどね。
 やる気にさせるには、計画通り事を運ばねば。

「喰らえ! 【オールコンバット】!!」

 名前の通り、体全てが凶器。
 殴る蹴る、エルボー、膝撃ち。

 その一撃一撃は、喰らえば昇天間違いなしの威力。俺はその全てをーー

「な、なぜ効かない!?」

 吸収した。

 要するに、ナミアが纏った魔法を自分の魔導路へと吸い取り、それと同時に【ストーンガード】を発動して発散させていたのだ。

 ナミアが放っているのは、あくまで"魔法"の一部なのだ。元々の攻撃力は女性の中でも強いぐらいだろう。魔法による強化が無ければ、男と女の筋力の差が出てしまう分、俺に有利だった。

「ごめんな。俺に"ソレ"は効かないんだよ」
「一体どういう事だ! 今まで一度だって……」

 一度たりともこんな状況になった事が無いのだろう。今まで自分に敵う者など居らず、天下を無双していた筈だ。

「じゃあ、こっちも行くぞ?」
「くっ、負けるか!」

 俺はナミアに駆け寄ると、その懐へ飛び込んだ。

「な、何をしているっ!?」
「何って、抱きついてんだけど」

 言うなればクリンチ。ナミアの背中へ手を回して抱きついた俺は、とある魔法を発動する。
 
「そんな馬鹿な……力が抜けていくだと……」
「んじゃ、決着付けようか!」

 俺が発動した魔法とは、相手の体に触れる事で魔力を吸収する【ドレインタッチ】というオリジナル魔法だ。

 因みに、ナミアの攻撃を吸収した時も同じ魔法を使っている。相手の魔力を吸えると言う事は、逆に相手に与える事も出来る技術だ。


 この技術を応用すれば、様々な効果を他者に付与出来そうな気がする。目下研究中の技術という訳だ。

「それっ!」
「きゃっっ」

 足をかけてナミアを転ばすと、予想外の可愛らしい悲鳴が聞こえくる。

 ナミアが頭を打たないよう、自分が下になりながら地面へダイブ。そこから反転してナミアへ覆い被さった。

 簡単に言うと、マウントポジションだ。
 抵抗されないよう、手首も軽く抑えつけている。

「結構呆気なく終わったね?」
「くぅっっ……」

 俺を睨みつつ、下唇を噛んで悔しそうにするナミア。そのうち、目に涙が溢れ……泣いてる!?

「うぅっ、初めて負けたぁっっ、悔じぃよぉっっ」
「いや、えっ? あ、おぉ……」

 予想外の涙に思わずテンパってしまった。
 まさかこんなに気の強いナミアが悔しくて泣くとは……。

「ああー、ジェス君が女の子泣かしたー」
「ちょっと学園長! ふざけてないでどうしたら良いか教えて下さいよ!」

「どうしたらって……慰めれば良いじゃない」
「ええ……」

 慰めるったって、女の子の慰め方なんて知らないんだが……。とりあえず、子供をあやす感じでいってみるか?

 ものは試しと、手首の拘束を解いてナミアの頭を優しく撫でてみた。

「よ、よしよし、大丈夫だぞ~」
「大丈夫ぢゃなぃ! 負けだぁぁっっ」

「そうだな、負けちゃったな。でも、これからお兄さんに勉強や魔法を教われば、もっと強くなれるぞー」
「ほ、ほんとにぃ?」

「あ、ああ。お兄ちゃんがナミアを世界一強くしてやろう」
「お兄ちゃんより?」

 な、なにこれ?
 なんでこの子幼児退行してんの?

 まあ、お兄ちゃんって呼ばれるのも悪くないけどね!

「ぢゃあ、お願いするぅ」
「よし、これからよろしくな」

「頼んだぞ兄貴」
「あ、素に戻った。でも呼び方は兄貴なんだ」

「なんの事だ? それより早く退いてくれ。それとも、この場で犯す算段か? 悪いがまだ孕みたくはないのだが。ああ、実はそっちの家庭教師か」
「ち、違う! 退きます、すぐ退きます! てか、女の子がそんなハレンチな事言っちゃダメだぞ!」

「ふ、我が家は女系でな。普段からこんなものだ」
「だからって……」

 俺が顔を真っ赤にしてナミアから退くと、勝ち誇った顔で鼻を鳴らしていた。

「いやはや、学園は窮屈でな。中々素を晒す事が出来なかったが、兄貴は器もデカそうだし普段通り過ごせそうで僥倖だ。ナニの方もデカいのか? ふははは!」
「もうやだこの子!」

 何なんだよコイツ! さっきは幼児化して今度は下ネタのきついオッサン化。ギャップが凄すぎて疲れるんだが……。

「とりあえず、今からナミアの苦手な部分を見たいから空き教室まで行くぞ」
「苦手な部分? 空き教室? ほほう、一体何をされるのかな?」

「絶対違うからな! そっちじゃないからな!」
「今は学園長の前だ。そういう事にしておこう」

 ダメだコイツ、早くなんとかしないと……。

「あ、後は任せたわよっっ」

 助けを求め学園長を見たが、シュタッという軽快な身のこなしで去って行った。
 
 まあ、とりあえず計画は順調だし、魔法の方は元々のセンスがあるから問題ないとして、課題になるのは学力の方か。

 まさか帝国の第二皇女様だし、基本的な教養はある筈。と、安易にフラグを立ててしまった事を激しく後悔した。


「このシュバルツって誰だ?」
「三百年前に帝国を救った英雄だろ! てか、その後皇族に婿入りしたんだからナミアのご先祖な!」

「あ~、なるほど」
「因みに、掛け算割り算ぐらいは分かるよね?」

「馬鹿にするな。9×9=18だろ!」
「それは足し算の結果だ! 81な!」

「逆から読むのか!」
「違う違う違う、そうじゃない……」

 お、思った以上に馬鹿だった。
 まさかここまで酷いとは……。

 前世の記憶から言えば、小学二年生ぐらいの学力しかない。不味い、非常に不味い。

 ここから期末試験の合格点を取らせるとなると、並大抵の勉強じゃ追いつかない。しかも当人は、勉強に対して全く興味がなくやる気もないので、全然頭に入っていかないようだ。

 これはどうしたものか。
 少し計画を見直す必要が出来てしまった。

「とりあえず、今日はここまでにしよう。今後の計画を立てて明日から本格的に指導するよ」
「おう! それで、弱点を責めてヒイヒイ言わせるんじゃなかったのか?」

「そんな事言っとらんわ! 勉強の弱点な! お陰で全部弱点なのがわかりました!」
「そこまで性感帯を把握されると少し照れるな」

「そんなとこ把握しとらん!! もう良い加減にしてぇっ……」
「はっははは! 兄貴は以外とウブだな!」

 苛烈な下ネタに心身が衰弱してきた時ーー

「し、失礼しまーすぅ」

 レイラが教室へやって来た。

「お、レイラ、どうしたんだ?」
「いや~、もう一人の子が気になって……これから一緒に勉強する人だし……って!? ナミア皇女殿下!?」

「うむ、私はナミアだ。君は誰だね」
「は、初めまして! レイラ=ヴァルヘイムと申します!」

「ああ、ヴァルヘイムの姫君だったか。これは失礼した」
「いえいえ! こちらこそ急な訪問をお詫びいたします!」

「まあそんな恐縮するな。ところで、もう一人の子という事は、レイラ殿も"婿殿"に教えを」
「あ、はい! ……ん? 婿殿?」
「それって、俺の事?」

 時が止まるとはこの事か。俺とレイラは、爆弾発言をしたナミアを凝視して言葉を待つ。そしてゆっくりと、小悪魔っぽい笑みを浮かべたナミアが口を開いた。

「あんな事をしておいて責任を取らないと?」
「別に変な事はしてないだろ!」
「一体何があったのか詳しく!」

 やめてレイラ。詳しく聞いたって、どうせ碌な事を言わないのは分かりきっている。

「私の上に覆い被さり」
「覆い被さり!?」

「初めてを奪われた」
「初めてを奪われた!?」

「ちょっとジェス君! どういう事ですか!」
「いや、ちょっと語弊があってね……」
「ふっ、嘘は言ってない。今だって、私の弱点を探したいからと、ここに無理矢理連れ込まれてな。私の弱点を責めたいそうだ」

「弱点を責めるっぅ……」
「ナミア! 頼むからそれ以上喋るな!」

 顔を真っ赤にして湯気を出すレイラ。きっと彼女の頭の中は、今頃ピンクな妄想で一杯な事だろう。

 それから誤解を解くため必死に詳細を伝え、なんとかレイラが納得したのは、もう夕方近くの事だった。

「分かってくれたか?」
「とりあえず納得はしましたが、まだ不可解な事が」

「不可解? なにがだ?」
「ナミア様が、ジェス君を婿殿って呼んだ事です」

 確かに、それは俺も気になっていた。
 
「おい、ナミア起きろ」
「……ふぇ? 寝込みを襲うのかぁ?」

 レイラへの長時間に及ぶ説明に飽きて、よだれを垂らして寝ていたナミアを起こし、事情を聞く事にした。

「ああ、それなら簡単な事だ。我が家は、勝負に負けた相手を婿に迎える事になっている。優秀な血を取り入れる効率的なやり方だ。これは何百年にも及ぶ伝統だから、絶対に逃げられんぞ? ひひひ」
「う、嘘だろ……」
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