転生した私は人間不信の勇者と村を出る

スノウ

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どうやら転生したようです

私が生かされている理由

 
 私は今日の出来事をゆっくりと振り返っていた。

 まさか、ここが【果てなき終焉のファンタジア】の世界だったなんて、想像もしていなかった。……いや、まだ確定はしていないんだけどね。

 村の北に洞窟はあるのだろうか。もしそこにモンスターが住み着いているのならば、それは今は力を失っている魔王だ。

 アンセルが18歳になった頃、魔王は力を取り戻し、手始めに近くにあったこの村を焼き払うのだ。
 

 今のアンセルは10歳くらいの見た目だった。仮に彼が10歳だとするならば、これから8年後のある日、魔王は力を取り戻すということだ。復活した魔王が村を焼き、アンセル以外の村人は全滅する。

 魔王か……ゲーム内のモノローグでは力を取り戻したって書かれていたけれど、どうやって取り戻したかまではは言及されていなかった。ある日突然力を取り戻すのだ。

 
「あ!もしかして……!!」


 あるひとつの仮説が私の頭を過ぎった。

 とても嫌な想像だ。
 

「私……もしかして、魔王に捧げられるいけにえだったりする?」


 魔王が力を得るといえば『いけにえ』だろう。……安直だろうか。いや、この予想は外れていたほうが嬉しいものだ。きっと私の考え過ぎに違いない。

 ……そう思いたいが、私が『いけにえ』かもしれないと考える理由は他にもある。

 私は上に着ているシャツを下着ごと捲りあげた。

 6歳のストンとした体が露わになる。幸い両親から体罰などは受けていないので、体が痣だらけ、などということはない。ないのだが、私のおへその上あたりには、500円玉くらいの大きさの真っ黒い紋様のようなものがくっきりと浮かび上がっている。どう考えても、これは自然にできた痣などではないと思う。
 この紋様は私が転生に気づいた時には既に体についていたもので、おそらく生まれた時からあったのだと思われる。

 これは何だろうな、と気にはなっていたのだが、人間とは慣れる生き物で、触っても痛くもないし、擦ってもまったく取れないことで、だんだんとこの紋様への関心が薄れていった。





 そして数年経った現在。この世界は【果てなき終焉のファンタジア】の世界かもしれないわけで、もしそうであるなら、この村の北にある洞窟に魔王が潜んでいることになる。そうなると、この痣が魔王に捧げられるいけにえの証のように見えてきてしまう。


 私がいけにえならば、両親の私に対する扱いも説明がつく。
 
 私がいずれ魔王に捧げられる予定の存在ならば、来るべき時までは元気で生きていてもらわなければならない。

 しかしその一方で、私は近い将来死ぬことが決まっていることになり、しつけや教育などを施しても無駄に終わるどころか、余計な知恵をつけられれば逃げられる可能性も出てくる。故に教育には全く手を着けなかったのではないかと思われる。


 これで両親の私への扱いについては説明できるが、同時に疑問点も浮かんでくる。



 人間である両親が、何故魔王の言いなりになって我が子を差し出そうとしているのか、という疑問だ。

 魔王に脅されて仕方なく従っている……という可能性は無いだろう。私への扱いを見れば、私に愛情なんてものを抱いていないことはひと目でわかる。酷い扱いをしていることを心苦しく思っている様子もない。


 では、魔王に操られているのだろうか?


 その可能性がないとは言えないが、私はそうではないような気がしている。

 私が見る限り、両親は自分の意思で行動しているように見えるのだ。不自然にぼんやりしていたり、何かの命令をリアルタイムで受信しているといった様子もなかった。

 とはいえ、私との接触は一度につきほんの数分の短い間でしかないので、確かな事であるとは言い切れない。

 しかし、魔王は洞窟に隠れなければならないほどに力を失っているはずだ。人を操れるのならば、もっと早くに復活できそうな気もする。


 一番考えたくないのは、魔王と両親が利害関係で繋がっているパターンだ。

 この場合、おそらく村ぐるみで私をいけにえに差し出すことを黙認しているものと思われる。


 金銭か何かを見返りに渡す代わりに、村からいけにえ(私)を1人差し出す。


 報酬がいくらであろうと、普通の親ならば我が子を差し出すことはないだろう。
 しかし、私はあの両親を間近で見て人となりを知っている。だからこそ、有り得ないことではないと思う。


「はぁ…………」


 思わず深いため息がこぼれてしまった。


 もうこれ以上この考えを深掘りするのは精神的にキツイ気がする。

 念のため、引き続き村の大人たちには関わらないように注意しよう。その他の事までは今は考えられそうにない。

 私はこっそりとあの山小屋でアンセルに会えればそれだけでいい。

 
「そうだ、今日習った文字の復習をしておかないと」


 私は【空間収納】から紙とペンを取り出した。
 紙はできればあまり使わずに残しておきたい。取り敢えず1枚だけ使って残りはとっておこう。


「ユ、ー、ニ、ス、っと。……ふふっ」


 私の名前。

 私は今日からユーニスだ。

 ふふっ、嬉しいなあ。


 残念ながら途中で外が暗くなってしまい、それ以上文字が書けなくなったので、紙に書いての復習は諦めた。そのかわりに、習った言葉を何度も口に出し、忘れないように復習した。

 明日は早起きして文字の練習をしよう

 私はそう決意を固め、早めにベッドへ入り眠りに就いた。





 翌朝、私はいつもより遅い時間に目が覚めた。

 昨日は早起きする気満々でいたのだが、さすがに疲れきっていた体は休息を欲していたようだ。

 朝までぐっすりと眠ったおかげで体調はすこぶる良さそうだ。今日も山小屋に行ってみようかな。


 私が今日の予定について考えを巡らせていると、この部屋へ向かってくる足音が聞こえた。 
 足音は部屋の前で止まり、いつも通りカチャカチャという開錠の音が響く。


「………っ!!」


 私は思わず身構える。

 昨日私と別れた後、アンセルが家族や他の村人に私のことを話していれば、少なくとも今日の朝には伝わっているだろうと思う。

 小さな村だ。全員が知り合いだろうし、情報が伝わるスピードも早いだろう。

 つまり、今日の母親の行動がいつもと違っていれば、昨日の私の脱走が両親にバレたと見なし、全速力でここから逃げなければならないということだ。


 たとえそれが無駄なあがきだとしても。


 ギィ……という音とともに扉が開かれる。

 無表情で部屋へと入ってきた母親は、緊張のあまりその場から一歩も動けなくなっている私を意に介する様子もなく、淡々と部屋の掃除をこなしている。それが終わるといつも通り私を着替えさせた。

 普通、この年齢であれば着替えは自分でするものだろう。しかし、ほとんど何のしつけも教育も受けさせてもらっていない私は、1人では着替えもできない……少なくとも両親の認識ではそういうことになっている。

 数少ない例外として、食事とトイレだけは自分でできるようにしつけられていたようだ。

 いや、それも私が普通に食事している様子を母が見ても何も言わないからそう思っているだけで、本当のところは両親しか知らないことである。トイレも同様の話だ。


 私を着替えさせた後は部屋のゴミと私が脱いだ服を持って一旦部屋を出ていく。もちろん鍵を掛けて。
 その後朝食と昼食を運び入れ、私が食べ始めるのを見届けた後、昨日の夕食のトレイを持って部屋を出ていった。

 鍵が掛かるガチャリ、という音とともに安堵の息を吐いた。


「これは、セーフってことでいいんだよね?」


 私が見た限りでは、母親の様子はいつもと変わらないようだった。いつもと同じ、無表情で淡々とした態度。そこに私への興味は微塵も感じられなかった。

 これは、アンセルが私のことを誰にも話していないと思っていいのではないだろうか。


「アンセル、ありがとう。本当にありがとう」


 あなたが黙っていてくれたおかげで、私は今後もひそかに家を出て活動することができそうだよ。

 安心したらお腹が空いてきた。そういえば朝食の途中だったね。……あ、そうだ。

 私はスープの皿を手に取り、【空間収納】を使った。

 今の時点ではスープはまだ熱かった。
 これを母親が再びやってくる夕食の前まで収納しておき、再びスープ皿を出した時にまだ熱いままであれば、【空間収納】に入れた物には時間停止効果があるということになる。
 ひょっとすると時間停止ではなく時間の流れがものすごくゆっくりになっているだけという可能性もあるが、それを調べるには長い時間が必要になるので今は考えない。


 もしも時間停止効果があるとわかれば、毎日の食事からパンなどの食器がなくても収納できそうなものを少しずつ【空間収納】ヘストックしていこうと思う。



 その後、紙とペンを【空間収納】から出して昨日の復習をした。

 アンセルから教わった単語はちゃんと忘れずにすべて覚えていたようで、ホッと胸を撫で下ろす。

 できることなら、この調子でどんどん言葉を覚えていきたいと思う。今日もアンセルは山小屋にいるのだろうか。

 約束したわけではないから、彼がいなくてもしょうがない。どちらにせよ、取り敢えず山小屋まで行ってみよう。



 私は昨日使った木箱をもう一度窓際まで運んだ。昨日回収できなかった木箱は今も外に置かれたままである。

 部屋の窓際に置いた木箱に登り、残りの木箱を外に置かれたままの木箱と重なるように窓から下ろしていく。これで外へ出るための準備は完了だ。……ん?待てよ?

 ……この木箱、重なったままで【空間収納】に入れられないだろうか。

 もしそれが可能であれば、昨日外に残したままだった木箱も回収できるかもしれない。


「よし、やってみよう」


 ドキドキしながら外の木箱ヘ手を伸ばし、重なった木箱をすべて収納するイメージで【空間収納】のスキルを発動させる。

 
「…………できちゃったよ」


 結果、重なった木箱も問題なくすべて収納できることがわかった。

 詳しい理屈はわからないが、重なっていたり繋がっていたりするものは、すべてを一つの物として収納することもできるし、そのうちの一つだけを収納することもできるようだ。
 どこまでを収納するかはスキル使用者の意思で決められるということだ。


 これで1つ懸念事項が片付いた。

 いつまでもあの木箱を外に出したままにはしておけなかったからね。良かった良かった。


 私は収納した木箱を再び取り出し、昨日と同じ手順で外へ出た。せっかく収納できるので、外の木箱も昨日のようにそのままにせずに【空間収納】ヘ仕舞っておく。


 さあ、今日は村をうろつかずに山小屋ヘ直行だ!
 

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