転生した私は人間不信の勇者と村を出る

スノウ

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旅立つふたり

戦士デリック



「おお!!兄さん見込みありそうな体つきしてるね!前衛か?俺とパーティ組もうぜ」

「誰だお前は。僕達は他の奴とパーティを組むつもりはない。他を当たってくれ」

「まぁまぁそう言うなって。俺はデリック。一応この店の跡取り息子なんだけどさ、本当は俺、あちこち回ってモンスター狩りをして生きていきたいんだよ」

「冒険者志望ということか」

「そーそー。なぁ、俺とパーティ組もうぜ。お前は鍛えれば絶対に強くなる。俺が保証するぞ」

「断る」

「そこをなんとか」

「くどい」


 目の前で延々と続く2人の応酬を見ながら、私は1人考える。


 この人、今デリックって名乗ったよね。それに、このツンツン尖った赤毛の短髪。うん、間違いない。この人はストーリー上で最初にアンセルの仲間になる〈戦士デリック〉だ。たしか、アンセルより2歳年下の16歳だったはず。

 キャラクター紹介で武器屋の息子だと書かれてはいたが、本来彼との出会いは武器屋の店内ではなかったはずだ。


 テラネの町の広場で商人から『国王が勇者を探している』という噂を聞いた勇者アンセルは、王都ヘ行くことを決意するのだが、偶然広場にいたデリックに「俺も一緒に王都ヘ連れていってくれ」と懇願され、彼を仲間にするのだ。

 作中のデリックはアンセルが装備している剣が聖剣であることをひと目で見抜き、アンセルを勇者だと知った上で声を掛けている。同行を申し出たのも『勇者についていけば自分もアンセルのように強くなることができるかもしれない』という理由からだった。

 パーティに加入してからは勇者アンセルを事あるごとにライバル視し、功を焦るあまり先走った行動が目立ち、その結果パーティを危険にさらす場面も多かった。デリックはパーティのムードメーカーであると同時にトラブルメーカーでもあった。

 また、勇者、聖女、賢者というユニーク職が勢揃いするなか、戦士デリックは勇者パーティで唯一の一般職であり、〈一般人代表〉〈モブ戦士〉〈脳筋〉など、プレイヤーから様々な名前で呼ばれ、ウザがられつつも親しまれていた。




 私はじっとデリックを観察しながら考える。

 今のアンセルは勇者でもなんでもないただの一般人だけど、それでも声を掛けてくるんだ。

 モンスター狩りで生計を立てる者を冒険者と呼ぶそうだが、デリックはその冒険者を目指しているらしい。作中ではそんな話は一度も出てこなかったので少し驚いた。

 彼は私達、というよりアンセルとパーティを組みたいようだが、私達はまだ冒険者になるとは決めていない。

 旅の資金を稼ぐために一時的にモンスター狩りをするつもりではいたが、十分な資金が集まれば、また旅を続けるつもりだった。

 最初はあの村から少しでも離れたいという一心で先を急いでいた。そのため最終的な旅の目的地は決めていなかったが、できることなら私達を害する者がいない場所で穏やかに生活できればいいな、と漠然と考えていた。


 ……冒険者、か。


 選択肢のひとつとして考えていいものだろうか。私達2人だけなら厳しいだろうが、今、私の目の前で戦士デリックが仲間になりたそうにしている。

 全く知らない相手ならお断りするところだが、このゲームをプレイしていた私はデリックのことをよく知っている。

 デリックは良くも悪くも裏表のない真っ直ぐな性格で、仲間を裏切るような人間ではない。先走った行動をしないようにこちらが注意する必要はあるが、戦力としても頼りになることは間違いない。

 私はデリックの話を鬱陶しそうにしながら聞いているアンセルに声を掛けた。


「アンセル、彼を私達のモンスター狩りに同行してもらって、その結果で判断したらどうかな」

「ユーニス、こんな奴を連れていくつもりか?」

「それは彼の返事次第だよ」

 私はそう言うと、興味深そうにこちらを見ていたデリックと向かい合った。

「デリックさん、でしたよね?私達は旅の資金を稼ぐためにこれからモンスター狩りをするつもりでいます。ここへきたのはそのための装備を揃えるためなんです」

「装備を1から揃える段階ってことは、全くの素人ってことか」

「当てが外れましたか?さっきの言葉を撤回するなら今ですよ」

「いや、俺の考えは変わらんぞ。こいつは鍛えれば絶対に強くなるはずだ。よし、装備だったな。俺が直々に選んでやろう」

「何を言っとるか、このバカモンがあ!!」

「親父!?なんだよ、俺がせっかくこいつの装備を選んでやろうとしてたのに!!」

「客に合った装備を誂えるのはお前にはまだ早い。引っ込んでろ」

「そんなこと言うなよぉ」

 デリックが私達の装備を選んでくれる流れになりそうだったが、武器屋の店主であるデリックのお父さんに一蹴されてしまった。

 デリックのお父さんはそのまま私達に向き直ると、営業スマイルを浮かべた。

「いらっしゃいお客さん。愚息が失礼しました。装備をお求めであれば、私におまかせください」

「ああ、よろしく頼む。僕達はこの町の周辺にいるモンスターを狩ろうと思っているが戦闘経験はほとんどない。僕は短剣なら少しは覚えがある。まずは僕に合った短剣もしくは剣を選んでほしい」

 アンセルが「剣を」と言った時、光の精霊が焦ったような顔でアンセルに近寄り、彼の顔をペチペチと叩いていた。
 しかし、アンセル本人はその事に全く気づいていない。精霊は終いにはアンセルの顔面にベタッと張り付いてしまったが、視えない者にはノーダメージである。

 ……視える私には地味にダメージがある。主に腹筋に。


「うーん、私の見立てでは、あなたは剣のほうが合っていると思いますね。取り敢えず両方持ってきますので、実際に確かめてください」

「ああ、頼んだ」


 その後、剣と短剣を持って戻ってきた店主のすすめでアンセルが試し斬りをした結果、店主の見立て通り剣を購入することに決めたようだったが、精霊が視えている私にとってはアンセルの顔面に張り付いたままの精霊が気になり過ぎて、一連のやり取りが終わるまで彼の顔をまともに見ることができなかった。

 その流れで防具の購入も決まった。ここは武器屋なのだが、新米冒険者用の防具も取り扱っているそうだ。この辺りの敵のレベルは低いので、ガチガチに装備を固めなくてもいいようで、アンセルは皮鎧、私は皮の胸当て、そして2人とも皮のブーツを購入した。

 さて、お気づきの人もいるかと思うが、私の武器がまだ決まっていない。店主さんは何故か私の武器について何も言ってこない。いや、ホントに何故ですか?


「あのぅ……私の武器も見立ててもらいたいんですが」

「あ!ああ、そうですな、はは。そうなんですが、うーん」

「ユーニス、君は後衛で周りを警戒していてくれればいい。前へ出て戦うのは危険だよ」

「!!アンセル、戦闘経験がないうちはモンスターと戦うのは誰にとっても危険だよ。それでも、後ろでただ見ているなんて」

「あー…お客さん、大変言いづらいことだが」

「?」

「お客さん、私の見立てでは、あなたはあらゆる武器の適性が壊滅的です。私の経験上言わせてもらうなら、武器を使っての戦いはやめておいた方がいい。あなただけではなく、仲間にも危険が及ぶ可能性があります」

「え……そこまで?」

 重々しく頷く店主。

 そうか…そこまでひどいのか。アンセルまで危険かもしれないと言われれば、おとなしく諦めるしかない。さすがモブ、私には何の才能もなかったみたい…はあ。

「可能性があるとすれば、魔法使いとしての適性でしょうな。そちら方面は私の専門外ですのでなんとも言えませんが」

「魔法!!ど、どうやったら魔法を覚えられるんですか?」

「適性がある者はレベルが上がると魔法を習得するはずです。ただ、どの段階で習得するかは本人の才能次第のはずです。場合によってはかなりレベルが上がるまで何も覚えない可能性もあります。その場合は早い段階で見切りをつけた方がいいでしょう」

「魔法を習得するのを諦めるということですか?」

「いいえ、冒険者になること自体を諦めるということです。いつ覚えるかわからない魔法に期待するよりも、パーティを抜けて戦いとは無縁の生活を送った方が」

「店主!!」

「……申し訳ありません。これまでいろいろな冒険者を見てきたがゆえに、出過ぎた発言をしてしまったようです。先程の私の発言はお忘れください」

「店主さん……」

「行こうユーニス。店主、これで失礼する」

「待って、アンセル!!」


 私はアンセルに引きずられるようにして店を出た。

 そのままアンセルに手を引かれ、気づけば町の広場まで来ていたようだ。

 広場の隅にあるベンチに座り、私達はひと息ついた。気を利かせたアンセルが屋台で飲み物を買ってきてくれたので、お礼を言ってそれを受け取る。

 しばらくして、アンセルが口を開いた。


「…ユーニス、怒ってるかい?」

「いきなり店を出たことは良くなかったと思う。あの店主さんは意地悪であんなことを言ったんじゃないよ。きっと、芽が出ないままズルズルと冒険者をやってきて後悔した人達をたくさん見てきたんだと思う。まあ、私達は冒険者ではないんだけどね」

「ユーニスに向かって『パーティを抜けた方がいい』、というようなことを店主が口にしたから焦ってしまったんだ。戦いに向いていないから、僕と別れて1人で生きていくって君が言い出すんじゃないかと思って」

「そんなことだろうと思った。大丈夫、私はアンセルから離れたりしないよ。魔法の習得も諦めてない」

「そうか、そうだったのか…。僕は焦って早とちりをしてしまっていたんだな。店主には悪いことをしてしまった」

「そうだぜ。今度店に来たときに親父に謝ってくれよな、まったく」

「!!デリックさん」

「……デリック、どうしてここに」

「お、初めて名前で呼んでくれたな。…ここに来たのは2人の後を追ってきたからに決まってるだろ。俺はまだパーティに入ることを諦めてないからな」

「アンセル、あなたが決めて。私は戦闘に参加できないことが決まっちゃったから、この件に口を出せない。デリックさんと一緒に戦うことになるかもしれないアンセルが自分で判断した方がいいと思う」

「……ユーニスを守るためには戦力は多い方がいいか。おい、デリックとか言ったな。お前は強いのか?」

「ん?まあ強いと思うぞ。戦士としては駆け出しだけどな。武器は斧をよく使う。親父からも将来性アリだって言われてるんだぜ」

「そうか、あの店主がそう言うなら信じてもいいだろう。デリック、今の僕はろくな戦闘経験もないただの一般人だ。悔しいが、僕1人でユーニスを守りながらモンスターと戦うのは不安がある。正直、お前がパーティに入ってくれるとありがたい」

「お、そうか!それじゃあこれからヨロシクな!へへ、俺は強いからいつでも頼ってくれていいぞ」

「あ、自己紹介がまだでしたね。私はユーニス。こっちがアンセルです。今は2人とも旅人ということになっています。これからよろしくお願いします」

「あー、堅苦しい言葉遣いは無しな。これからは同じパーティの仲間になるんだし。それと、旅人って名乗るのは別にいいけどさ、モンスターを倒してお金を稼ぎながら旅をするんだろ?それって冒険者と何が違うんだ?」

 …そう言われてみれば、冒険者と何も違わないような気がしてきた。私達、冒険者を名乗ってもいいのかな。

「デリックさん、いえデリック、冒険者は登録制とかじゃないの?」

「登録?そんなものいらないぜ。資格扱いでもないから試験もない。冒険者ってのはモンスターを狩って生計を立ててる奴らの総称だな」

 要は本人の自己申告ってことだね。資格でもないのなら階級みたいなものもないってことか。

「アンセル、私達、冒険者を名乗ったほうがいいのかな」

「そうだね。僕は呼び方なんてどうでもいいけど、冒険者と名乗った方が都合がいいかもしれないね。腕に自信があるってわかれば変な奴も寄ってこないだろうから」

 そうか、ただの旅人ではナメられやすいってことだね。

「うん、そういうことならこれからは冒険者だって名乗ろうか」

「ヨシ!!これで冒険者パーティ結成だ!」






 こうして私達3人による冒険者パーティが結成されたのだった。




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