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冒険者として生きていく
モンスター狩り
「それじゃあ早速モンスター狩りに行くか!」
デリックがウキウキしながらそう言うが、準備はできているのだろうか。
「私達はさっきあなたのお父さんのお店で装備を調えたけど、デリックは大丈夫なの?」
「ああ!装備ならちゃんと自分の金で揃えたものを使ってる。まあ、親父に見立ててもらったがな。あとは野営の準備か…俺とアンセルは同じテントでいいよな」
「は?」
途端にアンセルが断固拒否の姿勢を見せる。アンセルはデリックと同じテントは嫌なのだろうか。2人はだいぶ打ち解けてきたと思っていたけど、アンセルはデリックのことをまだ警戒していたのかな。
「何だよアンセル、まさか1人用テントを3張りも用意するつもりか?」
「1人用テントで寝るのはお前だけだ。僕とユーニスは2人用テントを購入した」
「っな!?お、お前、マジで言ってるのか?」
「え?デリック、私達が2人用テントを購入したのは本当のことだよ。買ったばかりでまだ使っていないけど」
私がテントに関する補足説明をすると、デリックは何故かホッと安心したような顔をした。
デリックはその後アンセルに向かって「ちょっと話がある」と言い、2人で広場の隅に移動した。そしてしばらくヒソヒソと会話した後こちらへ戻ってきた。
デリックは私に「いやぁ、待たせたな」と言って笑っているが、一体2人で何の話をしていたのだろう。
その答えはデリック自身が話してくれた。
「アンセルとも話をしたが、普段は俺が持ってる3人用テントでみんな揃って過ごすのがいいと思う。でだ。問題は寝る時の話だ。アンセルはユーニスと一緒に寝る気満々でいたようだが、却下だ。そんなことできるわけねーだろ」
え?何か問題なの?デリックの言葉を聞いたアンセルも不服そうな顔をしているし、別に一緒でも…って、精霊!!精霊の姿を見ないと思ったら、アンセルが佩いている剣を憎らしそうに蹴りつけていた。剣を購入してから今までずっと蹴り続けていたの?そんなにアンセルが聖剣以外の剣を持つのが嫌なら早くアンセルに姿を見せればいいのに。まだ迷ってるのかな。
私は精霊から無理やり視線を外し、デリックに向き合った。
「あの、デリック。私達は防犯上の理由で2人で寝ることにしたんだけど、何かまずいの?」
「マズイに決まってるだろーがよ!お前達は兄妹でも恋人でもねーんだろ?それなら寝る時は別々のテントを使うのが常識だ」
「アンセルのことは信用してるよ?」
「ユーニス…ありがとう」
「それでも駄目だ。ユーニス、アンタ自分を大切にしろ。それと、テントに入れば外からの攻撃は受け付けないから防犯上の問題も解決だ。ユーニスが自分からテントを開けない限りはな」
結局、デリックに押しきられるカタチでテントの割り振りが決定した。
普段はデリックが所持しているという3人用テントに集まり、就寝時は私のみ今日私達が購入したテントに移動する。
なんだか心細い気分になるが、すぐ隣のテントには2人がいるのだから、ここは割り切って慣れていくしかないだろう。
それにしても、デリックの印象がゲームの時とだいぶ違う。
ゲームをプレイしていた時のデリックの印象は、今よりもっと精神的に幼いというか、勇者アンセルをライバル視するあまり先走った行動ばかりが目立ち、常に落ち着きがなく、仲間達にたしなめられることも多かった。
今のデリックは、少し心配性だが頼れる兄貴分といった印象だ。
これは、私達2人が戦闘に関しては素人同然で、デリックが上に立って教える立場になっていることが影響しているのだろう。
加えて今のアンセルには勇者の肩書きがなく、彼に対して余計なライバル心を抱くこともなかったため、歳の近い友人に対するような接し方ができているのだろう。
「さて、話もついたことだし、行くとするか」
「僕は問題ない」
「私も問題ない……というか、後ろからついていくだけなんだけどね。2人とも、戦力にならなくてごめんなさい。お世話になります」
「いいって、気にすんな」
「ユーニスは後方でモンスターの奇襲を警戒してくれればいいよ」
町を出て街道から外れた場所へ向かって歩く。草が生い茂った場所や森の中などはモンスターと遭遇する確率が高い。今回は最初の戦闘ということもあり、茂みのあたりでモンスターを探すことになっている。
さて、なぜ戦闘のできない私が2人についてきているのかというと、『パーティ内にいる者は攻撃に加わっていなくても経験値をもらえる』というバトルシステムをあてにしてのことである。
いわゆる〈寄生〉である。オンラインゲームでは嫌われることも多く、パーティにほとんど何も貢献していない者が経験値や報酬を手に入れるのは不公平感が強い。
これは、私にとっても苦汁の決断なのだ。武器屋の店主さんから『武器での攻撃が壊滅的』と言われてさえいなければ、私も攻撃に参加するつもりでいた。
しかし、パーティメンバーに被害が出るかもしれないと言われれば諦めるしかない。できるだけ早い段階で魔法を習得できることを祈るばかりだ。
ふと、視界の端に黒い影が過った気がした。
「2人とも、左の茂みにモンスターがいるかもしれない」
「わかった!俺にまかせろ」
「気をつけろ、茂みから出てくるぞ!」
ガサリ、と茂みが揺れたかと思うと岩をまとったウサギが勢いよく飛び出してきた。
「うおっ!岩ウサギだ。こいつは攻撃力は高くないが、スピードと防御力が高い。できればアンセルが足止めしてくれ」
「わかった。やってみる」
デリックが装備している斧は一撃の攻撃力は抜群に高いが、振りが遅く、スピードの高い相手には命中させづらいという欠点がある。
今回の敵である岩ウサギくらいであれば、命中させることができれば一撃で仕留められるはずなのだが、今のデリックのレベルでは難しいと判断したようだ。
「はぁ!!」
『ギィッ』
「いいぞ、アンセル!!これでトドメだ!」
アンセルが岩ウサギに一撃を加えたことにより一瞬ウサギの動きが止まる。
その一瞬の隙に合わせ、デリックがトドメの一撃を加える。
ドゴォ、という音とともに背中の岩が粉砕され、モンスターは事切れた。
死んだモンスターはドロップ品を残して消えていく。本当にゲームで見た通りで、実際にこの目で見ると吃驚してしまう。
「40ダーラか。まあこんなもんかな。アイテムをドロップする時もあるんだが」
「こいつは何をドロップするんだ?」
「たしか岩の盾…だったか?名前ほどゴツゴツした見た目じゃないし、新米冒険者が装備するにはちょうどいい盾だぞ」
「そうか…運良くドロップしたら使ってみるか」
「おーそうしろ。俺の斧は両手持ちだから盾は装備できないからな」
「!!2人とも、茂みの中にもう2体いるよ!」
「何!?」
「くっ、今度は2体か」
先程とは違う茂みにモンスターがいたようだ。今度は岩ウサギではなく、ワイルドジギタリスという植物系モンスターだ。実在する毒草に似た姿で、ウネウネと移動する。毒にさえ注意すれば簡単に倒せる相手だ。
「アンセル!こいつは毒攻撃に注意しろ。それさえ注意していれば俺達なら楽勝のはずだ」
「わかった!」
デリックの指示も的確だ。本当は私がゲーム知識をもとに指示できればいいのだが、どうして知っているのかを訊かれても答えられない。怪しまれないようにうまく伝える方法はないか考えているところだ。
アンセルとデリックがそれぞれ一体ずつ敵を引き受け、2人とも危なげなくモンスターと渡り合っている。
「せい!」
「おりゃあ!!」
『『シギャアア!』』
2人ともモンスターから一撃も食らうことなく相手を倒してしまった。
戦闘が終了した瞬間、自分の体から力が湧いてくるような不思議な感覚を覚えた。
それはアンセルも同じだったようで、彼は戸惑った表情で口を開く。
「何か体から力が湧いてくるような感覚があるんだが、これは何なんだ?」
「お!レベルアップしたみたいだな。今回のレベルアップが初めてみたいだし、アンセルはレベル2になったってことだな」
「そうか」
「あ、私もレベルアップしたみたい」
「おお、おめでとさん」
「ユーニス、おめでとう」
「ありがとう2人とも。アンセルもおめでとう」
そうか、この感覚はレベルアップした感覚なのか。
実際のゲームでレベルアップしたときは、体力や魔力が全回復していた。これはその感覚なのだろう。私は戦闘で一切消耗していなかったはずだが、きっとレベルアップで最大HPが上がった感覚だったのだと思う。
自分のステータスが見れないのになぜレベルの概念があるのか不思議だったが、この世界の人々はこうやってレベルアップを自覚していたわけだ。
…でもこれ、強敵を倒したりして一気に2レベル以上上がってしまった場合、正確な自分のレベルがわからなくなるんじゃない?
この方法でレベルを確認することに一抹の不安を覚えたが、身の丈に合わない敵と戦わなければ大丈夫だろうと思い直した。
そんなことより、私は今回のレベルアップでは魔法を習得できなかったようだ。正直落胆の思いを隠せない。早くみんなの役に立てるようになりたいのに、現実はそう甘くないようだ。
そういえば、ゲームのアンセルはレベル2になると《ライト》の魔法を覚えたはずだ。
でもこれはきっと聖剣ありきの魔法なんだと思う。光属性魔法だし。
《ライト》は一定時間周囲を照らす魔法だ。この魔法があれば夜の探索が楽になるはずだったのだが、残念だ。一応『たいまつ』でも代用はきくが、『たいまつ』は片手が塞がってしまうのであまり使い勝手が良くない。
私がそんなことを考えていると、アンセルがなんでもない調子で話し出した。
「どうやら《ライト》という魔法を使えるようになったみたいだ。一定時間周りを明るく照らす効果があるらしいよ」
「!?」
「え?アンセル、お前魔法使い系の成長タイプだったのか?…おかしいな。絶対に剣士タイプだと思ったのに」
「僕も自分は前衛タイプだと思う。でも何故か魔法を覚えたみたいだ」
私の目の前でデリックが「魔法が使えるなら見せてみろ」と言い、アンセルが実際に使って見せている。
アンセルが魔法を使う瞬間、彼の傍にいる光の精霊がピカピカと明滅し、アンセルに力を貸し与えているように視えた。
……メチャクチャ協力してるじゃん。
精霊さん、もうアンセルを認めてるんじゃないの?
それとも、アンセルが自分以外の剣を使っているのを見て焦っちゃったの?
こうしてアンセルが魔法を使えることが証明され、今後夜間の活動も視野にいれてもいいかもしれないと話し合った。そして…
「20ダーラ×2とアイテムがドロップしてるな。これは『狐の手袋』か」
「狐?植物系モンスターだと思っていたんだが」
いや、アンセル。これはゲームスタッフの遊び心だと思うよ。
「手袋なら器用さが上がるんじゃないかな。斧をメイン武器にしているデリックが装備するのがいいと思うよ」
「え?俺が使っていいの?」
「僕はユーニスに装備してほしかったけどね。ユーニスがそう言うならそれでいいよ」
話はまとまり、『狐の手袋』はデリックが装備した。アイテムを譲られたデリックは何故か感動しているようで、「絶対にパーティの役に立つからな!」と謎のやる気を見せていた。
その日はデリックがレベル3、アンセルと私がレベル2という結果で終わった。
明日は魔法を覚えられるといいなあ…。
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