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冒険者として生きていく
念願の魔法習得
「クソッ全然当たらねぇ」
「デリック、ここは一旦退却しよう」
「あーわかったよ!次はぜってー仕留めるからな」
ここは、テラネの町にほど近い場所にある森の中。
私達は昨日数回のバトルに勝利し、戦闘に慣れてきたので、今日はテラネの近郊にある森に入ってみようということになった。
今はまだ朝の時間帯なので高レベルモンスターは出現しない。
ゲーム知識によってその事を知っている私は森へ入ることに反対しなかった。
しかし、森へ入ってすぐに私の考えが甘かったことを思い知らされた。
キラービーというモンスター2体とエンカウントしたのだ。
私の記憶ではキラービーはレベル3のモンスターで、はっきり言って雑魚敵の部類だと思っていた。
実際、攻撃自体は大したことはないのだが、とにかく素早い。そして飛行モンスターであるため攻撃が届き難く、身体も小さい。
これらの理由から、攻撃がまったく当たらないのである。
一応アンセルの攻撃は掠りはしたようだが、デリックの方はまったくと言っていいほどに攻撃が当たっていなかった。
このままでは埒があかないと判断した私達は戦闘の継続を断念し、森を出ることにした。
幸いモンスター達は森の外まで追いかけてくることはなく、私達は無事に森の外へと退却することができたのだった。
森の外に出た私達は少し歩き、街道の近くに腰を下ろした。3人同時にため息を吐く。
「素早いモンスターだったね」
「ああ。今の僕達では攻撃を当てるのは難しそうだね」
「あ~~!!あいつらフラフラフラフラ飛び回りやがって!クソッ、腹立つわー」
前日の戦闘で狐の手袋を手に入れ、やる気満々で挑んだバトルだっただけに、デリックにとってこの戦いは不完全燃焼で、納得のいかない結果なのだろう。
デリックといえば、彼は確か斧以外の武器も装備できたはずだ。
ゲーム知識によれば、戦士デリックは斧の他にナックル、槌、槍、そして剣も装備できる。
ゲーム内で私が今回のような素早いモンスターと戦う際には、戦士デリックには別の武器を装備させていた。
…というより、プレイヤーの間では斧はいわゆるロマン武器と呼ばれ、当たれば強いが命中率に難があるため人気がなかった。
主人公である勇者アンセルが剣を使うため、戦士デリックにはナックル、槌、槍のどれかを持たせるのが多くのプレイヤーにとってのセオリーだった。
そうだよ。別の武器を装備すればデリックの攻撃が当たるかもしれない。
「ねぇデリック。あなたは戦士だったよね。それなら斧以外の武器も扱えるんじゃないの?」
「え?あー……まあ、そうなんだけどよ」
「どうした、何か問題があるのか?」
やはりデリックは他の武器も扱えるようだ。しかし本人はあまり乗り気ではないらしい。何か理由があるのだろうか。
「問題って程のことじゃない。ただの俺のこだわりだ」
デリックはそう言って斧にこだわる理由を話し始めた。
私達も知っての通り、デリックの実家は武器屋だ。当然冒険者がよく出入りする。
そんな彼らを見て育った幼いデリック少年は自然と冒険者に憧れを抱くようになった。
ある日デリック少年はお父さんの目を盗み、店の商品である短剣を持ち出した。冒険者ごっこをするためである。
短剣を装備して気が大きくなったデリック少年は、あろうことかモンスターを狩るために森へ入ってしまった。
当然幼い彼にモンスターと戦う力などなく、出くわしたモンスターから攻撃を受けてしまった。
“痛い、もう動けないよ。俺、コイツにトドメを刺されて死んじゃうのかな”
デリック少年がそう思った時、1人の冒険者がデリック少年の前に立ち、モンスターを一撃で倒してくれたのだという。
その冒険者は巨大な斧を軽々と扱っており、その堂々たる姿は幼い彼の目に強く印象付けられた。
「まあ、その冒険者は俺にとってのヒーローってわけだよ。俺はあの人みたいになりたくて冒険者を目指してんだ」
だから、俺は斧を使って一人前の冒険者になるって決めてんだ。わがまま言って悪いな。
そう言ってデリックは居心地悪そうにそっぽを向いてしまった。
デリックの話を聞き、この世界はゲームの世界ではあっても、ゲームキャラクター達は一人ひとりちゃんと考えがあり、感情や意思を持って行動しているんだと改めて実感した。
そんなことはアンセルを通じてわかっていたはずだったが、心のどこかでデリックのことを単なるゲームキャラクター扱いしていたのかもしれない。
デリックが斧に対する強いこだわりがあるなんて知らなかった。
ゲーム内でのデリックはプレイヤーの分身である勇者に言われるがままいろいろな武器を持ち替えていたが、内心では不満でいっぱいだったのだろうか。
ひとりのプレイヤーとして、ゲームのデリックに申し訳ない気持ちになった。
「デリック、取り敢えずフィールドでレベルを上げてみようよ」
「え?」
「レベルを上げれば私達のスピードや命中率も上がるし、何かスキルを覚えるかもしれないでしょ?」
「そうだね。ユーニスも魔法を習得できるといいね」
「うん!」
「……違う武器に持ち替えろって言わねぇの?」
私とアンセルは顔を見合わせ、ふ、と笑った。
「それはお前にとって譲れないことなんだろ?だったら僕達に遠慮することはないよ」
「デリックは何の役にも立たない私に『気にすんな』って言ってくれたでしょ。私、とっても感謝してるんだよ?デリックがパーティの大事な戦力なのは変わらない。足りないところは私達が補うよ…なーんて、説得力ないかな」
「っ、…2人とも、ありがとな」
デリックはそれきり私達に背を向け、肩を震わせて泣いていた。
あとで聞いた話によれば、デリックには昔、パーティを組むはずだった仲間がいたそうだ。
デリックの他に男が2人。3人パーティを結成するつもりでいた。
しかし、直前になって2人から拒否されてしまった。理由はデリックが斧しか使わないことを知ったからだという。
『戦士だというからいろいろな武器を使えるのかと期待していたが、よりによって扱いづらい斧しか使わないとは』『残念だがこの話はナシだ』そう言って彼らは去っていった。
…この世界の人間から見ても斧は扱いづらい武器のようだ。
そういった過去があったデリックは、自分が斧しか使わないことを私達に今まで言い出せなかったらしい。
いいよいいよ。斧しか使わない縛りくらい、どうってことない。今の私達は魔王を倒す旅なんかしてないし、自分達の倒せる相手だけを選んで戦うことだってできる。自由な冒険者として、好きに生きていけばいいよね。
その後、デリックが少し落ち着いたところでレベル上げをすることになった。
場所は昨日と同じ茂みだ。
この茂みにいる敵は問題なく倒せるし、運が良ければ岩ウサギが盾をドロップするかもしれない。一石二鳥なのだ。
『ギャウン!!』
「おお、岩ウサギに攻撃が命中したぞ。狐の手袋の効果だな!」
「油断するな。もう一体いるぞ」
「左の茂みにも一体いるよ!」
「「了解!」」
こうして数時間モンスターを狩り続けた結果、ついにレベルアップの瞬間がやってきた。
『ギャウゥ……』
「ヨシ、片付いたか」
「…ん?デリック、僕のレベルが上がったようだ」
「おお!ってことはユーニスもか。2人ともおめでとさん」
「……………た」
「ユーニス?どうしたの?」
「習得…した」
「おい、まさか」
「魔法!!習得したよ!!」
「「!!」」
レベルアップの瞬間、自分が魔法を使えるようになったことを感覚的に理解した。突然頭の中に情報がインストールされたかのように、魔法の効果や使い方などの情報が頭の中に入ってきたのだ。
「ユーニス、覚えたのはどんな魔法なんだい?」
「えっとね…《封縛陣》っていう魔法で、敵の頭上に魔方陣を出現させて相手の動きを止められる魔法だって。効果は魔方陣が出現している間続くみたい」
「おお、なんかスゲーな」
「今の僕達には願ってもない魔法だね」
「早速使ってみたらどうだ?」
デリックのひと言により、実験台のモンスター探しが開始された。
しばらくして、茂みから2体の岩ウサギが飛び出してきた。私は緊張しつつも魔法を唱える。
「《封縛陣》!」
私の詠唱とともに一体の岩ウサギの頭上に魔方陣が出現する。
その途端、岩ウサギの動きが止まった。いや、正確には魔法で無理やり止められているため、なんとか逃れようとピクピクしているのがわかる。
そして、無事な方の岩ウサギが止まっている岩ウサギに隣接した瞬間、こちらの岩ウサギも動きが止まってしまった。
どうやら魔方陣の範囲内に入った敵すべてに効果があるらしい。
「っ、2人とも、モンスターにトドメを!!魔方陣の効果が切れそう」
「マジか。わかった!」
「こちらも了解だよ」
即座にモンスターにトドメを刺した2人によって、危なげなく勝利することができた。そして──
「40ダーラ×2と、岩の盾だ。ラッキー!」
「これはアンセル用だね」
「うん、ありがたく使わせてもらうよ」
そう言ってアンセルは即座に岩の盾を装備した。名前のわりには岩っぽさもなく、普通の盾のように使えそうだ。アンセルは「これでユーニスを守りやすくなる」と言って喜んでいるが、まずは自分の命を守ることを優先してほしいと思う。
ひと息ついた私達は、先程の魔法について話し合う。
「しかし、あの魔法すっげーな」
「敵が動かなければ攻撃が外れる心配もないし、森の攻略に希望が見えてきたね」
「ということは、今から森に行くの?」
「いや、今日1日はここでレベル上げに費やそう」
「いいぞ。俺はもうすぐレベルが上がりそうな気がするからな」
こうして私達はフィールドモンスターを狩りまくって1日を終えたのだった。
「おし、レベルアップだ!しかも技を覚えたぞ」
「良かったな」
「デリック、おめでとう」
ゲーム知識がある私はデリックが今回のレベルアップで技を覚えることはわかっていたが、そんなことはおくびにも出さず彼を祝福する。
デリックの覚えた技は【岩砕き】という技で、彼が覚えるすべての技の中でも最重要の技といえる。
この技はデリックが最初に覚える技だけあって、威力はそこそこなのだが、岩系の敵にクリティカルが発生する。そして何より重要なのが〈攻撃した相手の防御力を低下させる〉という効果だ。
この効果は防御力が高い敵やボス戦で特に効力を発揮し、相手に効率良くダメージを与えるために重宝したものだ。今後は出番が多いこと間違いなしの技だ。
それにしても、レベルが上がるスピードがゲームプレイ時より遅い気がする。私とアンセルがレベル2になった時には違和感はなかったのだが、それ以降、レベル3になるまでが長すぎた。
もしかすると、経験値をもらえる仕組みがゲームの時と違うの?私達がレベル2になるのが早かったのは、知らないうちにどこかで経験値を稼いでいたのかな。
まあ、ゲームとまったく同じであれば、たった一年足らずでレベル99になる人があちこちで続出してしまうし、世界のバランスがおかしくなるよね。
リアルな世界だからこそ、ゲーム通りにはならない部分もあるんだってことを覚えておけばいいかな。
こうして私達は1日の活動を終え、それぞれ別れてテントに入る。
私もテントに入ろうとしたのだが、ふと隣のテントに目をやると、光の精霊がテントから閉め出されていた。
…このテント、外からの攻撃を防ぐだけじゃなくて、何者も中に入れなくなるんだ。
まさか精霊にまで効果があるとは。いつもはアンセルにくっついて中に入っていたのだろうが、今回は入りそびれたようだ。
私はテントにタックルしている精霊に近づいた。精霊に話しかけるなら今しかない。他のタイミングだとアンセルに見つかって変な目で見られてしまうだろうから。
私は思いきって精霊に声をかけた。
「精霊さん、私の声が聞こえますか」
─────────
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きちんと最後まで書き上げるつもりですので、まだまだお付き合いいただけますと幸いです。
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