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冒険者として生きていく
ひたすらレベル上げ
私達は街道から外れた場所に移動し、辺りの草むらを注意深く見つめていた。
「!一番右の草むらに二体。アシッドスネークだよ!」
「よし!やってやるぜ!」
「私は左のヤツを止めるよ!」
「わかった。僕は右を誘導するよ。《ライト》」
『ギシャア!?』
「《封縛陣》」
「【ダブルスラッシュ】」
「2人ともナイス!次は俺の番だ!」
あらかじめ左のアシッドスネークの近くで攻撃準備していたデリックは、私の《封縛陣》が効いたとみるや、すぐさま攻撃に転じた。
「おりゃああ!──ヨシ!当たった!」
一体目のアシッドスネークはデリックの一撃で即死した。そのままドロップ品を残して消えていく。
やはり風神の斧の攻撃力が尋常ではない。当たれば敵なし。この辺りのモンスターではデリックの相手にならない。
さて、もう一体が《封縛陣》にかかったままなので、私の魔法はそのまま継続している。
「デリック、このままもう一体も倒す?それとも──」
「ユーニス。せっかく動きを止めてくれたのに悪いんだが、一度動いてる敵と戦ってみたい」
「いいよ。魔法を解除すればいいんだよね。準備はいい?」
「おう。いつでも解除してくれ」
「わかった。《解除》」
「デリック、そっちへ行ったぞ」
「おおお、動き回るな!当たれー」
「……お前が解除しろと言ったんだろう」
《封縛陣》を解かれたアシッドスネークはクネクネとした蛇種特有の動きでデリックを翻弄し、彼はなかなか狙いがつけられないでいる。
そうこうしているうちに、アシッドスネークの攻撃がデリックに当たってしまった。
「おわぁ、痛っ……たくないぞ」
「デリック、大丈夫!?回復魔法を使おうか?」
「……ははっ。ユーニス、大丈夫だ。攻撃が全然痛くないぞ」
「デリック、それはおそらくミスリル製の鎧のおかげだろう。あの鎧はかなりの性能のはずだから」
「そうか、この鎧やっぱすげぇんだな」
「デリック、念のため酸の攻撃には注意して。できればその攻撃だけは避けたほうがいいよ」
「ユーニス、サンキュ。注意して戦う」
それからしばらくはデリックの攻撃がうまく当たらず、彼の悔しげな声が辺りに響いていたが、それと同時にアシッドスネークの攻撃もデリックに対してほとんどダメージらしいものを与えられていないようだった。
改めてミスリル装備の性能の高さを思い知らされる。鎧だけでこの有り様だ。フル装備の状態で戦えば、この辺りのモンスターからはまともなダメージを食らわなくなるだろう。
なんだかズルをしているような気になってしまうが、アンセル達がモンスターと安全に戦えるのはありがたいことだ。死ぬかもしれないという危険性は少ないに越したことはない。
『ギィイアア!!』
モンスターの断末魔が辺りに響いた。
デリックはようやくアシッドスネークヘ攻撃を当てることに成功したようだ。モンスターはドロップ品を残して消えていく。
「デリック、お疲れ様。どうだった?」
「ユーニス。……そうだな。動いてるモンスターに攻撃を確実に当てるってのはまだ無理だ。でも、何度もやってればコツが掴めそうな気はしてる」
「そっか。それじゃあ練習あるのみだね」
「ミスリル装備のおかげでこの周辺にいるモンスターからは大したダメージを受けないようだし、デリックが納得いくまで思う存分練習するといい」
「アンセル……お前、他人事だと思って涼しい顔しやがって」
「今回の件に関しては僕とユーニスは手伝いようがないみたいだしね。仕方ないさ」
「私達にできることがあれば遠慮なく言ってね。といっても、しばらくは《封縛陣》なしで戦うことになりそうだけど」
「おう。しばらくは《封縛陣》は無しで頼む。2人とも、悪いがもうしばらく俺に付き合ってくれ」
「もちろんだよ!」
「仕方ないな」
それからはその辺にいるモンスターに手当たり次第に戦いを挑み、敵が残り一体になると《封縛陣》を解除し、その敵を相手にデリックが斧の練習をするという流れが習慣化した。
動くモンスターに攻撃を当てようとするとタイミングがずれるらしく、デリックは長い間悪戦苦闘していたが、ある時を境にスムーズに攻撃を当てられるようになった。
どうやらデリックはコツを掴んだらしい。
それまでの動きが嘘のように、彼は風神の斧を自分の体の一部のように操っている。
こうなってしまえばこの辺りのモンスターなどデリックの敵ではなく、モンスター達は遭遇すると同時に瞬殺されている。
私達のレベルはみるみるうちに上がり、モンスターからのドロップ品も貯まったことで、防具屋で私のローブを買うこともできた。
この調子でモンスター狩りを続けていれば、私達の防具をミスリル製のもので揃えることも十分可能だろう。
今の私達のレベルは9。
アンセルは【ウインドエッジ】という遠距離物理攻撃スキルを覚え、攻撃の幅が広がった。
デリックのほうも【闘気】というスキルを習得した。
このスキルは一定時間自分の攻撃力をアップさせる効果があり、ただでさえ攻撃力の高いデリックの長所をさらに活かせるいいスキルなのだが、ゲームをプレイしていた時は、敵の防御力を下げる【岩砕き】のほうが使い勝手がいいように感じていた。
デリックの攻撃力だけをアップさせるより、敵の防御力を下げたほうがパーティ全体のダメージアップに繋がるからだ。
まあ、どちらも使えばいい話なのだが、全力で戦うボス戦ならともかく、通常戦闘でいちいち補助スキルを使うのは正直面倒だったのだ。
このスキル、もしもマーダーグリズリーと戦うことになるなら、戦闘時間の短縮のためにも重要なスキルになってくるかもしれない。
一刻も早く敵にトドメを刺し、こちらのダメージを最小限に抑えなければ、勝てる見込みのない敵だからだ。
ちなみに、私は新しい魔法を一切習得できていない。モブの私にはこれが限界なのだろうか。攻撃魔法を習得できれば良かったのだが、そう思い通りには事が運ばないらしい。
私達は今日から活動時間を夜間に変更し、夜しか出現しないモンスターを中心に狩っていくつもりでいる。
レベル15であるバイコーンを狙って戦うことができれば、かなりの経験値を得ることができるだろう。
未だ絶好調のデリックの手にかかれば、バイコーンくらい一撃で沈められるだろう。
「うわぁ、夜の探索ってやっぱり見通しが悪くて危険だね」
「テラネでは結局夜間のモンスター狩りをしなかったから、今回が初めてということになるね」
「あの時は俺らも新米冒険者だったからな。夜の探索を見送ったのは悪い判断じゃなかったと思うぜ」
「冒険者としての活動期間を考えれば、今の私達もまだまだ新米なんだけどね。私達が冒険者になってから、まだ3ヶ月くらいでしょう?」
私の言葉にアンセルが軽く頷く。
「そのくらいになるね。たった3ヶ月でレベル9になるのはすごいペースなんじゃないかな」
「へへ、期待の新人ってヤツだな。正直、装備品に助けられてる自覚はあるから、あんま大きな顔はできねぇんだけどよ」
そう、デリックのお父さんからもらった斧をはじめ、この町で売っている高性能な武具の助けあったからこそ、今の私達があるといっても過言ではない。
これらの武具の力があれば、おそらくレベル16くらいまでは順調に上げられることだろう。
「《ライト》」
アンセルの言葉とともに周囲が明るく照らされる。今日もロンちゃんがアンセルの魔法の手助けを一生懸命頑張っているようだ。
今日から昼夜逆転の生活になるので、ロンちゃんも寝落ちするのではと少し心配している。私達も慣れるまではしばらく大変かもしれない。
「うーん。明るくはなったけど、結構死角があるね」
「暗がりから奇襲されたらヤバいかもな」
「そうだね。私達の装備がミスリル製でなければヤバかっただろうね」
「ってことは、今の俺達なら問題ないってことか?」
「そうかもしれないが、あまり装備品に頼りすぎるとこの先大変だよ。ちゃんと注意力も養なっておかないと」
「そっか、そうだね。私も気を引き締めるよ」
「俺も」
そうして、夜間のモンスター狩りが開始された。
暗闇に慣れていない私達は、何度もモンスターの奇襲を受けてしまった。
モンスター側からしてみれば、私達の姿は《ライト》のおかげで丸見えであり、暗がりに乗じて奇襲を仕掛けることも容易いことなのだろう。
そういえば、ゲームをプレイしていた時も、夜間の探索におけるモンスターとの遭遇時には、敵からバックアタックを受けることが多かった気がする。
ストーリー中盤でバックアタックを防ぐアイテムを手に入れてからは、まったく気にすることもなくなっていた設定だったから忘れていたよ。
あのアイテムを手に入れるのは今の私達には無理だ。あれはアンセルが勇者として活動し、とある村の住人から受けたクエストの達成報酬として手に入るはずのアイテムだからだ。
このアイテムに限らず、ストーリーイベントで手に入るはずのアイテムなどは、今の私達では手に入れることはできないと思ったほうがいいだろう。
今の私達は一介の冒険者だ。勇者様御一行ではない。だからストーリーイベントも起きないし、クエストも受けられない。
私はそれでもいいと思う。勇者としての重責も背負わないでいいし、自由に旅ができる。レベルだって、本当は上げても上げなくてもどっちでもいい。私達は自由だ。
夜間の探索を何日も続けていくうちに、私達はなんとなくモンスターの気配を察知できるようになってきた。
何度も奇襲を受けたことで、本能的な危機感が目覚めた結果だと思う。
モンスターの気配がなんとなくわかるようになったことで、奇襲を受ける頻度が激減し、さらには暗がりに隠れているモンスターを発見しやすくなった。
私達が狙っていたレベル15のバイコーンも暗闇に潜むタイプのモンスターだったようで、私達が敵の気配を察知できるようになってようやくバイコーンを見つけられるようになった。
「《封縛陣》」
「よし今だ。【ライトニングファング】!!」
「【氷華撃】!」
『ブルルッ、グゥッ……』
「よっしゃ、倒せたな」
「うん?どうやらレベルが上がったようだ」
「私も」
「ってことは、これで全員のレベルが16になったってことか」
「やっとだな。これでもかなりのスピードでレベルが上がったとは思うが」
「夜間の探索に切り替えてから、もう1ヶ月くらいになるかな?」
「モンスターの気配がわかるようになるまでは効率が悪すぎたからなー」
「ふふ、最初は奇襲を受けてばかりだったね」
「暗闇に隠れて出てこないモンスターがいることにも、最初のうちはまったく気付かなかった」
「そのせいでモンスターをあちこち探し回る羽目になったもんな」
「そういったモンスター達は私達が動くのに合わせて逃げていくから、いつまで経ってもバイコーンに会えなくて苦労したよね」
モンスターを探すためにあちこちを無駄に歩き回ることになり、随分と苦労させられた。モンスターの気配がわかるようになった今となっては笑い話のひとつに過ぎないが。
「とりあえずテントに帰るか。マーダーグリズリーと戦うかどうかは一眠りしてから考えようぜ」
「そうだね。一度テントに戻ろうか。夜間の探索も今日で一区切りだ」
「そっか、明日からは普通の生活に戻るんだね。朝起きて夜寝る生活に。体が慣れるまではまた大変そうね」
「しばらくは休みでいいんじゃねぇか?体が元に戻るまでは」
「うん、僕もそれでいいと思う。とりあえず今はテントに戻って休もうか」
「おう」
「うん」
こうして私達の長い長いレベル上げ期間が終了した。
この先マーダーグリズリーと戦うかどうかは決まっていないが、今はゆっくりと休もうと思う。
おやすみなさい
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