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冒険者として生きていく
立派に成長しました
「ユーニス。何か良くわからない光る物体が浮かんでいるんだけど、あれはなんだろう」
「!?」
テントを張り、それぞれ別れて今日は休もうというところで、アンセルに呼び止められた。デリックは既にテントの中だ。
彼の視線の先にいるのは謎の発光体……ではなく、聖剣の化身であるロンちゃんだ。
「アンセル、この光が視えるの?」
「え?…ああ、視えるよ」
「どんなふうに視えてる?」
「ぼんやりとした光の塊に視える」
「……そう」
残念ながらロンちゃんの姿をはっきりと視えているわけではないようだ。
しかし、これはいい兆候だろう。アンセルの心が癒され、元の輝きを取り戻しつつあるのだと思う。
私達の話を聞いていたロンちゃんも、嬉しさのあまりピカピカ光って喜びをあらわしている。
「アンセル。この光は精霊なの。アンセルもそのうち精霊の姿が視えるようになるはずだよ」
「精霊?これは精霊なのかい?」
「うん」
正確には精霊の姿をとっているだけで、本体は聖剣なのだが、光の精霊としての能力もきちんと備わっているようだし、間違いではないだろう。
「……なんというか、目の前でピカピカ光ってると邪魔だな」
「!!」
『!?!?』
なんてこと言うの、アンセル。
ああ、ロンちゃんがショックのあまり隠れちゃった。
いや、確かに目の前でピカピカ光ってると気になってしょうがないし、邪魔だな、と思わなくもない。
でも、お願いだから口には出さないであげて?
ロンちゃんは一生懸命アンセルを手伝ってくれてるいい子なの。今日だって《ライト》の魔法を使う時、張り切ってあなたを手伝ってたんだからね。
今のアンセルにこの事を説明しても理解してもらえるかは怪しい。
この先アンセルがロンちゃんの姿をはっきりと視ることができるようになったら、自分の目で確認すべきことだと思う。
そうしたらきっとアンセルもロンちゃんに感謝してくれると思う。
だから、それまで強く生きるのよ。ロンちゃん。
私達はゆっくりと休日を過ごした後、マーダーグリズリーと再戦した。
一度マーダーグリズリーの攻撃パターンを見たことで、アンセル達も余裕をもって敵に対応することができていた。
その結果、今回は誰も大きな怪我を負うことなくマーダーグリズリーを倒すことに成功した。
残念ながら剛力の指輪はドロップしなかったが、8000ダーラは美味しい。
私達は話し合い、草原を拠点にしてマーダーグリズリー狩りをすることにした。
調べた結果、マーダーグリズリーは一時間ほどでリポップするらしい。
1日で倒せる数に限りがあるのが難点だが、レベル上げと資金稼ぎの両面で私達にとって多大なメリットがあるため、やらない理由が見つからない。
マーダーグリズリーを初めて倒した日から約3ヶ月の月日が経過した。
マーダーグリズリーに苦戦していた頃が嘘のように、今ではサクっと戦闘を終わらせられるようになっている。
私達のレベルは35になっていた。
そう、マーダーグリズリーのレベルと同じである。
頑張ればレベル36までは上がるはずだが、正直もうマーダーグリズリーと戦うことに飽きてしまっていた。
毎日毎日マーダーグリズリーを倒し続け、もうマーダーグリズリーの顔を見るのも嫌になっていた程だ。
私が「もうマーダーグリズリーと戦うのは終わりにしよう」と言った時の2人の顔が忘れられない。
刑期を終えた囚人のような、苦痛から解放されて晴れ晴れとした、実にいい笑顔だった。
私達はレベル35になったわけだが、デリックの話によると、この世界ではレベル30以上の者は極めて少ないらしく、一般的な冒険者が到達できるものではないらしい。
周りに知られれば英雄扱いをされること間違いなしだそうだ。
デリックはまんざらでもなさそうだが、私とアンセルはあまり目立ちたくないと思っているので、私達のレベルについては3人だけの秘密にしておくことに決まった。
私達が習得可能なスキルはこの3ヶ月ですべて習得できたと思う。
ゲーム知識でわかっている範囲で言うと、アンセルとデリックの2人はレベルアップで習得できるスキルはレベル30到達時点で打ち止めだったはずだ。
世間一般にはレベル30が一流冒険者と認められるラインのようなので、この世界ではそういう仕様なのだろう。
スキルはレベルアップ以外の方法でも習得することはできたが、それはストーリーイベントでの習得だったり、魔王の配下を倒したり、裏ボスを倒したりした時の報酬として習得するはずのものだった。
今のアンセル達はストーリーから完全に逸脱しているため、残念ながらそれらのスキルを習得することはできないだろう。
アンセルの習得スキルについてだが、やはり聖剣専用技は聖剣を手に入れていない状態では習得できないようで、覚えるはずだった聖剣専用技は未習得のままだ。
今後アンセルが聖剣を手にする時が来れば、スキルも解放されるかもしれない。
聖剣といえば、ロンちゃんだよね。
ロンちゃんはアンセルに『邪魔』と言われてから、なるべくアンセルの視界に入らないようにしているようだ。
涙ぐましい努力である。アンセルの背後にひっそりと隠れている姿を見ると、ロンちゃんには早く報われてほしいと思う。
しかし、いつまでもアンセルの背後に隠れたままでは、アンセルがロンちゃんを視えるようになったとしても、気づいてもらえないのではないだろうか。
最後は私についてだが、いつまで経っても新しいスキルを覚えず、ひそかに悩んでいたのだが、レベル30に到達した時に《天輪》というスキルを習得した。
これはおそらく、昔アンセルが野生の狼に襲われた時に私が無意識に発動した魔法と同じものではないかと思う。
魔法の効果は曖昧で、『術者が相応の対価を支払うことで、あらゆる運命を術者の望むあるべき姿ヘと変える』というものだった。
説明がふわっとしすぎていて凡人の私には理解が難しい。
ただ、相応の対価というのは私の寿命なのかな、と思う。アンセルの傷を癒した時、私の中から命の欠片がこぼれ落ちるような感覚があったから。
その考えが正しいなら、対価を捧げる相手は神様なのかもしれない。
あの時、私は必死になって神様に祈った。必死の祈りを神様が聞き届けてくれたから、あの時魔法が発動したのではないだろうか。
神様が力を行使するのであれは、確かに運命を変えることだって可能なのかもしれない。
……でもこれは、私のような未熟な人間が持っていていい魔法ではないような気がする。
『相応の対価』という言葉通り、願いに応じた長さの寿命を削られるのだろうか。
大それた願いを口にすれば、その瞬間に私は死んでしまうのかもしれない。
封印しよう。この魔法はもう二度と使わない。アンセルとも約束したしね。今なら《光輪陣》もあるから、誰かの命を救うために《天輪》を使うという流れにはならなくて済む。
私達が3ヶ月もの間マーダーグリズリーを倒し続けたことで、とんでもない額のお金が貯まってしまった。
富豪、というほどではないのかもしれないが、私達がそれぞれ別に家を建てられるくらいの資金は余裕である。
こうなってくると、私とアンセルが冒険者を続ける理由が薄くなってしまう。
もともとは旅の資金を稼ぐためにモンスター狩りを始めた私達だが、家を建てても有り余るくらいの資金を手に入れた今となっては、冒険者を続けるよりも、どこか静かな場所に家を建て、穏やかに暮らす方がいいのではないかと思ってしまう。
まだはっきりと決めたわけではないので、デリックにこの事は打ち明けていない。
もしこの事をデリックに話せば、彼は冒険者を続けたいと言うだろう。そうなれば、私達のパーティは解散し、デリックはまたひとりになってしまうことになる。
それがわかっているからこそ、私とアンセルはデリックに気持ちを打ち明けられずにいるのだ。
もちろん、大切な仲間であるデリックと別れたくないという気持ちも大きく、なおさら決断できない理由となっていた。
今のところ落ち着き先も決まっていないため、当分の間はこのまま3人で活動を続けていくことになる。
今は何も考えず、自由な気持ちで冒険を楽しめばいい。先の事など誰にもわからないのだから。
さて、私達3人は今〈ヌーアの買い取り所〉の入り口に立っている。
ここへ来た理由のひとつは剛力の指輪を買い取ってもらうためである。
3ヶ月もの間、ひたすらマーダーグリズリーを倒し続けた結果、36個もの剛力の指輪が手に入った。
これを【空間収納】に眠らせておくよりは他の冒険者に使ってもらう方がいいだろうと考え、ここで買い取ってもらうことにしたのだ。
指輪は左右の手に一つずつ装備することができる。私達は3人パーティなので、6個あれば事足りる。30個は売却する予定だ。
このたくさんの指輪を見た時、もしかすると左右の指に5個ずつ、計10個の指輪を装備できるのではないかと考え、ひそかに実行してみたのだが、そんなうまい話はなかった。
片手に2つ以上の指輪を装備すると、指輪の効果が反映されなくなるようで、やはりゲーム通り左右の手に1つずつしか装備できない仕様のままだった。
ちょっと残念だったけれど、よく考えたら左右の指すべてに指輪を装備したままで戦うのは難しいよね。邪魔になって集中できないし、見た目も最悪だ。どこの成金貴族ですか?って言われそう。
両手に10個装備することは無理だったが、それでも左右1つずつ、計2つの指輪を装備できる。剛力の指輪の場合、力が20もアップすることになる。
このせいで、アンセルとデリックの攻撃力がとんでもないことになってしまい、結果的にマーダーグリズリーとの戦闘を短時間で終わらせられるようになった。
このさき格上の敵と戦うことがあったとしても、少なくとも攻撃力の面ではまったく引けをとらないだろうと思っている。
「いらっしゃいませ」
ヌーアの買い取り所に入ると、店内には冒険者の姿がちらほら見えた。
私達は真っ直ぐに買い取りカウンターへ向かう。
カウンターに立っていたのは50代くらいの男性だ。おそらくベテランの店員さんだろう。
「いらっしゃいませ。こちらはドロップ品の買い取りカウンターです。買い取りをご希望ですか?」
アンセルが一歩前に出て、店員さんとのやり取りを引き受ける。
「ああ。これを買い取ってもらいたい」
「こ、これは……剛力の指輪…」
ドロップ品の買い取りをしているだけあって、この指輪のことを知っているようだ。
この驚きようを見るに、この指輪がマーダーグリズリーのドロップ品であることも知っているとみていいだろう。
「お、お客様。まさか、あなた方はあのマーダーグリズリーを倒したのですか!?」
ざわ……
店員さんの驚いた声を聞き、買い取り所にいた冒険者達が騒ぎ出す。
……マズイ。このままでは騒ぎになってしまう。私達は目立ちたくないのに。
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