転生した私は人間不信の勇者と村を出る

スノウ

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冒険者として生きていく

次の目的地



「お、お客様。まさか、あなた方はあのマーダーグリズリーを倒したのですか!?」


 ざわ……


 店員さんの驚いた声を聞き、店内にいた冒険者達が騒ぎ出す。

 ……マズイ。このままでは大きな騒ぎに発展してしまう。私達は目立ちたくないのに。

 私は心の中で焦っていたが、アンセルは冷静に対応した。


「悪いが大きな声を出すのはやめてもらいたい。僕達は騒ぎになることを望んでいないんだ」


 アンセルの言葉に店員さんはハッとしたような表情になったが、直ぐに顔を引き締めた。


「……申し訳ございません。お客様、もしよろしければ別室にて対応させて頂きたく存じます」


 騒ぎになり始めているなかで、周りの冒険者達に注目されずに買い取りの手続きをするのは無理だと判断したのだろう。


「……わかった。そちらの判断に従おう」

「ありがとうございます。では別室にご案内致します」








「こちらです。どうぞソファにお掛けになってください」


 私達が通されたのは応接室のような場所だった。

 3人がソファに腰掛けた後、店員さんが対面に座る。


「すぐに温かい飲み物をお持ち致しますので、しばらくお待ちください」

「いや、それには及ばない。僕達はドロップ品の売却が終わればすぐにここから出ていこう」

「アンセル、待って。今日私達がここに来た目的はもうひとつあったでしょう?」

「……また別の日に来ればいい」

「おい、アンセル。わざわざ別の日に来る必要なんてねぇだろ?ついでに済ませればいいさ」

「……はあ。わかったよ」


 私達がヌーアの買い取り所にやって来た目的は、剛力の指輪の買い取りのためだけではない。

 もうひとつの目的。それは、私達が次に向かう町の情報を得ることだった。

 この町でのモンスター狩りは十分すぎるほどやり尽くした。レベルもホワル周辺の敵が相手では、これ以上上げることはできない。

 となれば、当然次の町に旅立とうという話になってくる。

 レベルアップを目標にするならこの辺りの敵では話にならないので、もっと遠方の町ヘと向かわなければならないだろう。

 私はゲーム知識からそう判断しているのだが、〈ホワル〉というゲームにない町が存在している前例もある。

 私の知らない町の情報や、強いモンスターの情報がある可能性も考えて、ここの情報屋に頼るつもりだったのだ。

 モンスターに関する情報を売っているということは、当然強いモンスターがいる場所も把握しているだろうからね。




 私が頭の中で考え事をしている間に剛力の指輪の買い取りは滞りなく終わっていた。

 かなりの金額になったようで、アンセルは袋にぎっしりと詰まったお金を【空間収納】ヘと送っていた。


「いやはや、あれだけの数の剛力の指輪を見たのは初めてですよ」

「そうか」

「お客様はやはりマーダーグリズリーを倒したのですね」

「………ああ、そうだ」


 さすがに否定したところで信じてはもらえないだろう。マーダーグリズリーを倒したのは事実だし、この店員さんがあちこちに言い触らさなければ問題はない。


 コンコン


「失礼致します。お茶とお茶請けをお持ちしました」

「ああ、入ってくれ」


 ノックの音とともに、女性が入ってくる。

 手にはお茶とお菓子が乗ったトレイを持っていて、私達の前に順番に置かれた後、そのまま退出するかと思いきや、そのまま男性店員さんの隣に座った。

 あ、このお姉さん、以前来た時に情報屋のカウンターにいた人だ。

 私達の話を聞いていた男性店員さんが、気を利かせて呼んでくれたのかな。


「お嬢さん、お久しぶりですね」

「!私のことを憶えているんですか?」

「ハイ!冒険者はむさ苦しい男達……ゴホン、いえ、屈強な男性達が多いもので、お嬢さんのような可愛らしい方が来店されるのは珍しく、よく憶えておりますよ」

 途中、お姉さんの失言に隣の男性店員さんがひじ打ちをくらわせていたようだが、特に痛がる素振りもなく普通に話し続けているのがちょっと怖い。


「お嬢さん、私にお役に立てることはございますか?」


 ああ、やっぱりそのためにここへ呼ばれたようだ。それならば遠慮なく質問させてもらうとしよう。

 
「実は私達、そろそろホワルの町を出ようと思っているんです」

「まあ……そうなのですか?」

「はい。それで、冒険者としては、できれば強いモンスターがいる場所に行きたいと考えています」

「強いモンスター、ですか。危険ではありますが、レベルアップのためには避けては通れないですからね」

 私は女性店員さんの言葉にひとつ頷く。

「それで、できるだけ強いモンスターがいる場所の情報を教えてもらいたくてこのお店に来ました」

「俺達はマーダーグリズリー相手じゃもうレベルが上がんねぇんだ。アイツより強いモンスターがいる場所を教えてくれ」

「っな!それは……マーダーグリズリー以上に強いモンスターとなると、この大陸には……」

「マーダーグリズリーと同等の強さの敵であれば心当たりがございます。この大陸の西の山脈にいると言われるグレートワイバーンや、テラネよりさらに北西にある港町近くの海を縄張りとするエビルクラーケンなどですね」


 お姉さんの言葉を引き継ぐ形で男性店員さんが説明を続ける。

 グレートワイバーンとエビルクラーケンがどんなモンスターなのかはゲーム知識で知っている。

 男性店員さんが言うように、確かにマーダーグリズリーと同じくらいのレベルだったはずだ。

 強いモンスターであることに間違いはないが、私達のレベルアップに関しては残念ながら期待できないといえる。

 もうレベルアップのことは頭から追い出して、気ままに冒険するのもいいと思うんだけどね。
 でも、デリックはまだまだ強くなりたいと言っているし、それに付き合うことに異論はない。


 それはそれとして、さっきお姉さんは何と言っていた?

 この大陸にはマーダーグリズリー以上のモンスターはいないと言ってなかった?

 それはおかしいよ。ゲームでは新しい町に行くごとに強いモンスターが出てくるようになってたし、この大陸にはレベル60くらいのモンスターもいたはずだ。

 ストーリーが進むごとに少しづつ強い敵が出てくるのはRPGのお約束というか、ご都合主義ではあるんだけど、ゲームでは確かにそうなっていたんだよ。

 お姉さんが言っていた他の大陸というのは龍人族が治めるルヌイド大陸と、エルフ族が静かに暮らすミズガニア大陸の2つのことだろう。

 それらの大陸は、ゲーム的に言えば『寄り道要素』であり、ストーリー本編にはあまり関わりがなかった。

 2つの大陸を完全にスルーしてもゲームクリア自体は可能だった。

 隅々までゲームを遊び尽くしたい人、レア装備を手に入れたい人、強いモンスターと戦ってレベルをあげたい人。そんなプレイヤー達がストーリーそっちのけで訪れていた大陸なのだ。

 つまり、そこに行けば強いモンスターがいるのは確かだ。

 でも、この大陸にいるはずの高レベルモンスター達はどうしていないのだろう。

 ゲームでは、勇者パーティの目的地だった〈空中に浮かぶ魔王城〉に近づくにつれてモンスターも強くなっていたよね。

 ……ん?

 もしかして、それが原因?

 魔王が力を取り戻していないから、強いモンスターも生まれてこないということ?

 魔王がいない平和な状態では、せいぜいマーダーグリズリー程度の強さのモンスターしか出現しないってことなの?

 ……ん~。他の可能性がないこともないけど、これが真実な気がする。

 冒険者としては物足りないかもしれないけれど、平和なのはいいことだ。弱いモンスターしか出現しないのであれば、命を落とす冒険者も少ないだろうし、何より魔王の配下に町を滅ぼされるイベントも起こらないのだから、これが最良なんだよ、きっと。

 デリックがあくまでも上を目指したいと言うなら、3人で別の大陸に移り住んでもいいかもしれないね。


「デリック、どうする?グレートワイバーンかエビルクラーケンがいる場所に行ってみる?」

「うーん、どうすっかなぁー」

「マーダーグリズリーと同等の強さと言うなら、僕達が倒してもレベルは上がらないと思うよ」

「うう、そうだよなー」

「……他の大陸ヘ向かうのであれば、ヌーア様が力をお貸しくださるかもしれません」


 ん?どういうことだろう。

 ヌーア様というのは、この買い取り所を経営している商人のことだよね。

 その人は他の大陸とも繋がりがあるということかな。


「あの、それはいったいどういう……」


 私の質問に対し、お姉さんは『今から話すことはここだけの話にして下さいね』と、私達に口止めしてから話し出した。


「ヌーア様はエルフ族です」

「「「!!」」」


 エルフ族。

 その昔、この大陸には人間の他にエルフ族も暮らしていたという。

 エルフ族は魔法の扱いに優れ、容姿も美しく、長命だった。

 そんなエルフ族を妬んだ人間は、次第にエルフ族を迫害するようになった。

 人間に見切りをつけたエルフ族は、この大陸を捨て、みんなで新しい大陸に移り住んだのだという。

 エルフ族は長命なため、今でも人間に迫害されたことのある者が生きており、多くのエルフ族は人間をひどく嫌っているそうだ。

 ヌーアさんがエルフ族で、なおかつこの大陸で活動しているということは、エルフ族には珍しく人間に友好的な方なのだろうか。

 どちらにせよ私はエルフ族に対する差別心は持っていないので、ヌーアさんが協力してくれるというのなら素直にありがたいと思う。

 アンセルとデリックの様子を窺うが、ヌーアさんがエルフ族だということに驚いてはいるものの、嫌悪感などは抱いていないようだ。

 うん、2人は差別なんてしない人達だよね。

 私達の反応からエルフ族への差別心がないことを確認したお姉さんは、ホッと安心したような顔をしていた。

 この話をすることは、お姉さんにとっても賭けだったのかもしれない。

 ヌーアさんがエルフ族だということを私達が言い触らせば、エルフ族を嫌悪する人間達がここに押し寄せただろうから。


「お嬢さん達がエルフ族への差別心を持っていないようで安心いたしました。今言いました通り、ヌーア様はエルフ族ですので、ミズガニア大陸との繋がりがございます」


 エルフ族は人間から迫害された過去があるため、この大陸とミズガニア大陸は国交が断絶されたままである。

 通常の方法ではミズガニア大陸ヘ行くことはできないのだ。

 しかし、エルフ族であるヌーアさんは、当然ミズガニア大陸に入ることを許されている。
 彼はヌーアの買い取り所が所有している商船で、一年に一度だけミズガニア大陸のエルフ族と交易をおこなっているのだという。

 そして、その商船がこれから2週間後に出港するそうだ。


「つまり、僕達をその商船に乗せてくれるという話なのか」

「ハイ!商船には個室もございますので快適な船旅をお楽しみいただけるかと存じます」



 さて、私達はどうするべきなのだろうか。

 ここは慎重に考えて答えを出すべきだ。

 

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