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冒険者として生きていく
罠
「君、大丈夫?私のことがわかる?」
「うう……」
「外傷はないようだけど、君はどうしてこんなところで倒れていたの?」
男の子……おそらく10歳くらいだろうか。
少年の姿は薄汚れていて、あまり裕福な家の出ではないだろうことが察せられる。
もしかすると、食べる物にも困る生活をしていて、ここで行き倒れてしまったのだろうか。
「君、もしかして、行き倒」
「助けて!お姉ちゃんが山賊に連れていかれたんだ!」
私とアンセルは驚いて顔を見合わせる。
「……どういうことだ。詳しく話せ」
それから少年は自分の身に起きた事を私達に話してくれた。
少年の両親は既に他界していて、姉と2人でなんとか暮らしていたそうだが、その姉が山賊に連れていかれたらしい。
少年自身も拐われそうになったが、姉が身を挺して庇ってくれたため、なんとか逃げられたのだという。
少年は助けを呼ぼうと全力で走り続けるうちに、ついには力尽きて倒れてしまったようだ。
「僕達は貧しくて、食料を買うお金を節約するためによく山に入っているんだ。山では山菜や木の実が採れるからね」
「山には山賊がいることを知らなかったのか?山賊の他にも、危険な野生動物だっている」
「……知ってたさ。でも、食べるものがなければ死んじゃうだろ!?仕方なかったんだよ」
「………」
危険を冒さなければまともに生活できなかったのだとしたら、私達が少年を責めることはできないだろう。
それよりも、拐われてしまったお姉さんが心配だ。
「私はユーニス。あなたの名前は?」
「ジョス」
「そう。ではジョス、あなたのお姉さんがどこに連れていかれたのかわかる?」
「うん。あいつらが根城にしてる場所なら知ってる」
「……わかった。ジョスにはここで待っていてほしかったけれど、私達はその場所を知らないから、案内してもらわなければいけないわ」
「僕なら大丈夫だよ。だから早くお姉ちゃんを助けて!」
「ユーニス、君はここに残って待っていてくれ。君を山賊なんかに会わせられるものか。行くなら僕だけで行く」
「ダメだよ!ユーニスさんも一緒に来て!お兄さんと2人だけなんて怖い!」
「「………」」
アンセルは苦虫を噛み潰したような顔をして黙っている。
まあ、その気持ちもわかる。危険な山賊がいる場所まで一緒に行ってくれるアンセルに対し、怖いとか言っちゃったんだから。
失礼すぎる態度だが、相手が子どもだけに真に受けて怒りだすのも大人げない。その結果、アンセルは無言の意思表示をしているというわけである。
残念ながらジョスは気づいていないようだが。
私はハァ、とため息を吐く。
「アンセル。気持ちはわかるけど、今のままでは埒があかない。私も一緒に行くしかないよ」
「……仕方ないな」
「一緒に来てくれるの!?ありがとうユーニスさん!」
アンセルはまだ躊躇しているようだったが、ジョスに急かされ、渋々重い腰を上げた。
「2人とも、こっちだよ!」
ジョスと話し込んでいるうちに辺りはすっかり暗くなり、アンセルの《ライト》がなければ山で遭難していたかもしれないほど視界が悪い。
そんな中、ジョスはスイスイと山道を進み、私達を先導する。
よく山に入っていると言っていたから、山の地理も熟知しているのだろうか。
そうして山道をしばらく進んだ先に、山賊のアジトらしき建物がみえてきた。
門の前には特に見張りは立っておらず、少々無用心な気がしたが、私達にとっては都合がいい。
そのまま門をくぐって中に入り、建物の裏口に回る。
「この中だよ。連れてこられた女の人はまとめて牢に入れられるんだ」
「やけによく知っているな」
「……僕は物知りなんだよ。さあ、もうすぐだよ」
裏口から建物内に侵入し、ジョスに言われるがままについていった先には確かに牢があった。
中には女の人が1人だけだ。あの人がジョスのお姉さんだろう。
私は小声で話しかけた。
「あの、あなたはジョスのお姉さんですか?今助けますから、待っていてくださいね」
女の人は無言で頷いた。
きっと怖い目にあって口が利けない状態なのだろう。早くここから出してあげなければ。
「アンセル、ここの鍵を壊せる?」
「この程度なら簡単だよ。少し待っていて」
アンセルは腰の剣を抜き放つと、錠前を一閃した。
カチャン、という金属音が響き、錠前は地面に落下した。
私は牢の扉を開き、女の人に近づいた。
アンセルが近づいてこないのは、山賊に襲われた彼女が男のアンセルを怖がるかもしれないとの配慮だろう。
「もう大丈夫ですよ。さあ、一緒にここから出ましょう」
「……ありがとう」
女の人が顔を上げる。
「え……」
その顔を見た私は瞬時に固まった。
え?ジョスのお姉さんってこの人なの?
なぜ彼女がこんなところにいるの?
「聖女ミラ……」
「あら?聖女だなんて、嬉しいねぇ。どうしてアタシの名前を知っているのかは知らないけど、聖女様になれるもんならなりたかったよ」
急に饒舌になった彼女に違和感を覚えるが、彼女の言葉が気になってそれどころではない。
「あなたは聖女ではないんですか?」
「ハハ、聖女ってあれだろ?国王が探してるっていう。アタシも金欲しさに聖女に名乗り出ようとしたんだけどさ、『体に黒い紋様のような痣があることが聖女の条件だ』なんて言われて、すごすごと引き返したのさ」
「黒い……痣……」
ああ、情報が多すぎて頭がまとまらない。彼女が言っていることが本当なら、聖女というのは──
私が考えに集中し、周りに注意を払っていなかったのがいけなかったのだろう。
体にチクリという針で刺されたような痛みが走ったかと思えば、私は暗い牢の床に倒れ込んでいた。
「ユーニス!!」
アンセルの声が牢内に響く。私はアンセルのほうを見ようとしたが、頭どころか指1本動かせない。体が麻痺しているようだ。先ほどの痛みは体が麻痺する薬を打たれたのだろうか。
そして、今私にそれを行えた人物は1人しかいない。
聖女ミラ。いえ、聖女ではないただのミラ。
なぜ彼女が私にこんなことを?
「おっと、動くんじゃないよ。少しでも動けばこの娘を殺す」
「くっ……お前、ユーニスに何かしてみろ。お前の弟を殺してやる」
アンセルがそう言うと、ミラは可笑しそうに声をあげて笑った。
「ハハッ、そいつを殺したいなら好きにすればいいさ。アタシは痛くも痒くもないからね」
「ひどいっすよお頭。せっかく上玉を連れて来たっていうのに」
「それは評価してるとも。この娘の容姿なら絶対に高値で売れるはずさ。だが、余計な男までついて来ちまってるじゃないか」
「仕方なかったんっすよ」
「言い訳は聞かないよ」
「ちえー」
「……お前はここのボスなのか?」
アンセルの言葉にミラが反応する。
「話が早くて助かるよ。そうさ。アタシがここの山賊達の頭だ。そこにいるちっこいのは弟なんかじゃない。山賊の下っ端だよ」
「どうもー。ユーニスさん、騙しちゃってすいません。最近は山に来る人がめっきり少なくなっちゃって、それで仕方なく山から下りてこんな小芝居を打って、売れそうな女を連れて来てるってわけです」
山に入る人が減ったのは、情報屋のお姉さんが注意喚起していたからというのもあるだろう。
山に入る人間がいなくなり、稼ぎがなくなった山賊達は、こんな子どもを使ってあの手この手で人を誘き寄せていたというわけだ。
いや、この子も山賊の下っ端だというから、彼は自ら進んで人を騙していたんだろう。騙された私を見て、内心ではほくそ笑んでいたのだろうか。
あれ?考え事をしていたら、意識が遠くなってきた。もしかして、さっきの針のようなものに眠り薬も混ざっていたのかもしれない。
「悪いがアンタにはここで死んでもらう。顔はアタシの好みだけど、アンタはただ者じゃなさそうだからね」
「ユーニスさんのことは心配要りませんよー。大切な商品ですから、殺したりなんかしません。だから、安心して逝ってくださいね!」
扉が開く音が聞こえ、続いて大勢の足音が部屋に入ってくる。きっと山賊達に違いない。おそらく合図があるまで扉の前で待機していたのだろう。
私達は最初からここに誘き寄せられていたということだ。
「お前ら……絶対に許さない」
地を這うようなアンセルの声が響く。
アンセル。足手まといになってごめんなさい。ああ、もう意識を保っていられない。
アンセル……どうか死なないで……
私の意識はそこでプツリと途切れ、深い闇の底に沈んでいった。
次に目覚めた場所は私の知らない部屋のベッドの上だった。
辺りを見回すと、部屋にずっといたらしい知らない女性が近づいてきた。
「目覚めたようですね。体の調子はどうですか?」
「え……あ、はい。少しだるい感じがしますが、それ以外はなんともなさそうです」
「すみません。説明が遅れてしまいましたね。ここはホワルの治療院で、私はここで働く治癒士です」
ここはホワルの町?ということは、私は助かったのだろうか。
「あの、アンセルは?私の連れはどこですか?彼は無事なんでしょうか」
「その方なら部屋の外で待機していますよ。彼には外傷はありませんので安心して下さい。一応家族以外の方は入室禁止という規則に則り、外に出てもらっていたのです」
アンセルは無事。そうか、よかった。本当によかった。
体から緊張が抜け、ほぅ、と息を吐き出した。
「私はもう大丈夫なので、ここを出てもいいですよね」
「え?でも、起きたばかりですし」
「今は早くアンセルに会って、彼の無事を確かめたいんです」
「ユーニスさん。あなたは3日も目覚めなかったのです。今日は大事をとってここで休んで下さい」
……3日。私は3日も目覚めなかったのか。
この治癒士さんには悪いが、それならなおさらアンセルに会わなければ。私の無事な姿を見せて、早く安心してもらいたい。3日もの間この部屋の前で待機していたのなら、早く帰って彼を休ませなければいけない。
「ごめんなさい。やっぱり私はここを出ていきます。今日までお世話になりました」
「待って下さい!まだ退院の許可は」
なおも言い募る治癒士さんを押しきり、なかば強引に部屋のドアを開ける。
「ユーニス!!」
「アンセル……心配かけてごめんなさい。この通り私は無事だよ。さあ、もう帰ろう」
「ユーニス、よかった。君はずっと目覚めなくて、僕は気が狂いそうだった」
「ごめんね。本当にごめんなさい」
「いいんだ。君が無事ならそれで」
2人で無事の再会を喜び合い、さあ帰ろうかというところで、先ほどの治癒士さんが割って入る。
「お願いです。もう1日入院して下さい。それがダメならせめて宿の場所を教えて下さい」
「………」
この治癒士さん、やけに食い下がるな。
医療従事者として、半端な状態で患者を放り出すのは我慢できないのだろうか。何かあった時のために宿の場所を知りたいのかな。
「宿は取っていない。僕達は冒険者なんだ」
「それなら今日くらいは宿の部屋で休んで下さい。私の知っている宿屋を紹介しますから」
「……わかった。そうしよう」
アンセルも本調子でない私がテントで休むのは良くないと思ったのだろう。治癒士さんの紹介してくれた宿屋に泊まることにしたらしい。
治療費を支払い、お礼を言って治療院を出る。
それにしても、私が気を失った後に何があったのだろうか。
私は前を歩くアンセルの姿をじっと見つめた。
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