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聖女と魔王、その真実
ユーニスは僕が守る
「アンセル、私とロンちゃんの会話、どこまで聞いていたの?」
「………」
「あ、違うの。責めてるわけじゃないからね。もともとアンセルに隠し事をするつもりはないんだよ」
「……そうなのか?」
私は大きく頷いた。
「ただ、私自身が半信半疑だったから、アンセルに話す前に確認が必要だったの」
ここで私はひと呼吸おき、何から話そうかと考える。
「ねえ、アンセル。山賊の頭が言っていたことを覚えてる?聖女の体には黒い紋様のような痣があるって」
「ああ、国王がそういったお触れを出しているのは本当のことだよ。町でもそういった話題が出ることがあるんだ」
「そうなの……知らなかったな」
私は偶然知る機会に恵まれなかったようだが、町では知らぬ者はいないくらい有名な話だったようだ。
テラネの町でも噂になっていたみたいだしね。聖女を見つけた者には褒賞金が与えられるとか言ってたっけ。
アンセルが知っているなら話が早い。
私はおもむろに上衣の裾に手を掛けた。
「ユーニス、何を……!?」
「アンセル、見てもらいたいものがあるの」
そのまま上衣を捲りあげる。おへその上、胸が隠れるギリギリまで捲りあげた。恥ずかしさはあるが、これを見たアンセルにどう思われるかを考えると怖くてたまらなくなる。
この痣、巷では聖女の証として有名なものらしいんだけど、神聖さなんて微塵も感じないどころか、近くで見ると結構グロい。
こんな禍々しい痣だったからこそ、私はこれをいけにえの証ではないか、などと勘違いしていたのだから。
こんなものを見せて顔をしかめられたらどうしようかと思っていたが、アンセルの取った行動は私の予想外のものだった。
アンセルは私に目もくれず、ロンちゃんの前に立ちはだかった。どうやらロンちゃんの視線から私を守っているようだ。
いや、私が勝手に見せつけたわけだから、ロンちゃんに罪はないよ、アンセル。
『何するんだ!』
「お前のよこしまな視線からユーニスを守っているんだよ」
『ちょっと肌を見せただけでピリピリしすぎだ!そんなこと言ったらボクはユーニスの着替え』
「ちょっと黙ろうか、ロンちゃん」
私はロンちゃんの口を人差し指で封じた。
ごめんね、ロンちゃん。でも、それ以上言うとあなたの命の保証ができなくなりそうなんだ。だから、すこーしだけ静かにしてようね。
「アンセル、ロンちゃんのことはいいから、こっちをちゃんと見て」
「っ、わかった。……お前、絶対にこっちを見るなよ」
『わかったよ、まったく』
アンセルはロンちゃんが後ろを向いたのを確認してからこちらに向き直った。
少し躊躇いがちに視線を向けてくるが、問題の痣を見た瞬間、真剣な表情になり、食い入るように痣を凝視していた。
それから1分、2分……ん?よく確認するにしても、いくらなんでも長すぎるのでは?と思い始めた頃、やっと私から離れてくれた。
私は衣服を整え、再度アンセルに向かい合う。
アンセルはなぜか満足気な顔をしていたけれど、まあ、あの痣を見ても不快な気分にならなかったみたいだから、良かったのかな。
「ありがとう、ユーニス」
「え?あ、うん」
なぜお礼を言われたのかはわからないが、きっと恥ずかしさを我慢して痣を見せたことに対する言葉なのだろう。
「確かにその痣は紋様のように見えるね。聖女の条件とも一致している」
『だから、ユーニスは間違いなく聖女なんだよ!確認なんて必要なかったのに』
「うるさい。黙っていろ」
『ちぇっ』
アンセルは相変わらずロンちゃんに対するあたりが強い。もう少し仲良くなってほしかったんだけどなぁ。
「私が聖女だと誰かに知られれば、王都に行かなければならなくなるのかな」
「王命だからね。連れていかれる可能性はある」
「そうだよね……」
正直、王都なんかに行きたくはない。今の私は人間と関わることすら避けたいと思っているのだ。聖女だと知られて連れていかれてしまえば、王城から出してもらえなくなるかもしれない。王様が何の目的で聖女を探しているのかはわからないが、便利な道具として使われるつもりはない。
この先のことを考えて憂鬱な気持ちで俯いていると、アンセルが私の両手を強く握った。
驚いて顔を上げると、アンセルが真剣な瞳でこちらを見つめていた。
「アンセル……」
「ユーニス、心配しなくてもいい。君は僕が守る。王都なんかには行かせない」
「あ……」
アンセルには私の気持ちなんて全部お見通しだったようだ。
繋いだ手からアンセルの温かな体温が伝わってくる。その温かさを感じていると、憂鬱だった気持ちがスッと楽になった気がした。
アンセル、ありがとう。あなたがいてくれてよかった。
「あと10日ほどで僕達はこの大陸から出ていく。それまで誰にも知られなければ問題ないよ。念のため、明日からはまた町の外に拠点を移そう」
「うん、私もそうしたほうがいいと思う。体の調子も問題なさそう」
「そうか、それなら良かったよ」
今後の方針はこれで決まった。
デリック抜きで話を進めてしまったのは申し訳ないが、後でちゃんと説明して謝るつもりなので、どうか許してほしい。
さて、残るは山賊のアジトでの顛末をアンセルから聞くだけだね。
といっても、おおよその見当はついている。
あの場面で私とアンセルが無事に帰れたということは、山賊達はアンセルが倒したのだろう。
彼が人を殺めたことを責めるつもりはない。
あの時、山賊達はアンセルを始末するつもりだった。アンセルが山賊達を殺したのだとしても、それは自分の身を守るためには仕方がない事だったのだろう。
私が動けない状態にさえなっていなければ、2人で走って逃げられたのだろうか。
だとすれば、なおのこと私がアンセルを責める資格などないだろう。アンセルが大変な時に、私は何もできずに気絶していたのだから。
私はひとつ深呼吸して、覚悟を決めてアンセルに向き直る。
「アンセル、山賊の根城で私が気を失ってから何があったの?」
「それは……」
「私は何を聞いても受け止めるつもりだよ。だから話してほしい」
「…………わかった」
それからアンセルが語ったことは、概ね私の予想通りだった。
あの場にいた山賊達は、そのほとんどがアンセルの手にかかったようだ。少数は隙を見て逃走したそうだが、そいつらを追いかけることはしなかったという。
倒れた私が気がかりで、それどころではなかったのだそうだ。心配かけて本当にごめんなさい。
山賊の頭だったミラもアンセルが打ち倒したそうだ。
ストーリー上では仲間同士だった2人が敵対し、殺し合うことになってしまったことにはやるせない気持ちでいっぱいだ。
結局、ストーリーで仲間になった聖女ミラはなんだったのだろう。ストーリーでは魔王が復活しているから、私は魔王に殺され、この世にいなかったはず。つまり、ゲームの世界には聖女はいなかったことになる。
聖女がいない穴を埋めるために、ミラが代役に立てられたということだろうか。どちらにせよミラは聖女ではなかったのだから、彼女は勇者を騙していたことになる。
いや、聖女ミラは国王の紹介で仲間になったのだから、国王もグルだろう。
そうなると、国王は信用できそうにない。
やはり私が聖女であることは絶対に知られてはならないと思う。知られれば何をされるかわかったものではない。
気を失った私を抱えたアンセルは、山賊のアジトを出て、急いで山を下りた。
しばらくは私の目覚めを待っていたそうだが、いつまで経っても目を覚まさないことに焦りを覚え、治療院ヘと私を運んだそうだ。
ジョスに手ひどく騙されたことで、アンセルもまた人間不信を悪化させており、本当は治療院などに私を連れて行きたくはなかったそうだ。
しかし、アンセル本人にはこれ以上どうすることもできず、仲間のデリックも不在だったことで、やむを得ず治療院ヘ向かう決断に至ったのだという。
そうだよね。ジョスに裏切られて傷ついたのは私だけじゃないよね。アンセルだって心に深い傷をつけられたはずだ。
……でも待って?心に傷を負って、心が陰っているのなら、どうしてロンちゃんの姿が視えるの?
「……ねえ、ロンちゃん。心が陰っているとロンちゃんの姿は見えないんじゃなかったの?」
暇を持てあまし、テーブルの上でゴロゴロしていたロンちゃんは、私の質問に反応して元気に起き上がった。
『一度視えるようになると、余程のことがない限りはずっと視えてるままだよ。今回はボクがこんなふうになっちゃったから、今のアンセルとも反発しないっていうのもあるかもね』
「そうなんだ……」
ロンちゃんの姿を改めてよく観察する。
体の色は暗くなり、くすんでしまったようになっている。光の精霊というよりは闇の精霊といったほうがいいような外見だ。
これは、人間達の邪悪な本心を覗き見て、人間を完全に見限った時に姿が変わってしまったそうだ。
つまり、ロンちゃんは人間不信のアンセルと同じような心境であるため、今のアンセルとも相性が悪くないというわけである。
私もまた2人と似たような心境であるため、私がロンちゃんの姿を視えているのもアンセルと同じ理由なのかもしれない。
「ユーニス、僕は君に謝らなければならないことがあるんだ」
「え……?」
ロンちゃんが視える理由について考えていると、アンセルが突然そんなことを言い出した。
アンセルが謝る?謝らなければならないのは私のほうだよ。
「ユーニス。僕はね、ジョスに最初に会った時から、何か嫌な予感がしてたんだ」
「!!」
アンセルの第六感、超感覚。
昔からアンセルの『嫌な予感』はよく当たる。彼が勇者だからなのか何なのかはわからないが、この予感に助けられた事も多い。
そうか、アンセルはあの時にはもう違和感を抱いていたんだね。
「ジョスについていってはいけない。そう思っていたのに、ジョスの言葉を信じ、彼の姉を助けに行くことに同意してしまった」
「アンセル、それは」
「あんなことになってしまったのは僕の責任だ。僕があの時自分の直感を信じていればこうはならなかったんだ。ユーニス、本当にごめ」
「アンセル!!」
「!!」
私はアンセルの頭を引き寄せ、思いっきり抱き締めた。
「アンセル、あなたが謝ることなんて何もないの。あなたは倒れた私を助け、無事に山を下りて治療院まで運んでくれた。アンセルには本当に感謝してるの」
「でも、そもそもあそこに行かなければ君が倒れることもなかった」
「ううん、きっと私達はどうあってもあそこに行くことになったと思うよ。ジョスの演技は完璧だった。あの子を見捨てる選択肢は、あの時の私達には取れなかったと思う」
「ユーニス……」
「だから、アンセルが気に病むことはないんだよ。気を失った私を助けてくれたんだから、堂々と私からのお礼を受け取っておけばいいの」
「ふふ、やっぱりユーニスには敵わないな」
アンセルの体から緊張が抜け、彼の両腕が私の背中に回される。
そのまましばらく互いに抱き締めあった。
コンコン
静寂を破り、部屋にノックの音が響く。
私達はパッと体を離した。2人ともそのままドアを見つめる。
誰だろう。デリックかな。
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