28 / 37
聖女と魔王、その真実
王命
ノックの音が部屋に響く。
誰だろう。デリックかな。
私がドアに近づこうとするのをアンセルが遮る。
「アンセル?」
「ユーニス、気をつけて。ドアの前にいるのはデリックじゃない」
「!!」
デリックじゃないなら誰だというのだろう。宿屋の女将さんかな。
アンセルは私にドアに近づかないように言い含めたあと、ドアに向かって声を掛ける。
「誰だ」
「宿の者です」
「何の用だ」
「お食事をお持ちしました」
私達は無言で顔を見合わせる。
そういえば、もうそんな時間だったね。いろいろ話し込んでいるうちに時間が経っていたみたいだ。
「わかった。今開ける」
アンセルが鍵を外し、ドアを開いた。
「!!」
そこにいたのは宿の女将さんだけではなかった。
女将さんの後ろには、鎧を纏った騎士のような人達が立っていた。私から見えるだけでも4人はいる。後ろにはもっといるのかもしれない。
これは、どういうこと?鎧で武装した男達が大勢で訪ねて来るなんて、普通に考えてあり得ないことだ。
女将さんが何も言わないところを見ると、ならず者の類ではなさそうだけど。
「これは……どういうことだ」
「あなたには用はありません。我々が用があるのはあなたの後ろにいる女性です」
「な……!?」
「私……?」
私に用事?まさか…。
もしかして、私が聖女だとバレたの?
でも、いつバレたっていうの?
聖女だということを私が知ったのだってつい先程だ。私より先にどうやって知ったというのか。
それに、私達がこの宿屋に泊まっていることを知っているのはごく限られた人間だけのはず。
私とアンセルとデリック。そして、この宿屋を紹介してくれた治癒士さんくらいしか……まさか。
治癒士さんが私のことを話したの?
でも、私が聖女だってどうやって……ああ、治癒士なら私が運ばれてきた時に、外傷がないか服を脱がせて確認するよね。
その時に聖女の証である痣を見つけたんだ。
聖女の痣については有名な話だと言っていたから、治癒士さんが知っていてもおかしくはない。
あの鎧の男達は王都から来た騎士達なの?
私はあの治癒士に売られたのだろうか。
いや、ただ単に聖女様を見つけたから善意で連絡しただけなのかも……ううん、もしそうなら私に黙っていたことの説明がつかない。
あの治癒士はしきりに私を引き留めたがっていた。
おそらく王都からの使者が到着するのが今日だと知らされていて、到着まで私を何とか引き留めたかったのだろう。
聖女を見つけた者には褒賞金が与えられる。治癒士の目的はそれだろう。
「ふ……」
私の口から自嘲めいた笑みがこぼれる。
あーあ、また騙された。
私って、救いようのないバカだね。
もう、簡単には人を信用しないと心に決めた矢先にコレだよ。本当に救えない。
「おい、やめろ!ユーニスに近づくな!」
アンセルの声に、意識が現実に引き戻される。
「アンセル!!」
アンセルは男達に拘束されていた。男達のリーダーらしき男がゆっくりと私に近づく。
「アンセルに何をするの!?彼を解放して」
「彼が暴れたため、我々は仕方なく拘束したまでです。用が済めば彼のことは解放しますよ」
「それで?私に何の用があるというの」
「我々は王に仕える騎士。私は騎士団を束ねる団長の任に就いております。聖女様、我々はあなたをお迎えに参上したのです」
「……私は聖女ではありません」
「それは王都にて確認させていただきます。まずは我々にご同行を」
……まずい。いくら聖女ではないと突っぱねたところで、体を確認されてしまえば一発でバレてしまう。
王都に連れていかれるわけにはいかない。こんな強引な方法で連れていこうとするのだ。簡単に解放してもらえるわけがない。
「仮に私が聖女だとして、私に何をさせるつもりですか」
「王命です」
「……つまり、私に説明できないことなのですね」
「……王命です」
「説明ができないようなことに従う理由はありません。お引き取りを」
「……どうあってもご同行いただけないと?」
「ええ、お引き取りください」
私が断固拒否の姿勢を見せると、騎士団長は後ろの騎士達に目配せをした。
アンセルを拘束している騎士を除き、騎士達がこの部屋に雪崩れ込んでくる。
「ユーニス!!」
「王命に背いた者は死をもって償うのみ。聖女様、あなたにはここで死んでいただきます」
「な……!?」
この人達、私を王都に連れていって何かをさせたかったんじゃないの?こんな簡単に聖女を殺す決断をするなんて、どう考えてもおかしい。
……まさか、初めから聖女を殺すことが目的だったの?
考えたって答えは出ない。ここはひとまず逃げることを考えなければ。
「《封縛陣》!」
「な……!?」
「体が……」
私に掴みかかろうとしていた2人を拘束する。2人は立っていられなくなり、金属音を立てながら床に倒れた。
この魔法は一度に1ヵ所しか陣を設置できない。他の騎士達を拘束するには、彼らに自主的に陣に近づいてもらわなければならない。
モンスターならいざ知らず、知能の高い人間が迂闊に陣に近づいてくれるはずもなく、彼らは陣の周りで注意深く私の隙を窺っている。
私に近づくためには騎士達は陣に近づく必要がある。
お互いに攻めあぐね、膠着状態が続くかに思えたが、思わぬところで事態は動き出す。部屋の後方にいた騎士が突然呻き声をあげて床に倒れたのだ。
私だけではなく、他の騎士達も驚いて後ろを振り返る。
「よ、ユーニス!助けに来たぜ!」
「デリック!!」
後ろにいた騎士を昏倒させたのはデリックだった。アンセルはいつの間にか拘束から脱していた。デリックは先にアンセルを助けてくれていたらしい。ありがとう、デリック。
自由に動けるようになれば騎士達がアンセルに敵うはずもない。
ほどなくして騎士達は全員昏倒させられた。
血を流している者もいるが、命に別状はなさそうだ。私達は今のうちにここを離れなければならない。
「あ、あの、聖女様……」
宿屋の女将さんがおずおずと話しかけてくる。彼女はどこか申し訳なさそうにしている。
彼女はこんなことになるなんて思っていなかったのかもしれない。
「私は聖女ではありません」
「……そうですか……」
「女将、これは宿代だ。宿を騒がせた迷惑料と口止め料も入っている。今日のことは誰にも話すな」
「は、はい。わかりました……」
話を切り上げ、足早に宿屋をあとにする。
あのまま女将さんが黙っていてくれるとは思っていない。それでも少しの時間稼ぎにはなるかもしれないので、口止めにまったく意味がないわけではないと思う。
そのままホワルの町を出て、街道から離れた場所を歩く。目立たない場所にテントを張り、中に入る。
「「「はぁー……」」」
3人揃ってため息を吐く。
今日は散々な目に遭った。いや、今日も、かな。
「デリック、助けてくれてありがとう。それと、お帰りなさい。テラネにいるお父さんとはゆっくり話しができたの?」
「え?ああ。親父はいつも通りだったよ。ミズガニア大陸に行くって言ったら驚いてたけどな。まあ、反対はされなかったぞ」
そこでデリックは一旦話を区切り、「そんなことより」と言って話を本題に戻した。
「それで?いったい何があったんだよ」
騒ぎの原因をわかっていないデリックは、私達に事情を説明してもらいたいようだ。
彼はよくわからないまま騎士達と戦ったのだから、詳しい話を聞きたいのは当たり前だろう。
「あのね、デリック。驚かないで聞いてほしいんだけど、私、聖女なんだって」
「は?」
「……まあ、そういう反応になるよね」
私だって自分が聖女だという自覚はない。
「ユーニスが聖女だというのは本当だ。デリック、お前はユーニスが嘘を吐いているとでも言うつもりか」
まずい、アンセルがデリックに絡みだした。
「いや……嘘とは思ってねぇけど……」
だけど、何かの間違いではないかと思っているんだよね。その気持ち、よくわかります。
「デリック、私が聖女だという証明ならできるよ。私の体には」
「ユーニス、それはダメだ」
「え、でも」
「君はデリックに聖女の証を見せるつもりなんだろう?そんなこと、許可できるわけがない」
「……そんなこと言っても、それ以外に方法が」
「デリック、ユーニスの体には聖女の証がある。僕が確認したから間違いない。信じろ」
「お前、ユーニスの体を見たのか……」
「信じたか?」
「……まあ、信じたよ。もともと疑ってたわけじゃねぇけどな。お前が言うなら聖女の証はあったんだろ」
「当然だ。僕がユーニスのことで嘘を言うはずがないだろう」
「そうだよな。お前はそういう奴だったよ」
デリックは何故かげんなりしていたが、一応私が聖女であると信じてくれたらしい。
「それでね、あの鎧の男達は王都から来た騎士なんだって」
「ユーニスを王都まで連れていくつもりだったみたいだ」
「え?それって王命だよな。王都まで行かなくて良かったのかよ」
「デリック。騎士は確かに王命だと言っていたけど、王が私に何をさせたいのかは説明してくれなかったのよ」
「ユーニスが同行を拒否した途端、アイツらはユーニスを殺そうとした」
「はあ?何でだよ」
そうだよね。そういう反応になるよね。私だってそう思ったもの。
「騎士達は最初から聖女を殺すつもりだったんじゃないかと私は思ってる」
「聖女様を?何のために?」
「……そこまではわからないけど、私が大人しくついていけば人知れず始末できて、抵抗された場合は王命に背いた犯罪者として処断する。どちらに転んでも私を殺すつもりでいたなら、あの騎士達の態度にも説明がつく」
私が同行を拒否した途端、アイツらは私を殺そうとした。王が聖女を必要としているなら、私を簡単に殺そうとしたりはしなかったと思うんだ。
だから、あの状況は騎士達にとってはすべて織り込み済み、打ち合わせ通りの展開のひとつだったんじゃないかと私は思う。
「ユーニスは王に狙われてるってことか?」
「その可能性もあるって話よ」
「どちらにせよ、騎士に剣を向けた以上、この国とは敵対したも同然だろうな」
「マジかよ……俺もとうとうお尋ね者の仲間入りってわけか。これでも真面目に生きてきたつもりだったんだけどな……」
「デリック、あなたは何も知らされずに騎士達と戦った。そう正直に言えば、あなただけは罪に問われないかもしれない」
「僕達と距離をおいて、別の仲間を探してもいい。今のお前なら引く手あまただろう」
「おいお前ら、勝手に話を進めるな」
「でも、お尋ね者にはなりたくないでしょ?」
「ユーニス、俺を見くびるな。確かにちょっとビビっちまったけど、仲間を置いて自分だけ助かりたいなんて思わねぇよ」
「デリック、お前……」
「デリック……」
「ま、どうせあと少しでこの大陸を離れるわけだし、それまで見つからずに済めば逃げ切れるだろ」
「出港当日までは町に入らないほうがいいよね」
「ああ、そうしたほうがいい。当日もなるべく目立たないような格好で町に入るべきだろうね」
「冒険者達との約束を破っちまうことになるが、まあしょうがねぇよな」
「そういえば、デリックは冒険者達に稽古をつける約束をしていたわね」
「そーそー。今日もちょっとは見てやれたし、あれで許してもらうしかねえな」
「ごめんね、デリック」
「やめろよ、ユーニスは悪くないだろ」
「……デリック」
これ以上食い下がって謝ることをデリックは望んでいないだろう。
私は心の中でもう一度デリックにごめんなさいを言い、この話を終わりにした。
この日はテント内で簡単に食事をとり、そのまま別れて就寝した。
次の日、人目を忍ぶように行動していた私達だったが、日が落ちた頃、突然目の前に老人が転移してきたことで束の間の平穏は終わりを告げた。
あなたにおすすめの小説
聖女の孫だけど冒険者になるよ!
春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。
12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。
ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。
基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。
imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。
今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。
あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。
「—っ⁉︎」
私の体は、眩い光に包まれた。
次に目覚めた時、そこは、
「どこ…、ここ……。」
何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~
オレンジ方解石
ファンタジー
恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。
世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。
アウラは二年後に処刑されるキャラ。
桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー