転生した私は人間不信の勇者と村を出る

スノウ

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聖女と魔王、その真実

王命



 ノックの音が部屋に響く。

 誰だろう。デリックかな。


 私がドアに近づこうとするのをアンセルが遮る。


「アンセル?」

「ユーニス、気をつけて。ドアの前にいるのはデリックじゃない」

「!!」


 デリックじゃないなら誰だというのだろう。宿屋の女将さんかな。

 アンセルは私にドアに近づかないように言い含めたあと、ドアに向かって声を掛ける。


「誰だ」

「宿の者です」

「何の用だ」

「お食事をお持ちしました」


 私達は無言で顔を見合わせる。

 そういえば、もうそんな時間だったね。いろいろ話し込んでいるうちに時間が経っていたみたいだ。


「わかった。今開ける」


 アンセルが鍵を外し、ドアを開いた。


「!!」


 そこにいたのは宿の女将さんだけではなかった。

 女将さんの後ろには、鎧を纏った騎士のような人達が立っていた。私から見えるだけでも4人はいる。後ろにはもっといるのかもしれない。

 これは、どういうこと?鎧で武装した男達が大勢で訪ねて来るなんて、普通に考えてあり得ないことだ。

 女将さんが何も言わないところを見ると、ならず者の類ではなさそうだけど。


「これは……どういうことだ」

「あなたには用はありません。我々が用があるのはあなたの後ろにいる女性です」

「な……!?」

「私……?」


 私に用事?まさか…。

 もしかして、私が聖女だとバレたの?

 でも、いつバレたっていうの?

 聖女だということを私が知ったのだってつい先程だ。私より先にどうやって知ったというのか。

 それに、私達がこの宿屋に泊まっていることを知っているのはごく限られた人間だけのはず。

 私とアンセルとデリック。そして、この宿屋を紹介してくれた治癒士さんくらいしか……まさか。

 治癒士さんが私のことを話したの?

 でも、私が聖女だってどうやって……ああ、治癒士なら私が運ばれてきた時に、外傷がないか服を脱がせて確認するよね。

 その時に聖女の証である痣を見つけたんだ。

 聖女の痣については有名な話だと言っていたから、治癒士さんが知っていてもおかしくはない。

 あの鎧の男達は王都から来た騎士達なの?

 私はあの治癒士に売られたのだろうか。

 いや、ただ単に聖女様を見つけたから善意で連絡しただけなのかも……ううん、もしそうなら私に黙っていたことの説明がつかない。

 あの治癒士はしきりに私を引き留めたがっていた。

 おそらく王都からの使者が到着するのが今日だと知らされていて、到着まで私を何とか引き留めたかったのだろう。

 聖女を見つけた者には褒賞金が与えられる。治癒士の目的はそれだろう。


「ふ……」


 私の口から自嘲めいた笑みがこぼれる。

 あーあ、また騙された。

 私って、救いようのないバカだね。

 もう、簡単には人を信用しないと心に決めた矢先にコレだよ。本当に救えない。


「おい、やめろ!ユーニスに近づくな!」


 アンセルの声に、意識が現実に引き戻される。


「アンセル!!」


 アンセルは男達に拘束されていた。男達のリーダーらしき男がゆっくりと私に近づく。


「アンセルに何をするの!?彼を解放して」

「彼が暴れたため、我々は仕方なく拘束したまでです。用が済めば彼のことは解放しますよ」

「それで?私に何の用があるというの」

「我々は王に仕える騎士。私は騎士団を束ねる団長の任に就いております。聖女様、我々はあなたをお迎えに参上したのです」

「……私は聖女ではありません」

「それは王都にて確認させていただきます。まずは我々にご同行を」


 ……まずい。いくら聖女ではないと突っぱねたところで、体を確認されてしまえば一発でバレてしまう。

 王都に連れていかれるわけにはいかない。こんな強引な方法で連れていこうとするのだ。簡単に解放してもらえるわけがない。


「仮に私が聖女だとして、私に何をさせるつもりですか」

「王命です」

「……つまり、私に説明できないことなのですね」

「……王命です」

「説明ができないようなことに従う理由はありません。お引き取りを」

「……どうあってもご同行いただけないと?」

「ええ、お引き取りください」


 私が断固拒否の姿勢を見せると、騎士団長は後ろの騎士達に目配せをした。

 アンセルを拘束している騎士を除き、騎士達がこの部屋に雪崩れ込んでくる。


「ユーニス!!」

「王命に背いた者は死をもって償うのみ。聖女様、あなたにはここで死んでいただきます」

「な……!?」


 この人達、私を王都に連れていって何かをさせたかったんじゃないの?こんな簡単に聖女を殺す決断をするなんて、どう考えてもおかしい。

 ……まさか、初めから聖女を殺すことが目的だったの?

 考えたって答えは出ない。ここはひとまず逃げることを考えなければ。


「《封縛陣》!」

「な……!?」

「体が……」


 私に掴みかかろうとしていた2人を拘束する。2人は立っていられなくなり、金属音を立てながら床に倒れた。

 この魔法は一度に1ヵ所しか陣を設置できない。他の騎士達を拘束するには、彼らに自主的に陣に近づいてもらわなければならない。

 モンスターならいざ知らず、知能の高い人間が迂闊に陣に近づいてくれるはずもなく、彼らは陣の周りで注意深く私の隙を窺っている。

 私に近づくためには騎士達は陣に近づく必要がある。

 お互いに攻めあぐね、膠着状態が続くかに思えたが、思わぬところで事態は動き出す。部屋の後方にいた騎士が突然呻き声をあげて床に倒れたのだ。

 私だけではなく、他の騎士達も驚いて後ろを振り返る。


「よ、ユーニス!助けに来たぜ!」

「デリック!!」


 後ろにいた騎士を昏倒させたのはデリックだった。アンセルはいつの間にか拘束から脱していた。デリックは先にアンセルを助けてくれていたらしい。ありがとう、デリック。


 自由に動けるようになれば騎士達がアンセルに敵うはずもない。



 ほどなくして騎士達は全員昏倒させられた。

 血を流している者もいるが、命に別状はなさそうだ。私達は今のうちにここを離れなければならない。


「あ、あの、聖女様……」


 宿屋の女将さんがおずおずと話しかけてくる。彼女はどこか申し訳なさそうにしている。

 彼女はこんなことになるなんて思っていなかったのかもしれない。


「私は聖女ではありません」

「……そうですか……」

「女将、これは宿代だ。宿を騒がせた迷惑料と口止め料も入っている。今日のことは誰にも話すな」

「は、はい。わかりました……」


 話を切り上げ、足早に宿屋をあとにする。

 あのまま女将さんが黙っていてくれるとは思っていない。それでも少しの時間稼ぎにはなるかもしれないので、口止めにまったく意味がないわけではないと思う。

 そのままホワルの町を出て、街道から離れた場所を歩く。目立たない場所にテントを張り、中に入る。


「「「はぁー……」」」


 3人揃ってため息を吐く。

 今日は散々な目に遭った。いや、今日も、かな。

 
「デリック、助けてくれてありがとう。それと、お帰りなさい。テラネにいるお父さんとはゆっくり話しができたの?」

「え?ああ。親父はいつも通りだったよ。ミズガニア大陸に行くって言ったら驚いてたけどな。まあ、反対はされなかったぞ」


 そこでデリックは一旦話を区切り、「そんなことより」と言って話を本題に戻した。


「それで?いったい何があったんだよ」


 騒ぎの原因をわかっていないデリックは、私達に事情を説明してもらいたいようだ。
 彼はよくわからないまま騎士達と戦ったのだから、詳しい話を聞きたいのは当たり前だろう。


「あのね、デリック。驚かないで聞いてほしいんだけど、私、聖女なんだって」

「は?」

「……まあ、そういう反応になるよね」


 私だって自分が聖女だという自覚はない。


「ユーニスが聖女だというのは本当だ。デリック、お前はユーニスが嘘を吐いているとでも言うつもりか」


 まずい、アンセルがデリックに絡みだした。


「いや……嘘とは思ってねぇけど……」


 だけど、何かの間違いではないかと思っているんだよね。その気持ち、よくわかります。


「デリック、私が聖女だという証明ならできるよ。私の体には」

「ユーニス、それはダメだ」

「え、でも」

「君はデリックに聖女の証を見せるつもりなんだろう?そんなこと、許可できるわけがない」

「……そんなこと言っても、それ以外に方法が」

「デリック、ユーニスの体には聖女の証がある。僕が確認したから間違いない。信じろ」

「お前、ユーニスの体を見たのか……」

「信じたか?」

「……まあ、信じたよ。もともと疑ってたわけじゃねぇけどな。お前が言うなら聖女の証はあったんだろ」

「当然だ。僕がユーニスのことで嘘を言うはずがないだろう」

「そうだよな。お前はそういう奴だったよ」


 デリックは何故かげんなりしていたが、一応私が聖女であると信じてくれたらしい。


「それでね、あの鎧の男達は王都から来た騎士なんだって」

「ユーニスを王都まで連れていくつもりだったみたいだ」

「え?それって王命だよな。王都まで行かなくて良かったのかよ」

「デリック。騎士は確かに王命だと言っていたけど、王が私に何をさせたいのかは説明してくれなかったのよ」

「ユーニスが同行を拒否した途端、アイツらはユーニスを殺そうとした」

「はあ?何でだよ」
 

 そうだよね。そういう反応になるよね。私だってそう思ったもの。


「騎士達は最初から聖女を殺すつもりだったんじゃないかと私は思ってる」

「聖女様を?何のために?」

「……そこまではわからないけど、私が大人しくついていけば人知れず始末できて、抵抗された場合は王命に背いた犯罪者として処断する。どちらに転んでも私を殺すつもりでいたなら、あの騎士達の態度にも説明がつく」


 私が同行を拒否した途端、アイツらは私を殺そうとした。王が聖女を必要としているなら、私を簡単に殺そうとしたりはしなかったと思うんだ。

 だから、あの状況は騎士達にとってはすべて織り込み済み、打ち合わせ通りの展開のひとつだったんじゃないかと私は思う。


「ユーニスは王に狙われてるってことか?」

「その可能性もあるって話よ」

「どちらにせよ、騎士に剣を向けた以上、この国とは敵対したも同然だろうな」

「マジかよ……俺もとうとうお尋ね者の仲間入りってわけか。これでも真面目に生きてきたつもりだったんだけどな……」

「デリック、あなたは何も知らされずに騎士達と戦った。そう正直に言えば、あなただけは罪に問われないかもしれない」

「僕達と距離をおいて、別の仲間を探してもいい。今のお前なら引く手あまただろう」

「おいお前ら、勝手に話を進めるな」

「でも、お尋ね者にはなりたくないでしょ?」

「ユーニス、俺を見くびるな。確かにちょっとビビっちまったけど、仲間を置いて自分だけ助かりたいなんて思わねぇよ」

「デリック、お前……」

「デリック……」

「ま、どうせあと少しでこの大陸を離れるわけだし、それまで見つからずに済めば逃げ切れるだろ」

「出港当日までは町に入らないほうがいいよね」

「ああ、そうしたほうがいい。当日もなるべく目立たないような格好で町に入るべきだろうね」

「冒険者達との約束を破っちまうことになるが、まあしょうがねぇよな」

「そういえば、デリックは冒険者達に稽古をつける約束をしていたわね」

「そーそー。今日もちょっとは見てやれたし、あれで許してもらうしかねえな」

「ごめんね、デリック」

「やめろよ、ユーニスは悪くないだろ」

「……デリック」


 これ以上食い下がって謝ることをデリックは望んでいないだろう。

 私は心の中でもう一度デリックにごめんなさいを言い、この話を終わりにした。




 
 この日はテント内で簡単に食事をとり、そのまま別れて就寝した。




 次の日、人目を忍ぶように行動していた私達だったが、日が落ちた頃、突然目の前に老人が転移してきたことで束の間の平穏は終わりを告げた。


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