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聖女と魔王、その真実
騎士達との戦い
どうあっても聖女を殺すつもりなら、私達がしたことに意味はなかったのだろうか。
ううん。長期的に見れば意味はあったんだろう。
遅くとも数十年後には新しい魔王が誕生しているだろうから、私の次の聖女は国王に命を狙われることはないだろう。
うん、この話は一旦忘れたほうがいい。
今はなんとかこの場を切り抜け、船に乗り込むことだけを考えよう。
アンセル達も騎士達の説得は無理だと判断したようで、それぞれの武器を構えている。
私も頭を戦闘に切り換える。
まずは遠距離攻撃をする弓士を無力化するべきだ。私は弓を構える騎士に向かって魔法を唱えた。
「《封縛陣》!」
「ぅ……」
「おい、しっかりしろ!……うっ」
《封縛陣》を受けた騎士は立っていられなくなり、その場に倒れた。助け起こそうとした騎士が《封縛陣》巻き込まれ、仲良く地面に崩れ落ちる。まずは2人。
「ユーニス、よくやった。君は先に船に向かってくれ」
「アンセル!?」
「アンセルの言う通りだ。《封縛陣》が切れないギリギリまで船に近づけ!」
「……わかった」
騎士達の狙いが私である以上。私が前に出るわけにはいかない。それに、私は足が遅い。いつでも船に乗り込めるようにしておかなかれば足手まといになってしまう。
「せい!」
「はあ!!」
「グハァ……!!」
騎士達との戦いが始まった。
レベルはアンセル達のほうが上だと思う。
しかし、彼らは国から支給された高性能な鎧を身に纏っており、なかなか倒れない。
モンスターとは違い、私の《封縛陣》にも無闇に接近しようとはしないし、統制の取れた動きをしている。
おそらく騎士達は対人戦の訓練を受けているのだろう。致命傷になりうる攻撃は、躱すか受け流すかして、絶対に真っ向から受けようとしない。
そして何より、圧倒的な人数差がある。
宿屋での戦いで騎士達があっけなく無力化されたのは、デリックが騎士達の不意を突いたことと、狭い室内での戦いだったため、人数が多いことの利点を活かせなかったからだろう。
「ぐ……っ」
「アンセル!!」
圧倒的な人数差によって、次第にアンセル達が劣勢になっていく。
私も《光輪陣》で回復をしているが、回復するそばから攻撃を受けてしまっている。
アンセルとデリックの顔に徐々に焦りが見え始めた。
「アンセル。お前はユーニスを連れて先に行け!!」
「デリック?」
「デリック、何を言って……」
「コイツらの狙いはユーニスだ。ユーニスがいなくなれば騎士達が戦い続ける理由はなくなる。だから、先に行け!」
……それは、デリックを残して2人だけで船に乗れということ?
そんなこと、できるわけがない。
私達が船で無事に逃げられたとして、残されたデリックを解放してくれるとはとても思えない。きっと見せしめとして騎士達に殺されてしまうだろう。
「デリック。お前を残して行けと言うのか?」
「ああ、そうだ。船が出港するまで、誰かが時間を稼がなきゃならねぇ。3人の中では俺が適任だろ?」
「デリック、お前……」
「そんな……」
無理だ。理屈ではそれしかないとわかっていても、それだけはできない。
仲間を切り捨てるような人間になるくらいなら、いっそ……
「行け!!」
「……くっ」
事態は私に考える時間すら与えてくれないらしい。
デリックが叫び、その声に背中を押されるようにしてアンセルがこちらに向かってくる。
アンセルは私の手を握り、船へと引っ張っていく。
やめて、アンセル。
デリックを置いてはいけない。
そんなことをするくらいなら、使うまいと思っていた、あの魔法を──
私が覚悟を決めて口を開こうとしたその時、騎士達の前に突如老人が現れた。
突然のことに、騎士達の動きが止まる。
「転移魔法……」
この魔法を使えるのは賢者だけ。私達に背を向けて立っているが、あの老人は賢者イシュトザールで間違いないだろう。
賢者はデリックに向けて話しかけた。
「赤毛の君、今のうちに逃げるのじゃ」
「え、俺?」
「そうじゃ、あとはわしに任せるがよい」
「……なんかよくわかんねぇが、恩に着るぜ!」
デリックは戦線を離脱し、こちらへ向かって走ってくる。
「させるか!」
「それはわしのセリフじゃ」
デリックの背中に向けて攻撃しようとしていた騎士に向かって、賢者が魔法を放つ。
「ギャァァァァア」
魔法をまともに食らった騎士は、痛みに耐えきれず、その場で悶絶する。
賢者はそのまま魔法で炎の壁を作り、私達と騎士達を完全に分断してしまった。
騎士達がこちらに来るためには、炎の壁を通り抜けなければならない。
ただの炎ではない。賢者が放った攻撃魔法である。火傷ですめば運が良い方だろう。
騎士達も炎に接近する勇気のある者はいないらしく、炎の壁を前に尻込みしているようだ。
「賢者様、王を裏切るおつもりですか?」
「先にわしを裏切ったのは王と国じゃ。聖女を殺したいなら、先にわしを殺してからにするんじゃな」
「……後悔しますよ」
「ふん、若造に遅れをとるほどわしは耄碌しておらんよ」
「──…やれ!」
騎士団長の言葉を合図に騎士達と賢者との戦いが始まった。
今のところは賢者も余裕があるが、魔力切れになってしまえば形勢は逆転するだろう。
「アンセル!ユーニス!おまたせ」
「デリック、無事でよかった」
「よし、早く船に乗り込むぞ」
「でも、賢者様が」
「俺達が早く出港できればあの爺さんも転移魔法とやらで逃げられるだろ」
「そうだ。だから、僕達にできるのは一刻も早くここを離れることだ」
「!うん、わかった」
私達が船に乗り込んだのを確認すると、船員達は出港準備を始めた。
しばらくして、ゆっくりと船が動きだした。
船はみるみるうちに陸から離れ、港が遠くなっていく。
「ふー。ここまで離れればもう大丈夫だろ!」
「賢者様はうまく逃げられたかな」
「きっと大丈夫だ。賢者は強い。彼を信じよう」
「うん……」
賢者様をあの場に残してきてしまったことに罪悪感を覚える。
彼の強さは本物だ。きっと無事に逃げられたと信じたい。いつかまた会うことがあれば、その時はちゃんとお礼をしたい。
「皆さんご無事のようで何よりです」
私達の後ろから声をかけてきたのは、見目麗しいエルフの青年だった。
この船に乗っているエルフということは──
「あなたがヌーア様ですか?」
「いかにも。私が買い取り所のオーナーであるヌーアですよ。お嬢さん」
「あ、私はユーニスと申します。この度は船に乗せていただき、ありがとうございます」
「俺はデリック。よろしくな!」
「僕はアンセルだ」
「ええ、皆さんよろしくお願いします」
お互いに名乗り合い、挨拶を交わす。
「先程は皆さんが危ないとわかっていながら、助けに入ることができず、申し訳ありませんでした。私は荒事がめっぽう苦手でして」
「ヌーア様、謝らないでください。私達はこの船に乗せてもらえるだけで十分感謝していますから」
「そうだぜ。騎士達は強かったからな。手を出さなくて正解だったと思うぞ」
「僕達は会ったばかりの他人だ。そんな僕達を助ける義理なんてないだろう。そこはわきまえているつもりだ」
「アンセル……」
「あのな、言い方ってもんが」
「いえ。アンセル殿のおっしゃる通り、私達は会ったばかり。他人と言われても仕方がありません。しかし、ミズガニア大陸には約束通り送り届けますから、そこは信用してください」
「もちろんだ!」
「僕もそこは疑っていないよ」
「それは良かったです。では、しばしの船旅をお楽しみください」
ヌーアさんが離れていき、私達は思い思いに時間を潰した。
私はというと──
「ロンちゃん!やっと話せるね!」
『ユーニス。最後の最後まで大変な目に遭ったね』
「ああ、騎士達のことだね」
『そうそう』
「まさか、魔王を倒してもお構いなしに私を殺そうとするなんて思わなかったよ」
『ボクもあれには驚いた。何のために魔王を倒したのかわからなくなっちゃったよ』
「私も」
2人してクスクスと笑い合う。
無事に逃げられたからこそ笑い話にできるのだ。
あのとき賢者の助太刀がなければ、デリックを犠牲にする結果になっていたかもしれない。
そうなっていれば私はこの世のすべてに絶望し、ミズガニア大陸に行っても空虚な時間を過ごすだけだっただろう。
「おや、精霊ですか。ミズガニア大陸以外で見かけるのは珍しい」
「!ヌーア様」
『お前、ボクが視えるの?』
「もちろんです。エルフは精霊との親和性が高い種族ですからね」
『ふーん。そうなんだ』
「ヌーア様、私にご用ですか?」
「うん。あなたに話しておいたほうがいいかと思って」
「?」
「ユーニスさん。あなたは聖女ですね?」
「!……はい」
情報屋のお姉さんが宿屋の女将さんから話を聞いたって言っていたから、ヌーア様が知っているのも当然だろう。
ここでしらばっくれる意味はない。
「聖女は魔王を倒すための存在のように思われていますが、本来はそうではないのですよ」
「……そうなのですか?」
「ええ。エルフに伝わる昔話によると、聖女は神と交信できると言われ、古くは『神子』と呼ばれていたそうです」
「神子……」
ヌーア様が言っているのはおそらく《天輪》のことだと思う。
あの魔法は自分の寿命を対価に神に願いを叶えてもらうものだから、神と交信していると言えなくもない。
まあ、神と交信できるというのは噂が誇張されて広まった結果なのだと思う。
昔の人達は奇跡の魔法を目の当たりにし、敬意を込めて神子と呼んだのだろう。
「……なぜその話を私に?」
「おや、あまり驚かないのですね」
「ええ、まあ」
「私が言いたかったのは、聖女は魔王を倒すための道具ではなく、もっと神聖な存在だということです。決して国王の都合で殺されていい存在ではない」
「ヌーア様……」
この人は、いったいどこまで知っているのだろう。彼に見つめられると、すべてを見透かされたような気持ちになって落ち着かない。
「ああ、ひとつ言い忘れていました。賢者イシュトザールは私の友人でしてね」
「え!?」
「彼に助力を願ったのは私なのです。大丈夫、ああ見えてイシュトザールは強い。今頃は転移魔法で無事逃げているはずですよ」
「……そうなのですか?」
「はい。ご心配には及びません」
「そうですか。それなら良かったです」
ヌーア様は自身が荒事に向いていないため、友人である賢者イシュトザールに助けを求めたのだという。
あの時、なぜあのタイミングで賢者が助けに入ったのか私には全くわからなかったが、ヌーア様の計らいによるものだったんだね。理由がわかってスッキリしたよ。
ヌーア様は何もできなくて申し訳ないと謝っていたけれど、こうして打てる手を打ってくれていたんだ。彼には本当に感謝しなくてはならない。
賢者様の安否については私も気になっていたから、無事だというならひと安心だ。
「それと、エルフは精霊を神聖視する者が多い。ミズガニア大陸に着いたら、精霊と離れずに行動することをお勧めします」
「ロンちゃん、お願いできる?」
『それくらいなら簡単さ!』
「エルフは過去の因縁から、人間をひどく憎んでいる者が多いのです。しかし、あなた方が精霊に好かれているとわかれば、悪いようには扱われないでしょう」
「わかりました。ヌーア様、本当にありがとうございます」
私はヌーア様に向けて深々と頭を下げた。
「お役に立てたようで何よりですよ。あなた方がミズガニア大陸で幸せになれるよう、陰ながら祈っております」
ヌーア様はそう言って爽やかに去っていった。
ありがとう、ヌーア様。
私達は絶対に幸せになってみせるよ。
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