転生した私は人間不信の勇者と村を出る

スノウ

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聖女と魔王、その真実

ミズガニア大陸での生活と私達の決断



 船は航海を続け、やがてミズガニア大陸に到着した。

 先に出港した船は上陸を許されず、私達が到着するまで海の上を漂っていた。

 私達に巻き込まれたせいでこんなことになって、船員さん達には本当に申し訳なく思う。

 ヌーア様がエルフ達に話をつけてくれて、先に出港した船も無事に上陸することができたようだった。私としてもひと安心である。

 私達はエルフの国に受け入れてもらうべく、早速エルフの長に会いに行った。

 エルフの長との交渉は思ったよりスムーズに進んだ。
 理由はやはり精霊の存在があったからだ。

 私達のそばにはロンちゃんが常にくっついており、私達が精霊に好かれていることで彼らの警戒心はだいぶ薄らいだ。

 また、私達が精霊を目視できることを知ると、かなり態度が軟化し、まるで同族のように接してくれるようになった。

 なかでもアンセルはエルフの長に気に入られ、アンセル自身も人間がいかに信用できないかをエルフの長に語って聞かせ、2人は大いに馬が合っているようだった。

 仲の良い友人ができたようで私も嬉しい。

 友人といえば、この大陸には精霊がたくさんいる。

 ロンちゃんはこの地の精霊達に受け入れられ、たくさんの友達ができたと嬉しそうにしていた。

 最近ではアンセルのそばを離れ、精霊達と過ごすことも多い。

 私は少し淋しいが、夜には帰ってきてくれるのでロンちゃんには何も言っていない。ロンちゃんが楽しそうにしているのは私も嬉しいよ。

 私達はこの大陸でも冒険者活動を始めた。

 情報屋のお姉さんが言っていた通り、モンスターは強敵ばかりだった。

 それでもエルフ秘伝の防具と私達のチームワークでなんとか渡り合っている。

 





 私達がミズガニア大陸に来てから数年の月日が経ち、私は18歳(推定)となった。これは人間の成人年齢である。私はとうとう大人になれたわけだ。

 正直、私があの家に監禁されていた時には成人まで生きられる気がしていなかったが、実際にこうして18歳になることができた。

 これまでいろいろな事があったが、アンセルをはじめ、たくさんの人達が私を助けてくれたから今まで生き延びられたんだと思う。彼らには心から感謝している。

 18歳になった私の誕生日(仮)に、アンセルから呼び出された。


「ユーニス、君が好きだ。僕と結婚してください」

「アンセル……」


 私はアンセルが好きだ。初めて会った時からそれは変わらない。でも、好きの種類は変わったと思う。

 今は、アンセルのことを深く愛している。


「はい。私をアンセルのお嫁さんにしてください」


 こうして私達は夫婦になった。結婚式は親しい者達だけでささやかに行い、エルフ達からもたくさんの祝福の言葉をかけてもらった。

 デリックも心から祝福してくれ、ロンちゃんは仲間の精霊達とお祝いに来てくれた。本当に幸せな一日だった。

 冒険者を引退したら、2人で新居に移り住もうと考えている。

 



 冒険者活動についてだが、私達のパーティは順調にレベルを上げ、今はミズガニア大陸にいるモンスターで勝てない敵はいない。

 レベルも頭打ちになりつつあり、私達はそろそろ引退も考えるようになった。

 デリックは若手の育成に乗り気で、若いエルフ達からとても慕われている。

 そのうちのひとりはデリックに恋心を抱いているようだが、デリックは全く気づいていない。
 デリックはかなり鈍感なので、ぐいぐい押したほうがいいような気がするが、お相手の方はかなりの奥手のようなので、余計なアドバイスはせず、温かく見守っている。




 さて、今日はヌーア様の商船が交易のためにやってくる日だ。彼とはミズガニア大陸のモンスターのドロップ品を融通したりと、あれからも交流が続いている。


「ヌーア様、お久しぶりです!」

「ユーニスさん。お変わり無さそうで何よりです」

「ヌーアさん、久し振り!」

「どうも、ヌーア殿。ご無沙汰しています」

「お二人とも、お久しぶりです」


 挨拶を交わし、それぞれの近況を伝え合う。

 しばらく和やかに話が進んでいたが、ヌーア様がとんでもない話を切り出した。


「人間達の大陸に、魔王が誕生したようです」

「「「!!」」」

「こんな数年で新しい魔王が誕生するのは前代未聞のようです。人間達は大混乱ですよ」

「確かに早いな。何か理由があるのか?」

「賢者イシュトザールの分析では、前の魔王は300年間も力を封印されており、最後までその力を使わないまま倒されました。次代の魔王はその力を受け継いだ状態で生まれたのではないかと」
 
 
 あ、話の途中だけど、賢者様は今も元気に生きているよ。国王とは距離を置いたみたいだけど、今も繋がりはあるんだって。


「でも、魔王って全員別人なんじゃねぇの?」


 デリックの質問に、ヌーア様は頷く。


「存在としては別物で間違いありませんが、次代の誕生には無関係ではないようですね。今回の事例で初めてわかったことです」

「へー」


 つまり、前の魔王が力を封印されたままアンセルに倒されたため、その力は丸々使われずに残ったということだ。その力がどこに保存されてたのかはわからないけど。

 そして、その力を使うことで次代の魔王は早く生まれることができたらしい。

 この仮説が真実ならば、聖女の封印を使うと、次代の魔王が生まれる時期が早まってしまうということじゃないかな。

 それでは本末転倒なので、《魔封陣》はなるべく使わずに魔王を倒した方がいいということだろう。
 魔王には力をどんどん使わせて、すべてを出しきった頃にトドメを刺すのがベストだろう。

 そうは言っても魔王は強い。歴代の勇者達は聖女の《魔封陣》の助けを借りてようやく倒していたようだし、よほど強い勇者でなければ無理なのかも。


「それで、国王は魔王討伐のため、勇者と聖女に名乗り出るよう国中にお触れを出したようです」

「は?」

「勇者はともかく、聖女も、ですか?」

「ええ、そのようですね」

「はっ、国王は恥知らずにも程があんだろ。アイツ、ユーニスを殺そうとしてたんだぜ」

「国王は私が名乗り出るとでも思っているんでしょうか」

「聖女を連れてきた者には莫大な褒賞金が与えられるそうですから、金目当てにユーニスさんの仲間が裏切ることを狙っているのかと」

「クズめ」

「俺達はユーニスを売ったりしねーよ!本当にムカつく国王だな」


 魔王を倒すためとはいえ、やることがえげつない。仲間割れを狙うなんて…。
 アンセルとデリックが裏切るとは思わないけれど、国王の心根が醜悪すぎて、話を聞いているだけで気分が悪くなる。


「ヌーア殿。あなたには申し訳ないが、僕達はそちらの大陸には戻らない」

「ええ、承知しています」

「そっちの大陸が危ないなら、親父もミズガニア大陸に呼んだほうがいいかもな」


 デリックがポツリと呟く。彼の母親は早くに他界しており、肉親はお父さんだけのようだ。


「デリックさんの父君をお呼びするなら、私の船に乗せていきましょう。我々もあの大陸を離れ、ミズガニア大陸に移り住む予定ですから」

「え、そうなのか?じゃあ悪いけど頼むな」

「ええ、任されました」

「『我々も』って、買い取り所の店員すべてですか?」

「そうです。一度に全員を運ぶのは無理ですから、何度かに分けて運ぶことになるでしょう」

「そうですか……情報屋のお姉さんとまた会えるのは嬉しいですね」

「ふふ、その言葉を伝えたら彼女も喜ぶでしょう」


 その他にも、ヌーアさんの知り合いで、善良な人間達に声をかけるつもりでいるらしい。


「あの、賢者様は?」

「彼にも声をかけるつもりですよ。彼は国王のやり方に辟易しているようですし、断ることはまずないでしょう」

「そうですか。良かった」

「問題は、連れてきた人間をエルフ達が受け入れてくれるかということなんですよ」


 ヌーア様はいかにも『困ってます』というポーズを取った。私は思わず笑ってしまう。アンセルはそんなヌーア様の言葉に淡々と言葉を返した。


「それなら問題ないと思う。エルフは僕達と交流するうちに『人間にも話がわかる奴もいるらしい』とわかったようだった」

「そうだな。俺達も最初は警戒されたが、今では冗談も言い合える仲になったぜ」

「アンセルなんて、エルフの長と茶飲み友達になってるものね」

「あの気難しい長と!?それはすごい」


 ヌーア様は本気で驚いているようだ。


「そんなわけですから、エルフの皆さんは受け入れてくれると思いますよ。でも、エルフを差別するような人が紛れ込んでいると、関係は一気に悪化するかもしれませんね」

「それは……わかりました。連れてくる人間の性格はよく確認することにします」

「そうだな。そうしたほうがいい」


 話は決まり、ヌーアさんは数日後には帰っていった。買い取り所の人間達を避難させるために、これからは頻繁に大陸間を往復することになるのだろう。








「親父、久し振り!……なんか老けたな」

「うるさいわ!いつまで経っても減らず口ばかり叩きおって」

「デリックのお父さん。ご無沙汰しています」

「店主殿。お変わり無さそうで何よりです」

「ああ、お二人とも、お久しぶりです。そして、ご結婚おめでとうございます」

「「ありがとうございます」」


 知り合いに祝福してもらえるのは嬉しいことだ。

 今日はデリックのお父さんがヌーア様の船でミズガニア大陸にやってきた。もちろん買い取り所の店員さん達も一緒だ。


「それと、私はもう店主ではありませんよ。店を畳んできましたから」

「親父……店を畳んだのか」

「仕方がないだろう。店だけをそのまま置いていくわけにもいかん」


 言葉では強がっているが、デリックのお父さんの表情は悲しそうだ。


「……あの、デリックのお父さん。こちらの大陸で店を出してみては?」

「え?しかし……」

「親父が店を出すなら俺も協力するぜ!モンスターのドロップ品を親父の店で売ってもいいし」

「ここのモンスターはいい装備をドロップするから、売り物としても需要はあると僕も思うよ」

「どうですか、デリックのお父さん。もう一度ここで再出発しませんか?」

「……本当にいいのでしょうか」

「いいって言ってんだろ?エルフ達には俺から話を通しておくぜ」

「……お二人とも、ありがとうございます。このご恩は」

「堅苦しいって」

「うるさい!少しは静かにできんのか」

「ちえー」

「ふふ」


 こうして、デリックのお父さんはミズガニア大陸でも武器屋を開店することになった。

 モンスターのドロップ品を集めるため、私達は冒険者活動を続けることになった。

 これで当分は引退できないだろうね。

 デリックが育てているエルフの若手が育ったら、私達の後継者になってくれるかもしれない。



 それからもヌーア様の船は大陸間を往復し、ミズガニア大陸に多くの人間を運んできた。

 なかには私がお世話になった人達もいて、彼らと再会を喜び合った。情報屋のお姉さんとも無事に再会できたよ。

 そして今回、賢者イシュトザールがミズガニア大陸にやってきた。

 私達にとっては大恩人なので、早速賢者様に会いに行った。




「賢者様、あの時私達を助けてくださりありがとうございました。お礼が遅くなってしまい、申し訳ありません」

「爺さん、助けてくれてありがとな!」

「危ないところを助けていただき、感謝している」

「礼には及ばんよ。わしにできたことは足止めくらいのものじゃったからの」


 賢者様はそう言って笑った。

 賢者様はそう言うが、あの時彼が助けてくれなければ、デリックが犠牲になっていた可能性が高い。

 そうならなかったのは、やはり賢者様のおかげだろう。

 私が改めてそう思っていると、賢者様がとんでもないことを言い出した。


「アンセル殿、ユーニス殿。どうか、魔王を討伐していただきたい」



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