転生した私は人間不信の勇者と村を出る

スノウ

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聖女と魔王、その真実

2度目の魔王討伐




「アンセル殿、ユーニス殿。どうか、魔王を討伐していただきたい」

「「「!!」」」


 え?賢者様は今なんて言ったの?

 あまりの衝撃に頭が真っ白になる。

 アンセル達も驚きのあまり言葉が出てこないようで、室内は不気味な静寂に包まれる。

 そんな中、いち早く復活したデリックが賢者様に食ってかかる。


「おい、爺さん。それはどーゆーことだ?」

「……言葉の通りじゃよ。あちらの大陸に戻り、魔王を討伐してほしい」

「……アンセルのことも、調べがついているということですか?」

「消去法じゃよ。あの時、お前さん達は孤立しておった。その中で魔王を倒したとすれば、勇者はアンセル殿かデリック殿のどちらかということになる」

「ホワルの町に後から戻ってきた僕を勇者だと判断したわけか」


 賢者様が重々しく頷く。


「私は国王に殺されかけました。それは賢者様も知っているはずです。それなのに、まだそんなことを言うんですね」

「今度は殺されることはない。勇者と共に魔王を討伐してくれるだけで良いのじゃ」

「っ、このやろう!!」

「そんな問題じゃないだろう。いい加減にしろ!」


 デリックとアンセルが立ち上がり、賢者様に詰め寄る。

 私は自分の中のいろいろな感情を整理することができず、ただその光景を見つめていた。

 どうして?

 どうしてそんなことが言えるの?

 今度は殺さないって?

 バカにするのもいい加減にしろ!

 もうたくさんだ。

 あの大陸にはもう戻りたくない。

 賢者様には恩があるが、それとこれとは別の問題だ。

 
「私はもうあの大陸には戻りません」

「僕もだ。お前達がどうなろうと知るものか」

「……爺さん、見損なったぞ」

「……どうしてもか?」

「くどい!」

「賢者様。どうしてそこまであの大陸にこだわるんですか?」


 私が疑問に思ってそう尋ねると、賢者様は床に視線を落とした。そして、ポツリ、ポツリと言葉をこぼす。


「……わしには歴代の賢者の記憶があると言ったのは憶えておるか?歴代の賢者は命がけで魔王と戦い、あの大陸を守り抜いた。わしはそんな先代の意思を無駄にしたくはないのじゃ」

「そのためなら、私の意思はどうでもいいと……?」

「……すまん。わしはどうしても」

「俺達はあれからレベルアップしたからな。力ずくでどうこうできると思うなよ」

「賢者。お前には心底失望した。そんなにあの大陸が大切なら、お前自身が守ればいい。国王ご自慢の騎士達だっているだろう」

「頼む、この通りじゃ。対価になるかわからぬが、わしにできることならばなんでもしよう」


 賢者様は床に両手をつき、私達に頭を下げた。そして、なんでもするから魔王を倒してほしいと懇願する。

 なんでも?本当に?


「……それなら」

「ユーニス……?」

「ユーニス、どうしたんだよ」

「……それなら、国王を玉座から引きずり下ろしてください」

「な……っ」


 賢者様は私の言葉に驚き、二の句が継げないでいるようだ。

 でも賢者様、なんでもすると言ったのはあなた自身ですよ。


「私達は王に命じられてやってきた騎士達に何度も殺されかけました。理不尽な理由からです。あの王が国を牛耳っているうちは、私は絶対にあの大陸に戻るつもりはありません」

「ま、なんでもするってんなら、それが最低限の条件だよな」

「国王が権力を握っているうちは、ユーニスをあの大陸には行かせられないのは当然だな。僕個人としては、国王がどうなろうとあの大陸には戻りたくないが」

「王を……玉座から……」


 賢者様は私達の言葉に反応を見せず、ただただブツブツと独り言を呟いている。

 私が出した条件を呑むか否かを必死に考えているところなのかもしれない。

 私は何も王を暗殺しろ、とは言っていない。
 
 ただ、王を玉座から引きずり下ろせと言っただけだ。

 あの国王が王のままでは、いずれまた私達に何をしようとするかわからないため、権力を行使できる立場でいてほしくないのだ。

 もちろん、魔王を倒した後にしれっと王に返り咲くのもダメだ。それをするつもりなら、この話はなかったことにするしかない。

 かなり長い間、賢者様はひとりで考え込んでいたようだが、ようやく自分の中で結論が出たのか、私達のほうに向き直った。


「爺さん、決心はついたか?」

「……ああ。ユーニス殿の条件を呑もう。わしが王を引きずり下ろせたならば、魔王を倒してくれるのだな?」

「あ、そういう話でしたよね。これはアンセルが頷かない限り無理な話ですね。……アンセル、どうする?」


 アンセルは賢者様がひとりで考え込んでいるうちに考えをまとめていたらしく、迷うことなく言葉を返す。


「いいよ。賢者が条件を満たせた時は、僕が魔王を倒すよ。だが、もし小細工なんかしてみろ。お前と王を仲良く地獄に送ってやる」

「……肝に銘じておこう」


 賢者様は転移魔法で帰っていった。

 最後に見た彼は覚悟を決めた目をしていたので、条件を満たして戻ってくるのも時間の問題だろう。





 私の予想通り、あれから半月後に賢者様が転移魔法で私達のところヘやってきた。


「王は幽閉した。表向きには病死扱いになっておる。次の王は第一王子に決まりそうじゃ」
 
「第一王子ってのはどんなヤツなんだ?」

「王族特有の傲慢さはあるが、前王から聖女に関する王家の秘密を教えられる前であったため、聖女をどうこうしようという考えはまったくない」

「うーん……それなら大丈夫、なのかなあ」

「僕達が魔王を倒したら、ソイツは権力を使って僕達を囲い込もうとするんじゃないか?」

「うげ!?それなら前王と根っこは変わらねぇだろ」

「……わしが責任を持ってあやつを抑えておく。お前さん達は魔王を倒したらすぐにわしの転移魔法でミズガニア大陸に送るので、新王と接触することにはならぬよ」

「「「……」」」


 3人で顔を見合せ、考える。

 賢者様はああ言っているが、新王が命令すれば、王に忠実な騎士達が命令通りに動き出すことは容易に想像がつく。

 しかし、賢者様は約束通り王を玉座から引きずり下ろした。

 私達はその見返りとして魔王を倒さなければならない。

 新王のことは気がかりではあるが、今の私達は国王直属の騎士達よりもはるかに強くなっている。

 もう私達を無理やりどうこうしようとしても失敗するのは目に見えている。それでも何かするつもりなら、正面から受けてたつだけだ。


「まあ、約束は約束だ。僕達は魔王を討伐するよ」


 アンセルの言葉に、それまで不安そうだった賢者様の顔に喜色が浮かぶ。


「!!それはありがたい」

「それで?魔王がどこにいるのか、爺さんは知ってるのか?」

「もちろんじゃ。魔王は北の外れに城を構えておる。わしは状況確認のために魔王城のすぐそばまで行ったことがあるので、転移魔法で全員を送ることが可能じゃ」

「ふむ、手回しがいいな」

「それなら、いつでも魔王を倒しに行けるってことになるね。アンセル、すぐに向かう?」

「準備自体はできているから、それでもいいけど、聖剣の封印を解いてからだね」

「あ!!」


 またロンちゃんが聖剣の姿に戻るんだね。魔王を倒したらまた会えるってわかっていても、なんだか淋しい気持ちになってしまうよ。


『アンセル、一旦賢者を退室させて。ゲートを見られたくないから』

「わかった。……賢者、少しの間部屋を出ていてもらえるか。いろいろと準備があるんだ」

「では、わしは部屋の外で待っておるから、準備ができたら知らせてくれるかの」

「ああ」


 賢者様が退室するのを見届けた後、ロンちゃんは以前と同じようにゲートを開いた。


『アンセル、2回目だから手順はわかってるよね?』

「ああ」

「なあ、同じ勇者が2回も魔王を倒したことなんて今まであったのか?」

『無いに決まってるだろ。本来なら、魔王は倒されて数年で新しく生まれたりしないんだから』

「そっか」


 つまり、アンセルは魔王を2度も倒した唯一の存在になるわけか。

 凄いことだが、何人もの聖女が犠牲になった結果でもあるため、こんなことは2度とあってほしくはないよ。


 その後、アンセルはゲートをくぐり、ものの1分ほどで戻ってきた。


「お帰りなさい、アンセル」

「ただいま、ユーニス」

「ヨシ、準備は整ったな。爺さんを呼んでくる」

「ああ、頼む」


 デリックに呼ばれ、賢者様が戻ってくる。

 賢者様はアンセルが佩いている剣を見て、なんともいえない顔をした。


「あ、アンセル殿、それが聖剣かね?歴代の賢者の記憶では、もう少し神聖な感じだったと思うのだが」

「これが聖剣だよ」

「───そうか……」


 賢者様は何かを言いかけ、結局何も言わずに飲み込んだ。


「「……」」


 それはアンセルの内面の表れというか、人間不信が極まった結果だよ。

 全体的に黒く、刀身は紫色の妖しい光を放っているから、とても聖剣には見えないというのは同意するけども。


「では、転移魔法を使うので、わしの近くに集まってくれるかの」


 賢者様はそれ以上考えることを放棄したらしく、さっさと魔王を倒しに行くことに頭を切り替えたようだ。

 私達が賢者様の指示通りに集まると、「では行くぞ」という声とともに周りの景色が一変した。

 


「おお!すげぇ!!本当に別の場所にいる!」

「確かにこれは凄い魔法だな」

「ね。凄く便利」

「……今から魔王と戦うというのに余裕じゃな」


 呆れたような賢者様の言葉に、私達は目の前にある魔王城に視線を移す。


「ここに魔王がいるのね」

「じゃ、さっさと倒しに行くか」

「そうだな」

「ではわしも──」

「爺さんはここに残ってくれ」

「!?」


 私達と一緒に戦うつもりだったらしい賢者様は、驚き過ぎてデリックの言葉が理解できないのか、目を白黒させている。

 そんな賢者様に私達は、一緒に戦えない理由を説明する。
 

「確かに賢者様は強いと思います。戦力としては申し分ない」

「では何故」

「僕達がお前を信用できないからだよ。信じていない相手に背中は預けられない」

「!!」

「……まあ、そーゆーこった。悪りぃな、爺さん」


 賢者様は自分の目的のためなら相手の気持ちを踏みにじることも平気でする人だ。

 それは以前の発言から嫌というほわかっている。

 そんな人に命を預けるのは、正直無理だ。

 自分も戦おうという賢者様の心意気だけは受け取ったから、あなたはここで待っていてください。


「……気を付けてな」


 賢者様はなんとかそれだけを言うと、私達に背を向けた。

 面と向かって信用できないと言われ、流石の賢者様も堪えたようだ。


「行こう、みんな」

「おう」

「うん」


 こうして私達は魔王城に足を踏み入れたのだった。

 



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