きっと幸せな異世界生活

スノウ

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穏やかに過ぎる時間

月日は流れて

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 私がこの世界で目覚めてから3年の月日が流れた。

 私は今もゼスさんのお屋敷でお世話になっていて、人族の街へは未だに足を踏み入れたことすらない。 

 行商人のトマスさんは今も定期的にお屋敷を訪れ、様々な商品を売ることで私達の生活を支えてくれている。

 何度も接するうちにお互い気安い関係になり、お屋敷での生活に不便はないかと心配してくれたり、人族の街の情報を教えたりもしてくれている。

 そのトマスさんの教え通りに栽培したうちの畑の野菜達だが、彼の言葉通り元気に成長し、結果は大収穫だった。

 それ以降、行商に訪れる度にトマスさんが食べきれない分の野菜を買い取ってくれるようになった。

 私にとっては貴重な収入源となり、栽培にも本腰を入れて取り組むようになった。

 今では様々な野菜を栽培しており、野菜農家として立派にやれていると言えるのではないだろうか。

 そして、魔力量アップの修行についてだが、覚えているだろうか。

 就寝前に魔力を使い切ってから寝ると総魔力量が上がるという助言を受け、私は毎晩魔力切れになるまで水魔法を使う修行を行っていた。

 しかし、あの修行の効果が出始めたのはかなり後になってからで、効果が出るまでの間、かなり精神的にキツかった。

 自分には魔法の才能が無いのだと思ったし、何度も修行を止めようとした。

 その度に何とか踏みとどまり、ゼスさんに魔力量がわずかに増えていると言われた時には思わず号泣してしまった。

 不思議なことに、一度魔力量が増えてからは停滞することなく魔力量が増え続け、今では《流水》の魔法でイメージ通りの水量を出すことも簡単にできる。

 ゼスさんにも驚かれ、「これならば魔力消費の多い攻撃魔法を発動できるだろう」と言われたのだけど、私はあれ以来、新しい魔法を作ろうとはしていない。

 火を起こすのに便利な《点火》と鍋に水をそそぐのをスムーズにできる《流水》のみ。

 色々と考えたが、結局このままでいいような気がしている。

 危険な攻撃魔法を覚えれば自衛に役立つのかもしれない。

 でも、3年前に見た侵入者達とゼスさんの、魔法を使った戦いの痕跡、あちこちに飛び散った血痕を思い出すと、攻撃魔法を使うことを躊躇ってしまう。

 もし、攻撃魔法を何度も使っているうちに相手を攻撃する抵抗感が薄れ、最後には誰を傷つけても何も感じなくなる日が来るのではないかと考えると、そんな魔法は最初から習得しない方がいいと思ってしまう。
 要するに、誰かを傷つける覚悟がないのだ。

 
 ゼスさんとは、あれからも良好な関係を維持できている、と思う。

 月に何度かは2人でポルに乗って森をのんびり走っている。

 まれに人族達が森の深い場所まで侵入してくるが、すべて私の知らないうちにゼスさんが追い返しているようだ。

 そのため、あれ以来侵入者達をこの目で見ていないし、戦闘にも巻き込まれていない。

 きっと、ゼスさんが配慮してくれている結果なのだろう。


 その他には、野菜をある程度自給自足できるようになったことで食材の備蓄に余裕が生まれた結果、ゼスさんも私の作った料理を食べてくれるようになった。

 最初は恐る恐る口にしていたが、食べてみればゼスさん好みの味だったようで、毎回残さず完食してくれる。
 作る側としては嬉しい限りだ。


 ゼスさんに対する私の感情は、この3年のうちに徐々に変化していった。

 最初は命の恩人として感謝し、恩を返そうと必死だった。
 そして共に暮らしていくうちに、しだいに家族に向けるような親しみを感じていた。

 そのはずだった。

 いつからだろう。
 彼にそれ以上の感情を抱くようになったのは。
 目が合うだけで幸せに感じるようになったのは。
 ずっと一緒に暮らしたいと思うようになったのは。

 種族も違う。
 寿命も違う。
 生物としての成り立ちからして違う。

 恋をするには不毛な相手。

 だから私は、この恋を封印することにした。

 ゼスさんに想いを打ち明けることは、これから先もないだろう。
 そもそも想いを返してもらおうなんて、はじめから思っていないのだ。

 遠い未来にくる別れの日まで、共にいられればそれでいい。


 ………そう思っていたのに。





「次にトマスが行商に来たら、荷馬車に乗せてもらって人族の街に行きなさい。なるべく遠くがいい。そこで他の人族達と暮らすんだ」

 どうしてそんなことを言うんですか?ゼスさん。





 話はこの前日に遡る。

 その日の夜、ちょうど夕食を終えたくらいの時間に来客があった。

 ゼスさんは相手が森に入った時点でその人が既知の存在で、お屋敷に向かっていることを把握していたようで、私には「このあと古い知人が訪ねてくる。込み入った話になるだろうから、カノンは部屋に戻っていてくれ」と言い残し、一人エントランスへ向かった。

 私はゼスさんの言いつけ通り自室に戻り、大人しく過ごしていた。

 もうこんな時間だから、お客様はきっと一泊することになるよね。
 私は何も手伝わなくていいのかな。

 そんな考えが浮かんだが、込み入った話をしているところに顔を出すわけにもいかないだろう。
 そう判断し、この日は部屋から出ずにそのまま就寝した。

 そして翌日。

 諸々の家事のために部屋から出ると、ちょうど帰るところだったらしいお客様と出くわした。

 その人は20代後半くらいの美しい女性で、腰の辺りまである金髪は光り輝いていた。
 そして何より……… 

 その人の瞳は、ゼスさんと同じ紅色だった。
 
「あら、可愛らしい人族だね。あのセスビタスが側に置くのも頷けるよ。……でも、アンタは早いうちにここを出た方がいいよ」 

「ラスメイア!!」

「あーはいはい。アタシが言うことじゃなかったね。それじゃ、アタシはもう帰るよ。邪魔したね」
 

 そう言って、お客様……ラスメイアさん?は帰りの挨拶もそこそこに、本当にお屋敷を出ていってしまった。
 私は口を開く暇もなかった。

 瞳の色を見る限り、彼女は魔族だったのだろう。
 いったい何の用事でここへ来たのだろうか。
 何か気になることを言っていたけれど。

「ゼスさん。おはようございます。あの人は………」

「ああ。彼奴は魔族で私の古い知り合いだ。私に用事があってここへ来たが、もう済んだ。それよりもカノン。朝食の後で大事な話がある」

 そう言われ、朝食の後にゼスさんの部屋で話を聞いてみれば、先述の言葉を聞かされたわけだ。

「次にトマスが行商に来たら、荷馬車に乗せてもらって人族の街に行きなさい。なるべく遠くがいい。そこで他の人族達と暮らすんだ」

 私の目の前には、人族のお金がぎっしり詰まった袋が置かれている。
 ゼスさんはこのお金を今後の生活資金として私に持たせるつもりらしい。
 つまり、冗談でもなんでもなく、今の言葉は本気ということだ。

 どうして?
 何故こんなにも急に………


「ゼスさん。急にどうしたんですか?何かあったんですか?私がここにいてはいけない理由ができて、それで……」

「急にではない。3年だ。カノンを迎え入れてから3年になる。他の世界から来たばかりだった君も、もうこの世界に馴染んだ頃合いだ。そろそろ人族の街で生活し、同族の者と交流を深めるべきだ」


 ゼスさんの言っていることは正しい。
 何もおかしなところはないように思える。
 でも……本当にそれだけ?


「……ゼスさんの言いたいことはわかりました。でも、それでも私は」

「カノン。本来魔族と人族は相容れない関係なのだ。………君は最初に加護魔法の説明を聞いて、どう思った?」


 唐突な質問である。
 でもきっとこの話に関係があることなのだろう。
 私は少し考える。


 加護魔法。女神が人族のために与えた魔法。《浄化の光》と《恵みの水》の2つ。

 《浄化の光》は汚れを浄化し、自分に使えば本人にとって有害な物質を体から消し去ってくれる。

 これがあることで人族は滅多に病気にならず、たとえ病気になっても浄化すればすぐ治ってしまう。

 そして《恵みの水》はコップ1杯程の水を何度でも生み出せる魔法。

 これがあることで人族は水不足にあえぐことはない。
 そして、これを畑に撒けば、植えた作物が季節に関係なく元気に育つ。
 これにより、人族は不作で食べ物に困るということがない。

 まとめると、加護魔法のおかげで人族達は病気知らず。
 そして、飢えや渇きからも開放されたわけである。

 つまり………


「加護魔法は人が与えられるには過ぎた魔法だと感じました。だって、病気もしないし飢えも渇きも関係ない。それは、滅多なことでは死なないということですよね。女神様はやり過ぎですよ」

 そんなことを言いつつ、結局私も加護魔法を使ってしまっているのだけど。

 ゼスさんは私の返答にひとつ頷いた。

「加護魔法を持たない私の目から見ても、女神の加護は度が過ぎている。そして、その加護によって死にづらくなった人族達はやがてどうなると思う?」

 私の返答を待つこともなく、ゼスさんは語りだす。

 遥か昔、女神の加護によってそうそう死ななくなった人族達は、その人口を爆発的に増やしていった。

 すると、増えた分の人族が住む場所が足りなくなり、住める土地を広げるために森の木々は次々に切り倒された。

 獣達も増えすぎた人々に狩られ、数を大きく減らした。

 自然を破壊し、自分たち以外の生命を狩り尽くす人族達。


 この星の大地は人族を敵と判断した。


「そして、増えすぎた人族達を狩るために生み出されたのが我々魔獣と魔族だよ」とゼスさんが言った。
 魔獣達が人族を見ると襲いかかるのは、そのために生み出されたからなのだと。

 この星の大地、自然から生み出された魔獣と魔族は、次々に人族達に襲いかかり、命を奪っていった。

 女神に頼りきりで戦うすべもろくになかった当時の人族達は、一時期絶滅が危ぶまれる程に数を減らしたそうだ。

 そして生き残った人族達が戦うすべを学び、徐々にその数を増やす間、木々はゆっくりと成長し、長い時間をかけてようやく森がその姿を取り戻すに至ったのだという。


「そのような経緯を経て、現在がある。分かるか?我々が人族を殺さなければ、人族達は際限なく増え続け、世界は終わる。我々は、いや、私は人族の敵。君の敵だ」

「……だから一緒にはいられない、と?」

「そうだ。カノン、君も人族だ。私の敵だ。私に殺されたくなければ早々にここから去れ!」


 ……………………


 どちらも一言も発しない。

 長い沈黙が続いた。

 やがて、私はうつむいていた顔をゆっくりと上げた。
 こちらをじっと見ていたゼスさんと視線がぶつかる。
 私は口を開いた。


「ゼスさん」

「………………」

「ゼスさん、貴方は私を見くびり過ぎてますよ」





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