きっと幸せな異世界生活

スノウ

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守るべきもの

ゼスさんのもとへ

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「お客さん、いくら頼まれても森の中までは乗せて行けませんよ」

「そうですか……わかりました。無理を言ってすみません」


「いえいえ、またのご利用お待ちしています」と言い残し、御者の男はもと来た道を引き返して去っていった。


「そうだよね。流石に森の中までは行ってくれないよね。ああ、どうしよう」


 ここはゼスさんのいる森から一番近いタルダールという町である。

 お父さんが紹介してくれた御者は親切な方で、長距離の移動も快く了承してもらえた。

 しかし、流石に無茶なスピードを出して走ることはやんわりと拒否された。

 馬車にも馬にも負担がかかるだろうし、拒否されるのは仕方のないことだと諦めた。

 そうして普通のスピードでここまで戻ってきたわけだが、森の中までは行けないと言われ、このタルダールで降ろされたのだった。

 当然と言えば当然の話である。

 むしろそこに思い至らなかった私がどうかしていたのだ。

 馬車を使えないとなると、歩いて戻るしかない。
 この3年でおおよその森の地図は頭の中に入っている。
 お屋敷まで戻ること自体は可能だろう。しかし……

 私の足で歩いて帰ったりしたら、お屋敷に着くのがいつになるのかわからないよ……

 せめて私に乗馬技術があれば、馬を借りてお屋敷まで走って行けただろうに。

 いや、仮定の話をしても仕方ない。
 徒歩で帰るしか方法がないのだ。
 もう腹をくくろう。
 討伐隊が来るまでに間に合うことを祈る。


「嬢ちゃん、どうした?浮かない顔だな」

「!!トマスさん」

「あれだろ?森へ行きたいって頼んだけど、御者に断られたんだろ?」

「ッな!トマスさん、見てたんですか?」

「まぁな。実はそろそろ嬢ちゃんが戻ってくる頃じゃねぇかと思って、この町を拠点にしばらく商売をしてたんだ。ヘヘ、大当たりだったな」

「まさか、私が森へ入る手段に困るだろうことを見越して、ここで待っていてくれたんですか……?」

「まぁそんなこった。俺の荷馬車で良ければ運んでやるぞ。ああ、森に入ってからは馬に二人乗りだ。どうする?」

「トマスさん……ありがとう……本当にありがとうございます」


 私はトマスさんに心からのお礼を伝えた。

 私のことを思って行動してくれる人がこの世界にもいるのだ。
 この3年でそんな繋がりを築くことができたのだ。

 そう思うと、心の中がじんわりと温かくなるのを感じた。


 トマスさんと話し合い、今回は最低限の荷物だけを持って、はじめから馬に二人乗りをして森を目指すことにした。

 少しでも早くお屋敷に辿り着くためである。

 トマスさんの商品は、森が平和になった後でいくらでも購入させてもらおう。





「嬢ちゃん、もうすぐ森の深い場所だ。おそらくもっと前からゼスビタスの旦那には感知できてるはずだ。このまま進むぞ」

「はい……ってトマスさん!!この先から、かすかに馬のいななきが聞こえます」

「何だって?………ああ、旦那だ。きっと嬢ちゃんを迎えにきたんだぜ」


 前方でガサリ、という音がしたかと思えば目の前に立派な体躯の黒馬が現れた。
 ポルである。
 馬上にはもちろん………


「ゼスさん!!」

「カノン、無事に戻ったか。……トマス。ここまでカノンを連れてきてくれたことに感謝する」

「やめてくだせぇよ、旦那。俺はちょうど暇だったもんで、少しばかり手を貸しただけですよ。あ、今後ともご贔屓にしてくださるだけで結構ですよ」

「ふ、お前らしいな」


 トマスさんの軽口に、場の雰囲気が穏やかなものになる。

 私はトマスさんに馬から降ろしてもらい、ゼスさんのもとにかけ寄る。

 ゼスさんもポルの上からひらりと地面に着地し、かけ寄る私に向き直る。


「ゼスさん!ただいま戻りました」

「ああ、よく戻った」


 視線を合わせ、短いやり取りをする。
 2人とも簡素な言葉しか口にしなかったが、私達にはこれで十分な気がした。

 それにしても、ゼスさんの顔を見ると実家に帰ってきたかのような安心感を感じる。

 ほんの1週間程度離れていただけだというのに、ホームシックにでもなっていたのだろうか。

 数日前に本当の家族と対面したばかりなのに、ゼスさんのところに帰りたいと思うなんて、なんだか変な話だね。

 ゼスさんとポルのいるこの森は、私にとっての帰る場所なのだから、実家のように感じるのは当然なのかな。

 などと、のんきに考え事をしていたのだが、そんなことをしている場合ではなかったことを思い出す。

 このままお屋敷に帰ってゆっくり旅の間の出来事を話したいところだが、事は急を要する。
 今すぐにでも話しておいたほうがいいだろう。

 私の後ろには馬から降りてこちらを見ているトマスさんがいるが、彼になら知られてしまっても大丈夫な気がした。

 今回のことで散々助けてもらったのだ。
 彼は信頼に足る人物だと思う。


「ゼスさん、今すぐにお話ししなければならないことがあります」

「……わかった。聞こう」 


 それから私は、首都ルグルーダで得た討伐隊に関する情報をゼスさんに話した。

 討伐隊の指揮官がルグルーダの首長モルダランであること。
 彼が魔族をひどく憎んでいること。
 私がルグルーダを出た次の日には討伐隊が森へ向けて出立しているはずで、残された時間がわずかであること。

 そして、彼らの作戦がゼスさんごと森を焼く『火攻め』であることも。

 森を焼く、という言葉を口にした時のゼスさんの表情はとても険しいものだった。

「人族どもは過去の歴史から何も学んでいなかったというのか」と言い、固くこぶしを握りしめていた。

 遥か昔、増え過ぎた人族達の手によって木々は切り倒され、森は一度滅びかけたのだ。

 長い年月をかけて、やっとここまで再生したというのに、人族はまた同じ過ちを繰り返すつもりなのか。

 森の守護者であるゼスさんには、今回の討伐隊の作戦がよりによって火攻めであることに、憤りを隠しきれないようだった。

 そんなゼスさんを心配しつつ、火攻めに関して何か言い忘れているような気がして、頭をひねってよく思い出してみる。……あ。


「森の浅い場所には近くの町の住人達も入ってきますよね。何も知らされていない彼らも火攻めに巻き込まれる可能性があります。すみません。もっと早く思い出していたら、タルダールの町の住人に「危ないからしばらく森へ入るな」と注意喚起ができたのに」


 うなだれる私に、トマスさんが「心配するな」声をかける。


「嬢ちゃん、そういうことなら俺に任せな。今から町に戻って住人達に知らせてくるから大丈夫だ。アイツらも森が焼かれるのは我慢ならないだろうが、流石に火攻めに巻き込まれて死にたくはないだろうから、俺の言葉に従ってくれるだろうさ」


 トマスさんはそう言い終わるなり馬の背に跨り、「旦那、嬢ちゃんを頼んだぜ」と言い残し、もと来た道を駆けていった。

 トマスさんには何から何までお世話になってばかりで申し訳なさすぎる。

 この借りはいつかお返ししよう。

 そのためにも、今回の一件を無事に乗り越え、絶対に生き延びなければならない。




 私はそう決意を固め、ゼスさんへと視線を向けるのだった。






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