きっと幸せな異世界生活

スノウ

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守るべきもの

決着

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「お嬢さん、出まかせを言ってもらっては困るな。この森の主である魔族は付近に暮らす人族達を残虐な方法で殺し、町の住人達を恐怖で支配しているのだ。我々は魔族を討伐し、人族達を救うためにここにいる」 

「な……」


 出まかせを言っているのはそちらだろう。
 いったいどの口でそんな嘘が吐けるというのか。

 怒りが強すぎて言葉が出てこない。

 この男は討伐隊に志願した者たちに、今言ったような話を聞かせ、間違った情報を植え付けていたのだろうか。

 おそらくは、自分の家族を皆殺しにした魔族達を、この世から消し去るという目的のために。


「さあ、作戦行動を再開せよ。魔族に苦しめられている人族達を救うために!」


 モルダランに命じられた3人は、反射的に動き出したものの、何が真実なのか判断がつかず、どうしたらいいのか迷っているようだった。

 そこに突然、聞き慣れた声が響いた。


「おいおい、嘘ばっかり吐いてんじゃねぇよ。ここから一番近いタルダールの町との関係は至って良好だぞ」

「!!トマスさん。どうして」


 タルダールの町へ行ったはずのトマスさんが何故ここにいるのだろう。

 彼の後ろには、町の住人であろう人族達がずらりと並んでいる。
 10人程はいるだろうか。

 トマスさんは矢が刺さった私を見てこちらへ来ようとしていたが、私とトマスさんとの間にはモルダランと討伐隊の男たちがいるので近づけない。


「それがよぉ。討伐隊が魔族を殺すために森を焼くつもりだって言ったら、こいつら怒り狂ってさ。一緒に連れて行けってきかなくて」

「当然だ!!森は俺たち町の者にとって大切な資源なんだよ。木工は町の重要な収入源だからな」

「それを勝手に燃やそうだなんて、何を考えてるんだか」

「大体、この森は他所と違って浅い場所には魔獣が出ないんだ。森の主である魔族の計らいだって皆知ってる。だから町の者たちは森の主には感謝してるんだよ」

「そうそう。この森はちゃんと住み分けができてるんだ。討伐隊だか何だか知らないが、お前たちの出る幕はねぇよ」


 そうだそうだ、と町の者たちが同調する。

「討伐隊は早く出ていけ」と叫び、それを聞いた討伐隊の男たちは顔を青くしてモルダランの方をうかがっている。

 討伐隊の旗色が悪くなってきたことに安心したのか、忘れていたはずの傷がじくじくと痛みだした。

 矢を抜いていないので出血はしていないと思っていたが、いつの間にか結構な量の血が流れていた。

 あれ?
 何だかクラクラしてきたよ?
 これってわりとまずい状況なんじゃ………

 体がふらついて後ろに倒れそうになったその時、誰かの腕が私の背中を支えてくれた。


「すまない。来るのが遅くなった。……無理をさせたようだな」

「え……?」


 目の前にはゼスさんがいた。

 え?何故ここにゼスさんがいるの?

 あなたは討伐隊の火攻めから森を守るために駆け回っているはずなのに……


「なっ……!貴様は森の主だな!?何故貴様がここにいるのだ。森が焼かれるのを放置してここまで来たというのか」

「……お前が指揮官か?たしかモルダランだったか。お前は魔族を憎んでいるわりには魔族についての知識が乏しいようだな」

「何だと!?」

「魔族は森にいる者すべてを感知できる。故に、人族の反応があった場所へいち早く駆けつけ、お前の部下達を無力化させることも容易いということだ。森の木々には多少の被害があったが、火は燃え広がる前にすべて消し止めた。お前の負けだ」

「な……すべてだと!?まさか、ここにいる者以外の討伐隊の者たちをすべて殺したのか!やはり貴様ら魔族は討伐すべき邪悪な存在だ」

「……はぁ。無力化させたと言ったはずだ。全員息はある。抵抗が激しかった者は相応の痛みを与えて動けなくした上で気絶させている」


 そこでゼスさんは一旦言葉を切り、討伐隊の3人とタルダールの町の住人達に向き直った。


「お前たちは気絶している討伐隊の者たちを回収して町に運んでくれるか」


 顔を見合わせる住人達。

 やがてその中の1人が意を決した様子で口を開いた。


「お、おう。なかなか大変そうだが、確かにこれは人族がするべき事だな」

「そうだな。これだけ人族が迷惑をかけたからな」

「人を大勢運ぶとなると、馬車や荷車がいるな。町に戻って連れてくるよ」

「おお、頼んだぜ。それまでに気絶している奴らをひとまとめにしておかなきゃな」


 なんとか討伐隊の者たちを運ぶ目処が立ったようで、それぞれ何人かに別れて森に散らばっていった。

 討伐隊の3人は、ここを去る前に私のところへ来て謝罪した。
 もちろん、私を魔族と間違えて弓で射てしまったことに対してだ。

 彼らはゼスさんにひと睨みされると、悲鳴を上げて去っていった。

 彼らは騙されていただけで、本当は悪い人達ではないのだろう。


「何故……なぜだ?魔族は残酷で非道な者たちだ。なのに……1人も殺していないだと…?」

「お前の言う残酷な魔族というのが誰の事かは知らんが、魔族という括りでひとまとめにされては敵わんな。我々は一人一人意思を持った別の個体だ。それは人族と変わらない」

「黙れ!魔族が」

「ところで、此度の襲撃、これで無かったことにできるなどとは思っていないだろう?」

「!?」


 ああ、私はそろそろ限界みたい。
 視界が暗くなっていく。

 私は後ろで支えてくれているゼスさんに体を預けた。


「指揮官であるお前には此度の責任をとる義務がある。森を焼き払おうとした罪はお前自身の命で贖ってもらおう」

「あ……あ……」


 私が意識を失う寸前、ゼスさんの大きな手が私の両目を覆った。

 男の叫び声が聞こえたような気がしたが、やがて何もわからなくなり、深い眠りの中へと落ちていった。





 私が目覚めたのは、それから2日後のことだった。

 私の矢傷は思ったよりは浅く、安静にしていれば一ヶ月程で完治するだろうと言われた。

 ゼスさんは何も言わないが、もしかしたら彼が魔法で何かしてくれたのかもしれない。
 とはいえ、当分はベッドの上で生活することになりそうだ。


 討伐隊は町で治療を受けた後、首都ルグルーダへと帰っていった。

 彼らはタルダールの町の者たちからゼスさんの話を聞き、真実を知った。

 自分たちが騙されていたことを知った彼らは憤慨し、口々に指揮官であったモルダランを罵倒したが、モルダランがもういないことを知らされると、一様に複雑そうな顔をして押し黙った。

 モルダランの死は偽りなく国民に発表された。一時は人族達の間にゼスさんへの悪感情が広まりかけたが、討伐に参加していた者達が真実を広めて回ったことで、次第にそれも沈静化していった。

 首長が亡くなったことで再選挙が行われたが、次に選ばれたのは対魔族政策の穏健派の者だった。
 これでしばらくは魔族と人族の対立が激しくなることはないだろう。


 私がベッドの住人になっている間、トマスさんがお屋敷にやってきて色々と世話を焼いてくれた。

 彼はあの時矢が刺さった私に何もできなかったことを悔やんでいるようだった。

 あの時は私達の間にモルダラン達がいたのだから、彼にはどうしようもなかったと思う。

 それよりも、町の住人達を連れて再び森まで来てくれたことに私は心から感謝している。
 トマスさんとはこれから先も良い関係を築いていければと思う。


 あの日、討伐隊の襲撃があった2日後に目覚めた私にゼスさんが最初に言った言葉は「私が怖いか」だった。

 起きたばかりというのもあるが、はっきり言って意味がわからなかった。

 わからないので本人に尋ねてみると、ゼスさんは、モルダランを殺したのだと私に打ち明けた。

 同じ人族であるモルダランを殺したゼスさんのことを私が怖いと思っているかを知りたかったらしい。

 そう言われてみれば、気を失う寸前にそんな場面があったようななかったような気がするが、それがなんだというのか。

 私は言った。「私があなたを怖いと思うことはこの先も絶対にありません」と。

 モルダランはゼスさんを殺そうとしていたのだから、ゼスさんに殺されても恨む資格はないと思う。

 あの男は嘘の情報を流して討伐隊の志願者を募り、ゼスさんを殺すように仕向けたのだ。

 謝って済まされるような罪ではなかったことは、私も、そして討伐に関わった者たちも理解している。

 私の返答を聞き、ゼスさんは安堵の表情を浮かべた。

 もし私がゼスさんのことを恐ろしいと答えていれば、怪我が完治した後、彼は私をトマスさんに頼んでこのお屋敷から送りだすつもりだったのだという。

 …まったく。あなたのことを恐ろしいなんて思うはずないのに。

 ゼスさんが私に出ていってほしいと言わない限り、私はずっとあなたのそばにいますよ。






 

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