きっと幸せな異世界生活

スノウ

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エピローグ

私はここで生きていく

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 討伐隊による襲撃があった日から2年の月日が流れた。

 私は今もゼスさんのお屋敷で暮らしている。

 しかし、以前のような森の中から一歩も出ない生活はやめた。

 私は2年前、怪我が治って問題なく動けるようになると、ゼスさんに頼んで馬に乗れるように訓練してもらった。

 理由は色々あるが、やはりいざという時に移動手段が無いと困るということを身にしみて感じたのが一番の理由だ。

 乗馬技術を身に着けてからは、ポルに跨ってタルダールの町まで出かけることも増えた。

 ゼスさんは私が矢傷を負って以来、以前にも増して心配性になってしまい、危険がある場所に私が行くことは絶対に許可しない。

 本当は私がタルダールの町まで行くことさえ毎回渋っているのだ。

 心配しすぎだとは思うが、あの時の矢が刺さった私の姿が、ゼスさんの頭の中に今も忘れられずに残っているのだと思う。

 彼をこれ以上不安にさせないためにも、彼が許可しないことはできる限りしないようにしている。


 トマスさんは、2年前に行商を辞め、タルダールの町に店を構えた。
 つまり、森のお屋敷まで商品を売りに来ることはなくなったということだ。

 私が度々タルダールに行くのは買い出しのためである。

 もしかしたら、トマスさんは私が森の外に出るための理由を作ってくれたのかな、なんて勘ぐってしまう。

 流石にそれはないかな?

 それでも、トマスさんとは疎遠になったわけではない。

 私がトマスさんの店で買い物をすることも多いし、トマスさんも店が休みの日にはお屋敷までふらっと遊びにきたりもする。

 その時は必ず茶菓子などの手土産も持参しているため、ゼスさんも「また来たのか」などと憎まれ口を叩きつつも歓迎しているようだ。


 タルダールの住人達との関係性も大きく変わった。

 討伐隊の襲撃時にゼスさんと関わった人達は、ゼスさんと話をしたことで、「魔族も話が通じるなら人族と変わらないじゃないか」と、謎の親近感を抱いたようで、ゼスさんのことを「ぬしさま」と呼んで慕い、自分たちが育てた野菜や穀物などを『捧げ物』だと言って持ってくるようになった。

 森の一部を人族に開放してくれていることへのお礼のようなものなのだろう。

 ゼスさんは人族達から好意的な感情を向けられ、最初は戸惑っていたようだが、今はこうして彼らと交流を持つのも悪くないと思うようになったようだ。


 最後は私自身に関してだが、あれからも毎日欠かさず魔力量アップの修行を行い、2年間順調に魔力量が増え続けた結果、ある日を境に私の体に明確な異変が起きた。

 具体的に説明すると、食事を必要としなくなり、かわりに空気中の魔素をエネルギー源として取り込むようになってしまった。
 それに伴って排泄も必要としなくなった。

 そして、魔法の使い方が感覚的にわかるようになった。
 今ではある程度の魔法は自在に扱えるようになっている。

 他にもあるが、どれも人族にはありえない変化である。

 どうやら私は人族をやめてしまったらしい。
 
 魔族の紅い瞳こそないが、私の体の変化はまるで魔族になってしまったかのようなものだった。

 ゼスさんには、こうなってしまった日に正直に打ち明けた。

「私はどうなってしまったんでしょう」と途方にくれた私が呟くが、ゼスさんにも人族がこのようになった前例など聞いたこともないという。

 状況から見て、魔力量が一定の水準を超えたことが引き金だったというところまでは推測できるが、今の私がどういった存在なのかはゼスさんにも断言できないようだ。

 魔族でも人族でもない。魔族に限りなく近いナニカ。

 不安な気持ちが顔に出ていた私にゼスさんは「心配するな。カノンがどのような存在に変わろうと君は君だ。私のカノンに対する気持ちも何ひとつ変わらない。今後これ以上の変化があったとしても君はずっとここで暮らしていけばいい」と言ってくれた。

 彼の言葉は私を安心させるのに十分な効果があった。

 誰に気味悪がられようと我慢できるが、ゼスさんから得体のしれない者を見るような目で見られることだけは耐えられない。

 拒絶されなかったことに安堵していると、ゼスさんが驚くべきことを口にした。


「カノンの変化が魔族の性質に近しいものだとすれば、君はこれから老いることなく永い時を生きることになるかもしれない。そうなれば人族との交流は控えなければならないだろう。だが心配するな。私なら君と同じ時を生きることができる。絶対に君を1人にはしない」

「え………?」


 私はゼスさんと同じ時を生きられるの?
 これからもずっと一緒にいられるの?
 それをゼスさん自身が受け容れてくれているの?

 嬉しい。

 今までの人生の中で一番嬉しいと思った。

 私が本当にそんなに永い時を生きられるのかは、今の時点ではわからない。

 もしそうならなかったとしても、私は今日ゼスさんからもらった言葉を大切に心にしまって生きていこう。

 そして、いつか私が魔族のように永い時を生きられるとわかったならば、今まで秘めていたこの気持ちをあなたに打ち明けよう。





 私の体に変化があった日を境に、私は加護魔法を使えなくなった。

 その代わりに魔法が自在に使えるようになったので、思った程の不便さは感じていない。

 女神様が私から加護を取りあげたということは、やはり私は人族ではなくなったのだろう。

 振り返ってみれば、私もエレナも随分と女神様に振り回された人生だったように思う。

 エレナの魂は、転生することなく今も彷徨っているのだろうか。

 もしそうであるなら、彼女にもう一度生きるチャンスを与えてあげてほしい。

 私は目を閉じて女神様に願った。


 神様、どうせ私から加護を取りあげるのならば、その加護はいつか転生したエレナに与えてあげて下さい。

 彼女がこの世界で引け目を感じることなく堂々と生きていけるように。



 その日の夜、不思議な夢をみた。

 私が会ったこともない男女が登場する夢だ。

 その男女は夫婦のようで、奥さんは今まさに赤子を産み落としたばかりでひどく消耗していたが、その表情は喜びに満ちていた。

 夫の方はそんな妻をいたわり、同時に赤子の誕生を喜んだ。

 赤子の頭を撫で、「決めたぞ。この子の名前はエレナにする。女神様、新しい命を授けて下さり感謝致します」と言って感謝の祈りを捧げていた。



 ……これを私の脳が勝手に作り出した夢であるとは思いたくない。

 きっと女神様は私の願いを聞き届けてくれたのだ。

 エレナはこれからあの夫婦の子どもとして新しい人生を歩んでいけるのだろう。

 いつか、成長したエレナと出会うこともあるのだろうか。
 そうなったら、彼女と話したいことがたくさんある。




 どうか、彼女の新しい人生が幸せなものでありますように。









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 最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました       

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