悪役令嬢は間違えない

スノウ

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巻き戻った悪役令嬢

アルフレッド第一王子殿下




「バーガンディ公爵家ご当主ルーベンス様、ならびにエレノア夫人、ご令嬢のジゼット様のご入場です」


 パーティー会場となっている大広間のドアが開き、わたくし達家族が入場する。

 侯爵以下の貴族達はしばらく頭を垂れてわたくし達を迎えた。

 わたくし達が入場し、周りが下げていた頭を上げる。

 すると、そこかしこから話し声が聞こえてきた。


「あの方が公爵家の一人娘であるジゼット様か……」

「立ち姿も堂々としていて、さすが公爵家のご令嬢ですな」

「あのドレス、見たことのないデザインだわ。どこのお店でオーダーされたのかしら」

「美しい方だな。是非ともうちの息子の嫁に来てほしいが」

「やめておけ。家格が釣り合わん」


 聞こえてくる話し声はおおむね好意的なものが多いようだ。
 スージーがデザインしたドレスを絶賛する声もちらほら聞こえ、わたくしのそばに控える彼女も誇らしそうだ。

 なかにはわたくしを嫁にほしいという声まで聞こえ、見合い話が来ているというのは本当のことだったのだな、と冷静に納得してしまった。

 ……でも、やっぱり目立ってしまっているようね。人目につかず、静かにパーティーを終えるのは難しいかもしれない。

 わたくしが内心でため息を吐いていると、入場のアナウンスが会場に響いた。


「静粛に!これよりファルザム王国国王エドマンド陛下、ならびに王妃ロザンヌ陛下、第一王子アルフレッド殿下、第二王子コーネリアス殿下のご入場です」


 今回は頭を下げず、王族の方々を拍手で迎える。
 このパーティーが祝いの席であり、主催者が王族であるためだ。厳粛な式典などでは作法も変わってくる。

 国王エドマンド陛下が片手を上げると拍手がピタリと止んだ。


「本日、我が息子アルフレッドが10歳の節目を迎えた。これを祝い、ささやかではあるが宴の席を用意した。みな、今日は存分に楽しんでいってほしい」


 再び会場が拍手に包まれる。

 その後、王妃陛下のお言葉を挟んでアルフレッド殿下の番になった。


「あー、今日は私のためによく集まってくれた。………あー、以上だ。まあ楽しんでくれ」


 会場は拍手に包まれるが、招待客は一様に微妙な表情だ。

 10歳だからギリギリ許されるが、王族のスピーチとしては落第点だろう。

 すぐ後に第二王子のお言葉があったが、コーネリアス殿下は長文をすらすらと話し、内容も洗練されていた。

 ……わたくし、この殿下を見て一目惚れしたのよね。
 こんなののどこが良かったの?
 自分で自分がわからない。

 本当に、顔しか見ていなかったのね、わたくし。
 昔の自分がいかに愚かだったのかをまざまざと見せつけられたようで、わたくしの気分は急降下した。


「ジゼット様、冷たいお飲み物はいかがですか?」

「ありがとう、いただくわ」


 顔色の悪いわたくしを心配してか、ダリルが飲み物を用意してくれた。
 わたくしはありがたくそれを飲み、嫌な気分は幾分ましになった。


「ジゼット、アルフレッド殿下にご挨拶しなさい」

「……え?」

「わたくし達、今日はそのために来たのでしょう?どうしてそんなに驚いているの?」

「……わたくしひとりで、ですか?」

「陛下のご意向でね。歳の近い者同士で交流を深めてほしいそうだ」

「大丈夫よ。今のジゼットならマナーも心配いらないわ。あなたはもう立派なレディよ」

「お母様……ありがとうございます……」


 お母様に認められたことが嬉しいのに嬉しくない。

 わたくし、どうあってもアルフレッド殿下と接触しなければならないの?

 おそらく国王陛下はこのパーティーでアルフレッド殿下の未来のお妃候補や側近候補を選ぶおつもりなのでしょうね。

 実際、前回のわたくしは殿下の婚約者候補になったわけで、わたくしは国王陛下の手のひらの上で転がされていたバカな子どもだったというわけね。はあ。

 ……挨拶は避けられない。
 ならば、さっさと終わらせてしまうに限るわ。

 アルフレッド殿下がいる場所に目をやると、10歳前後の貴族の令嬢、令息達が殿下の周りに集まっていた。
 殿下はふんぞり返ってそれらを見渡している。

 ……令息達は親に言われて挨拶に来ただけだというのに、あれはわかっていないのでしょうね。
 おそらく、殿下は自分が人気者だと勘違いしているような気がする。
 嫌だわ、恥ずかしい。

 殿下が恥ずかしいというよりも、そんな殿下を好きだった過去の自分が恥ずかしい。

 ……もういい。さっさと終わらせる。

 わたくしはアルフレッド殿下に近づいた。
 わたくしの身分を知っているのか、周りにいた令嬢達が道を開けてくれる。


「ありがとう。感謝します」

「い、いえ」


 令嬢は何故か顔を赤らめながら返事をした。
 ……風邪かしらね。


「次はお前か……。まったく、人気者はつらいな」


 アルフレッド殿下は面倒くさそうにこちらを見た。

 短めの金髪に空色の瞳。
 わたくしが好きだった殿下の姿そのものだ。

 それなのに、今のわたくしは全くと言っていいほど殿下に心を動かされなかった。
 そのことに内心ホッとする。

 ……大丈夫、わたくしは以前とは違うわ!


「……バーガンディ公爵の娘ジゼットがアルフレッド第一王子殿下にお誕生日のお祝いを申し上げます」

「ふん、公爵の娘か。図に乗るなよ!私のほうが偉いんだからな!」

「存じております」

「……ふん!ならいい」


 わたくしは短い挨拶を済ませると殿下のそばからさっさと離れた。

 殿下の周りには相変わらず同年代の子ども達が集まっているが、あまり楽しそうにしている子はいない。

 これが普通の反応よね。
 こんな幼いうちからおべっかの使い方なんて知らなくてもいいわ。
 早くパーティーが終わればいいのにね。

 わたくしは同年代の子ども達に同情しつつその場を離れようとした。

 そんなわたくしの背中に令嬢の控えめな声がかけられる。


「あ、あのう、発言をお許し願えますか…?」


 声のするほうを振り返ると、ゆるくウエーブのかかった栗色の髪が特徴的な、おとなしそうなご令嬢がこちらを見ていた。


「……わたくしに何かご用かしら」

「は、はい!わたくし、ミルズ伯爵家のメアリーと申します」

「そう。わたくしはバーガンディ公爵家のジゼットよ。それで、メアリー様はわたくしに何を伝えようとしていたの?」

「そのぅ……ジゼット様のドレスがとってもよくお似合いで、わたくし、そのことをどうしてもジゼット様にお伝えしたかったのです」

「わ、わたくしもですわ!」

「わたくしもそう思っておりました!!」

「ジゼット様のドレス、とても素敵ですわね!どこのお店でオーダーされたのですか?」


 ひとりの令嬢の思いきった質問に、周りの令嬢達が耳をそばだてる。


「これは公爵家専属のデザイナーとお針子が仕立てたものよ。おそらく同じものはどのお店でも扱っていないのではないかしら」

「そ、そんなぁ……」

「公爵家のお抱えなら仕方ありませんわね」

「バーガンディ公爵家、流石ですわ……」


 今のスージーはデザイナーではないけれど、公爵家の者という意味では間違いではないだろう。

 実際、彼女の作品はまだどのお店にも並んでいないはずだ。


「ではわたくしはもう行くわね。メアリー様、わたくしのドレスを褒めてくれてありがとう。嬉しかったわ」

「そそそそんな、わたくしは当然の感想を」

「ではごきげんよう、メアリー様」

「ご、ごきげんようジゼット様……」


 わたくしのドレスを褒めてくれた令嬢は他にもいたけれど、彼女達は名を名乗っていない。
 それに、発言の許可なく途中から話に割り込んできた。

 これは、よほど親しい間柄でもない限り、貴族の間ではマナー違反とされる行動だ。

 彼女達がまだ子どもであることと、このパーティーが祝いの席であることを鑑みて、今回の彼女達の無礼には目をつぶることにした。
 まあ、前回のわたくしに比べればかわいいものよね。

 勇気を出してわたくしに話しかけてくれたメアリー様との出会いに感謝しつつ、わたくしはその場を離れた。


「ジゼット、もう帰ってきたのかい?」

「殿下へのご挨拶は終わったの?」

「はい。うまくご挨拶できたと思います」

「そうか。それならいいが」

「もう少し殿下とお話してくれば良かったのに。こんな機会は滅多にないのよ?」

「……お母様、殿下は多くのご令息、ご令嬢に囲まれて、辟易したご様子でした。わたくしはあまり殿下を煩わせてはいけないと思い、ここに戻ってきたのです」


 わたくしの言葉に両親は複雑そうな表情を浮かべた。


「うんざりした顔をしていたのかい?……うーん、殿下の教育はどうなっているんだ?」

「あなた!ここはまだパーティー会場でしてよ!」

「おっと、すまない」


 お父様がついついアルフレッド殿下の教育について言及したくなるほど殿下の態度はあり得ないものだったということだろう。

 感情のコントロールは貴族の基本スキル。
 心の赴くままに怒ったり泣いたりするのは恥ずかしいこととされる。
 不機嫌さが露骨に顔に出るのは貴族としてはあり得ない態度なのだ。王族ならなおさら悪い。

 今はギリギリ子どもだからで済まされているが、あと数年もすれば笑って済まされなくなるだろう。

 まあ、前回のわたくしも殿下のことを笑えないほどのひどい状態だったけれどね。

 前回のわたくしは人前で不機嫌になることなど日常茶飯事で、それに暴言や暴力が加わっていたのだ。マナーも最悪で、両親はさぞ恥ずかしい思いをしていたことだろう。

 公爵令嬢失格と言われても言い返せないひどい状態だったわたくしは、両親から見捨てられても仕方なかったのかもしれないわね。


 未成年が参加するパーティーなので、早めの時間にお開きになった。

 わたくし達はすぐに城を出ることにした。

 城を出たところで、わたくしは急激なめまいに襲われた。
 そのまま倒れそうになったところを後ろから誰かの腕が支えてくれる。


「ジゼット様、大丈夫ですか?」

「ダリル……」

「ジゼット!?調子が悪いのかい?」

「お父様……」

「旦那様、ジゼット様を馬車までお運びする許可を」

「ぐ……仕方ない。許可する」

「ありがとうございます」


 ダリルは同じくらいの背格好であるわたくしを軽々と抱き抱え、速やかに馬車まで運んでくれた。


「ダリル、ありがとう……」

「これくらい当然のことです。おれは今回馬車の同乗を許されておりませんのでここで失礼致します」

「あ……」


 行ってしまった……。

 ひとり残された車内でわたくしは少し淋しい気持ちになる。でも、少し待っていれば両親が来るはずよね。

 ……それにしても、どうして急にめまいが起きたのかしらね。

 わたくし、自分が思っている以上にアルフレッド殿下と会うことに緊張していたのかしら。

 そのストレスから解放された結果、張り詰めていた精神が緩んだということだろうか。
 

「ふふ、まるで深窓のご令嬢のようね。わたくしのガラじゃないわ」


 それからすぐに両親が馬車に乗り込み、わたくし達はタウンハウスまで戻った。
 今日はこの王都邸で一泊し、翌日公爵領に戻るそうだ。

 わたくしはもう大丈夫だと言ったのだが、心配した両親が医者を呼んでくれた。
 診察の結果は軽い貧血だそうだ。
 やはりこれは身体の問題ではなく、心に負担がかかったことで起きた不調だったのだろう。

 医者は食事の改善を提案して帰っていった。両親はわたくしが重い病気ではないことに胸を撫で下ろしていた。


 翌日、わたくし達は予定通り馬車で領地に戻った。
 わたくしの体調もすっかり回復し、いつも通り勉強に明け暮れている。

 
 こうしてわたくしの9歳最後の日は、いつもと変わらない勉強漬けで一日を終えたのだった。



 
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