行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜

文字の大きさ
4 / 13

4

しおりを挟む
 アイザックは、ただ質問の答えがなかなか見つからないのか、姿勢を正したまま視線だけを泳がしている。

 もっと問い詰めたい。彼が選んだ女性の名も、身分も、容姿も、馴れ初めも。全部全部知りたい。

 その権利が自分にあるとエステルは信じているし、アイザックに拒む権利が無いことも知っている。

 でも必死に探す彼の様子に、エステルは声を掛けては駄目だと判断し、じっと待つ。

 息苦しい沈黙に、ぬるくなってしまったお茶を一口飲む。先ほどより苦みが増している。

 やはり淹れ直そう。自分がこんなにも辛い気持ちになっているのも、アイザックが婚約を破棄したいと願っているのも、全部このお茶のせいだ。

 だから美味しいお茶を淹れたら、これは全部無かったことになる。そうきっと……

 何の根拠も無いけれど。ただのお茶に縋る自分があまりに滑稽だとしても。それでも、何かをせずにはいられなかった。

 衝動的に未だ沈黙を続けるアイザックに断りを入れることなく、エステルは呼び鈴を鳴らそうとした。しかし、その時ーーアイザックが自分を見た。

 答えを見付けたのだと、エステルは瞬時に悟った。

 身構えた拍子に、ごくりと唾を飲む。細く震える息を落ち着かせる為に、胸に手を当ててゆっくりと深呼吸する。 

 視線はずっと絡み合ったまま。形の良い彼の唇はいつ動いてもおかしくはない。……なのに、彼はここですっと自分から目を逸らした。

 答えは見つかったけれど、言葉にしたくない。そんな意思表示だった。

「答えてはいただけないのですね」
「すまない」
「わたくしが傷付くから、言えないのですか?」
「……」
「それとも、あなたが選んだ女性が傷付くから?」
「……どちらも違う。ただ」
「ただ?」
「……」

 肝心なところで沈黙するアイザックに、エステルは強い口調で「お答えください」と訴える。

 そうすれば観念したような、それでいて痛みを堪えるような顔でこう言った。

「ただ……自分の中で導き出した答えが答えになっていないから、言えないだけだ」

 なんだそれ。

 下町の女性のような言葉が思わず胸の中で零れる。声に出さなかったのは、長年の淑女教育の賜物だろう。

 だが今は、そんな自分を褒めたくなんかない。

「……あなたは、狡い人ね」
「すまない」
「わたくし世間の笑いものになるのですね」
「そんなことは絶対にさせない。デナムの名に懸けて」

 強く宣言するアイザックは、もう未来を見ている。困難を乗り越えて結ばれた恋人との幸せの未来を。

 ーーわたくしは、あなたにとって厄介者なのね。
  
 エステルは苦しくて、笑った。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたから、言われるくらいなら。

たまこ
恋愛
 侯爵令嬢アマンダの婚約者ジェレミーは、三か月前編入してきた平民出身のクララとばかり逢瀬を重ねている。アマンダはいつ婚約破棄を言い渡されるのか、恐々していたが、ジェレミーから言われた言葉とは……。 2023.4.25 HOTランキング36位/24hランキング30位 ありがとうございました!

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

この声は届かない

豆狸
恋愛
虐げられていた侯爵令嬢は、婚約者である王太子のことが感知できなくなってしまった。 なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

ただずっと側にいてほしかった

アズやっこ
恋愛
ただ貴方にずっと側にいてほしかった…。 伯爵令息の彼と婚約し婚姻した。 騎士だった彼は隣国へ戦に行った。戦が終わっても帰ってこない彼。誰も消息は知らないと言う。 彼の部隊は敵に囲まれ部下の騎士達を逃がす為に囮になったと言われた。 隣国の騎士に捕まり捕虜になったのか、それとも…。 怪我をしたから、記憶を無くしたから戻って来れない、それでも良い。 貴方が生きていてくれれば。 ❈ 作者独自の世界観です。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。 この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。

あのひとのいちばん大切なひと

キムラましゅろう
恋愛
あのひとはわたしの大切なひと。 でも、あのひとにはわたしではない大切なひとがいる。 それでもいい。 あのひとの側にいられるなら。 あのひとの役にたてるなら。 でもそれも、もうすぐおしまい。 恋人を失ったアベルのために奮闘したリタ。 その恋人がアベルの元へ戻ると知り、リタは離れる決意をする。 一話完結の読み切りです。 読み切りゆえにいつも以上にご都合主義です。 誤字脱字ごめんなさい!最初に謝っておきます。 小説家になろうさんにも時差投稿します。 ※表紙はあさぎかな先生(@yatusiro1)にコラージュアートを作成していただいたものです。 (*´˘`*)シアワセデスッ

処理中です...