9 / 13
9
しおりを挟む
「……そうなれば良いのですけれど」
半年アイザックが婚約発表をしなかっただけで、また婚約ができると思い込んでいる自分は異常だとわかっている。
一度婚約を破棄されたカップルが、再び婚約することなど滅多に……いや、ゼロに等しい。
それでも彼とよりを戻せるような気がしてしまうのは、なぜだろう。
この甘い薔薇の香りのせいなのか。それとも、自分が現実を見ていないだけなのか。
流行りのドレスは半年経って、リボンではなくコサージュに変わった。
西の領地では、平民の為の図書館が建設され、近々王都でも取り入れられると聞く。
異国から魚介類の輸入が緩和され、レストランでは新しいメニューが並んでいる。
……大丈夫。自分は、現実を見ている。ちゃんと今を生きている。
だからアイザックとやり直すことも、きっと願望ではなく予言めいたものなのだろう。
それに何より、何度もエスコートしてくれるメイソンは、アイザックが婚約したなどと言ってはいない。
もし仮にメイソンが監視役ならば、間違いなく望みは無いのだと伝えるはずだ。
楽観的にならぬよう、一つ一つを分析してみても、望ましい結論にしかならない。そのことが嬉しくて、エステルは軽い足取りで庭園を歩く。
当然ながら王城の庭は広い。
ほんの少しと思った散策は、いつの間にかかなり庭園の奥まで入り込んでしまっていた。そこで、見てしまった。アイザックが他の女性といるところをーー
垣根の向こうでドレスアップした二人は、ただ花を眺めていた。
寄り添うことも、腕を組むことも、まして抱き合ったりもしていない。
しかし二人の周りには立ち入ることが許されない何かに守られていた。
月明かりに照らされ薔薇の花に包まれる二人は、悔しいほどに美しい光景だった。声を掛けることが罪深いと思わせるほどに。
どこかに逃げ出したい。そう思っているのに、意思とは無関係にエステルは垣根から目を逸らすことができなかった。
「ーー夜のお花も奇麗ね」
「ああ、そうだな」
「でも私は、丘に咲く花が好き。アイザックは?」
「どうだろう。花は花としてしか見れないな」
「もうっ。貴方はいつもそればっかりね」
不満そうに軽くアイザックの腕を叩いた女性は、そのまますたすたと先を歩く。それを追いかけるように、アイザックは早足になる。
近付いて来た二人に、エステルは慌てて別の茂みに身を隠した。
幸か不幸か、二人は結局エステルの元には近付かず方向転換して、別の花壇に目を向ける。
それに安堵する自分は、ひどく惨めだった。
半年アイザックが婚約発表をしなかっただけで、また婚約ができると思い込んでいる自分は異常だとわかっている。
一度婚約を破棄されたカップルが、再び婚約することなど滅多に……いや、ゼロに等しい。
それでも彼とよりを戻せるような気がしてしまうのは、なぜだろう。
この甘い薔薇の香りのせいなのか。それとも、自分が現実を見ていないだけなのか。
流行りのドレスは半年経って、リボンではなくコサージュに変わった。
西の領地では、平民の為の図書館が建設され、近々王都でも取り入れられると聞く。
異国から魚介類の輸入が緩和され、レストランでは新しいメニューが並んでいる。
……大丈夫。自分は、現実を見ている。ちゃんと今を生きている。
だからアイザックとやり直すことも、きっと願望ではなく予言めいたものなのだろう。
それに何より、何度もエスコートしてくれるメイソンは、アイザックが婚約したなどと言ってはいない。
もし仮にメイソンが監視役ならば、間違いなく望みは無いのだと伝えるはずだ。
楽観的にならぬよう、一つ一つを分析してみても、望ましい結論にしかならない。そのことが嬉しくて、エステルは軽い足取りで庭園を歩く。
当然ながら王城の庭は広い。
ほんの少しと思った散策は、いつの間にかかなり庭園の奥まで入り込んでしまっていた。そこで、見てしまった。アイザックが他の女性といるところをーー
垣根の向こうでドレスアップした二人は、ただ花を眺めていた。
寄り添うことも、腕を組むことも、まして抱き合ったりもしていない。
しかし二人の周りには立ち入ることが許されない何かに守られていた。
月明かりに照らされ薔薇の花に包まれる二人は、悔しいほどに美しい光景だった。声を掛けることが罪深いと思わせるほどに。
どこかに逃げ出したい。そう思っているのに、意思とは無関係にエステルは垣根から目を逸らすことができなかった。
「ーー夜のお花も奇麗ね」
「ああ、そうだな」
「でも私は、丘に咲く花が好き。アイザックは?」
「どうだろう。花は花としてしか見れないな」
「もうっ。貴方はいつもそればっかりね」
不満そうに軽くアイザックの腕を叩いた女性は、そのまますたすたと先を歩く。それを追いかけるように、アイザックは早足になる。
近付いて来た二人に、エステルは慌てて別の茂みに身を隠した。
幸か不幸か、二人は結局エステルの元には近付かず方向転換して、別の花壇に目を向ける。
それに安堵する自分は、ひどく惨めだった。
492
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたから、言われるくらいなら。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢アマンダの婚約者ジェレミーは、三か月前編入してきた平民出身のクララとばかり逢瀬を重ねている。アマンダはいつ婚約破棄を言い渡されるのか、恐々していたが、ジェレミーから言われた言葉とは……。
2023.4.25
HOTランキング36位/24hランキング30位
ありがとうございました!
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ただずっと側にいてほしかった
アズやっこ
恋愛
ただ貴方にずっと側にいてほしかった…。
伯爵令息の彼と婚約し婚姻した。
騎士だった彼は隣国へ戦に行った。戦が終わっても帰ってこない彼。誰も消息は知らないと言う。
彼の部隊は敵に囲まれ部下の騎士達を逃がす為に囮になったと言われた。
隣国の騎士に捕まり捕虜になったのか、それとも…。
怪我をしたから、記憶を無くしたから戻って来れない、それでも良い。
貴方が生きていてくれれば。
❈ 作者独自の世界観です。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。
あのひとのいちばん大切なひと
キムラましゅろう
恋愛
あのひとはわたしの大切なひと。
でも、あのひとにはわたしではない大切なひとがいる。
それでもいい。
あのひとの側にいられるなら。
あのひとの役にたてるなら。
でもそれも、もうすぐおしまい。
恋人を失ったアベルのために奮闘したリタ。
その恋人がアベルの元へ戻ると知り、リタは離れる決意をする。
一話完結の読み切りです。
読み切りゆえにいつも以上にご都合主義です。
誤字脱字ごめんなさい!最初に謝っておきます。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
※表紙はあさぎかな先生(@yatusiro1)にコラージュアートを作成していただいたものです。
(*´˘`*)シアワセデスッ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる