盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜

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お仕事のはずなのに、そんな顔であんなことをするのは少し狡いと思う

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 夕食も終わり、そろそろ就寝という時刻になる頃、ここアシェルの私室には、彼を護衛する側近2名の他に、もう一人、宮廷魔術師がいた。


「───…… ふぅーん。兄上も一番手を出したらいけないものに、触れちゃったようだね」

 グレイアスから昼間の一件の報告を聞き終えたあと、アシェルはソファの肘掛けに頬杖を付きながらそう言った。

 ただ、のんきな口調でそんなことを言うアシェルの醸し出すオーラは、人一人簡単に殺せるようなそれだった。

「馬鹿だ馬鹿だと思っていたけれど、そこまで愚かだとは……半分同じ血が流れていると思うと反吐が出る」

 続けて吐き捨てるように呟くアシェルに、側近の二人はごくりと息を飲む。

 ハニスフレグ国の第二王子は、大変温厚で思慮深く、滅多なことでは怒ることは無い。

 だがしかし一度怒りに火が付けば、相手を徹底的に潰すまで、それは治まることはない。ちなみに彼の怒りはローガンのように荒々しく騒がしいものではない。とても静かで冷たい。

 そんな冷徹な怒りを間近で感じている側近は、まるで己の身に鉄槌が振り降ろされるような恐怖を感じていた。

 しかしもっと近くでそれを感じているはずのグレイアスは、怯えることも怖がることもしないのが逆に恐ろしい。

 そんなある意味鈍感なのか肝が据わっているのかわからないグレイアスは、にこっと笑って口を開く。

「しかし、そんな馬鹿な殿下にムキになるノア様も、なかなかのお馬鹿でございますね」
「……ほざけ。ノアのそういうところが可愛い。あんな愚兄と一緒にするな」
「ははっ。さようですか。それにしても随分と殿下はノア様を気に入っているようで」

 更に笑みを深くしてそう言ったグレイアスに、アシェルは怒りを治めて少しだけ拗ねた顔をする。

「……私がどれだけそう思っていたとて、ノアは違うようだ。所詮、彼女は私と共にいることは仕事としか思っていない。それ以上の感情など、どこにも無い」

 悔しそうにそう言ったアシェルは、今度は腰掛けていたソファの背もたれに身体を預け、深いため息を吐いた。

 アシェルは雪花の紋章を持つノアを利用しようとしている。それは今も揺るぎない事実だ。

 けれど、それだけなら、己の膝に乗せることも、彼女の手で菓子を食べさせて貰うことも、手を引いて歩いてもらうことも必要ないことだ。

 でも、アシェルはそうされることが嬉しくて仕方がない。

 気付けばいつも、どうすればもっとノアに近付けるのか考えてしまっている。

 そして、それを隠すことはしていない。むしろノアに自分の気持ちに気付いて欲しいとすら思っている。

 しかしノアは、アシェルの心配ばかりするだけで、一向にこれが特別な想いからくるものだとは気付かない。考えようとすらしてくれない。

 あまりにノアが無頓着すぎて、最近のアシェルはキノコに嫉妬を覚えてしまうくらいだ。
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