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4-1.冬の嵐(前編)
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カダ村の村長が投獄された翌日は雨だった。
モニカは夕方になって、クラウディオに呼ばれた。指定されたのは、外出許可を貰うために待ち伏せしたサロンだった。
エバに付き添われて入室すれば、既にクラウディオは窓辺で腕を組んで外の景色を見ていた。
けれどモニカが声を掛ける前に気付いたクラウディオは、すぐにエバを退出させた。
「呼び出してすまなかった」
「いえ……そんな」
ぶんっと首を横に振ったモニカは、思わず息を呑んだ。
すぐ近くにクラウディオの顔があったからだ。
(領主様、移動するの……早っ。あと、顔が近いっ。近すぎる)
「少し顔色が悪いみたいだな。やはり昨日は一人にさせて悪かった」
瞬きする間にモニカに近づいたクラウディオは、身を屈めて覗き込んでくる。
しかもちょっとクラウディオの顔が方が低い位置にあるものだから、彼の前髪が鼻先に触れるのだ。
「……怒っているのか?」
何も言わないモニカを見て、クラウディオは昨日のことを責めているのだと受け止めた。
けれど、そんなわけはない。西から太陽が昇ったとて、あるわけがない。
頬に当たる息と、労わりに満ちた低い声に、モニカはぎくしゃくとしているだけだ。
昨日、クラウディオが自宅に駆け付けてくれた時は、窮地を救ってくれたヒーローに対して、ただただ感謝と安堵の気持ちしか無かった。
けれどファネーレ邸の自室に戻った途端、はたと気付いたのだ。
『外は寒かった。ほら、早く暖めておくれ』
そう言ってクラウディオはぎゅーっと自分を抱きしめたのだ。
大事なことで2度言うけれど、まるで恋人のように、ぎゅーっと抱きしめたのだ。
いやまて、クラウディオは居間に入った途端、「ただいま」とも言った。ついでに「いつものように抱擁を」とねだったのだ。それこそ新婚ほやほやの夫のように。
そのおかげで、村長との一件は”どうでも良いフォルダ”に収納することができた。
でも、思い出しては赤面してワタワタしてしまい、眠れぬ夜を過ごしたことは、自分だけの秘密として墓場まで持って行く所存だ。
とはいえ、ちゃんとわかっている。
言われなくても、わかっている。
昨日のクラウディオのそれら全ては、演技なのだ。
村長を黙らせるために、セリオを追っ払うために。
だからクラウディオを前にして、変に意識してはいけないのだ。彼とて義務感でそうやっただけなのだ。
……わかっちゃいるけど、現在進行形で心の臓は暴れ回っている。
このまま疲れて止まってしまうんじゃないかと心配するくらい、バクバクと耳の奥がうるさい。
「モニカ、一先ず座ろう。入り口付近は寒い。暖炉の傍に」
「は、はい」
右手右足を同時に動かすという器用なことをしながら、モニカは指定された場所に移動しようとする。
だが、今日に限ってクラウディオは、壊れ物を扱うような手つきでモニカをエスコートする。たった数歩の距離だというのに。
(な……なんか、今日のクラウディオはちょっと違う。どうして?)
相手は領主さまだ。フランクに「やだもうー。何かいつもと違うじゃん?」なんて聞いて良い相手ではない。
そして雲の上の存在に片思いしているモニカは、その相手に向かって下手な質問はできなかった。
嫌われたくないという乙女心が邪魔して。
モニカは夕方になって、クラウディオに呼ばれた。指定されたのは、外出許可を貰うために待ち伏せしたサロンだった。
エバに付き添われて入室すれば、既にクラウディオは窓辺で腕を組んで外の景色を見ていた。
けれどモニカが声を掛ける前に気付いたクラウディオは、すぐにエバを退出させた。
「呼び出してすまなかった」
「いえ……そんな」
ぶんっと首を横に振ったモニカは、思わず息を呑んだ。
すぐ近くにクラウディオの顔があったからだ。
(領主様、移動するの……早っ。あと、顔が近いっ。近すぎる)
「少し顔色が悪いみたいだな。やはり昨日は一人にさせて悪かった」
瞬きする間にモニカに近づいたクラウディオは、身を屈めて覗き込んでくる。
しかもちょっとクラウディオの顔が方が低い位置にあるものだから、彼の前髪が鼻先に触れるのだ。
「……怒っているのか?」
何も言わないモニカを見て、クラウディオは昨日のことを責めているのだと受け止めた。
けれど、そんなわけはない。西から太陽が昇ったとて、あるわけがない。
頬に当たる息と、労わりに満ちた低い声に、モニカはぎくしゃくとしているだけだ。
昨日、クラウディオが自宅に駆け付けてくれた時は、窮地を救ってくれたヒーローに対して、ただただ感謝と安堵の気持ちしか無かった。
けれどファネーレ邸の自室に戻った途端、はたと気付いたのだ。
『外は寒かった。ほら、早く暖めておくれ』
そう言ってクラウディオはぎゅーっと自分を抱きしめたのだ。
大事なことで2度言うけれど、まるで恋人のように、ぎゅーっと抱きしめたのだ。
いやまて、クラウディオは居間に入った途端、「ただいま」とも言った。ついでに「いつものように抱擁を」とねだったのだ。それこそ新婚ほやほやの夫のように。
そのおかげで、村長との一件は”どうでも良いフォルダ”に収納することができた。
でも、思い出しては赤面してワタワタしてしまい、眠れぬ夜を過ごしたことは、自分だけの秘密として墓場まで持って行く所存だ。
とはいえ、ちゃんとわかっている。
言われなくても、わかっている。
昨日のクラウディオのそれら全ては、演技なのだ。
村長を黙らせるために、セリオを追っ払うために。
だからクラウディオを前にして、変に意識してはいけないのだ。彼とて義務感でそうやっただけなのだ。
……わかっちゃいるけど、現在進行形で心の臓は暴れ回っている。
このまま疲れて止まってしまうんじゃないかと心配するくらい、バクバクと耳の奥がうるさい。
「モニカ、一先ず座ろう。入り口付近は寒い。暖炉の傍に」
「は、はい」
右手右足を同時に動かすという器用なことをしながら、モニカは指定された場所に移動しようとする。
だが、今日に限ってクラウディオは、壊れ物を扱うような手つきでモニカをエスコートする。たった数歩の距離だというのに。
(な……なんか、今日のクラウディオはちょっと違う。どうして?)
相手は領主さまだ。フランクに「やだもうー。何かいつもと違うじゃん?」なんて聞いて良い相手ではない。
そして雲の上の存在に片思いしているモニカは、その相手に向かって下手な質問はできなかった。
嫌われたくないという乙女心が邪魔して。
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