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4-1.冬の嵐(前編)
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嬉しくても、ガッカリしてもクラウディオと一緒にいたら、無意味にドキドキしてしまうのだ。
しかも昨日、あんな触れ合い方をしたのだ。彼の一挙一動に、変な期待と勘繰りを持ってしまうのは致し方が無い。
「できれば……手短に」
「わかった」
ご領主様に対して随分な要求をしてしまったが、あっさりと通ってしまった。つまり、もう逃げられないということで。
モニカは腹を括って、クラウディオが口を開くのを待った。
「これはあくまで提案だが、モニカ、私の家族にならないか?」
しばらく言葉を選ぶように無言を貫いていたクラウディオは、意を決したようにそう言った。
「か、家族……ですか?」
「ああ、そうだ。そうすればもう二度と、あんな理不尽な目に会うことも無い。そして私は君を堂々と守ることができる。悪い話では無いはずだ」
「…… はぁ」
モニカはなんとこさ相槌を打った。
けれど、心の中は笑ってしまう程、傷付いていた。
(家族……って、え?や? 妹ってこと? それともまさか娘とか?)
クラウディオは27歳。
モニカは16歳。
歳の差から考えると、妹というのが無難であるが、クラウディオの口調は保護者としてのニュアンスが強いから、後者のように思われる。
手のひらに熱を感じて視線を下に向ければ、いつの間にかクラウディオに手を握られていた。
「モニカ、私と家族になるのは、嫌か? それだけは答えてくれ」
切羽詰まったクラウディオにモニカは気圧されて、ただただ瞬きを繰り返すことしかできない。
「……頼む、モニカ」
深いブルーの瞳にじっと見つめられて、なぜか捕縛されてしまったような気持ちになったモニカは、小さな声で「嫌じゃないです」とだけ呟いた。
たったそれだけのことで、クラウディオは笑った。
見ているこちらがつられて笑いたくなるような、とても綺麗な微笑みだった。
「では、そのように進めていく」
「はい。あ、あの……」
満足そうに頷くクラウディオに、モニカはたった一つだけどうしても譲りたくないものを訴えた。
「私…… 領主様の娘になるのだけは嫌です」
「何を言っているんだ。当たり前じゃないか」
微笑みから一変、クラウディオは呆れた顔になった。
”どうして君は、馬鹿なことばかり言うんだ”と、言いたげに苛立ちすら感じられる。
(娘になることは何とか免れたけれど、これからは妹として接していくということか……)
よくよく考えればクラウディオは独身だ。いつか、彼の身分に相応しい令嬢が、妻となる。そんな時に、コブ付きでは体裁が悪いだろう。
考えればすぐわかることだったのに、馬鹿なことを言ってしまったとモニカは恥じた。
でも、一番恥じているのは、僅かながらもクラウディオが自分に対して異性として見て欲しいと願っていたことだ。
でもクラウディオは、「好きだ」という気持ちを伝えぬまま、家族になろうと言った。
つまり自分は一生、彼の恋愛対象にはならないということだ。
「──── カ、モニカ」
クラウディオの声に、はっとしたモニカは、知らぬ間に俯いてしまっていた顔を上げた。
「何か不都合なことでもあったか?」
モニカはあからさまに視線を逸らして、返答する。今、彼を直視する勇気は無い。
「お話は終わったようなので、そろそろお部屋に戻りたいと思っていまして……」
「そうか。では、送ろう」
「いえ、結構です」
自分でも呆れてしまうほど、尖った声が出てしまった。
すぐさまクラウディオが何か言おうと口を開く。
でも、その形の良い唇から自分が望む言葉は一生紡がれることは無いことを知ってしまったモニカは、そのまま一礼して立ち去った。
しかも昨日、あんな触れ合い方をしたのだ。彼の一挙一動に、変な期待と勘繰りを持ってしまうのは致し方が無い。
「できれば……手短に」
「わかった」
ご領主様に対して随分な要求をしてしまったが、あっさりと通ってしまった。つまり、もう逃げられないということで。
モニカは腹を括って、クラウディオが口を開くのを待った。
「これはあくまで提案だが、モニカ、私の家族にならないか?」
しばらく言葉を選ぶように無言を貫いていたクラウディオは、意を決したようにそう言った。
「か、家族……ですか?」
「ああ、そうだ。そうすればもう二度と、あんな理不尽な目に会うことも無い。そして私は君を堂々と守ることができる。悪い話では無いはずだ」
「…… はぁ」
モニカはなんとこさ相槌を打った。
けれど、心の中は笑ってしまう程、傷付いていた。
(家族……って、え?や? 妹ってこと? それともまさか娘とか?)
クラウディオは27歳。
モニカは16歳。
歳の差から考えると、妹というのが無難であるが、クラウディオの口調は保護者としてのニュアンスが強いから、後者のように思われる。
手のひらに熱を感じて視線を下に向ければ、いつの間にかクラウディオに手を握られていた。
「モニカ、私と家族になるのは、嫌か? それだけは答えてくれ」
切羽詰まったクラウディオにモニカは気圧されて、ただただ瞬きを繰り返すことしかできない。
「……頼む、モニカ」
深いブルーの瞳にじっと見つめられて、なぜか捕縛されてしまったような気持ちになったモニカは、小さな声で「嫌じゃないです」とだけ呟いた。
たったそれだけのことで、クラウディオは笑った。
見ているこちらがつられて笑いたくなるような、とても綺麗な微笑みだった。
「では、そのように進めていく」
「はい。あ、あの……」
満足そうに頷くクラウディオに、モニカはたった一つだけどうしても譲りたくないものを訴えた。
「私…… 領主様の娘になるのだけは嫌です」
「何を言っているんだ。当たり前じゃないか」
微笑みから一変、クラウディオは呆れた顔になった。
”どうして君は、馬鹿なことばかり言うんだ”と、言いたげに苛立ちすら感じられる。
(娘になることは何とか免れたけれど、これからは妹として接していくということか……)
よくよく考えればクラウディオは独身だ。いつか、彼の身分に相応しい令嬢が、妻となる。そんな時に、コブ付きでは体裁が悪いだろう。
考えればすぐわかることだったのに、馬鹿なことを言ってしまったとモニカは恥じた。
でも、一番恥じているのは、僅かながらもクラウディオが自分に対して異性として見て欲しいと願っていたことだ。
でもクラウディオは、「好きだ」という気持ちを伝えぬまま、家族になろうと言った。
つまり自分は一生、彼の恋愛対象にはならないということだ。
「──── カ、モニカ」
クラウディオの声に、はっとしたモニカは、知らぬ間に俯いてしまっていた顔を上げた。
「何か不都合なことでもあったか?」
モニカはあからさまに視線を逸らして、返答する。今、彼を直視する勇気は無い。
「お話は終わったようなので、そろそろお部屋に戻りたいと思っていまして……」
「そうか。では、送ろう」
「いえ、結構です」
自分でも呆れてしまうほど、尖った声が出てしまった。
すぐさまクラウディオが何か言おうと口を開く。
でも、その形の良い唇から自分が望む言葉は一生紡がれることは無いことを知ってしまったモニカは、そのまま一礼して立ち去った。
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