最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜

文字の大きさ
6 / 8

6

 目に溜まった涙を手の甲で乱暴に拭ったリシャーナは、エルディックと目を合わさずに口を開いた。

「気分がすぐれないので、これで失礼します」
「おいっ」

 くるりと背を向けて歩き出した途端、強く腕を引かれた。あっと思った時は、もうエルディックの腕の中にいた。

「まだ帰るな……頼むから、もう少しここにーーって、お前、なに泣いてるんだよ!?」

 無理矢理に覗き込まれ、エルディックと目が合った途端、彼はこちらが驚くほど取り乱した。

「悪かった、言い過ぎた!でも泣くほどのことは……いや、泣いたんだから嫌だったんだよな。ごめん、すまなかった」

 嫌っている相手が泣いただけなのに、なぜここまで困り果てた顔をするのだろう。

 リシャーナは、全くもって理解ができなかった。

 しかし黙ったままじっと見られているエルディックからすれば、それは無言で責められているようにしか受け止められなかったのだろう。

「……本当に悪かった」

 弱り切った声を出すエルディックは、本気で反省しているし、心から悔いている。

「どうしてですか?」
「……またそれか」

 うんざりした顔をするエルディックだが、先ほどの刺々しさは無い。

「だって」
「俺は、嫌っている相手を引き留める人間じゃないし、ましてどうでも良い相手なら泣いたところで放っておく」

「でも、私はあなたに」
 ーー嫌われている。

 そう続けようと思った。

 けれどエルディックに両肩を強く掴まれ、怖い顔で睨まれ、言葉を奪うように叫ばれた。

「俺はお前を嫌ってなんかいない!!」

 雷みたいな一括に、リシャーナの身体はビクンと跳ねた。

「あ、悪ぃ」

 怯えたリシャーナを見たエルディックは掴んだ手を離すと、大きく一歩後退した。

 春独特の温かい風が、花の香りを含んで二人の間を通り抜ける。

 距離を置いたエルディックは、微動だにしない。少し俯く顔はどこか寂しげだ。その表情があまりに痛々しくて、気付けばリシャーナは一歩踏み出していた。

「……ごめんなさい」

 謝罪を口にしてすぐに戸惑う。エルディックは余計に辛そうな顔をしたから。

 再び「ごめん」と言いかけて、口を噤む。

 代わりの言葉が見つからないリシャーナは沈黙し、エルディックも何かを考え込むかのように黙った。

 ーーそれからしばらくして。

「卒業式で、返事を聞かせてくれると思っていた」
「……え?」
「ずっと待っていた。卒業祝いで羽目を外そうと誘ってくる奴らの誘いを断わって、俺はお前が来て、図書室での告白の返事をしてくれると信じていた。忠犬のように、ずっとずっと待っていた」
「は……い?」

 告白?返事??

 まるで精霊語を聞いたかのように、リシャーナは頭の中が真っ白になった。

 対してエルディックは、死地に向かう騎士のように覚悟を決めた表情でじっとリシャーナの言葉を待っている

「えっと……告白の返事って言いましたが、それは王子への返事ってことで」
「ここでそういう戯言はやめろ。俺に決まっているだろう」

 心底嫌な顔をしたエルディックに、リシャーナは震える声でこう尋ねた。

「あの、私……いつエルディック様から告白を受けましたでしょうか?」

 記憶を何度も手繰っても、そんなシチュエーションは無かったと断言できる。

 でも、どうやら違ったようだ。

「くっそ、マジかよ。そこからかよ……」

 呟いたエルディックは、片手で顔を覆った。

 指の隙間から見える彼の顔は、怒りを通り越して呆れ果てた顔をしていた。
感想 10

あなたにおすすめの小説

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

婚約者の番

毛蟹
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

妖精隠し

恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。 4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。 彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

うまくいかない婚約

毛蟹
恋愛
エーデルワイスは、長年いがみ合っていた家門のと結婚が王命として決まっていた。 そのため、愛情をかけるだけ無駄と家族から愛されずに育てられた。 婚約者のトリスタンとの関係も悪かった。 トリスタンには、恋人でもある第三王女ビビアンがいた。 それでも、心の中で悪態をつきながら日々を過ごしていた。

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

さよなら、私の初恋の人

キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。 破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。 出会いは10歳。 世話係に任命されたのも10歳。 それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。 そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。 だけどいつまでも子供のままではいられない。 ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。 いつもながらの完全ご都合主義。 作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。 直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。 ※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』 誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。 小説家になろうさんでも時差投稿します。