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目に溜まった涙を手の甲で乱暴に拭ったリシャーナは、エルディックと目を合わさずに口を開いた。
「気分がすぐれないので、これで失礼します」
「おいっ」
くるりと背を向けて歩き出した途端、強く腕を引かれた。あっと思った時は、もうエルディックの腕の中にいた。
「まだ帰るな……頼むから、もう少しここにーーって、お前、なに泣いてるんだよ!?」
無理矢理に覗き込まれ、エルディックと目が合った途端、彼はこちらが驚くほど取り乱した。
「悪かった、言い過ぎた!でも泣くほどのことは……いや、泣いたんだから嫌だったんだよな。ごめん、すまなかった」
嫌っている相手が泣いただけなのに、なぜここまで困り果てた顔をするのだろう。
リシャーナは、全くもって理解ができなかった。
しかし黙ったままじっと見られているエルディックからすれば、それは無言で責められているようにしか受け止められなかったのだろう。
「……本当に悪かった」
弱り切った声を出すエルディックは、本気で反省しているし、心から悔いている。
「どうしてですか?」
「……またそれか」
うんざりした顔をするエルディックだが、先ほどの刺々しさは無い。
「だって」
「俺は、嫌っている相手を引き留める人間じゃないし、ましてどうでも良い相手なら泣いたところで放っておく」
「でも、私はあなたに」
ーー嫌われている。
そう続けようと思った。
けれどエルディックに両肩を強く掴まれ、怖い顔で睨まれ、言葉を奪うように叫ばれた。
「俺はお前を嫌ってなんかいない!!」
雷みたいな一括に、リシャーナの身体はビクンと跳ねた。
「あ、悪ぃ」
怯えたリシャーナを見たエルディックは掴んだ手を離すと、大きく一歩後退した。
春独特の温かい風が、花の香りを含んで二人の間を通り抜ける。
距離を置いたエルディックは、微動だにしない。少し俯く顔はどこか寂しげだ。その表情があまりに痛々しくて、気付けばリシャーナは一歩踏み出していた。
「……ごめんなさい」
謝罪を口にしてすぐに戸惑う。エルディックは余計に辛そうな顔をしたから。
再び「ごめん」と言いかけて、口を噤む。
代わりの言葉が見つからないリシャーナは沈黙し、エルディックも何かを考え込むかのように黙った。
ーーそれからしばらくして。
「卒業式で、返事を聞かせてくれると思っていた」
「……え?」
「ずっと待っていた。卒業祝いで羽目を外そうと誘ってくる奴らの誘いを断わって、俺はお前が来て、図書室での告白の返事をしてくれると信じていた。忠犬のように、ずっとずっと待っていた」
「は……い?」
告白?返事??
まるで精霊語を聞いたかのように、リシャーナは頭の中が真っ白になった。
対してエルディックは、死地に向かう騎士のように覚悟を決めた表情でじっとリシャーナの言葉を待っている
「えっと……告白の返事って言いましたが、それは王子への返事ってことで」
「ここでそういう戯言はやめろ。俺に決まっているだろう」
心底嫌な顔をしたエルディックに、リシャーナは震える声でこう尋ねた。
「あの、私……いつエルディック様から告白を受けましたでしょうか?」
記憶を何度も手繰っても、そんなシチュエーションは無かったと断言できる。
でも、どうやら違ったようだ。
「くっそ、マジかよ。そこからかよ……」
呟いたエルディックは、片手で顔を覆った。
指の隙間から見える彼の顔は、怒りを通り越して呆れ果てた顔をしていた。
「気分がすぐれないので、これで失礼します」
「おいっ」
くるりと背を向けて歩き出した途端、強く腕を引かれた。あっと思った時は、もうエルディックの腕の中にいた。
「まだ帰るな……頼むから、もう少しここにーーって、お前、なに泣いてるんだよ!?」
無理矢理に覗き込まれ、エルディックと目が合った途端、彼はこちらが驚くほど取り乱した。
「悪かった、言い過ぎた!でも泣くほどのことは……いや、泣いたんだから嫌だったんだよな。ごめん、すまなかった」
嫌っている相手が泣いただけなのに、なぜここまで困り果てた顔をするのだろう。
リシャーナは、全くもって理解ができなかった。
しかし黙ったままじっと見られているエルディックからすれば、それは無言で責められているようにしか受け止められなかったのだろう。
「……本当に悪かった」
弱り切った声を出すエルディックは、本気で反省しているし、心から悔いている。
「どうしてですか?」
「……またそれか」
うんざりした顔をするエルディックだが、先ほどの刺々しさは無い。
「だって」
「俺は、嫌っている相手を引き留める人間じゃないし、ましてどうでも良い相手なら泣いたところで放っておく」
「でも、私はあなたに」
ーー嫌われている。
そう続けようと思った。
けれどエルディックに両肩を強く掴まれ、怖い顔で睨まれ、言葉を奪うように叫ばれた。
「俺はお前を嫌ってなんかいない!!」
雷みたいな一括に、リシャーナの身体はビクンと跳ねた。
「あ、悪ぃ」
怯えたリシャーナを見たエルディックは掴んだ手を離すと、大きく一歩後退した。
春独特の温かい風が、花の香りを含んで二人の間を通り抜ける。
距離を置いたエルディックは、微動だにしない。少し俯く顔はどこか寂しげだ。その表情があまりに痛々しくて、気付けばリシャーナは一歩踏み出していた。
「……ごめんなさい」
謝罪を口にしてすぐに戸惑う。エルディックは余計に辛そうな顔をしたから。
再び「ごめん」と言いかけて、口を噤む。
代わりの言葉が見つからないリシャーナは沈黙し、エルディックも何かを考え込むかのように黙った。
ーーそれからしばらくして。
「卒業式で、返事を聞かせてくれると思っていた」
「……え?」
「ずっと待っていた。卒業祝いで羽目を外そうと誘ってくる奴らの誘いを断わって、俺はお前が来て、図書室での告白の返事をしてくれると信じていた。忠犬のように、ずっとずっと待っていた」
「は……い?」
告白?返事??
まるで精霊語を聞いたかのように、リシャーナは頭の中が真っ白になった。
対してエルディックは、死地に向かう騎士のように覚悟を決めた表情でじっとリシャーナの言葉を待っている
「えっと……告白の返事って言いましたが、それは王子への返事ってことで」
「ここでそういう戯言はやめろ。俺に決まっているだろう」
心底嫌な顔をしたエルディックに、リシャーナは震える声でこう尋ねた。
「あの、私……いつエルディック様から告白を受けましたでしょうか?」
記憶を何度も手繰っても、そんなシチュエーションは無かったと断言できる。
でも、どうやら違ったようだ。
「くっそ、マジかよ。そこからかよ……」
呟いたエルディックは、片手で顔を覆った。
指の隙間から見える彼の顔は、怒りを通り越して呆れ果てた顔をしていた。
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