旦那様、それを「愛してる」とは言いません!! 〜とある侯爵家のご夫婦が、離縁に至るまで〜

当麻月菜

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耐え難きを耐え 忍び難きを忍び……

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 祭壇の前で夫婦の誓いを立て、華やかな宴でたくさんの祝いの言葉を受け、初夜を終え、ミレニアは名実ともにヘンリーの妻となった。

 ニーゲラット邸の使用人は、皆、ミレニアを歓迎してくれた。

 ヘンリーの両親は既に領地の邸宅に住まいを移しているので、ここは新婚夫婦の為の愛の巣と呼ばれる場所になった。

 実際に、ヘンリーは幾度目かの朝食の際にミレニアに言葉として伝えた。

「君との結婚を母上が反対していたから、私が領地の邸宅に移したんだ」

 朝食を締めくくる香りの良い茶を飲みながら、にこやかにヘンリーはそう言った。

 対して、ミレニアは顔色を失った。

(この人は……なぜ、今頃になって、そんなことをわざわざ口にするの?)

 身分差がある結婚だから、反対の声があるのは当然だと思っていた。

 実際、結婚式の直前にヘンリーは自分のことを底辺貴族と言った。その事実をミレニアは忘れていない。

 ただ穏やかな日々が続いていたのと、もう戻ることはできない現状に、過去の事をほじくり返すような真似をしたくなかっただけ。

 己の意思で相手を選んだわけではないが、それでも自ら進んで暗く沈んだ結婚生活にしたいとは思わない。

 ざらつく気持ちは時間と共に風化されると思っていたし、もう自分はニーゲラット家の一員になったのだ。だから、彼ももう自分のことを底辺貴族と罵ることはないだろう。

 そんなふうにミレニアは気持ちに折り合いをつけていた。

 しかし結婚生活が始まって数日。まさかこのタイミングで、義理の母親がこの結婚を反対していた事実を知った今、ミレニアは彼の言葉を受け流すことはできなかった。

「旦那さま、私はそのことは今、初めて知りました。なぜ教えてくれなかったのですか?」

 知っていたのなら、それを理由に拒むことができたかも……ミレニアがそう思ったのは事実だ。

 でも割合的には、隠し事をされたことに対する怒りのほうが強かった。そして、何でもない口調で語られたことが悔しかった。

 だからこれを期に、二人の夫婦感についてじっくりと話し合おうと思った。

 けれどヘンリーは、ミレニアの気持ちを察するどころか有り得ないことを口にした。

「教える必要が君にあった?私が母にきっぱりと言ったんだからそれで良いじゃないか」
「でも、今頃になってそれを知ってしまった私の気持ちは……とても辛いです」
「どうして?私がこんなにも愛しているんだから、君が辛い気持ちになるのはおかしいじゃないか」
「……っ」 

 露骨にムッとするヘンリーに、ミレニアは言葉に詰まった。

(……ああ、彼は自分の気持ちを疑われることに対して極端に怒りを覚える人なんだ)

 確かに、見えないものを疑われて、それを証明しようとするのはかなり難しい。そして、自己否定されたような気持ちになる。

 そして彼と自分が逆の立場だったら、自分がムッとしないとは言い切れない。だから、

「……ごめんなさい」

 悩んで出した答えは謝罪することだった。

 すぐさまヘンリーはにこっと人懐っこい笑みを浮かべて「良いよ、もうこの話は終わりにしよう」と言った。



****
 

(なぁーにが、愛しているんだから、君が辛い気持ちになるのはおかしいだっつーのよ。ったく、何の論理なのよ?お前の価値観で世界は回ってないんだよ、馬鹿)
 
 馬車の中、ウトウトしながらミレニアは夫婦生活で一番最初に感じた違和感を思い出し舌打ちする。

 あの日、あの時、気まずい空気になったことを自分の責任だと思った自分を「あんた、どれだけおめでたい思考なんだ」とミレニアは嘲笑ってやりたい。

 いや、実際にはこれ以上ないほど、過去の自分に向け口元は冷たい笑みを浮かべていた。
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