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朝の日課を終わらせ、エルマーの入れてくれたお茶をいただいていると、外が騒がしくなり教会の中に数人が入ってきた。
皆が皆焦りのため、全員で話し出し説明が錯綜し、理解することが難しい。
「皆さん落ち着いて、それでは何が言いたいのか分かりませんよ。誰か一人説明してください」
テオフィルに静かに言われ、自分たちの状態をやっと理解し、一番年上の一人が一度深呼吸してから口を開いた。
「ホルガーとヤーコブのとこの息子が昨日から帰ってきてねえんだよ。いつもつるんでるエルンストに聞いたら、二人で森に行くって言ってたらしい。で、これからヴィリのとこに行くとこなんだ」
エヴァンたちは息を呑む。
昼、浅い場所までなら森は誰でも入れるが、夜は別だ。
森全体が人外の領域に変わり、入れば帰ってくることは難しくなる。
「なぜ二人は?わかっているのですよね、森のことを」
「何年かごとにあるんですよ、度胸試しする奴らが。騒ぎになったのを見てどうなるかわかってるのがいるうちは収まるんだが、知らない、覚えてないのが出てくるとまたやる。どんなに言って教えても、現実を見ないとわからないのが数人出てきちまう」
エヴァンの質問に、近くに立っていた男が苦虫を噛み潰したような表情で言うのに、眉を寄せる。若い男にはよくあることだが、それだけでは終わらない事態になってしまっている。
「わかりました。エルマー神父、あなたも皆さんについていきなさい」
テオフィルはすぐにエルマーに指示をし、緊張の面持ちで皆が外へと向かうのを見て、エヴァンは静かにテオフィルを見つめた。
それに気が付き、少し困った顔をされてしまった。
「お気持ちはわかりますが、これはこの村のことですから」
「私には対応できる知識があります。若者を救えるのなら、使うべきです」
「そのような、物のように言わないでください……」
「いえ、我々はそういうモノです。なので気にすることではありません」
口の端を少しだけ持ち上げてみせ、エヴァンは教会を出た。
先を行く集団にすぐに追いつきエルマーの横へ並ぶと、驚いた顔で見てきたが、先ほどの表情を見せるとこちらも困った顔を見せた。
見えてきた小屋の前にはすでに何人もの村人がおり、その中でも背の高いヴィリはよく目立っていた。
ヴィリは男たちに指示を出し、彼らは数人ずつ森の中へ入っていった。
小屋に着いたときにはヴィリと二人の男だけが残っていた。
「こっちがホルガーで、こっちがヤーコブだ」
紹介された二人は憔悴した表情で立っていた。
「一応浅いところを探すように、手分けはしたが、先は探しようがなくなる」
「わかってる。覚悟はできてる」
ヤーコブは言い終わると、ぐっと唇をかみしめる。
「お二人は椅子に。エルマー神父は付いていてあげてください。ミュラーさん、少しお話を伺ってもよろしいですか?」
小屋を離れ、森へ入る小道の入り口前に二人は並ぶ。
「どの場所でも三十メートルも入れないのがほとんどでしたが、ここもそうですか?」
「あぁ、この道はもう少し先まで行けるが、それでも五十だな。ベニーを行かせてるが、どうなるか」
「ベニー?」
「飼ってる犬だ、迷子探しがうまいんだ。アディ司祭にはタイミングが悪かったな」
「悪くなどありません!」
強い声に驚いて振り向いたヴィリと目が合うが、表情はすぐに戻った。
「正直達観してると思ってたが、熱くなるんだな」
「……人の命がかかってるんです、当たり前のことです」
「そうだな……、俺が悪かった」
ヴィリが殊勝な態度で謝るのに、エヴァンは好感が持てた。
一見粗野に見える彼の見た目とは、中身は真逆なのだろう。昨日ほんの少しだけ話したのと、今の態度で感じられた。
「俺はこの先まで行ってくる、アディ司祭は小屋にもどっ」
「一緒に行きます」
思わず食い気味に言ってしまったが、困った顔で「だろうな」と言われてしまった。
後頭部の髪を撫でつけるしぐさをしてから、ヴィリは奥へ向かって歩き始めた。
小道はそこまで手入れされてはいないが、木が生えてないだけいいだろう程度になっている。両脇に森は下草が処理されてはいるが、木は生えるに任せている様子だ。
だんだんと薄暗くなっていく先で、犬の鳴き声が聞こえてきた。
「ベニー!」
ワンと鳴くのが聞こえ、少しして左に木々の間から、黒毛に白い毛が少し混ざった中型犬が、何かを咥え走ってきた。
「何か拾ってきたのか?偉いなベニー」
しゃがみ、頭を撫でながら咥えていたものを受け取ると、それはこげ茶色の革靴だった。
履き古されているが、それが森の中にいつからあるかは、見てもわからなかった。
小屋に戻り、ボルガーとヤーコブに見せると、ヤーコブの息子のものだった。
ヤーコブは革靴を両手に持ち、強く抱きしめて床に蹲るのを、エルマーは跪き無言で肩を抱いた。
「俺はもっと奥を探してみる。もし探してるやつらが戻ってきたら、また浅いところを探すように伝えてくれ」
「わかりました」
精神状態が落ち着いているのがエルマーだったため、彼に声をかけヴィリはベニーを連れ小道を森の奥へと向かう。そのあとをエヴァンもついていく。
「ベリー、また二人の匂いを追ってくれ」
一声吠え、ベリーは奥へ走っていき、途中で左の森へ入っていった。
「さて、俺は右に入って調べるが、司祭はどうする?その恰好じゃ入れないぞ」
裾の長いカソックを下から上へ視線を移動させ言われ、普段着ているため違和感を感じていなかった。
「司祭も小屋で待っててくれ、暗くなる前には戻る」
「わかりました」
さすがに無理にはこれでは行けないので、逸る気持ちもあるが、森の中に消えていくヴィリの背中を見送り、その場を後にした。
皆が皆焦りのため、全員で話し出し説明が錯綜し、理解することが難しい。
「皆さん落ち着いて、それでは何が言いたいのか分かりませんよ。誰か一人説明してください」
テオフィルに静かに言われ、自分たちの状態をやっと理解し、一番年上の一人が一度深呼吸してから口を開いた。
「ホルガーとヤーコブのとこの息子が昨日から帰ってきてねえんだよ。いつもつるんでるエルンストに聞いたら、二人で森に行くって言ってたらしい。で、これからヴィリのとこに行くとこなんだ」
エヴァンたちは息を呑む。
昼、浅い場所までなら森は誰でも入れるが、夜は別だ。
森全体が人外の領域に変わり、入れば帰ってくることは難しくなる。
「なぜ二人は?わかっているのですよね、森のことを」
「何年かごとにあるんですよ、度胸試しする奴らが。騒ぎになったのを見てどうなるかわかってるのがいるうちは収まるんだが、知らない、覚えてないのが出てくるとまたやる。どんなに言って教えても、現実を見ないとわからないのが数人出てきちまう」
エヴァンの質問に、近くに立っていた男が苦虫を噛み潰したような表情で言うのに、眉を寄せる。若い男にはよくあることだが、それだけでは終わらない事態になってしまっている。
「わかりました。エルマー神父、あなたも皆さんについていきなさい」
テオフィルはすぐにエルマーに指示をし、緊張の面持ちで皆が外へと向かうのを見て、エヴァンは静かにテオフィルを見つめた。
それに気が付き、少し困った顔をされてしまった。
「お気持ちはわかりますが、これはこの村のことですから」
「私には対応できる知識があります。若者を救えるのなら、使うべきです」
「そのような、物のように言わないでください……」
「いえ、我々はそういうモノです。なので気にすることではありません」
口の端を少しだけ持ち上げてみせ、エヴァンは教会を出た。
先を行く集団にすぐに追いつきエルマーの横へ並ぶと、驚いた顔で見てきたが、先ほどの表情を見せるとこちらも困った顔を見せた。
見えてきた小屋の前にはすでに何人もの村人がおり、その中でも背の高いヴィリはよく目立っていた。
ヴィリは男たちに指示を出し、彼らは数人ずつ森の中へ入っていった。
小屋に着いたときにはヴィリと二人の男だけが残っていた。
「こっちがホルガーで、こっちがヤーコブだ」
紹介された二人は憔悴した表情で立っていた。
「一応浅いところを探すように、手分けはしたが、先は探しようがなくなる」
「わかってる。覚悟はできてる」
ヤーコブは言い終わると、ぐっと唇をかみしめる。
「お二人は椅子に。エルマー神父は付いていてあげてください。ミュラーさん、少しお話を伺ってもよろしいですか?」
小屋を離れ、森へ入る小道の入り口前に二人は並ぶ。
「どの場所でも三十メートルも入れないのがほとんどでしたが、ここもそうですか?」
「あぁ、この道はもう少し先まで行けるが、それでも五十だな。ベニーを行かせてるが、どうなるか」
「ベニー?」
「飼ってる犬だ、迷子探しがうまいんだ。アディ司祭にはタイミングが悪かったな」
「悪くなどありません!」
強い声に驚いて振り向いたヴィリと目が合うが、表情はすぐに戻った。
「正直達観してると思ってたが、熱くなるんだな」
「……人の命がかかってるんです、当たり前のことです」
「そうだな……、俺が悪かった」
ヴィリが殊勝な態度で謝るのに、エヴァンは好感が持てた。
一見粗野に見える彼の見た目とは、中身は真逆なのだろう。昨日ほんの少しだけ話したのと、今の態度で感じられた。
「俺はこの先まで行ってくる、アディ司祭は小屋にもどっ」
「一緒に行きます」
思わず食い気味に言ってしまったが、困った顔で「だろうな」と言われてしまった。
後頭部の髪を撫でつけるしぐさをしてから、ヴィリは奥へ向かって歩き始めた。
小道はそこまで手入れされてはいないが、木が生えてないだけいいだろう程度になっている。両脇に森は下草が処理されてはいるが、木は生えるに任せている様子だ。
だんだんと薄暗くなっていく先で、犬の鳴き声が聞こえてきた。
「ベニー!」
ワンと鳴くのが聞こえ、少しして左に木々の間から、黒毛に白い毛が少し混ざった中型犬が、何かを咥え走ってきた。
「何か拾ってきたのか?偉いなベニー」
しゃがみ、頭を撫でながら咥えていたものを受け取ると、それはこげ茶色の革靴だった。
履き古されているが、それが森の中にいつからあるかは、見てもわからなかった。
小屋に戻り、ボルガーとヤーコブに見せると、ヤーコブの息子のものだった。
ヤーコブは革靴を両手に持ち、強く抱きしめて床に蹲るのを、エルマーは跪き無言で肩を抱いた。
「俺はもっと奥を探してみる。もし探してるやつらが戻ってきたら、また浅いところを探すように伝えてくれ」
「わかりました」
精神状態が落ち着いているのがエルマーだったため、彼に声をかけヴィリはベニーを連れ小道を森の奥へと向かう。そのあとをエヴァンもついていく。
「ベリー、また二人の匂いを追ってくれ」
一声吠え、ベリーは奥へ走っていき、途中で左の森へ入っていった。
「さて、俺は右に入って調べるが、司祭はどうする?その恰好じゃ入れないぞ」
裾の長いカソックを下から上へ視線を移動させ言われ、普段着ているため違和感を感じていなかった。
「司祭も小屋で待っててくれ、暗くなる前には戻る」
「わかりました」
さすがに無理にはこれでは行けないので、逸る気持ちもあるが、森の中に消えていくヴィリの背中を見送り、その場を後にした。
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