神の加護が支配する世界で、俺だけが理から外れていた ~将来を誓った君を思い出したのは、遅すぎた~

ゆきみかん

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序章

第1話 約束の前日

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「本当にそれで、助かるんだな?」

 横たわっている白銀の女性を視界に捉えながら目の前の異質な、
 何とも形容しがたいどこか神秘的で呑み込まされそうな雰囲気を持つ女性に問いかけた。

「ええ……仮にも位は低いと言っても神の呪いよ?
 同じ神でしか解けることもないでしょうね」

 その表情はどこかこちらを試している。
 俺が本当に大切なものを差し出すのかと、どちらでもいいとも捉えられるが、
 その表情は愉悦に満ちてるのは確かだ。

「……わかった。その条件で叶えてくれ――いや、ください」

 身を挺して会ったばかりの俺を助け、心を開いてくれた子。
 それを見捨てたとしたら、俺はもう自分も許せないし、
 俺の大切な人も許してはくれない。

 だから――

「フフっ……いいでしょう。
 なかなか、見ないはね。この選択をするものは、いいのね?
 ――シラハユキノ?」

 最初から終始、笑みを絶やさない女神が少しだけ表情を変えた。

「かまわない。俺は……俺の選択と想いを信じている。
 ――それでも、誰も愛しはしない」

 一人だけだ絶対に俺の想いは消えない。

「そう。……でもどうかしらね?」

 今日、一番の笑みで横たわる女性を見てから俺に視線を戻した。

「? 時間がない。やるなら始めてくれ」

 仮にも神だが敬称を使う気にはなれない。
 俺はこいつが嫌いだ。

「私は好きよ。
 あなたみたいなヒュールはね」

 当然のように思考を読んでいる。
 本当に食えない奴だ。

「では――代償をもらいましょう」

「……ああ」

 俺の前に手を差し出してきた。
 その手に手をつかもうと伸ばす――

 この時の選択を未来と結果を知ったら俺はどう思ったのだろう。
 いや……変わらないだろうな。
 選ばなくても後悔、選んでも後悔なのだから……。

 俺を許さないでくれ――咲雪。

 ◇


「私がもし異世界に行ったらどうする?」

 いきなり問いを投げて、俺に腕を組んだまま、顔はスマホの電子書籍に目を向けたままだった。

「行けないから大丈夫。
 それより明日の夜寒いって、よりにもよってだな……」

 そういう自分もスマホの天気予報を見たまま、幼馴染であり恋人の咲雪(さゆき)に答える。

「そうじゃないでしょ! 大事な婚約者が行方不明なんだよ。
 そこは、必ず探すとか、見つける、自分も異世界に行って添い遂げるとか!」

 抱きしめられた腕が少し痛い。頬を膨らましながら不満をはきだしてくる。

「それは、まともに答えること? そんな簡単に次元を超えられるわけがない。
 どうせ今読んでる、ライトノベルの影響だろ?」

「違う! いやそうだけど、もしそうなったら雪乃はどうするのか知りたいの!」

「はぁ……そういうこと? 俺は――」

「ちなみに私だったら、絶対に雪乃を探して、絶対に見つける。
 時間だろうが、次元が違っても」

 静かに、けど熱がある真剣な眼差しで、こちらを見上げてくる。

「……人に聞いておいて自分が先に言う? はぁ……俺もだよ」

 自分でも照れくさいのかわかっているから、少しぶっきらぼうに言ってしまう。

「ちーがーう! こっちを見て言葉にして」

 どうしても言わせたいらしい。

「……わかったよ、俺も必ず咲雪を探して見つける。
 時間が違っても、次元が違っても必ず隣にいる、離れたりしない」

 顔を向け、目を見ながら真面目に言葉に出して伝えると。

「ぉう……」

 顔を赤らめ、目をそらしてしまう。

「なんで言わせた本人が照れるんだよ」

「そりゃあ照れるわよ。

 言葉にされると……そこまで言ってくれるとは、思わなかったわよ」

 お互い、夕日に照らされただけでは、説明ができない顔色になっていた。

「こっちも恥ずかしいんだから――っとそろそろバスが来るな」

 二人してバスに揺られながら、ポツリと咲雪が言葉をこぼす。

「明日で雪乃も18歳で、やっと同い年だね」

 4月生まれの咲雪が、3月生まれの自分にお姉さんぶってくる。

「本当に3月生まれは損だよ。ここまで月日が離れてるとほぼ、年上だよ」

 しかし本当にひどいのは幼稚園の時や小学生の時だった、ほぼ体格が違ったから。

「それで咲雪は4月で19歳か……」

「ふふん、また先に大人になるね」

 得意げに言う顔が、少し腹が立ったので言い返す。

「でも精神的には、俺の方が大人だと思うけど?」

「はいはい、そうね。
 それより明日、家でだっけ? それとも神社?」

 軽く流されて、本当に自分のほうが幼く思えてしまって、ちょっと悔しい。

「あ、ああ、誕生の儀式のことだろ? 18歳になったら元服というか、成人の儀みたいなことをやるみたいだ」

 家は結構長く代々続く白羽神社といって、歴史も長いらしく敷地や土地も割とでかい。
 そこの一応は跡取りになる。

「そっか、当日は行ってもいいんでしょ? 身内だけなんだよね?」

「ああ、問題ないよ。
 許嫁なんだし、当主――母も許してくれるよ」

「お義母さまにちゃんと言っといてね」

「……ああ」

 少し歯切れを悪くいうと。

「はぁ……相変わらずね。
 まだ苦手なの?」

 あきれたように言うから、つい大きめに反論してしまう。

「そんなにすぐ変わるわけないだろ! こっちは生まれたときからそうなんだから!」

 とっさに、感情的な声を出してしまって、周りを見る。
 ほかに乗車している人がいなくてよかった。

「とにかく、あの母に対して苦手……というかその……母の態度をみればわかるだろ?」

 我ながらひどい、言葉にできていない。

「マザコン?」

「違う!」

 少しからかいながら言ってくる、人の気も知らないで。

「うそうそ、ごめんって、でもあながち間違いじゃないのかもよ? コンプレックスは抱いてるのは事実だし?」

「……」

「はぁ、ごめんってもう言わないわよ。
 でもお義母さま、私には優しいしすごく丁寧だよ」

 知っている、初めて会話してるところを偶然、陰から見たときは、ショックだったのおぼえている。
 なぜショックだったのかは薄々わかってはいるが認めたくはない、これでは本当にマザコンになってしまうからだ。

「知ってるよ――そんなことは」

「でも、いつも雪乃のことをよろしくとか、お世話になってるとか言ってくださるし、優しくて、笑うと綺麗だし、凛としてカッコイイまであるよね」

 見た目に関しては、息子の自分でも同意する。
 だけど優しくて、笑うか……。

「その優しさと笑顔を、向けられたことがないけど?」

 事実、母には褒められたことも、笑顔を向けられた覚えもない。

「それは――でも、期待と優しさの裏返しだと思うよ? 私から見たあの人は雪乃のことを絶対に愛してると思うよ」

 疑いもせずに自分の考えを、バスを降りながら声をはずませる。

「なんで、そんなことがわかる? 実際に俺に対する態度、何度も見ただろ?」

 少し離れた背中に問いかける。

「だって、どうでもいい人や嫌いな人にあの眼は向けないよ」

 歩きながら少し後ろを向いて笑顔でこたえてくる。

「眼?」

 意味が分からずに立ち止まってしまう。

「そうだよ~。
 雪乃を見ている時のまなざしは、とても優しくて真剣だもの」

 離れていく背中を追いかけ再び疑問を口にする。

「俺は、そんなことを感じたこともないし向けられた覚えもないけど?」

 実際そうだ、幼いころなどは、あの眼は恐怖まであった。

「ん~? 中から見てるとわからないかもね? じゃあここまでいいよ。
 送っていかなくて」

 そう言ってから小走りに離れていく。

「お、おい! 咲雪!」

 呼びかける声は届いたのか、届かなかったのかは、わからないが変わりにスマホに返事が来る。

『ちゃんとお義母様に許可とっといてよ』

 結局やることは変わらない、そう告げたものだった。

 ◇

 帰路についてる途中、正確にはもう家の敷地内なのだが無駄に広いから母屋までが遠い。

 さっきの咲雪の言葉を思い返しては、否定と疑問しか思い浮かばなかった。

「優しいまなざし?」

 そもそもが想像できない。

「お帰りなさい、雪乃くん」

 想像していた優しいまなざしのお手本のような人、それが父だった。

「ただいま父さん今は掃除? それといい加減『くん』付けはやめてよ。
 明日で18で来月から大学生だよ?」

「いくら年を取ろうとも雪乃くんはずっと僕の子供だよ」

 本当に優しい笑顔、このような温厚な人がなぜ母のような人と結びついたのか、まるで想像ができない。
 逆に父のような人でないとだめだからでは? と思うと納得してしまう。

「楓さんが呼んでいたよ。
 帰ったら居間にくるようにって言っていたよ」

「……父さんは、なぜあの人と結婚したの?」

 返事をする前に、咲雪の言葉が思い浮かび、口に出してしまっていた。

「いきなりだね。
 それはね、楓さんがとても優しくて、綺麗で、強い人だからかな?」

「綺麗で強いのは認めるけど、優しい? どういうところが?」

 今日聞く何度目かの評価にまたしても疑問が浮かぶ、それは自分が受け取ったことがない感情だから。

「雪乃くんが言いたい強さのことは技術的なことを言ってるのなら違うよ。
 何より心が強いんだ」

 父の顔は嬉しそうに、でもどこか寂しそうで――

「そしてね、泣き虫でもあるんだ。
 そこは可愛いとこだけどね」

「泣き虫? あの人が?」

 またしても意外な感想に、惚気は聞き流す。

「そうだよ。
 いつも雪乃くんの――」

「何をしているの? 雪乃」

 凛としてよくとおる声、息子を呼んでいるはずなのに顔と声には温かさを感じられない。

「用があると聞いているはずでしょ? 早く着替えて居間に来なさい」

「……わかりました。
 着替え、すぐに行きます」

「ああそれと秋月さんも――忘れていませんか?」

 母の声に少しあきれたように、どこかさみしさを感じている表情、父がこんな顔をしているのが気になって――

「父さん――」

「雪乃いつまでいるの? 早くしなさいと言ったはずでしょ」

 夕暮れの日が沈む時間、その声は周りの温度を下げるような冷たさを放っていた。

「――っ、はい失礼します」

 その場にいることを拒絶されているという事実、そこから逃げるように部屋に行く。
 思わずため息と、悲嘆なのかわからない言葉をこぼしてしまう。

「あなたにとって俺は何なんですか――母さん?」

 ◇

「失礼します」

 居間へと向かうと相変わらず背中に一本の線が入ってるかのように綺麗だ。
 そして強い意志がこもった眼で、俺を見てくる。

「明日、雪乃あなたは18の誕生日を迎えます。
 そこで正装に――いえ、用意した服に着替えてもらいます」

 いつも、まっすぐに眼をそらさない母が、珍しく視線を一瞬下げたのに違和感を覚えた。
 用意した服に着替えるだけなのが、何か変なのだろうか?

「それから雪乃、あなたの刀を帯刀して行きなさい」

 その言葉を聞いた時、疑問よりも先に胸の鼓動が早くなる。

「……刀もですか?」

 返事を待つ間、のどがひりつく。

「それは、なぜです?」

 動揺してるのが自分でもはっきりわかっているから、眼が母に向けられず、その奥をみる。

「必要だからです」

 反論は許さないと、強い意志が視線や言葉にも宿っていた。

 そこで出かけていた言葉もでず、ただ頷くことしかできなかった。

 ◇

 居間を出て、そのまま台所へ向かうと父と祖父がいた。

「おお、雪乃おかえり。いつ帰った?」

 見ていた新聞から、顔をあげて好々爺よろしく笑顔で迎えてくれる。

「ただいま、じいちゃん。さっき帰ってきたとこ」

 そう言って向けた祖父の顔に眉間にしわが寄る。

「何かあったか? 暗い顔をして、咲雪ちゃんとケンカするわけがないし……まさかまた、あれが何か言ったか?」

 この家の男の人たちは俺以外、本当に察しがいいな。
 だけど――

「違うよ、ただあの人――母さんが成人の儀で着替えて刀、持って来いって言うからさ」

 冷蔵庫の飲み物を取りながら答える。

「そうか……ふむ、そうか」

 事情を知ってる分、言葉をにごしてくれる。
 重くなった空気を変えるようにたずねる。

「それで、明日は具体的に何をすればいいの?」

 祖父が考え事しているような顔をしていたが、すぐに視線を戻してきた。

「ああ、儂も具体的なことは知らんからな、何せ婿養子だからな。
 なんでも代々、当主になる者が18になったら、あの滝――時流れの滝の前で何かをやるらしい」

 神社の裏を少し進んだところに滝があるのは知っているが、めったに行くことはない。
 それにらしいばかりで、何ひとつ要領を得ない。

「何かって、結局なんなのさ?」

 祖父は、歯がゆそうに言葉をにごす。

「すまんの、それは当主になる者しか教えられんそうだ。
 前当主の時も、あれの時もそうだった」

 この家は代々女性しか産まれない、だから女が当主になり、あとを継ぐのが通例だ。
 しかし、例外が起きた。
 つまり――俺、白羽家に生まれた初めての男だった。

「男だから、変な例外とかないといいけど」

 表情が暗い気がし、わざとおどけて言う。

「はは、そうだな服も案外、巫女服かもしれんしな」

 話を聞いていた父も笑っていた。
 いい匂いをした料理を持って来て――

「そうだね、雪乃くんは巫女服姿も似合うと思うよ?」

 ため息がでた。この父は本気で言ってそうなのが怖い。

「似合うわけないでしょ?
 これでも、線は細く見えるけど鍛えてるんだから」

 少し胸をはり、軽く腕を上げて見せるが自分でもちょっと細い?

「線が細いんじゃないぞ?
 無駄を一切つけない鍛え方をしてるからじゃよ」

 祖父が急に声のトーンを落とし、視線を俺の体に移す。

「あれとよく話し合って決めたことじゃ。
 本来なら体をある程度の鍛錬で基礎を作る」

 視線を体に向けたまま変わらず、俺の体をひとつひとつまるで物が壊れていないか確かめるようにその目は機械的にも見える。

「だが、その方法は最初のほんの最小限にし、あとはひたすら実践の組手や木刀の模擬戦しかしておらんじゃろ?」

 聞かれても、それが普通と思ってやってきたから……頭に、もやがかかったようだ。

「違うのか?  確かに走る以外は道場で模擬戦しかしてなかったけど……」

 言われて見て気づく、確かに学園の体育などで行われる筋トレみたいなことを一切、指示されたことがない。

「異常じゃよ。そんな鍛え方をしていたら、遠からず体が壊れる」

 ――壊れる?
 そんな話、今まで一度も聞かされていない。
 淡々とした言葉に戸惑いが強く、俺は出かけた言葉がのどにひっかかってしまい黙って先を促す。

「……あれは、天賦の域じゃな。
 いや――いや、少し違うか」

「だから! どういう意味!」

 母の話が急にでて自分でも分かるくらいに声を荒げてしまう。

「ああ、すまんすまん。
 要するにじゃな、無駄な肉はつけん。
 使う筋肉しか、最初から作らせておらん」

 優しく諭すような声に、深く息を吸って自分を落ち着かせる。
 その言い方で、ようやく腑に落ちた。
 ――合理性。あの人が好み、考えそうなことだ。

「……合理的、かもしれないけどさ」

「体が壊れるって分かっているのに、そこまでして――あの人……母さんは何を考えているんだよ!
 いくら何でも将来の仕事を継ぐっていっても、そこまですることじゃないでしょ!?」

 この家は代々、そういう役目を担ってきた家だ。
 幼いころから母と祖父が指導して実際の現場でも経験を多少した。

「あの人は俺の――」

「何を騒いでるの」

 空気が一瞬で張り詰めたのがわかった。
 この人の声はこんなにも冷たく感じる。

「夕餉の時間になるというのに、雪乃」

 さっきまで出かけていた言葉は、その眼でのどが凍り付いたかのように思うように出ない。

「もう一度、聞くわ。
 何を騒いでるの?」

 答えない、答えれない。
 その言葉を口にしたら――

「雪乃に今までの鍛錬方針を話していたんじゃよ」

 固まっていた俺に対して祖父が助け舟を出してくれる。
 それを聞いた母は氷のような視線を俺から外し、祖父に向けた。

「そんなことを、今さら話してどうするんです。
 何も問題はありません」

 母は本気で問題ないと思っているようだ。
 息子の体が壊れるかもしれない鍛錬を続けているというのに。

「……母さんは、俺の体が……その壊れるかもしれないって、知っていながらやっていたんですか?」

 まるで祈るかのように、そうであって欲しくないと、望む答えを聞きたいから――

「何か問題があるの?
 私のやり方に間違いはないわ」

 わかっていた、そんなものはどこにもないと。

「これ! 楓その言い方はなんだ!
 もっと言うことがあるだろう!」

 俺の様子に気を使ってか、祖父が声を上げる。
 母の俺に対する態度でいつもぶつかってくれている。

「お父さんは、黙っていてください。
 この件に関しても口出しは無用と、なんど言えばわかるんです?」

「しかし……っ!」

 母の鋭い氷のような眼、実の父に対しても変わらないらしい。
 俺だけに向けられてるわけではないと変な安心感がでる。

「現当主である、私の決定です。
 私が決め、私が――やり遂げてみせると」

「?」

 気のせいだろうか。
 母のいつもとは違うように感じたのは。

「はぁ……わかった。
 雪乃、大丈夫じゃ、おまえの母も儂も、雪乃のことをどうでもよくなんて扱っておらんよ」

 なあ、と母に視線を向けているが反応は見られない。

「そろそろ、晩御飯にしますよ。
 雪乃くん手伝ってくれますか?」

 場の空気を溶かすように父が優しく、声をかけ料理の皿を並べている。

「……ああ、ごめん手伝うよ」

 この場から逃げたいと、少しの間でも自分を落ち着かせたかった。

 正直、食事の味も会話もあまり覚えていない。
 父と祖父が話を振ってくれていたが、曖昧に答えていた気がする。
 ただ、母が食事を終えると一言――

「雪乃、明日の朝の鍛錬は真剣でやります。
 そのつもりで用意しときなさい」

 そう言葉を残し、祖父が声をかけるが、ただ背を向け俺たちの前から去っていった。

 ◇

「ふぅ……」

 長い溜息とともに部屋で脱力して机の前の椅子に座り、ただ机の上を見る。
 よほど緊張してたらしい。
 視界のよこにスマホの通知があったのに気づく。

「咲雪?」

 不在の通知、メッセージでもいいかと思ったが、無性に声が聞きたくなり電話をかける。

『はーい、もしもし?』

「咲雪? 電話あったけど、何かあったか?」

 いつもの調子で話せてるのかどうか、声がうわずってるような気がする。

『? 何か用も何も明日のこと、お義母さまに確認してくれた?』

「あ」

 素で忘れていた。

「悪い、忘れてた!
 明日の朝に確認するからその時連絡するよ」

『もぉ~しっかりしてよ!
 明日は忘れないでよね!』

 電話の向こうの顔が想像できて、少し安心して笑みがこぼれる。

「……」

『ねえ、なにかあった?』

 突然、こちらの心の中に触れられたような気がして驚く。

「……何もないよ。なかった」

『はい、嘘! わかりやすいね~
 雪乃は、お義母さまのことでしょ?』

 間髪入れずに、こちらのウソをついてくる。
 俺以上に俺のことがわかるらしい。

「――違うけど、まあ……そうだな」

『違わないじゃない!
 で、何があったの?』

 追及は続くらしい、話したくはない。
 特に咲雪には。

「母とは別に何もないよ。
 いつもどおりなだけ、ただ……明日――」

『明日?』

 口の中が乾くのを感じる。
 声に出したくない。

「朝の稽古と儀式のときに、その……真剣を持って来いって」

 言ってしまった。
 咲雪にこの話を持ち込みたくなかった。
 何よりも俺自身が。

『なんだ、そんなこと?
 でも、稽古で真剣使うならケガだけはしないようにね。
 まあ、お義母さまは、そんなミスしないか』

 あっけらかんと答える、咲雪に俺は――

「そんなこと!? しかし俺は咲雪のことを――」

『はい、ストップ!
 あの時は誰も悪くないんだから、いつまで気にしてるの?
 しいて言うなら、あの場にいた私が悪い』

 何回目かの、このやり取りもいつになったら抜け出せるのか。
 いや、俺だけか。

『それより、明日の誕生日、期待してて』

 相変わらず、空気を変えるのが上手い。
 すぐにいつもの通りにしてくれる。

「うん? ああ、ありがとう。
 でも、この前みたいな大量のアニメはやめてくれよ?
 見るの大変だったから」

 去年は大変だった、一緒にお気に入りのアニメを見ようって布教されたわけだが。
 まあ意外と面白かったが、一気に見るのは疲れる。

『えーでも、そのあとは盛り上がって、お互いにはじ――』

「咲雪! いいからそういうのは!」

 どうして女性は一度するとそういうことを平気で言葉にするんだろう。

 咲雪だけか?

『照れるけど、大事な思い出だよ?
 まあとにかく、プレゼント期待しといて、また明日ね。
 お休み』

 言いたいことを言ってすぐに切ってしまった。
 切れた電話を置いてひとり、つぶやいてしまう。

「だってさ、咲雪……あの刀でお前のこと切ったんだぞ?」

 その日の眠りは浅かった。
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