TAIL BERSERKER

滝永ひろ

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Ⅰ 思い出

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彼らには生まれつき番号と尾があった。物心つくときにはハウスにおり、彼らがどれだけ遠くまで行っても見えないほど遠くが塀で囲まれていた。

ある時、二人の青年が森の中を走っていた。

「おーいシュウ、こっちだこっち」

シュウは親友であるエンに呼ばれて森を駆けている。

「待てってエン、こっちはお前みたく森の中で生活してたわけじゃねーんだよ」

「はは、いいから来なって。木の上くれば楽だよ」

「サルじゃねえんだしそんなんできるか」
「尻尾はあるでしょ?」

そういうとエンは太い帯状の尻尾で木にぶら下がった。表面は白くて硬い。

「俺のはそんな器用じゃねえ」

そういうとシュウは自分の尾を見つめる。シュウの尾はつるっとしていて柔軟性がある、細く手先がとがった形だ。エンはシュウを気にしながら木の上を跳びまわる。

「ここだよ」

そういうとエンは木の上から降りてきた。

「これ」

「ん?」

エンが指さすところに、動物の足跡があった。

「これじゃない?ファームの畑荒してんの」
「確かに。同じ足跡あった」

二人は足跡を追った。その先にいたのは、大きめのイノシシだった。

「あれをやんのか」

「僕らならできるよ」

二人は、目を合わせると、イノシシと目を合わせた。

「グカーッ!」

イノシシが二人めがけて突進してきた。

「避けるぞ!」

「大丈夫、僕に任せて!」

エンの尾が、人一人覆えそうなサイズまで広がった。

ドン!

「フギァーッ!」

鈍い音とともにイノシシがぶつかり、よろめく。しかし、イノシシもすぐさま立ち直り、今度はシュウに向かって突進する。

「チッ、これでもくらえ!」

跳んでよけながら放ったシュウの尾がイノシシの腹に突き刺さった。

イノシシはその場で動かなくなる。

「ふぅ、やったなエン」

「うんさすがシュウだね」

二人はその場でハイタッチした。

「で、こいつまだ息があるみたいだな。あんま深くは刺してないけど、痛いように刺したからもう人間のいるとこには来ないかな?」

「いや、殺そう」

「? そうだな。またいつこないとも限らないし」

シュウは心臓まで尾を刺した。
イノシシは微動だにしなくなった。


「みんな、こないだ畑荒らした奴狩ってきたぞ!」

シュウがそう叫ぶと、ハウスからほかの子供たちが顔を出して、やがてシュウとエンの周りに集まってきた。

「すごーい、さすがシュウとエンだ!」

「これで安定して畑で野菜が取れるね」

子供たちが騒いでいると、大人の女性がハウスから出てきた。

「ママ、こいつ畑荒してたんだ」

「だから俺たち二人で狩ってきた。すごいだろ」

二人はママと呼んだその人に、満面の笑みでドヤった。

「そうね。すごいわ。でも畑を荒らしたのもそのイノシシなりに生きるためなの。そんな簡単に殺してはよくないわ」

「ああ、だから、こいつ料理できる?殺したからには感謝して食べてやりたい」

「ふふ。シュウも成長したのね」

「まっ、まあな」

「じゃ、運んでちょうだい。私は力が弱いからそんな大きいイノシシ持てないわ」

「おうわかった」

そういうと、エンはイノシシを担いでママと台所へ行った。

「あのっ、シュウ君」

子供たちの中から猫を抱いた少女が駆け寄ってきた。

「私、前からシュウ君のこといいなって。私と付き合ってくれない?」

「え~、お前男癖悪いじゃん。先月タカシがゾンビみたいになってたし」

人は時に残酷である。シュウはとうに17であり、少女が未だ小学生ほどだからというのもあるかもしれない。少女が落胆して猫を腕から落とす。猫は走ってハウスの方へ行ってしまい、ネズミを追い始める。

「好みじゃないわ。ごめんな」

少女はその場から動けなくなっていた。

「このイノシシ仕込みし終わったら昼食にするわ。みんな手洗ってー」

「「「はーい」」」

少女以外の子供たちが一斉にハウスに戻っていった。

その日は夕食に出たイノシシをみんなで堪能した。ママは「食費浮いたわー」と喜んでいたが、少女は魂が抜けたまま、シュウは我関せずだった。


「シュウ、エン、牛乳とってきてー」

「へーい。エン、行くぞ!」

シュウがエンを呼びに行った。

「おーい、乳しぼり行くぞエン...ってお前、どうした!?」

部屋に入ったシュウが見たのは、病にうなされるエンだった。

「大丈夫かエン!待ってろ今ママを...」

「どうかしたの?」

ドアの方を向くと、ママがすでに来ていた。

「エンが...エンが...」

「わかった。エンの看病は私に任せて。あなたは他の子供たちの面倒を見て」

「...わかった」

シュウはエンのそばにいてやりたい気持ちを抑えて部屋を出た。


「ママ!みんなは外で遊ばせてる。エンは...エンは?」

「大丈夫。今は落ち着いてる。でも病気だったら感染るかもだからしばらくは近づかないでね」

「でも...」

「エンはあなたに感染したらきっと自分を責めるわ。だから感染らないように治るまでは部屋に入らないこと。いいわね」

「...わかった」

シュウはとぼとぼ部屋を後にした。
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