1 / 23
Ⅰ 思い出
しおりを挟む
彼らには生まれつき番号と尾があった。物心つくときにはハウスにおり、彼らがどれだけ遠くまで行っても見えないほど遠くが塀で囲まれていた。
ある時、二人の青年が森の中を走っていた。
「おーいシュウ、こっちだこっち」
シュウは親友であるエンに呼ばれて森を駆けている。
「待てってエン、こっちはお前みたく森の中で生活してたわけじゃねーんだよ」
「はは、いいから来なって。木の上くれば楽だよ」
「サルじゃねえんだしそんなんできるか」
「尻尾はあるでしょ?」
そういうとエンは太い帯状の尻尾で木にぶら下がった。表面は白くて硬い。
「俺のはそんな器用じゃねえ」
そういうとシュウは自分の尾を見つめる。シュウの尾はつるっとしていて柔軟性がある、細く手先がとがった形だ。エンはシュウを気にしながら木の上を跳びまわる。
「ここだよ」
そういうとエンは木の上から降りてきた。
「これ」
「ん?」
エンが指さすところに、動物の足跡があった。
「これじゃない?ファームの畑荒してんの」
「確かに。同じ足跡あった」
二人は足跡を追った。その先にいたのは、大きめのイノシシだった。
「あれをやんのか」
「僕らならできるよ」
二人は、目を合わせると、イノシシと目を合わせた。
「グカーッ!」
イノシシが二人めがけて突進してきた。
「避けるぞ!」
「大丈夫、僕に任せて!」
エンの尾が、人一人覆えそうなサイズまで広がった。
ドン!
「フギァーッ!」
鈍い音とともにイノシシがぶつかり、よろめく。しかし、イノシシもすぐさま立ち直り、今度はシュウに向かって突進する。
「チッ、これでもくらえ!」
跳んでよけながら放ったシュウの尾がイノシシの腹に突き刺さった。
イノシシはその場で動かなくなる。
「ふぅ、やったなエン」
「うんさすがシュウだね」
二人はその場でハイタッチした。
「で、こいつまだ息があるみたいだな。あんま深くは刺してないけど、痛いように刺したからもう人間のいるとこには来ないかな?」
「いや、殺そう」
「? そうだな。またいつこないとも限らないし」
シュウは心臓まで尾を刺した。
イノシシは微動だにしなくなった。
「みんな、こないだ畑荒らした奴狩ってきたぞ!」
シュウがそう叫ぶと、ハウスからほかの子供たちが顔を出して、やがてシュウとエンの周りに集まってきた。
「すごーい、さすがシュウとエンだ!」
「これで安定して畑で野菜が取れるね」
子供たちが騒いでいると、大人の女性がハウスから出てきた。
「ママ、こいつ畑荒してたんだ」
「だから俺たち二人で狩ってきた。すごいだろ」
二人はママと呼んだその人に、満面の笑みでドヤった。
「そうね。すごいわ。でも畑を荒らしたのもそのイノシシなりに生きるためなの。そんな簡単に殺してはよくないわ」
「ああ、だから、こいつ料理できる?殺したからには感謝して食べてやりたい」
「ふふ。シュウも成長したのね」
「まっ、まあな」
「じゃ、運んでちょうだい。私は力が弱いからそんな大きいイノシシ持てないわ」
「おうわかった」
そういうと、エンはイノシシを担いでママと台所へ行った。
「あのっ、シュウ君」
子供たちの中から猫を抱いた少女が駆け寄ってきた。
「私、前からシュウ君のこといいなって。私と付き合ってくれない?」
「え~、お前男癖悪いじゃん。先月タカシがゾンビみたいになってたし」
人は時に残酷である。シュウはとうに17であり、少女が未だ小学生ほどだからというのもあるかもしれない。少女が落胆して猫を腕から落とす。猫は走ってハウスの方へ行ってしまい、ネズミを追い始める。
「好みじゃないわ。ごめんな」
少女はその場から動けなくなっていた。
「このイノシシ仕込みし終わったら昼食にするわ。みんな手洗ってー」
「「「はーい」」」
少女以外の子供たちが一斉にハウスに戻っていった。
その日は夕食に出たイノシシをみんなで堪能した。ママは「食費浮いたわー」と喜んでいたが、少女は魂が抜けたまま、シュウは我関せずだった。
「シュウ、エン、牛乳とってきてー」
「へーい。エン、行くぞ!」
シュウがエンを呼びに行った。
「おーい、乳しぼり行くぞエン...ってお前、どうした!?」
部屋に入ったシュウが見たのは、病にうなされるエンだった。
「大丈夫かエン!待ってろ今ママを...」
「どうかしたの?」
ドアの方を向くと、ママがすでに来ていた。
「エンが...エンが...」
「わかった。エンの看病は私に任せて。あなたは他の子供たちの面倒を見て」
「...わかった」
シュウはエンのそばにいてやりたい気持ちを抑えて部屋を出た。
「ママ!みんなは外で遊ばせてる。エンは...エンは?」
「大丈夫。今は落ち着いてる。でも病気だったら感染るかもだからしばらくは近づかないでね」
「でも...」
「エンはあなたに感染したらきっと自分を責めるわ。だから感染らないように治るまでは部屋に入らないこと。いいわね」
「...わかった」
シュウはとぼとぼ部屋を後にした。
ある時、二人の青年が森の中を走っていた。
「おーいシュウ、こっちだこっち」
シュウは親友であるエンに呼ばれて森を駆けている。
「待てってエン、こっちはお前みたく森の中で生活してたわけじゃねーんだよ」
「はは、いいから来なって。木の上くれば楽だよ」
「サルじゃねえんだしそんなんできるか」
「尻尾はあるでしょ?」
そういうとエンは太い帯状の尻尾で木にぶら下がった。表面は白くて硬い。
「俺のはそんな器用じゃねえ」
そういうとシュウは自分の尾を見つめる。シュウの尾はつるっとしていて柔軟性がある、細く手先がとがった形だ。エンはシュウを気にしながら木の上を跳びまわる。
「ここだよ」
そういうとエンは木の上から降りてきた。
「これ」
「ん?」
エンが指さすところに、動物の足跡があった。
「これじゃない?ファームの畑荒してんの」
「確かに。同じ足跡あった」
二人は足跡を追った。その先にいたのは、大きめのイノシシだった。
「あれをやんのか」
「僕らならできるよ」
二人は、目を合わせると、イノシシと目を合わせた。
「グカーッ!」
イノシシが二人めがけて突進してきた。
「避けるぞ!」
「大丈夫、僕に任せて!」
エンの尾が、人一人覆えそうなサイズまで広がった。
ドン!
「フギァーッ!」
鈍い音とともにイノシシがぶつかり、よろめく。しかし、イノシシもすぐさま立ち直り、今度はシュウに向かって突進する。
「チッ、これでもくらえ!」
跳んでよけながら放ったシュウの尾がイノシシの腹に突き刺さった。
イノシシはその場で動かなくなる。
「ふぅ、やったなエン」
「うんさすがシュウだね」
二人はその場でハイタッチした。
「で、こいつまだ息があるみたいだな。あんま深くは刺してないけど、痛いように刺したからもう人間のいるとこには来ないかな?」
「いや、殺そう」
「? そうだな。またいつこないとも限らないし」
シュウは心臓まで尾を刺した。
イノシシは微動だにしなくなった。
「みんな、こないだ畑荒らした奴狩ってきたぞ!」
シュウがそう叫ぶと、ハウスからほかの子供たちが顔を出して、やがてシュウとエンの周りに集まってきた。
「すごーい、さすがシュウとエンだ!」
「これで安定して畑で野菜が取れるね」
子供たちが騒いでいると、大人の女性がハウスから出てきた。
「ママ、こいつ畑荒してたんだ」
「だから俺たち二人で狩ってきた。すごいだろ」
二人はママと呼んだその人に、満面の笑みでドヤった。
「そうね。すごいわ。でも畑を荒らしたのもそのイノシシなりに生きるためなの。そんな簡単に殺してはよくないわ」
「ああ、だから、こいつ料理できる?殺したからには感謝して食べてやりたい」
「ふふ。シュウも成長したのね」
「まっ、まあな」
「じゃ、運んでちょうだい。私は力が弱いからそんな大きいイノシシ持てないわ」
「おうわかった」
そういうと、エンはイノシシを担いでママと台所へ行った。
「あのっ、シュウ君」
子供たちの中から猫を抱いた少女が駆け寄ってきた。
「私、前からシュウ君のこといいなって。私と付き合ってくれない?」
「え~、お前男癖悪いじゃん。先月タカシがゾンビみたいになってたし」
人は時に残酷である。シュウはとうに17であり、少女が未だ小学生ほどだからというのもあるかもしれない。少女が落胆して猫を腕から落とす。猫は走ってハウスの方へ行ってしまい、ネズミを追い始める。
「好みじゃないわ。ごめんな」
少女はその場から動けなくなっていた。
「このイノシシ仕込みし終わったら昼食にするわ。みんな手洗ってー」
「「「はーい」」」
少女以外の子供たちが一斉にハウスに戻っていった。
その日は夕食に出たイノシシをみんなで堪能した。ママは「食費浮いたわー」と喜んでいたが、少女は魂が抜けたまま、シュウは我関せずだった。
「シュウ、エン、牛乳とってきてー」
「へーい。エン、行くぞ!」
シュウがエンを呼びに行った。
「おーい、乳しぼり行くぞエン...ってお前、どうした!?」
部屋に入ったシュウが見たのは、病にうなされるエンだった。
「大丈夫かエン!待ってろ今ママを...」
「どうかしたの?」
ドアの方を向くと、ママがすでに来ていた。
「エンが...エンが...」
「わかった。エンの看病は私に任せて。あなたは他の子供たちの面倒を見て」
「...わかった」
シュウはエンのそばにいてやりたい気持ちを抑えて部屋を出た。
「ママ!みんなは外で遊ばせてる。エンは...エンは?」
「大丈夫。今は落ち着いてる。でも病気だったら感染るかもだからしばらくは近づかないでね」
「でも...」
「エンはあなたに感染したらきっと自分を責めるわ。だから感染らないように治るまでは部屋に入らないこと。いいわね」
「...わかった」
シュウはとぼとぼ部屋を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
クゥクーの娘
章槻雅希
ファンタジー
コシュマール侯爵家3男のブリュイアンは夜会にて高らかに宣言した。
愛しいメプリを愛人の子と蔑み醜い嫉妬で苛め抜く、傲慢なフィエリテへの婚約破棄を。
しかし、彼も彼の腕にしがみつくメプリも気づいていない。周りの冷たい視線に。
フィエリテのクゥクー公爵家がどんな家なのか、彼は何も知らなかった。貴族の常識であるのに。
そして、この夜会が一体何の夜会なのかを。
何も知らない愚かな恋人とその母は、その報いを受けることになる。知らないことは罪なのだ。
本編全24話、予約投稿済み。
『小説家になろう』『pixiv』にも投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる