TAIL BERSERKER

滝永ひろ

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Ⅱ 壁

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翌日の朝。

「ママ、エンはどうなった?」

「心配なのね。でももう会えないかも」

「それってどういうことだよ」

「エンは...もう」

ママはエンの部屋に入って、つぶやいた。

「ごめんね、シュウ」

そのシュウへの謝罪は、聞こえないように言われた。


「25920番。来い」

ある日、突如として黒塗りの車がハウスに来た。そしてその中から黒スーツスキンヘッドのサングラスをかけた男が出てきた。

25920番、それはシュウの管理番号だった。

「シュウ、どこかに行っちゃうの?」

「いかないで―」

子供たちが心配してシュウによって来る。

「25920番が出生よりちょうど18年が経過したことを確認した。お前を外界に連れ出すこととしている」

「そんなの勝手だろ。お前らの都合でなんでついていかなきゃいけないんだよ」

「お前が生まれたときから決まっていたことだ。このファームから出されるのはお前が最初だ。光栄に思え」

「やだね。おれはこのハウスが気に入ってるし、何よりエンが...」

「25929番のことは知っている。気持ちはわかるが、決まりは決まりだ」

黒服はシュウに近づくと首にスタンガンを当て、気絶させた。



「どこだここ...」

シュウが目を覚ますと、周りはさびれたマンション街だった。どの建物もホコリを被ったように廃れている。やたら栄えているにしては、車の通りも少ない。

自分の体を見るといつの間にか黒スーツを着ている。

「おい」

後ろから声をかけられた。振り向くと、そこにいたのは藍色の髪をした、長身の青年だった。背中に長い物が入ったバックをしょっている。

「...えっと、僕に何か用ですか?」

「25920番だな」

「えっと...確かそうです」

「お前はうちで働くことになっている。来い」

青年の口調は冷たく、シュウに興味があって話しているのではなく、仕事だから来たといった感じだった。

「名乗りたい名は?」

「シュウ...」

「苗字は」

「ないです」

「...ここが永目地区だから、永目シュウでいいだろ。そう名乗れ」

「はい...」

「それから、署につれてくから。ついてこい」

「はっはい」


シュウが連れていかれたのは警察署。案内された部屋に入ると、体格がよくやたらがっしりした男と、小柄でやせ型の女の子がいた。

「おうアクト、そいつが新人か?」

先ほどの青年はアクトと呼ばれた。

「はい。永目にいたので永目シュウです」

「ほーん。まあ人手足りてねえし助かるよ。俺は上司の赤城だ。下の名前は無え」

「新人君?私もう先輩ってことだね!私は雨宮レイラ。昨日からこの部署にいるの」

「はっはい。えっと、アクト...さん?」

「あっ、アクトさては自己紹介してねえな?」

「面倒でした」

「それやってからいうやつだから!」

アクトはため息をついてから自己紹介しだした。

「はぁ。波多波アクト。呼び方は自由にしろ」

「あ...はい」

「シュウ今日から仕事だから。アクトについて行きゃあいいから。はいこれアクト」

そういって赤城はアクトに書類を渡した。

「チッ、人工尾...またかよ」

アクトは眉間にしわを寄せた。

「まーまー。波多波君も人工尾に思うとこあるのはわかるから。頑張ってきて」

「それとシュウ」

「はい」

「人工尾にやられている奴は殺せ。もう人間じゃないんだ。気にすんな」

「え...?」

その言葉はシュウの胸に突き刺さった。

「だって人なんですよね?そんな...殺しちゃまずいですよ」

「いや、あれはもうバケモンだ。もとの人間も社会のクズばっかだ。殺しても誰も困りゃしねえよ」

「でも...」

「シュウ」

アクトがいら立った声をかけた。

「あんなんは全部掃きだめのゴミどもだ。自分で強くなれないからあんなもんに頼るんだよ。そんなんは殺処分が妥当だ」

「そんな...」

シュウは受け入れきれなかった。

「アクト、シュウ、仕事だ。行ってこい」

赤城は話を切るように部屋を追い出した。
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