TAIL BERSERKER

滝永ひろ

文字の大きさ
5 / 23

Ⅴ 進捗

しおりを挟む
「ただいま戻りました」

アクトが戻ってきた。

「また、人を殺してきたんですか」

「人じゃねえって言ってんだろ。職務をまっとうしてるだけだ。それに対しお前は、一生事務作業か」

「アクト君がそんなこと言うからこんなになっちゃうんでしょー?いい加減その口チャックしたらどうですか?」

「じゃあだめ宮さんが戦いますか?」

「そっ、それはだめです」

シュウが声を荒げた。

「レイラさんが戦うぐらいなら、僕が行きます」

「ありがとうシュウ君。それと、だめ宮じゃなくて雨宮ですから!」

「やっとやる気になったか。次は吐くなよ」

「これでも励ましてるの。気にしないでね」

「そんなんじゃねえ」

「あっ...はい」

その時、また扉が開く音がした。

「また喧嘩してんのか。アクト、ほどほどにしとけ」

「赤城さん、こいつが悪いんじゃないすか」

「いーのいーの」

赤城が聞き流す。

「ところでさっき、行くって言ったよなあ。まともにやれんのか、楽しみにしとくからな」

アクトはシュウを睨んで、また音楽プレーヤーのイヤホンを耳に挿し、目を閉じた。

その時、電話が鳴った。赤城が電話をとる。

「はい、もしもし、ああ、はいはい。すぐ行きます」

赤城は電話を置いた。

「おいアクト、出番だぞ人工尾の違法所持者だってよ。おい、お前起きてんだろ」

アクトは起きない。

「しゃあねえ、俺が行くか」

赤城はさっき脱いだばかりの上着に手をかける。

「あのっ」

シュウが声を上げた。

「ん?どうした?」

「ぼ、僕が行きます」

シュウは顔を下にうつむけたまま赤城に言う。

「僕に行かせてください」

「それでいいんじゃね」

アクトが目を覚ました。

「お前やっぱ起きてたんじゃねーか」

「別に?こいつも人手なんだから役に立たないと」

「お前なあ...シュウ、行けるか?」

「はい。行かせてください」

「無理だけはするなよ」



「えっと、言われた廃病院って確かここ...」

そこは廃れた、病院だったものだ。

「自動ドアは...動くわけないか」

シュウは手でこじ開けて中に入る。

「ここは...ロビー?」

そこは明かりもついてないが、誰もいないカウンターと誰もいない待合席が広く続く正真正銘のロビーだった。いや、そこに、人影が一つ。

「アッハハーー」

そいつはシュウまで聞こえるか聞こえないくらいの奇声を上げている。

「...誰ですか?」

声をかけると、その影が振り向く。

「アアァアーー?」

表情はめちゃくちゃだが、シュウの方を向いていた。

「ァアッハッハーーッ」

影は椅子の上に4足で立ち上がった。

「僕がやらなきゃいけないんだ...逃げたら被害が出る。ここで...」

シュウは次の言葉が出てこなかった。

「...殺す」

シュウは言葉にしたとたんに決意に変わるのを感じた。もう吐かない。敵は人の姿の化け物、人じゃない。

「行くぞ化け物!」

シュウは敵に向かって走り出した。

「アッハハハハハハハ!」

敵もこちらへ向かってきた。人工尾をこちらに向け、4足出走ってくる。それは人間とは思えないほど早い。

「ふっ!」

それをエンの尾で防ぐ。そして、シュウの尾を敵のこめかみに突き刺す。敵はだらんと手足から力が抜ける。

「やった...のか?」

「アハッ♥」

敵は再び力が入る。敵が手でシュウの尾をつかみ、握りつぶそうとする。

「アハ、唖ッハハはハ覇ッハハッハハ亜ハ破ハハはハハはハッハハ」

「うぐっ、うああああ」

シュウに尾の痛みが伝わる。

「いだい!うあああ!」

シュウはエンの尾を振り回す。それが敵の頭にクリティカルヒットした。

「アハ、アハア...あはは」

敵が力尽きた。これで正真正銘敵の死である。

「これで...これで勝ったんだ。殺した。僕が殺した」

シュウはかみしめるように繰り返した。

「ハァ、ハァ...勝った。ところでこれ、どうすればいいんだろう...」

シュウは、ポケットに携帯が入っていることを思い出した。

「そうだ、携帯。これで連絡すれば...番号わからないや」

ファームから出されて、意識が戻ってから2日しかたっていない。一般の携帯番号が何桁なのかすらもシュウにはわかっていなかった。

prrrrrr

その時、見越したように電話がかかってきた。シュウは折り畳み式の携帯を開いて、電話に出る。

「はっはい!」

―――もしもし、どうだ戦況は。

電話の相手は赤城だった。

「あ、たった今殺しました」

―――おお、やるじゃねえか。待ってな、近くから回収の車をやるから、積むの手伝ってくれや。

「わかりました」

―――お疲れ。吐き気は大丈夫か?

「大丈夫です」

―――そうか。安心した。じゃあいうことなしだな。一つ悪いとこ指摘すんなら...

「なんですか?」

―――電話に出たらもしもしな。

「はい」

―――もしもし、アクトだ。

「もしもしシュウです」

―――やっとスタートラインだ。今やっと言ってやるよ。ようこそ、こっちに。

「...はい!」

シュウは暗闇の中、照らすような笑顔を浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

クゥクーの娘

章槻雅希
ファンタジー
コシュマール侯爵家3男のブリュイアンは夜会にて高らかに宣言した。 愛しいメプリを愛人の子と蔑み醜い嫉妬で苛め抜く、傲慢なフィエリテへの婚約破棄を。 しかし、彼も彼の腕にしがみつくメプリも気づいていない。周りの冷たい視線に。 フィエリテのクゥクー公爵家がどんな家なのか、彼は何も知らなかった。貴族の常識であるのに。 そして、この夜会が一体何の夜会なのかを。 何も知らない愚かな恋人とその母は、その報いを受けることになる。知らないことは罪なのだ。 本編全24話、予約投稿済み。 『小説家になろう』『pixiv』にも投稿。

処理中です...