THREE PARTS 3/2

滝永ひろ

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THREEPARTS 3/2

6話

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校舎内に入ると、昔使っていたであろう備品がかなり放置されていた。

「こいつをとにかく人が通りにくくなるまでばらまく。計画的にだ。地図は事前に真美さんに聞いて把握してるから、どこをふさげばどこに行かざるを得ないか計算して上階から荒らす」

「わかった。とりあえず探さないとだからこっそり...」

「いや、足音は自然な範囲で立てろ。やつも一応俺らに近づきたくはないはずだ。俺たちの存在を知らせることで追い込み漁をする」

「おお...なんかすごいな」

「それで捕まるならそうする」

ここで悠生があることに気づく。

「あいつに出会ったら、どうするんだ?あっちの能力はわかってないんだろ?」

丹波がまたにやりと笑う。

「だから上階から追うんだよ」

三人は、丹波の指示に従い最上階から逃げ場をなくし、下の階下の階へ追い込んでいった。

途中それらしき影を目撃したものの、

「おそらく罠だ。それに今戦うのは得策じゃない」

と丹波が静止した。

最下階。

「これであとは一室だけだな」

その扉を勢いよく開く。

「...いない」

「お疲れ様」

後ろを振り向くと、すぐ真後ろに孝輔が立っていた。

すぐに孝輔が2m後ろ向きに跳ぶ。

「君らの会話は全部聞いてたよ。僕を追い詰めて捕まえようとしてたみたいだが...」

孝輔が丹波の顔を見つめる。

「君...なんか腑に落ちないんだ...もっと頭いいような気がするんだが...」

「どうやった...」

丹波が珍しく冷静さを欠き、孝輔を睨みつけ、荒れた声色で問い詰める。

「どうしたも何も、僕の能力をもってすれば君たちが道をふさぐごとに残りの逃げ道が何通りあるかは計算可能さ。その中で君たちの後ろを常にとれる経路を選び続ける。将棋と同じだね」

「...戦闘向きの能力じゃないのか」

「今更僕の真似をしてみたって無駄さ。捕まるのは僕ではなく君たち...」

「鋼」

丹波がささやく。

すぐに鋼が三人の周りにバリアを張る。

銃弾でも壊れない鋼のバリア。

「なるほど。どんな攻撃をしてくるかわからないもんね」

孝輔は少し失望した顔をする。

「もともと逃げるのは僕のほうじゃないか。このまま歩いて学校から出れば僕の勝ち。悠々と校門から出ることにさせてもらうよ」

そういって孝輔が近くのドアを勢いよく開けた。

するとそのドアに取り付けてあったテグスが柱を伝い、二階に続き、天井がミシミシ、と音を立てると正方形に天井がくりぬかれ、鋼のバリアより大きな範囲で土嚢が天井を破壊して落ちてきた。

壁の向こうから孝輔の声がする。

「それは君たちが積んだものだ。ここに追い込んだんだよ。僕がね」

あざけるように笑う。

「クソッ!!」

悠生が地面を思いっきり殴る。

ここは1階、たとえ床を破る力があってもここを出ることは叶わない。

「はっはっはっはっはっ!!」

孝輔の高らかな笑い声が聞こえてくる。

「悠生」

先ほどとは打って変わって、冷静な声の丹波が悠生の名前を呼ぶ。

「俺、俳優もできるかもなあ」

「何言ってんだこんな時に!!」

「もう、いいだろ」

「だってあいつは!」

負けず嫌いな悠生が表れている。

「だって、俺たちはもう勝っている」

「...は?」

丹波はその場に座り込んだ。

そして衝撃の能力で周りの土嚢を退け、鋼に「もう解いていいぞ」と合図する。

「まず、あいつの敗因は自分の頭脳を過信したところだ」

丹波は、初めから追い込み何てことをする気はなかった。

上階から荒らしたことにはいくつか理由がある。

一つは孝輔が施した仕掛けを確認すること。

これは作戦通り、敵の策にうまいこと「引っかかる」ことができた。

もう一つは、敵を油断させること。

これは少し効果が薄かった。

そして最後。

「できるだけ時間をかけること」

「へ?」

丹波が声を出した。

どうやら鋼はもうわかっているようだ。

「面白いもんが見れるぜ。急いで外に出るぞ」

丹波は近くの窓を開け、そこから出た。

それに続いて、うまく理解しないまま窓を出る悠生、窮屈そうに乗り越える鋼。

校門のほうに、人の影が二つ見える。

片方は孝輔、もう片方は...





「アイツ...私まで駒扱いとはいつの間に大物になったなぁ」

車の陰に、真美が隠れている。

「時間かかってるけど、たぶん時間をかけて『返りうちにあってどうにもできません真美さん助けてください』アピールか...」

自分ら3人で対応できるかわかりかねた丹波は、校門で煙草をふかしていた真美に捕まえさせることで確実に孝輔をとらえようと考えた。

そのために時間をかけたのだ。

陰に隠れた真美の視界に、孝輔が現れた。

そこから一瞬遅れて孝輔も真美に気づく。

真美は思いっきり砂利道を踏みつけ、砂利の粒が舞う。

これを足を大きく上げ、思いっきり孝輔に向かって蹴り飛ばす。

孝輔の体に多弾ヒット。

真美が蹴ったなら、ただの小石も弾丸に変わる。

孝輔の体にヒットした砂利は衣服に穴をあけ、皮膚を切りつけ骨を砕いた。

「逃げんなよ。出血で死ぬぜ?」

真美が歩いて寄っても抵抗はしなかった。

もちろん死ぬことはないようにしている。

(本気出せば貫通できる)

孝輔に手錠をつけ、車の助手席に乗せた。

ふと校舎のほうを見ると、三人組がこちらを見ている。

「アイツら...まあ、入学1週間で学校のヤンキーの統率とっただけのことはあるのあるのかな」

三人組が真美のほうに歩いてきて、そいつらを後部座席に乗せて車のエンジンをかける。

「反則だろこんなの...」

憔悴の孝輔がつぶやく。

それに丹波が答える。

「お前は3人とは言ってねえ。それに言ってて、そのうえで俺らから逃げられたとしても唯一の出入り口である校門を真美さんがふさいでる時点でお前は初めから俺たちじゃなく真美さんにつかまってるのも同じだった」

「僕は...所詮計算しかできないのか...謀略を練るのはあってないのかもしれない」

「いい線だったと思うぞ。相手が悪かったな」

「...君は自分のIQとかわかるかい?僕は180あるんだ。人並外れていただけに調子に乗ってしまった...」

丹波がボソッと答える。

「224,,,」

「え?」

孝輔が思わず繰り返す。

「俺はIQ224だ。世界一にはほんの僅か届かないがな」

「ははっ、ホントだ。相手が悪かった」

その日は、帰路中誰も話さなかった。
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