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THREEPARTS 3/2
9話
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街を何台もの黒塗りベンツが行き交う、異様な光景だ。
黒塗りベンツ隊の車内に、南へ向かったベンツから通信が入る。
追跡のため先程盗聴器を受信していたからだ。
「あーあー、盗聴してんだったなこれ。おーい金持ちの犬と金の犬」
もちろん神宮寺父にも聞こえている。
「駐在所の吉田真美だぁ。ガキどもの恋路を邪魔しようとする粋の欠片もねぇ奴らに言ってやる」
そこまで言うと、真美が声を荒らげる。
「春ならアタシらにも来るが青いのは若い時だけなんだ。見守るのが大人じゃねぇのか」
真美はそこまで言って
「ま、私の人生の師匠の受け売りだ。お前らは聞きゃしないだろうが、バカは嫌いなんだ」
ふと窓の外に目をやる。
「久しぶりに顔見せっかね...」
そう言ってタバコに火をつけた。
「馬鹿め...大人を舐めるとどうなるか思い知らせてやる...」
神宮寺父が車の中で呟く。
「私の手で制裁を下すのだ...そうでなきゃ我慢ならん...」
車は茅乃のGPSの位置へ向かっている。
残り300m、200mと距離が詰まる。
100m先、茅乃の服を着た少女を発見、その隣に男の影。
「丹波ァ~~!覚悟しろ」
神宮寺父は車を止めさせると勢いよく飛び出し、2人組に向かって走っていく。
「お前、大人をバカに...」
「え?」
振り返った二人組は、丹波・茅乃とは全くの別人であった。
「確かにGPSもここだ...服に着いているのだから茅乃の服のはず...」
「服ならさっきカップルが来て『急遽運動することになったからスカートだとまずいので服を交換してくれ』って...高いお洋服だったし私もお気に入りの服着ていた訳じゃないから...」
「ええいそんなことはいい、その二人はどこへ行った!」
すると二人組の女の方が天を指さす。
「上へ」
そこで神宮寺父の耳に男の声が聞こえる。
『あーあー、お義父さん、聞こえてますか』
丹波の声だ。
イヤホンを通して届いている。
『俺は今、娘さんと一緒にお宅にいます。あなたの言動は全部チェックさせて貰いました』
「~~~っ!、私をバカにしているのか!」
『あなたの発言、全て娘さんのことを思ったものではありませんでしたよね』
「何を...私は娘が心配だからこうして...」
『あなたはしきりに娘の心配ではなく欺かれたことへの怒りを見せていました。あなた、もしかして娘さんが大事なんじゃなくて娘さんと別の男の縁談が大事なんじゃないんですか?娘さん自身には興味無いんでしょ?』
「言いがかりだ...」
『現にあなた、娘さんが普段来ている服も知らないじゃないですか』
「...大人は忙しいんだ」
『ほう、愛人をこさえる暇はあるのに娘に構ってやる暇はないと』
「ぐっ...どこでそれを...」
『ああ、金持ってる人ってやっぱそうなんだ。ただのブラフですよ』
「ぁぁああ!どこまでも大人をバカに」
『いい加減やめにしませんか』
丹波が口調を荒らげる。
『俺はいわゆる不良で、多少頭が切れるだけであなたのような人望も財も無い。それでも』
「私の方が...勝っている...」
『暇なくせに可愛い一人娘の面倒も見れないような父親よりは娘さんを幸せにできます』
「...ろす」
神宮寺父が呟く。
「あのガキ、殺す...」
無線で邸の黒服に指示を出す。
「直ちに捕らえて嬲り殺せ!この世に生まれたことを後悔させてや」
『無駄ですよ』
丹波が遮る。
『黒服さんたちは話がわかる人のようです。全員、一本の傷を交えることも無く通してくれました』
「なんだと...全員クビだァ!」
『まだ分かりませんか』
丹波が再び声を荒らげる。
『あなたの負けです。あなたは欲に負けたのです。そして人の心を思い出してください』
丹波はそれだけ言って無線を切った。
「あの...ほんとにすみませんでした」
神宮寺邸の一室に土下座する丹波の声が響く。
「いいのよ。あの人にだって悪いとこはあったんだし」
土下座の先に立っているのは、神宮寺母だ。
「それに浮気まで発覚したことだし?」
笑顔が引きつっている。
「以前から...習い事ばっかで家から出して貰えなかったり友達も満足に作れず一般文化に疎い茅乃さんを見ると何かが間違ってる気がして...それでもこんな方法は良くなかったっす...すみませんでした」
「いいのよ。ところで...」
母が茅乃の方をチラリと見る。
「その...娘との縁談の方は...」
「茅乃さんが良ければ、是非お願いします」
「茅乃、どうするの?」
母が聞くと、こくりと頷く茅乃。
場は和やかな微笑みに包まれ、ここに許嫁が1組誕生した。
鋼がパカッと弁当を開けると、その中身を見てほんの少しだけ嬉しそうな顔をする。
「~ってことがあってさ」
丹波が話終える。
「へ~、彼女出来たんじゃん」
「まあな。婚約者っつった方が近ぇけどな」
「いーなー婚約者、俺も女の子と両思いになってみたいな~」
「お前にだっていつか時が来るさ」
「ん、今日帰りマミちゃんが飯連れてってくれるって」
「おっ、マジで?なんてとこ?」
「お食事処 寺嶋ってとこなんだけど...」
「おっ、いいじゃん。鋼も行くよな?」
「二人が行くなら行く...」
「よっしゃ決まりだ!」
鋼がぱくっと鳥の唐揚げにかじりついた。
黒塗りベンツ隊の車内に、南へ向かったベンツから通信が入る。
追跡のため先程盗聴器を受信していたからだ。
「あーあー、盗聴してんだったなこれ。おーい金持ちの犬と金の犬」
もちろん神宮寺父にも聞こえている。
「駐在所の吉田真美だぁ。ガキどもの恋路を邪魔しようとする粋の欠片もねぇ奴らに言ってやる」
そこまで言うと、真美が声を荒らげる。
「春ならアタシらにも来るが青いのは若い時だけなんだ。見守るのが大人じゃねぇのか」
真美はそこまで言って
「ま、私の人生の師匠の受け売りだ。お前らは聞きゃしないだろうが、バカは嫌いなんだ」
ふと窓の外に目をやる。
「久しぶりに顔見せっかね...」
そう言ってタバコに火をつけた。
「馬鹿め...大人を舐めるとどうなるか思い知らせてやる...」
神宮寺父が車の中で呟く。
「私の手で制裁を下すのだ...そうでなきゃ我慢ならん...」
車は茅乃のGPSの位置へ向かっている。
残り300m、200mと距離が詰まる。
100m先、茅乃の服を着た少女を発見、その隣に男の影。
「丹波ァ~~!覚悟しろ」
神宮寺父は車を止めさせると勢いよく飛び出し、2人組に向かって走っていく。
「お前、大人をバカに...」
「え?」
振り返った二人組は、丹波・茅乃とは全くの別人であった。
「確かにGPSもここだ...服に着いているのだから茅乃の服のはず...」
「服ならさっきカップルが来て『急遽運動することになったからスカートだとまずいので服を交換してくれ』って...高いお洋服だったし私もお気に入りの服着ていた訳じゃないから...」
「ええいそんなことはいい、その二人はどこへ行った!」
すると二人組の女の方が天を指さす。
「上へ」
そこで神宮寺父の耳に男の声が聞こえる。
『あーあー、お義父さん、聞こえてますか』
丹波の声だ。
イヤホンを通して届いている。
『俺は今、娘さんと一緒にお宅にいます。あなたの言動は全部チェックさせて貰いました』
「~~~っ!、私をバカにしているのか!」
『あなたの発言、全て娘さんのことを思ったものではありませんでしたよね』
「何を...私は娘が心配だからこうして...」
『あなたはしきりに娘の心配ではなく欺かれたことへの怒りを見せていました。あなた、もしかして娘さんが大事なんじゃなくて娘さんと別の男の縁談が大事なんじゃないんですか?娘さん自身には興味無いんでしょ?』
「言いがかりだ...」
『現にあなた、娘さんが普段来ている服も知らないじゃないですか』
「...大人は忙しいんだ」
『ほう、愛人をこさえる暇はあるのに娘に構ってやる暇はないと』
「ぐっ...どこでそれを...」
『ああ、金持ってる人ってやっぱそうなんだ。ただのブラフですよ』
「ぁぁああ!どこまでも大人をバカに」
『いい加減やめにしませんか』
丹波が口調を荒らげる。
『俺はいわゆる不良で、多少頭が切れるだけであなたのような人望も財も無い。それでも』
「私の方が...勝っている...」
『暇なくせに可愛い一人娘の面倒も見れないような父親よりは娘さんを幸せにできます』
「...ろす」
神宮寺父が呟く。
「あのガキ、殺す...」
無線で邸の黒服に指示を出す。
「直ちに捕らえて嬲り殺せ!この世に生まれたことを後悔させてや」
『無駄ですよ』
丹波が遮る。
『黒服さんたちは話がわかる人のようです。全員、一本の傷を交えることも無く通してくれました』
「なんだと...全員クビだァ!」
『まだ分かりませんか』
丹波が再び声を荒らげる。
『あなたの負けです。あなたは欲に負けたのです。そして人の心を思い出してください』
丹波はそれだけ言って無線を切った。
「あの...ほんとにすみませんでした」
神宮寺邸の一室に土下座する丹波の声が響く。
「いいのよ。あの人にだって悪いとこはあったんだし」
土下座の先に立っているのは、神宮寺母だ。
「それに浮気まで発覚したことだし?」
笑顔が引きつっている。
「以前から...習い事ばっかで家から出して貰えなかったり友達も満足に作れず一般文化に疎い茅乃さんを見ると何かが間違ってる気がして...それでもこんな方法は良くなかったっす...すみませんでした」
「いいのよ。ところで...」
母が茅乃の方をチラリと見る。
「その...娘との縁談の方は...」
「茅乃さんが良ければ、是非お願いします」
「茅乃、どうするの?」
母が聞くと、こくりと頷く茅乃。
場は和やかな微笑みに包まれ、ここに許嫁が1組誕生した。
鋼がパカッと弁当を開けると、その中身を見てほんの少しだけ嬉しそうな顔をする。
「~ってことがあってさ」
丹波が話終える。
「へ~、彼女出来たんじゃん」
「まあな。婚約者っつった方が近ぇけどな」
「いーなー婚約者、俺も女の子と両思いになってみたいな~」
「お前にだっていつか時が来るさ」
「ん、今日帰りマミちゃんが飯連れてってくれるって」
「おっ、マジで?なんてとこ?」
「お食事処 寺嶋ってとこなんだけど...」
「おっ、いいじゃん。鋼も行くよな?」
「二人が行くなら行く...」
「よっしゃ決まりだ!」
鋼がぱくっと鳥の唐揚げにかじりついた。
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